<憑依>先生に任せておきなさい②~憑依学習~

どうしても行きたい大学があるけれど、
勉強が大の苦手でなかなか成績が伴わない教え子…

そんな教え子を救うために、先生は
”憑依”を利用することにしたー

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「まず、最初にー…先生が1分だけ憑依するから、
 その時点で気分が悪くなったり、
 やっぱりやめたい、と思ったら言って欲しい」

放課後ー
五十嵐先生は勉強のために用意した自習用の空き教室で、
教え子の真菜に対してそう言い放つー。

真菜は「はい わかりましたー」と頷くー。

”憑依”
他人の身体を乗っ取ることができる、ということは
あんなことやこんなことも出来てしまうー…

それは、五十嵐先生にも当然理解できたし、
憑依される側の真菜にも理解できているはずだー。

だが、五十嵐先生は、本気で”教育”のためにしか
憑依薬を使うつもりはなくー、
真菜に憑依しても、胸を揉むつもりもなければー
スカートをめくったり、触ったりするつもりもないー

いやー、厳密に言えば
スカートには触れてしまうことはあるかもしれないが、
それはあくまでも”普通に勉強する最中”に触れてしまうぐらいで、
わざと触ったり、そういうことをするつもりはないー。

五十嵐先生は、ただの”熱血すぎる教師”だー。

プライベートの友人からも”先生オタク”などと言われてしまっているー

”先生という職業自体にのめり込んでいるオタク”という意味と、
五十嵐先生自体がアニメやゲーム好きで、イベントにも顔を出すことから、
2つのオタクの意味を兼ねて”先生オタク”と呼ばれているのだー。

「ーーーーーそれじゃ、まずは1分だけ。
 それで問題なければ、崎森に憑依して、勉強をして、
 直接、学力を脳に刻み込んでいくー」

五十嵐先生はそう言うと、憑依薬を飲みー
真菜に”憑依”したー

「ーーうっ…!」
ビクッと震える真菜ー

憑依した瞬間に”思ったよりも大きな声”が出たことで
一瞬、真菜に憑依した五十嵐先生は
「だ、大丈夫か!?」と、声をあげてしまうー。

真菜が痛い思いをしたのではないかー、だとか、
何か苦しい感覚を味わったのではないか、というそんな心配だー。

がー

「ーーーー」
10秒ちょっと沈黙してから、真菜は自虐的に笑みを浮かべたー

「あぁ、そうかー…憑依してるんだから、返事ができるわけないかー…」

一瞬、漫画やアニメの憑依で見るような
”頭の中から真菜の声がして、精神的な部分で会話できる”みたいなことも
期待したが、そんなことはないようだー。

約束通り、時計の針を見つめながら
1分経過するのを待つー。

もちろん、真菜の身体で何かをすることはなくー。
ただ、机に並べた問題集を見つめたり、筆記用具の準備をして、
1分を待ったー。

そして、1分が経過すると、約束通り真菜の身体から抜け出した
五十嵐先生は、幽体から実体に戻り、真菜のほうを見たー

真菜は机の上で居眠りをしているかのような体勢で、
意識を失っているー。

だが、30秒ぐらいだろうかー。
すぐに真菜は「う…」と、言いながら目を覚ましたー。

その30秒は、とても長く感じたー。

”虎”と”人間”は違うー。
動物園で虎に憑依した際には問題なかったとは言え、
”もしかしたら”という不安がよぎるー。

だがー、真菜はこうして、無事に目を覚ましたー

「ー崎森ー。1分、憑依したぞー。
 大丈夫か?」

五十嵐先生が心配そうに言うと、
真菜は「ーーなんだか、不思議な感覚ですー」と、
時計のほうを見たー。

1分30秒が経過しているー。

少し不安そうな真菜ー
五十嵐先生もそれを感じ取り、
「崎森に俺が憑依してたのは約束通り1分だー。
 そのあと、意識を取り戻すのに少し時間がかかってなー」
と、1分30秒経過した理由を説明したー。

カメラを手に、”証拠”も見せつつ、真菜を安心させる
五十嵐先生ー。

「ー痛いとか、苦しいとか、そういうのはなかったかー?
 教え子を苦しめることはしたくないしー
 何かあったら遠慮なく言って欲しいー」

真菜に対して五十嵐先生はそう言い放つとー、
真菜は「いえー。わたしからすると、一瞬で朝を迎えたような感じでー、特にはー」と、
言葉を口にするー

真菜によれば、憑依された瞬間にビクンとした時のことは、
記憶があいまいで、特に苦しいとかはなかったようだー。
その瞬間に意識が飛んで、朝、寝起きのような感覚で今、目を覚ましたのだと言うー。

「ーこの状態で、俺が崎森の身体で勉強をすれば
 崎森の脳に効率よく”学力”を植え付けることができるー

 …どうする?」

五十嵐先生は今一度確認をするー。

真菜に対して”少しでも不安なら遠慮なくやめてもらってもいい”と、
優しく告げると、真菜は五十嵐先生のほうを見て頷いたー

「いえ、やりますー。
 お手数おかけしますが、宜しくお願いします」

真菜は、”自分の行きたい大学に向かうため”
意を決して、五十嵐先生のほうを見て、そう言い放ったー。

「ーわかった。今日はー説明もして時間もかかったから、
 30分だけ、勉強をすることにしよう」

五十嵐先生はそれだけ言うと、真菜に確認した上で、
再び真菜に憑依したー。

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学校とは別人のような様子で、
アニメを楽しむ五十嵐先生ー。

「は~~かわいいなぁ」
好きなアニメのヒロインのフィギュアを見つめながら
ニヤニヤすると、
アニメのコスプレをしているコスプレイヤーのアカウントを
見つめながら、またニヤニヤするー。

だが、これはあくまで趣味。

例えばアニメキャラを生徒に重ねたりすることはしないし、
美少女フィギュアを愛でても、
生徒たちにそういう感情を持つことは絶対にないー。

その”区別”は、五十嵐先生にはしっかりと出来ているし、
真菜に憑依しても、それは変わらないー。

あれから3日ー。
真菜は”本当に、すごいです!”と、嬉しそうに言っていたー。

聞けば、”かなりの成果”が真菜の中に出ているようで、
実際に数学の小テストを実施してみたところ、
”信じられないぐらいの高得点”を叩きだしたー。

五十嵐先生は数学の担当である故か、
特に数学の伸びが、明らかに早い。

もちろん、五十嵐先生は国語も社会も理科も英吾も
”それなりに”は出来る。
そのため、漢字テストも試してみたが、
明らかに真菜の学力は向上していたー。

このペースで、真菜の学力が上がれば、
真菜が志望する大学でも、勝負することができるー。

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「ーーー!」

翌日ー

いつものように、五十嵐先生が真菜に憑依して
勉強をしていた最中ー、
突然、真菜が意識を取り戻したー

「あ…あれ…?まだ、30分しか経っていないようですけど…?」
不安そうに呟く真菜ー。

今日は、5時20分までー…
1時間の予定で、と、事前に五十嵐先生と相談していたー

「なにか、問題でもありましたか?」
不安そうな真菜ー。

そんな真菜を見て、五十嵐先生は「あぁ、いやー問題というほどではないんだがー」と、
頭を掻きながら、少し気まずそうに呟くー

「そのー…トイレ… 行きたくなったものだからー」
と、目を逸らしながら言うー

「え?あっ…ご、ごめんなさいー
 大丈夫かと思って行ってませんでした」

真菜が申し訳なさそうに言うー。
確かに”トイレ行っておいたほうがいいかなぁ”とギリギリ迷うぐらいの
状態で、結局トイレに行かずにそのままここに来たのを思い出すー。

「ーーー俺が、崎森の身体でトイレに行くわけにはいかないからさー」
五十嵐先生は苦笑いするー。

真菜本人にトイレに行ってもらうために、
一度憑依から抜け出したのだと言うー。

「ーーそ、そうですねー すみません」
真菜はそれだけ言うと、五十嵐先生は「いや、いいんだー」と、笑うー。

真菜はトイレを済ませて、再び五十嵐先生に”お願いします”と告げると、
五十嵐先生は再び”憑依”を実行に移したー。

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試験当日まで、残された日はそれほど多くはないー。

五十嵐先生は、真菜に毎日憑依を行いー、
真菜の身体で勉強したりー
真菜の身体で自分の知識をイメージしたりして、
真菜に”知識”を受け付けたー。

本来であれば、勉強は自分でしなければいけない。
自分の力で、学び、そして知識として自分自身で身に着けていくー。

しかし、この”憑依学習”ー
五十嵐先生が名付けたこの方法は、
憑依により、”頭の良い人間”が無理やりその人間の脳に
知識を刻みつけるー。

言わば、強引に学習を完了させる方法だったー。

けれど、それでも、教え子である真菜を
志望する大学に行かせてあげたかったー。
彼女が、誰よりも努力しているのは、
五十嵐先生自身が、よく知っているからー。

「ーーーふぅ」
真菜の身体で勉強を終える五十嵐先生ー。

いよいよ数日後に、試験本番が待ち構えているー

「ーーー」
真菜の身体ですぅっと息を吸いだすと、
五十嵐先生は、そのまま真菜から抜け出すー。

五十嵐先生は、約束通り、真菜の身体で変なことは
一度たりとも、しなかったー。
普段から、そうした誠実な性格だからこそ、
真菜も、普通なら躊躇してしまうような”先生に憑依される”という
学習方法を、受け入れたのだろうー。

「ーーー…ぁ」
真菜が意識を取り戻すー。

「ー終わったぞ」
五十嵐先生が穏やかに笑いながら言うー。
真菜は、いつものように寝起きかのように周りを見渡すと
「ありがとうございますー」と、
穏やかに微笑んだー

「今の崎森なら、きっと大丈夫だー」

試験本番の話をしながら、そう言い放つ五十嵐先生ー

真菜は「ー本当にありがとうございます」と、
嬉しそうに微笑むー。

あとは、試験本番ー
できるだけのことは、したー。

だが、試験本番は真菜自身の手でやらなければいけない。
五十嵐先生が憑依して、乗り越えることもできるが、
それは、替え玉受験と変わらないー。

”憑依”であれば、確かにバレないとは思うが、
それは、五十嵐先生も、真菜自身も
”やってはいけないことである”と理解していたー

「ーーわたし、頑張ります!」
真菜の言葉に、五十嵐先生は力強く頷いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一仕事を終えて、
今日も録画しておいたアニメを見て、
美少女キャラのゲームを楽しみ、
SNSでコスプレイヤーたちの写真を見て、趣味の時間を終えるー。

趣味を楽しんでいる間は、
全力で趣味を楽しみー、

そしてー

「ーーー山下は、問題ないだろうー」

「菊池は……面接が勝負だな」

「ーー我妻はーー…もう一度面談してみるか」

自宅で、生徒たちの進路について頭を悩ませ始めると、
教職員の顔に戻るー。

真菜だけではなく、他の生徒一人一人に対しても
男女問わず、真剣だー。

男子生徒にも一人、真菜と同じぐらい時間をかけて
色々相談している相手もいるー。

「ーーーよしー。全員、ちゃんと送り出してやるからなー」
集合写真を見つめながら、
教え子全員の進路が決まるよう、しっかり後押しすることを
今一度決意すると、五十嵐先生は静かに頷いたー。

そしてーーーー

「ー先生!!合格でした!!!」
真菜が、嬉しそうに五十嵐先生の元に報告にやって来るー。

今日は、大学の合否の発表日ー。

真菜は目に涙を浮かべながら”合格”したと、
五十嵐先生に報告してきたー

「ホントか!よかったな!崎森!」
自分のことのように喜ぶ五十嵐先生ー

”不可能”
そうとまで思った大学に、真菜は合格したー

”憑依学習”の力ー

いいや、最後には自分でそれをモノにした真菜自身の力だー

「本当に、ありがとうございましたー」
教え子の嬉しそうな姿を見て、
五十嵐先生も自分のことのように喜びを噛みしめながらー、
ひたすら、真菜の合格を祝ったー。

真菜の後にも、吉報は続きー、
やがて、五十嵐先生の教え子たちは、全員、無事に
進学・就職、いずれかの進路が決まったのだったー

③へ続く

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コメント

ハッピーエンド……★!

と、思ったら、まだ続いていますネ~笑

元々、全3話の予定ですからネ~…!☆

…意味深なあとがきを残して、
続きはまた明日デス~!

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