☆こちらは「試し読み」コーナーデス
本コーナー以外の憑依空間内の作品は、憑依空間内で”必ず”完結します
<試し読み>と明記していない作品で、(試し読みコーナー以外では絶対にやりません)
「続きはFANBOXで」は絶対にやらないのでご安心ください!
「試し読み」は↓を全てご納得の上でお読みください☆!
(料金が掛かったりすることはないので、安心してください~!)
※こちらの小説はFANBOXご案内用の「試し読み」です。
(試し読みが欲しいというご要望にお応えして、試し読みをご用意しました)
pixivFANBOXで連載している長編「ナイトメアデザイア」の
第5話までを公開していきます!
※「試し読み」では、最後まで完結しません。ご注意下さい
(※FANBOXで現在連載中)
・試し読みコーナーでも、事前に<試し読み>と明記、どこまで読めるかを
明記した上で掲載しています。途中までであることをご納得の上でお読みください!
※1話あたりの長さは通常のと私の作品と同じで、
FANBOXでは1話ごとに公開していますが、
試し読み版では①~⑤を全部まとめてあります。
第1話「悪夢の始まり」
「まさかー、”女”だったとはなー」
サングラスを掛けた男が笑みを浮かべると、
反対側に足を組みながら座っていた髪の長い女が
笑みを浮かべるー
「ー”女”じゃいけませんか?」
とー。
冷たい視線を向けながらー。
そんな女を見て、相手の男がゾクッとすると、
「いいやー、むしろ新鮮だよー
”ナイトメア”の異名を持つ売人ー…
てっきり男だと思ってたからなー」
と、サングラスの男は笑いながら答えたー。
「ーーーふふー そうですかー。」
そう呟くと、女は黒いタイツに包まれた足を組み直しながらー
「早速ー始めましょうかー 取引をー」
と、笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・
取引を終えた女が倉庫の外に出てくるとー
サングラスを掛けて静かに歩き出すー。
自分のバッグを手にー
その中から取り出した”学生証”を見つめる女ー
「わたしはー狭霧 亜香音(さぎり あかね)ー」
その女ー、亜香音はそう言うと
自分の学生証を見つめながらー
「”身体”は、ねー」
とー、不気味な笑みを浮かべて再び歩き出しー、
夜の闇へと消えたー。
Nightmare desire episode.1-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
森本 龍平(もりもと りゅうへい)
大学生。彼女の亜香音と楽しい学生生活を送っていた。
狭霧 亜香音(さぎり あかね)
大学生。龍平の彼女。ある日を境に不穏な行動が目立つように。
小野寺 瑠香(おのでら るか)
大学生。龍平の幼馴染。小悪魔的な性格の持ち主。
根岸 和夫(ねぎし かずお)
大学生。瑠香の彼氏。ひたすら瑠香に振り回されている。
”ナイトメア”
裏社会で暗躍する謎の人物。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1か月前ー。
「え~?ホントに~?」
亜香音が笑いながら、隣を歩いている男子大学生と
楽しそうに話をしているー。
亜香音の隣を歩いているのは、
同じ大学に通う亜香音の彼氏ー
森本 龍平(もりもと りゅうへい)ー。
困っている人を見ると放っておけないタイプの男子でー、
亜香音との出会いも、そんな性格がきっかけだったー。
「ーーホントホントー、根岸(ねぎし)、また
小野寺(おのでら)さんにデートすっぽかされたってー」
龍平と亜香音が話をしているのはー
同じ大学に通う別の生徒の話題ー。
大学生らしい雑談を交わしながらー
昼食を食べるために、大学内の食堂へと向かうー。
今日もー、
”いつものような時間”が流れているー
特に大きな悩みもなくー
穏やかな、大学生活ー。
昼食を食べながら、亜香音が
”この前実家に帰った時の話”やー、
”来月の学園祭の話”など、色々な話題を口にするー。
龍平は楽しそうに話を聞きながらー、
自分も色々な話題を口にしてー
二人の話は尽きないー。
亜香音は、真面目で気配りのできるタイプの女子大生ー。
ただー、性格は明るく、勉強一筋のような子ではなく、
友達も多いタイプの子だー
誰に対しても表裏のない性格であることから、
周囲からの信頼も厚いー。
「ーーーーー」
ようやく、食事を終えて、少し時間が余ったため
スマホを確認する龍平ー。
”また一段と可愛くなったわたし!”
そんな文章と共に、
ウインクしながらピースしている女子の自撮り写真が
送られてきているー
「ーーーは…ははは」
呆れ顔で苦笑いする龍平ー。
写真を送ってきたのはー
幼馴染の小野寺 瑠香(おのでら るか)ー。
さっき、亜香音との会話の中にも出ていた”小野寺さん”のことだー。
別に浮気をしているわけではないー。
小悪魔的な性格のー…どこか空気が読めない感じの瑠香が、
龍平に彼女が出来たあとでも、平気でこういう自撮りを
送ってきたりするのだー。
がー、元々、亜香音と付き合う・付き合わない以前から
自撮りを送って来ることは多々あり、
別に亜香音と付き合い始めたからそういうことをし始めたわけではなく、
瑠香に悪気はないためー
龍平も彼女の亜香音も苦笑いしながら、いつも黙認している状態ー。
「ーーーどうしたの?」
スマホを見ながら苦笑いしている龍平を見て、亜香音が首を傾げると
龍平は「いやー、また小野寺さんからー」と、隠す気もなく、
スマホの画面を亜香音に見せつけたー。
「あ~~~!瑠香ちゃん!瑠香ちゃんってホント可愛いよね~」
亜香音は瑠香の写真を見ながら笑うー。
龍平のことを信頼しているしー、
龍平と瑠香に恋愛感情がないことは理解しているためー、
嫉妬深い性格でもない亜香音は全く気にする様子もなく
瑠香の写真を見つめるー。
「ーーははははー
でも、何で俺にいつも写真送って来るんだろうな~?」
龍平が少し恥ずかしそうに言うと、
亜香音は「瑠香ちゃん、わたしにもよく送ってくるし~」と笑うー。
「えぇっ!?亜香音にも?」
「ーそうそうー。結構色々相談されたりするしー」
亜香音は笑いながらそんな言葉を口にするー
瑠香は、ある意味天才だー。
誰にでも平気でガンガン積極的に近づいていくしー
周囲をガンガン平気で振り回すー
彼氏の根岸 和夫(ねぎし かずお)も
いつも本当に苦労していて、
最近では白髪も増えているように見えるー。
「ーーーん?」
そんな笑い話をしている最中にー、
ふと、スマホに偶然表示されたニュースを見つめるー。
”武器商人の女を逮捕”
そんな見出しだー。
「武器商人なんているんだなー」
龍平が思わずそう呟くと、亜香音は「え?」と、
首を傾げるー。
龍平が”この近所”で逮捕された武器商人の女のニュースを見せると、
亜香音は「ーわ…なんか、物騒だね…」と、
困惑の表情を浮かべたー。
しかもー
”容疑者”は、”美人”と呼ぶにふさわしい綺麗な人でー
とても、犯罪に手を染めるような人には見えなかったー。
”中野 友麻(なかの ゆま)”容疑者ー。
「ーーー……女の武器商人かー」
龍平は、そう呟くと、ニュースが表示された画面を
スクロールして、そのままニュースを閉じたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大学での1日が終わるー。
「ーーあ、なんか、邪魔しちゃってごめんなさいー」
眼鏡をかけた大人しそうな女子大生ー
冬月 琴美(ふゆづき ことみ)が、申し訳なさそうにそう呟くー。
「ーーえ、いやいやー
本当に気にしなくていいってー!
俺の方こそ、いつも気遣わせちゃってごめんなー」
龍平が慌てた様子でそう言い放つー。
琴美の横にいた亜香音が「そうそうー、龍平、本当に気にしてないから、
琴美も気にしないで!」と、少し困ったような笑みを浮かべるー
琴美は、亜香音の親友ー。
龍平と付き合い始める前から亜香音ととても仲が良くー、
大学内でもトップクラスの成績を誇る優等生だー。
おまけに、容姿にも恵まれていてー
何度も、男子が”可愛い”と言っているのを聞いたことがあるー
がーーー
琴美は”超”がつくほどネガティブな性格でー、
全く自分に自信がないー。
龍平と亜香音が付き合い始めたあとは、
何かと”二人の邪魔をしちゃってごめん”ばかりを
繰り返しているほどだー。
「ーーう、うんーありがとう…」
琴美がなおも申し訳なさそうにそんな言葉を口にすると、
龍平は「じゃ、今日はバイトだったっけ?」と、
亜香音に確認するー
「うんー」
亜香音が頷くー。
お互い、バイトや予定がない日は二人で一緒に帰ることも多いのだが、
今日は亜香音の方にバイトがあるためー
一緒に帰ることはできず、ここでお別れだー。
「ーー分かったー。じゃあ、また明日ー
バイト、頑張って」
龍平が笑いながらそう言うと、亜香音は「ありがと!」と、
嬉しそうに笑いながら、同じ方角の琴美と一緒に
大学の門を出て立ち去って行ったー
「ーーーふぅ…さて、俺は帰ったら何をしようかなー」
龍平はそんなことを呟くとー
ゆっくりと自宅に向かって歩き出したー
ーーー龍平は、まだ知らないー。
いいや、亜香音自身もー。
これからーーーーー
”亜香音が憑依されて”犯罪に加担することになるー
と、いうことはー。
そしてー、
それを境に、日常がガラリと変わってしまうことをー、
龍平も、亜香音もー
周囲にいる人々も、まだ、知らなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜ー。
ファミレスでのバイトを終えた亜香音は、
スマホで時間を確認すると、
そのまま自宅に向かって歩き出したー。
「ーーーー……?」
だがーーー
少し歩いたところで、亜香音は”気配”を感じたー
少しだけ視線をずらしてー
”背後”を確認するー。
「ーーー(気のせいかなー)」
亜香音はそんな風に思いながら、再び夜道を歩きだすー。
”女の子の夜道の一人歩きは危ない”
そんなことは、亜香音も重々承知しているー。
そう言った経験はないもののー
”必要以上に暗い道などを通らない”ようにしたり、
自分なりにできる対策はしているー。
とは言えーー…
”家に帰るため”には、多少人通りの少ない道を
いくつか通る必要もあるー。
冬の冷たい風邪が吹き付ける中ー
”寒い~…”と、心の中で呟きつつ、
家に向かって歩き続けるー
「ーーーーー?」
再び気配を感じて、振り返る亜香音ー。
だんだんと気味の悪さを感じて、
亜香音が少し早足で歩き始めるとー
その直後ーーーー
ぶつっ、と意識が途切れてー
「ーー!?!?!?!?」
気付いた時にはー
自分の部屋にいたーーー
「ーーえ…!?」
亜香音は困惑するー。
亜香音からすればー
”早足で歩き始めた瞬間、一瞬、意識が飛んだような気がして
部屋の中にワープしたような”
そんな、感覚だー。
「ーーーおはよう」
ー!?
その言葉に、亜香音はびくっとして振り返ったー
すると、背後に
一見すると気さくそうにも見えるー
けれども、鋭い目つきの”イケメンのおじさま”という感じの
男が腕組みをして立っていたー。
「ーー急に驚かせて申し訳ないー」
男はそう言うと、亜香音は「えっ…?えっ…?」と、
困惑の表情を浮かべるー。
確かに今ー、
帰り道を歩いていたはずー
それが一瞬にして、自分の部屋にいてー
しかも、知らない男の人がいるー
「あ、あなたは…誰ですか!?」
亜香音がビクッとしながら
「ーな…何でわたしの家にいるんですかー?」と、
言葉を続けるー。
「ーーははっ、そりゃそうだー。ごもっともな疑問だなー」
悠斗はそう笑うと、煙草に火をつけながら、
突然、持っていたスマホを、亜香音の方に見せつけたー。
それを見た亜香音は、表情を歪めるー。
亜香音が”歩きながら自撮りをしている”映像ー。
”ーこれからわたしは、色々な犯罪に手を染めちゃうの”
映像の中の亜香音が、悪女のような笑みを浮かべながら
そう呟くー
”ククククククククー”
自分でも、見たことのないような恐ろしい笑い方をする亜香音ー
「こ、これはー…?」
”身に覚えのない自分”が映し出された動画を見て
亜香音が混乱するー。
そしてー
動画の亜香音は、亜香音の家までやってくると、
そのまま家の中に入りー
鏡の前に立ったー
”ーわたしは狭霧 亜香音ー
これから、たくさんの犯罪に手を染めるわる~い女…
ふふっ…♡”
完全に悪女ー…
そんな表情を浮かべながらー
動画の中の亜香音は笑ったー
さらにー
信じられないことに、亜香音は自分の胸を両手で揉みながらー
”ーー次の”身体”もいい身体だぜー”と、
邪悪な笑みを浮かべたー
”ーふふふ 驚いたでしょ?”
映像の中の亜香音が、まるでー
亜香音本人に語り掛けるかのようにそう呟くとー、
”わたし、”憑依”されて身も心も乗っ取られちゃってるの!
すごいでしょ?”
と、笑ったー。
信じられない、という表情でその映像を見つめる亜香音ー。
映像の中の亜香音は椅子に座って
普段絶対に吸わない煙草を吸い始めるとー
足を組みながら笑ったー
”お前の身体はー俺のものだー”
とー。
そこで、映像が終わるー
「ー!?」
亜香音は恐怖に震えたー
帰宅中に突然、意識が飛んで部屋にいたのはーーー…
「ーそう怖がるなよー。
別に俺は、君を傷つけようとしているわけじゃないー。
ただー
”ちょっと”俺に身体を貸してほしいだけなんだー」
芝居めいた口調で笑みを浮かべる男ー。
「ーーか…か…身体…を?」
亜香音からしてみれば意味が分からないー
目に涙を浮かべながらそう聞き返すとー
「そうー。中野って女が逮捕されたニュース、知ってるか?」
男は半笑いでそう言うと、
亜香音は表情を歪めたー
「武器商人なんているんだなー」
「ーわ…なんか、物騒だね…」
「ーーー……女の武器商人かー」
大学で、彼氏の龍平と会話した内容を思い出すー
「ーーーククー
あれはー”俺”なんだよー
俺が身体を乗っ取って、犯罪に利用していたんだー」
男はニヤニヤしながらそう言うとー
「ー俺は、この世の全てが欲しいー
人生は、短いからなー
やりてぇことを全てやるには法律なんざ守ってられねぇ」
と、言葉を続けたー。
握りこぶしを作りながら、突然、机に置いてあったナイフを
壁に投げつけると、
口笛を吹きながら
「ーーでも、法律を破れば人は”逮捕”されるー
裁かれるー
当たり前のことだ」
と、急に冷静な口調で呟き始めるー。
「ーーー……わ…わたしに…何をするつもりですかー…!?」
泣きながらそう叫ぶ亜香音ー
何かされているのか、身体が思う様に動かず、
逃げることもできないー
「ーーー前の俺の”入れ物”さー、
ついに逮捕されちまったからー
”新しい身体”をレンタルしようと思ってな」
男の言葉に、亜香音は、この男が自分に何をしようとしているかを
完全に理解するー
「ーなぁに、心配するなー
借りたものはちゃんと返すー
ま、何日後ー何週間後ー何か月後ー
いいや、何年後かは分からないしー
返す時、どうなってるかは、わからないけど、なー」
男はニヤニヤしながら、そう言うと、亜香音のほうをじっと見つめたー
「ーー綺麗な顔だよなー
綺麗なものを”闇に染める”のってーーー
ホント、興奮するぜー」
男はそう言うと、
「さァ、身体をよこしな!」と、笑みを浮かべながら叫んだー
「ーーひっ…やめて…!
やめてください!
お願いします!やめて!」
亜香音が泣きながら助けを求めるー
「ーー”いいね”ー」
男はペロリと唇を舐めながらー
血走った目で狂気の笑みを浮かべたー
この男は”狂って”いるー。
そう思うと同時に、男が急に煙のようになってー
亜香音の方に向かってきたー
「ーーーや…やめて!!やめーーー ひぃっ!?」
身体をビクッと震わせた亜香音はーー
涙を流しながら不気味な笑みを浮かべて、
ペロリと唇を舐めたー
やがてー
ゆっくり立ち上がると、
壁に投げつけたナイフを抜いてからー
それを亜香音の舌で舐めーーー
自分の綺麗な指にーーー
そのナイフで傷をつけたーーー
ペロッー
亜香音の指から出た血を舐めるーーー
「ーーーうめぇー」
亜香音は狂った笑みを浮かべながらー
「ー今日から、わたしは”ナイトメア”ー」
と、静かに囁いたー
”憑依されてしまった彼女”ーー
”悪夢”のような日々が今ー、
始まろうとしていたー…
②へ続く
第2話「音信不通」
平穏な日常を過ごす男子大学生の龍平とその彼女・亜香音。
これからもその平穏な大学生活は続くー…ハズだったー。
しかし、ある日、亜香音が
”ナイトメア”を名乗る犯罪者に憑依されてしまいー、
憑依された亜香音は”犯罪”に手を染め始めるー。
”平穏”は崩さりー、”悪夢”が始まるー。
Nightmare desire episode.2-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
森本 龍平(もりもと りゅうへい)
大学生。彼女の亜香音と楽しい学生生活を送っていた。
狭霧 亜香音(さぎり あかね)
大学生。龍平の彼女。ある日を境に不穏な行動が目立つように。
小野寺 瑠香(おのでら るか)
大学生。龍平の幼馴染。小悪魔的な性格の持ち主。
根岸 和夫(ねぎし かずお)
大学生。瑠香の彼氏。ひたすら瑠香に振り回されている。
”ナイトメア”
裏社会で暗躍する謎の人物。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
亜香音が憑依された翌朝ー
女子大生が絶対に寄りつかないような、
怪しげな建物の地下にやってきた亜香音は、立ち止まるー
「それが”次の身体”かー?」
”憑依された亜香音”の背後から現れたスーツ姿の
一見すると優しそうな風貌の男が言うとー、
「ーーククーお前も来ていたのか
今泉(いまいずみ)ー」と、呟きながら
亜香音が振り返ったー。
「ーーどうだ?可愛いだろ?」
亜香音が自信に満ち溢れた表情で、自分の身体を得意気に
触りながら言うと、
今泉と呼ばれた男が少し苦笑いしながら言い放ったー
「しかし、その子も犯罪とは無縁な子だろうにー
これから、色々な悪事に使われていくと考えるとー
可哀そうだねぇ」
軽口を叩く今泉ー。
「ーへっー、可哀想なんて思ってないくせに」
亜香音が笑いながら言うー。
「ーこれからこの女は裏社会で暗躍する”ナイトメア”に
なるんだぜー?」
亜香音が黒い手袋をはめながらそう呟くと、
今泉は「はははー好きだねぇーお前もー」と、
笑いながら首を横に振ったー。
「ーーで?お前がここにいるってことはー
”何か”金になる案件を持ってきたんだろ?」
亜香音がそう言うと、
今泉は笑みを浮かべたー
「さすが城戸(きど)ーー
察しがいいね」
スーツ姿の男・今泉は
亜香音に憑依した”ナイトメア”を名乗る男のことをそう呼ぶと、
ニヤリと笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー」
大学にやってきた龍平は少し戸惑いの表情を
浮かべながら、構内を歩いていたー。
「ーーーーー」
龍平が暗い表情をしている理由は、ひとつー。
昨日から、彼女の亜香音と連絡がつかないのだー。
確かー、昨日は亜香音はバイトのシフトが入っていて
”バイト頑張って”などという会話をして別れたー。
だが、それ以降、連絡が途絶えているー。
既読はつくのだが、反応がないー。
そしてーー
どうやら、今日、亜香音は大学にも来ていないようなのだー。
「ーーー…亜香音ー」
何かあったのだろうかー。
そんな風に思いながら、廊下を歩いているとーーー
突然、目の前に人影が現れて
「ばぁっ!!!!!!!」と、その人影が叫んだー
「ーーっっっ!!!」
思わずビクッとして、龍平が表情を歪めると、
目の前に、キラキラ輝いたオーラを出しているようなー…
そんな感じの女子生徒の姿が見えたー。
幼馴染の小野寺 瑠香ー。
小さい頃からの知り合いでーーー
龍平が”小さい頃からよく頭を悩ませている”存在ー
「ーも~~~リアクションうす~~~い!」
瑠香がそう言い放つと、
「ーこんなに可愛い子が飛び出してきたんだから、
なんかリアクションしてくれないと」
と、いつもの調子で、訳の分からないことを言い出したー
「ーーお、お前なぁー……も、もう大学生なんだぞ?」
龍平が呆れ顔で言うと、瑠香は
「そんなこと分かってますぅ~」と、頬を膨らませながら
不貞腐れたような表情を浮かべたー
「ーーで…なんだよー…
まさかただ俺を驚かせてみたかった、なんて言わないよなー?」
再び廊下を歩きだしながら龍平が呆れ顔で言うと、
「ー龍平ってば、地球が真っ二つになっちゃいました!みたいな顔
してるから、どうしたのかなぁ~って」
と、瑠香が少しだけ心配そうに呟くー。
「ーん?
あぁ~…それはー…
昨日から、亜香音と連絡がつかなくてさー
今日、大学にも来てないみたいだしー
なんか知ってる?」
龍平がそう言うと、瑠香は「え~そうなんだぁ~」と、
少し大げさに驚いて見せてからー
「あ~~~!それで寂しいんだね~?」と、
揶揄う様にして笑うー。
小悪魔のようなそんな笑みを浮かべている瑠香を見てー、
「ー悪いかよ?」と、龍平も少し不貞腐れたような表情を
浮かべるー
「別に~!
あ、でもどうしても寂しくなった時はー
この瑠香さんにいつでも言って来なさい!
亜香音ちゃんの代わりに瑠香さんがデートしてあげるから!」
堂々と言い放つ瑠香ー。
「ーーなんだよ瑠香さんってー
ってか、お前ー…彼氏いるだろー?」
龍平が呆れ顔で言うと、
瑠香は「大丈夫大丈夫ー根岸くんは何でも許してくれるから!」と、
笑いながら言い放つー
「あのなぁ~…根岸は確かに優しいけどさー…
さすがに可愛そうすぎるだろー…
ちょっとは大事にしてやれよ?」
まるでお兄ちゃんのように、少し注意するような口調で言うと、
瑠香は「はぁ~い…お兄ちゃん!」と、言葉を口にしたー
「誰がお兄ちゃんだ!まったくー」
そう言いながらも、少し元気が出た気がする龍平ー。
幼馴染の瑠香は、昔からとんでもないことを発言して、
人を揶揄うような一面もあるがー
”本気で浮気をする”タイプでないのは理解しているー。
仮に、龍平が「じゃあデートしよう」などと返せば、
たちまち混乱して、あたふたし始めるー
そんな子だー。
”ーーは~…幼馴染ながらいまだによく分かんない子だよなー”
そう思いながら龍平は、瑠香と別れて次の授業の場所に向かうー。
「ーーーーー」
そんな龍平を物陰から見つめる男がいたー。
巨体のーー
髪型に寝ぐせがついたままのその男はー
龍平たちの同学年の大学生ー、大久保 太史(おおくぼ ふとし)ー
彼はーーーーー
”亜香音に一方的に好意を抱く危険人物”だー。
「ーーぐふふふふふふー
亜香音ちゃんー
どうやら僕のお願いー聞いてくれたみたいだなぁー」
太史は汚らしい笑みを浮かべるー
太史は最近ー、どこから聞いたのか、
亜香音に対してしつこくLINEを送ったりー
”ストーカーまがいの行為”もしていてー
その行動は次第にエスカレートしているー。
亜香音は、”龍平に心配をかけないように”と、
まだ龍平には相談していなかったもののー、
亜香音自身、太史の存在には不安を感じていたー。
先日もー
「ーあんな奴やめて、僕と付き合ってくれよ!」
などと、亜香音に直接言い放ちー、
亜香音から「ごめんー。大久保くんとは付き合えないのー」
と、はっきり断られているー。
だがー
それでも諦めきれない太史は、昨夜ー
”僕の一生のお願いだ!あんな彼氏のこと、これからは無視して
僕と一緒に幸せになろう!”などというメッセージを
亜香音に送りつけていたー。
返事はなかったー
がーーーー
龍平が”昨日から亜香音と連絡を取ることができていない”と
言っているのを聞いてー、太史は確信したー
「やっぱあんなやつよりー、亜香音ちゃんは僕を選んでくれたんだー!」
とー。
ニヤニヤとしながら、乾燥した唇から出た血をペロリと舐める太史ー。
「ー亜香音ちゃんはー僕のものだー」
だがーー
”龍平が亜香音と連絡を取れないー”のは、
当然、太史が送ったメッセージが理由などではないー。
太史は知らないー。
亜香音が昨夜、憑依されてしまったことをー。
いいやー、
彼氏の龍平も、そのことを知らないー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーふん」
大学にも行かず、”ナイトメア”として暗躍する亜香音は、
スマホを見て、面倒臭そうにそう呟いたー。
彼氏の龍平や、友達からの亜香音を心配するメッセージー
「ーーふふふふー
わたしはこれからー”悪女”になるのー
わる~~~~い 女に、ねー」
クスクスと笑うと、亜香音は「なんてな」と、
呟きながら、
「ー武器が欲しいのは、アンタかー?」と、
サングラスとマスクで素顔を隠しながら
”取引相手”の前に姿を現しー、
マスクの下で笑みを浮かべたー
”俺は死ぬまでにこの世を楽しみ尽くしたいー
人生、一度きりー
他人の幸せをぶち壊そうが関係ねぇー
この女がどうなろうと知ったことはないー
大事なのはー
俺が今、この瞬間ー、綺麗なものを闇に染めて
ゾクゾクしながらー
ビジネスを楽しむことができてるってことだー
ククー
この女の身体も、さっきからゾクゾクうずいて
興奮してやがるぜー”
人生、一度きりー
楽しんだものがちーーー
それがー
”ナイトメア”こと、城戸 悠斗(きど はると)の
信条ーーー
彼を”ルール”で縛ることなど、できないー。
誰にもー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”結局、亜香音とは連絡がつかないままかー”
大学での1日が終わりー
帰り際になっても、結局亜香音が姿を現さずー、
連絡もつかなかったことに不安を覚える龍平ー。
”亜香音のバイト先のファミレスのー
矢澤(やざわ)くんにでも聞いてみるかー”
亜香音を慕う後輩バイトでー、
以前、休日に亜香音と共にそのファミレスを訪れた際に
意気投合し、時々連絡を取ったりしている顔見知りだー。
たしかー、
前に彼から聞いた通りのシフトならー、
毎週水曜日ー、つまりは昨日、ファミレスにその”矢澤君”もいたはずだー。
亜香音に何か異変がなかったか聞いてみようー。
そう思いながら大学の正門付近にやってくると、
亜香音の親友の琴美の姿が目に入ったー
成績優秀で容姿も可愛いのにー
超ネガティブな子だー。
「あ!冬月さん!」
龍平が、琴美に声を掛けると、
琴美は振り返って「あ、こんにちはー」と
ペコリと頭を下げたー
「ちょうどよかったー
今日、亜香音、大学に来てなかったみたいだけどー
何か聞いてるかなーって思って」
龍平がそう言うと、
琴美は露骨に不安そうな表情を浮かべるー。
「ーーー…え……森本くんもー
何も知らないの…?」
琴美の言葉に、龍平は「あ…あぁ…昨日から連絡が取れなくて」と、
不安そうに返事をしたー
”琴美の反応”は、
琴美も亜香音から何も聞かされておらず、しかも恐らく
連絡も取れていない、ということがすぐに分かる反応だったー
「ーーじ、実はわたしもー…」
琴美が不安そうにLINEの会話画面を表示して、龍平にそれを示すー。
龍平は「そ…そっかー」と、だけ頷くと、
言葉を失ってしばらく考え込むー
「あ、あのー…」
そんな沈黙を破るようにして、琴美が言葉を口にするー
「ーじ、実は最近ー……亜香音ちゃんー……
面倒臭そうな子に付きまとわれててー…」
琴美がそう言うと、
「え?」と、龍平が言うー
「ーあ、え、えっとー…つ、付きまといってほどじゃないのかも
しれないけどー
琴美ちゃんに何度もメッセージを送ってきたりー
あ、あと、この前、告白されて断ったって言ってたかなー…」
琴美が不安そうにそう呟くー。
彼氏の龍平にはまだ話していなかったが、
亜香音は親友の琴美には何回か、相談したことがあったー。
その話を琴美が龍平に伝えたのだー
「か、関係ないよねー……きっと」
琴美が気まずそうにそう言うと、
龍平は考え込むー
「ーーそ、その面倒臭そうな子って言うのはー?」
龍平が確認すると、琴美はー
「えーえ~っと、何か…気持ち悪い人ー」と、
返事を返してきたー
琴美は超ネガティブなのだが、時々毒舌というかー、辛辣な子でもあるー。
「ーき、気持ち悪いってー…」
苦笑いする龍平ー
”それじゃ分からないなぁー”と、だけ言うと
琴美は「名前…忘れちゃってーご、ごめんなさい!」とだけ
頭を下げたー。
ひとまずお礼を言って、琴美と別れる龍平ー
琴美は誰かに付きまといをされていたのだろうかー。
そんな風に思いながら”とりあえず琴美のバイト先の矢澤くんに聞いてみよう”と、
大学の外に向かって歩き出したー
”へへへへー”
琴美に”気持ち悪い”と言われてしまった太史は、
物陰からそんな様子を見つめていたー
「ーーー亜香音ちゃんは、僕のお願いを聞いてくれたのさー
へへへへー」
思い込みの激しい太史は
龍平が亜香音と連絡を取れなくなった理由をー
”昨日、自分が亜香音に送ったメッセージ”だと思い込みながらー
ニヤリと笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そ、そっかー…うん、わざわざありがとう」
龍平はそう言うと、
亜香音のバイト先の後輩・矢澤との電話を終えて
スマホを机に置いたー。
「は~~~~~~…」
深くため息をつく龍平ー。
「亜香音の家に行ってみるかー…」
連絡がつかないのであれば、直接亜香音の家に行くしかないー。
まさかーーー
家の中で倒れているー、なんてことはないとは思うが、
人間、若くても突然死する人もいるー。
大学を休み、連絡もない、という状況は
最悪の事態を連想させるー。
そう思いながら、龍平は亜香音の家へと向かったー。
♪~~~~
亜香音の家のインターホンを鳴らすー。
亜香音は確か、一人暮らしだー。
一人暮らしで、音信不通になっているという状況は、
あまりよろしくないー。
「ーーーーー」
部屋の明かりもついていないー。
龍平の不安はさらに高まっていくー。
だがーーーー
”はいー”
いつもより”不愛想”な亜香音の声が中から聞こえて来たー。
「ーー!?」
てっきり留守だと思ってた龍平は、表情を歪めるー。
「ーーあ、亜香音ー?亜香音なのかー?」
龍平がそう言うと、
”ん?ーーーあぁーーーそうだよ”
と、亜香音が少し声のトーンを変えて返事をしたー。
「ーーな、何だよ…
よかったぁ…
急に大学に来なくて連絡もつかないから、心配してー」
龍平が心底安心した様子でそう呟くと、
亜香音は”ふふー…ごめんね 体調悪くて寝込んでたの”と、
だけ返事をしたー。
「ーーー大丈夫なのか?何か買ってこようか?
薬とか、食べ物とか?」
龍平が心配そうに確認すると、
亜香音は”ううんー大丈夫”とだけ答えるー。
”憑依した身体”は使い捨てだー。
その子の人生をなぞる必要はないー。
大学をやめることになろうとーーー
”城戸 悠斗”には関係のないことなのだからー。
”ーーもう寝ようとしてたところだから、いいかな?”
亜香音が少し面倒臭そうに呟くー
「ん?あ、あぁ…わかったー
じゃあ、お大事にー
何かあったらいつでも連絡してー」
”うん、ありがとうー”
会話を終える龍平ー。
ひとまずー、
亜香音が健在なことは分かったー
深くため息をつく龍平ー。
龍平は、少しだけ心配そうに亜香音の家を見つめるとー
”まぁ……他に誰かいる気配もないしー”と、
そのままその場から立ち去って行ったー。
・・・・・
・・・・・・・・・・
30分後ー
「ーーーー」
玄関の扉が開くー。
サングラスで顔を隠しー、
いつもとは違う髪型で家から出て来た亜香音は
周囲の様子を少し伺うと、
そのままポケットに手を突っ込んだまま歩き出したー
「ーーーうへへへへ…」
そんな様子をーーー
”付きまとい”の太史が少し離れた場所から見つめていたー
「ー亜香音ちゃんってーこんな夜に外出する子だったんだなぁ…
へへーますますゾクゾクしちゃうぜー」
何も知らない太史は、そのまま”憑依された亜香音”が
どこに行くのかー、好奇心と下心を抱いて、
そのまま亜香音の尾行を始めたー
「ーーーーー」
道を歩いていた亜香音が、曲がり角の鏡で、
太史に尾行されていることを確認するー
「ーーーーーーー」
亜香音は邪悪な笑みを浮かべるとー
”女の一人歩きってのも大変だなー”と、
心の中で呟きながら、そのまま太史を無視して
夜の闇へと姿を消したー。
③へ続く
第3話「不穏」
彼女の亜香音が突然、大学を休んだー。
連絡も取れない状況に不安を感じる龍平ー。
そんな中、龍平が亜香音の家を直接訪ねたところ、
亜香音の無事をひとまず確認することができ、
龍平は安堵するー。
がー、
龍平は知らない。
誰よりも大切な彼女・亜香音は、
既に”憑依”されて、亜香音であって亜香音ではない存在にー
凶悪な悪女と化していることをー…。
Nightmare desire episode.3-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
森本 龍平(もりもと りゅうへい)
大学生。彼女の亜香音と楽しい学生生活を送っていた。
狭霧 亜香音(さぎり あかね)
大学生。龍平の彼女。ある日を境に不穏な行動が目立つように。
小野寺 瑠香(おのでら るか)
大学生。龍平の幼馴染。小悪魔的な性格の持ち主。
根岸 和夫(ねぎし かずお)
大学生。瑠香の彼氏。ひたすら瑠香に振り回されている。
大久保 太史(おおくぼ ふとし)
大学生。亜香音に一方的に好意を抱いている。
”ナイトメア”
裏社会で暗躍する謎の人物。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今日も亜香音は休みかー」
”ふぅ”とため息をつく龍平ー。
昨日、亜香音の家を直接訪れて、とりあえずその声を
聞くことができた龍平は、とりあえずは安心していたー
”ふふー…ごめんね 体調悪くて寝込んでたの”
昨日の亜香音の声を思い出すー。
確かにー、少し調子が悪そうというかー、
暗い感じの声だったー。
大学に連絡もせずに休んだぐらいだし、
相当調子が悪かったのだろうー。
今朝も、一応心配するメッセージを送ったがー、
やはり、反応は薄いー。
だが、昨日とは違って、時々返事も返ってきてー
”大丈夫だから、心配しなくていいよ”
と、そんな内容が書かれていたー。
「ーーー森本ー」
背後から声がして、龍平が振り返ると、
そこには先輩の三上 恭吾(みかみ きょうご)の姿があったー。
「ーーあ、三上先輩ーおはようございますー」
龍平がそう挨拶すると、恭吾は苦笑いしながらー
「ー大丈夫か?朝からため息なんてついてー」と、心配そうな表情を浮かべたー
”三上 恭吾”ー
とても面倒見がよく、優しい先輩で、
後輩・同学年問わず頼りにされる男子学生だー。
顔立ちもイケメンなことから、女子からの人気も高いがー、
本人は気取ることなく、誰にでも優しいため、
”兄貴分”として男女問わず慕われているー。
龍平とは同じ学部であることから、
接点も比較的多く、恭吾には何かと世話になっているのも事実だったー
そういえばー、亜香音と付き合うきっかけになった時にもー…
そんなことを思いながら、龍平がため息をついた理由を説明するー。
「亜香音が昨日から、体調不良みたいでー」
龍平がそう言うと、恭吾は「はははー、それはたしかに心配だなー」と、
笑いながら龍平の話を親身になって聞き始めるー。
「ーーー亜香音が、連絡もなしに大学を休むことなんて
初めてでしたしー」
そんな言葉に恭吾は頷くと、「連絡はついたのか?」と、
少し心配そうな表情を浮かべるー。
「ーー昨日は連絡も取れなかったので、夜、亜香音の家に
行ったらー とりあえず、家にはちゃんといて、話もできたのでー…
無事だったのでホッとはしましたけどー…」
龍平のそんな言葉に、恭吾は龍平の肩をポンポンと叩くと、
「それなら大丈夫さー。狭霧さん、いつも何でも一生懸命
頑張ってるしー、疲れが出ちゃったのかもなー」と、
穏やかな笑みを浮かべながら言ったー。
「ー後はまぁーーー
何か果物でも買っていってあげたりすると、
喜ぶかもなー」
恭吾はそれだけ言うと、立ち上がって
「ーー何かあったら、俺で良ければいつでも力になるからー
あまり森本も抱え込むなよ?」と、優しい言葉を龍平にかけたー
龍平は「ありがとうございますー」と、お礼の言葉を口にすると、
「少し、気が楽になりましたー」と、ちょっとだけ安堵の表情を浮かべたー。
「ははは、ならよかったー。じゃ、またー」
恭吾はそれだけ言うと立ち去っていくー。
そんな”三上先輩”の後ろ姿を見つめつつ、
龍平は”よし”と、呟くと少しだけ明るい表情を浮かべて
そのまま大学の構内に向かって歩き始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーおいおいおいおい ひどい格好だなァ…」
”城戸 悠斗”に憑依された亜香音の姿を見て
思わず苦笑いする”裏社会の情報屋”・今泉ー。
サングラスとマスクにラバースーツー。
普段の亜香音とは”まるで別人”だー。
「ーークククーこういう格好してると、興奮するぜ?
身体の底の方から、ゾクゾクゾクって、鳥肌が立つ感じー
分かるか?」
亜香音の言葉に、
「分かるわけないだろ」と、今泉は呆れ顔で笑うー。
「ーーーそれとさー、ココが妙にうずうずするんだよー」
下半身をラバースーツの上からイヤらしい手つきで触る亜香音ー
「ーーホント、災難だなぁーお前に乗っ取られる子はー」
そんなことを言う今泉ー
「ーーへへ…まぁいいー。で、例の件はどうしたー?
交渉の場所は?」
亜香音が壁に寄りかかりながら言うとー、
今泉は「取引は”今夜”だー」と、笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大学での1日を終えるー。
昼休みには、亜香音の親友である、
いつもネガティブな女子・琴美に、
昨日、亜香音の無事を確認できたことを伝えておいたー
琴美は珍しく、とても嬉しそうに笑っていたー。
「ーーーへへへへー…」
「ー!」
龍平が気味の悪い笑い声にハッとして前を見るとー、
同じ大学に通うー、”亜香音に告白して以降、半分付きまとい化”
しかけている大久保 太史がニヤニヤしながら龍平を見つめていたー。
「ーーー亜香音ちゃんは、お前より、僕を選んだー」
太史が唐突にそんな言葉を口走るー。
「ーーーーーは? 何言ってんだー?いきなりー」
龍平がそう言いながら、太史の巨体の横を通って
素通りしようとするー。
「昨日から、亜香音ちゃんと連絡が取れてないんだろー?
へへへー…
どうしてだか、分かるか?」
太史が、そんな龍平に声を掛けると、
龍平は「どうしてってー…亜香音は体調不良で寝込んでるからー」と、
面倒臭そうに答えるー。
しかし、太史は「へへへへっ…おめでたい頭だなー」と、
ニヤニヤしながら言うと、
「いいか、森本ーお前は彼女に振られたんだよ」と、
突然言葉を口にしたー。
「ーー…さっきから何言ってんだお前ー」
龍平がうんざりした様子でそう言うと、
太史は、数日前、
亜香音に対して
”僕の一生のお願いだ!あんな彼氏のこと、これからは無視して
僕と一緒に幸せになろう!”
と、メッセージを送ったことを、スマホの画面を見せながら暴露したー
「ーーー…まさか、冬月さんが言ってた、亜香音に振られて
しつこくメッセージ送ってるってやつは、お前か?」
龍平が、ハッとしながらそう呟くー。
昨日、琴美が”亜香音が気持ち悪い子に告白された”と、
そう言ってたー。
発言からすると、この太史が、琴美の言ってた
”亜香音に告白して、振られて以降もつきまとってる”男子の
可能性が高いー。
「ー僕がこのメッセージを送ったからー
亜香音ちゃんは、お前をシカトしてるんだー
クククー
亜香音ちゃんは、お前より僕を選んだんだ!ぐへへへへ…」
ニヤニヤしながら、顔を近づけて来る太史ー
だが、龍平は呆れ顔でスマホを指さしたー。
「ー既読すらついてねぇじゃねぇか」
とー。
それだけ言うと、龍平はため息をついて、
「いいか、亜香音は昨日から体調不良で寝込んでるんだよー。
昨日の夜、家の前まで行って話をしたし、
今日は連絡も取れてるー。」
と、状況を説明、思い込みの激しい太史に対して
うんざりとした様子で説明を続けたー
「ー亜香音に付きまといみたいなことをするのはやめとけー。
あまりしつこいようだと、俺も大学に相談したりとかー
それなりの対応を取るからな!」
龍平が、太史に”迷惑行為はやめろ”と、そう言い放ち、
そのまま立ち去ろうとすると、太史は、奇妙な笑い声をあげ始めたー
「ーーホント、めでたいやつだなお前はー!!!
森本、お前の脳みそは味噌汁か?」
太史が馬鹿にしたような笑い方をしながらそう言い放つー
ムッとした龍平は
「人が穏やかに注意してるうちに、迷惑行為はやめとけよ?」と
忠告するような口調で言いながら振り返るー。
だが、太史は信じられない言葉を口にしたー。
「亜香音ちゃんが風邪?馬鹿かお前」
太史の言葉に、龍平は「何が言いたい?」と、表情を歪めるー
「亜香音ちゃんは風邪なんか引いてねぇよー」
太史はそれだけ言うと、
「昨日の夜、お前が亜香音ちゃんの家の前から帰った後ー…
普通に外出してたのを、僕は見たぞ」と、言葉を続けるー
龍平はそれでも動じず
「体調不良だって必要なものがあれば買い物ぐらい行くだろ?」
と、呆れ顔で言うー。
しかしーーー
太史は、スマホを手に、”ある写真”を龍平に見せつけたー。
それはーナイトクラブに男と共に笑いながら入っていく、
亜香音の”写真”だったー。
「ーーーーー!!!!」
龍平が目を見開くー。
「ーーおやおやぁ? あっれぇ~~~?」
太史が挑発的に笑うー。
「ーーーあっれぇ~~~~~~~?
さっきまで威勢の良さはどうしたんでちゅか?」
何故か赤ちゃん言葉で煽って来る太史ー。
「ーーお、お前ー…何なんだこの写真はー」
龍平が怒りの形相で太史を見ると、
「ーおやおやおや~?現実を見せ付けられて
逆ギレでちゅか?」と、笑いながら太史は返事をしたー
龍平がカッとなって、思わず太史の腕を掴むー
だがーーー
周囲の人目を気にして、すぐに手を離すと、
太史は「やっぱ亜香音ちゃんにふさわしいのはこの僕だ」と、
笑いながらスキップして立ち去って行ったー
「ーーーあれ?どうしたの?」
そこに偶然、幼馴染の小野寺 瑠香がやってきて
龍平を見つけて首を傾げるー。
「ーーーーー瑠香」
龍平は、困惑の表情で瑠香の方を振り返ると、
「何かあのグロいやつに絡まれてなかった?」と、瑠香が
太史の後ろ姿を指さしながら言うー。
「ーグロいってお前ー」
龍平は少しだけ苦笑いをしながら、
「悩みごとなら、龍平のことなら何でも知ってる幼馴染の
この瑠香さんに相談して見なさい!」と、
笑いながらドヤ顔をしている瑠香のほうを見つめると、
龍平は「気持ちだけ受け取っておくよー」と、
少し悲しそうな表情を浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ー
「ーーこれで、取引成立ですねー」
”憑依された亜香音”が、腕組みをしながら、そう呟くと、
情報屋・今泉を介して仕入れた”武器”を、
このあたりを仕切る裏社会組織の幹部に売り渡したー
札束を”綺麗な指”で数える亜香音ー。
「ーーーーどんなヤバそうなやつが来るのかと思えばー
お嬢ちゃんみたいな、小娘とはなー
金欲しさにバイトしている売り子か何かか?」
裏社会組織の幹部が言うと、
亜香音はクスッと笑ったー
「いいえー
わたしが”ナイトメア”本人ですよ?」
とー。
「はっ…はははははははははは!」
その言葉を聞いて、思わず笑う裏社会組織の幹部の男ー
「なかなか面白いお嬢ちゃんだー。
裏社会の武器商人”ナイトメア”は、何年も前から
俺たちの業界では有名人だー。
素顔を見た人間はほとんどいないがー
お嬢ちゃんー 君がナイトメア本人なんてー
無理がある」
裏社会組織の幹部がそう言うと、
亜香音はクスッと笑いながらー
「ーーーーー”身体”は、女子大生ですけど、ねー」
と、冷たい声で囁きながら笑みを浮かべたー
”ーーククククー
”中身”は、正真正銘ーあんたの言う
”ナイトメア”だぜー”
心の中で、亜香音に憑依している城戸悠斗は
そう囁くと、笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
龍平は、亜香音とLINEのやり取りを終えると、
”ごめんー…今日も体調が良くなくて”と、いう亜香音からの
メッセージを見て、少しだけ表情を歪めたー。
「ーおやおやおや~?現実を見せ付けられて
逆ギレでちゅか?」
昨日の太史の言葉を思い出すー。
いいやー、太史と亜香音、どっちを信じるかと言われれば
亜香音を信じるに決まっているー
あの写真は奴が作った合成か何か、だろうー。
そう思って龍平が大学の正門前にやってくると、
目つきの鋭い、スーツを着た中年のおじさんが龍平に気付きー
近付いてきたー。
「ーーー?」
龍平が少し警戒すると、
中年のおじさんは「森本 龍平か?」とだけ尋ねたー。
「ーーーはい、そうですがー」
龍平は少し嫌な感じを覚えながらそう返事をするとー
その男はー”警察手帳”を手に、
それを龍平に見せたー。
「ー南署の馬渕(まぶち)だー
君に一つ聞きたいことがあるー」
相手は警察官ー。
警戒をする必要は無くなったが
”高圧的”で嫌な感じだー。
龍平がそう思いながら「何でしょうか?」と確認すると、
馬渕は淡々と言葉を続けたー
「君の彼女、狭霧亜香音のことだがー
昨日の夜、彼女が何をしていたか、知ってるか?」
その言葉に、龍平は「え…な、何でですか?」と、
思わず声をあげるー。
「ーー質問に答えろ」
龍平の質問に答えず、馬渕がそう言い返すと、
龍平は「ー亜香音はー…昨晩は体調不良で家で休んでいたはずです」と
答えるー
「一緒だったのか?」
馬渕が再度確認してくるー。
「い、いえーLINEでやり取りをー」
龍平がそう答えるー。
「ーーーそうか」
馬渕は、愛想なくそう言い放つと、「邪魔したな」とだけ呟いて
そのまま立ち去って行こうとするー
「ーあ、あの!」
龍平がそんな馬渕を呼び止めると、
馬渕は「あ?」と、不機嫌そうに振り返ったー。
「ど、どうして亜香音のことを聞くんですかー?
亜香音が、何かー?」
龍平がそう言うと、馬渕は頭をボリボリとかきながら、
龍平のほうを今一度振り返ったー。
「ーーー何か”後ろめたいこと”でもあるのか?」
馬渕の言葉に、龍平は「ち、違います!そんなんじゃないです!」と、
少し感情的になりながらー、
「ー警察の人から、彼女のことを聞かれたら、誰だって心配しますよ!」と、
反論したー
「ーーーふん」
馬渕は、相変わらずの高圧的な態度で反応すると、
そのまま何も答えずに立ち去って行ったー
「ーなんなんだ…あいつ」
思わず愚痴を呟く龍平ー
別に警察は嫌いじゃないし、
小さい頃、通学路にあった交番の警察官はよく声をかけてくれたし、
いい人だったー。
でも、今の馬渕とかいうやつは嫌いだー。
そう思いながら龍平がため息をつくー。
なぜー
あの馬渕とか言う警察官は”亜香音のことを聞いてきた”のだろうかー。
「ーーーーー…」
亜香音が大学に来なくなったー。
”ただの体調不良”だと信じたいー
だが、太史は”亜香音が夜にナイトクラブに出かけていた”と、
言っていたー。
あんなやつのこと、信じるつもりはないー。
だがー…
「ーーー亜香音ー……本当に、体調不良なんだよなー」
心配そうに呟きながら空を見上げる龍平ー
離れた場所ー
同じ空の下では、そんな心配を他所に、
”憑依された亜香音”が笑みを浮かべながら
”次の取引”の場所に向かって歩いていたー。
”憑依されてしまった彼女”
次第に、その日常はー変わっていくー。
まるで、悪夢のような日常にー。
④へ続く
第4話「疑惑」
彼女の亜香音が憑依されてしまったー。
そんなことを知らないまま、彼氏の龍平は、
周囲で起きる不穏な出来事に不安を抱く。
そんな中、
亜香音に付きまとう勘違い男・太史から
”体調不良のはずの”亜香音はナイトクラブに足を運んでいたと聞かされる。
さらには、馬渕と名乗る刑事から、
”亜香音の行動”について聞かれた龍平は、
さらにその不安を強めていきー…?
Nightmare desire episode.4-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
森本 龍平(もりもと りゅうへい)
大学生。彼女の亜香音と楽しい学生生活を送っていた。
狭霧 亜香音(さぎり あかね)
大学生。龍平の彼女。ある日を境に不穏な行動が目立つように。
小野寺 瑠香(おのでら るか)
大学生。龍平の幼馴染。小悪魔的な性格の持ち主。
根岸 和夫(ねぎし かずお)
大学生。瑠香の彼氏。ひたすら瑠香に振り回されている。
大久保 太史(おおくぼ ふとし)
大学生。亜香音に一方的に好意を抱いている。
”ナイトメア”
裏社会で暗躍する謎の人物。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー亜香音、体調は大丈夫か?」
大学帰りー、
龍平はようやく、彼女の亜香音との電話がつながると、
心配そうにそう言葉を口にしたー
”あ~うん、大丈夫ー”
亜香音がそう返事をするー。
「ー亜香音が良ければ、今から色々買って
亜香音の家に持って行こうと思うんだけどー、
何か欲しいものがあればー」
龍平がそこまで言うと、
電話の向こうの亜香音が少し面倒臭そうに
”別にいいよー。大丈夫。食べ物とか飲み物はたくさんあるから”と、
少しそっけない返事を返してきたー
「ーーーー…」
龍平は、少し躊躇いながらも、亜香音に対して
今朝のことを口にするー。
「ーー今朝なんだけどさー」
龍平がやっとの思いで言葉を口にするー。
スマホを握りしめる手に、自然と力が入るー。
「今朝ー……警察の人が、
”昨日の夜、亜香音が何をしてたのか”俺に聞いてきたんだー」
龍平がそう言うと、亜香音の声のトーンが変わるー
”警察?”
一瞬、亜香音が舌打ちしたようにも聞こえてー
龍平は思わず「亜香音…?」と、不安そうに亜香音の名前を呼んでしまうー。
”ーーーそれで、何て言ってたの?”
亜香音の言葉に、龍平は
「いやー…何で亜香音のこと調べてるのかは
教えてくれなかったけどー」
と、答えると、亜香音は”そ、ならいいけどー”と、
またしてもそっけないー、そんな返事をしてきたー。
「ーーーー…なぁ……亜香音ー」
龍平はゴクリと唾を飲み込みながら、言葉を口にするー。
「ーーーーー……何か悪いこと、してたりしないよなー?」
不安だったー。
彼女の亜香音のことは信じているー。
だが、あの馬渕とかいう男が本当に警察官ならー、
”亜香音が何をしていたのか”聞くだけの理由があるということになるー。
それに、信じたわけではないが、太史の
”亜香音は体調不良のフリをしてナイトクラブに通っている”と、
いう話も気になるー。
そんなことないと思いたいー。
だがー…
”ーーふふふ、わたしを疑うの?”
亜香音が少し呆れたような笑いを浮かべながらそう呟いたー
「い、いや、そ、そうじゃないよー、でもさー
ほら、心配なんだよー」
龍平の言葉に、亜香音は”ありがと”と、だけ答えるとー
”ーー警察の人が、また何か聞いてきたら、教えてくれる?”と、
少し低い声で言葉を続けたー
「え…な、何でー?」
龍平の不安はさらに強まるー。
”別にー
わたしだって、”何もしてないのに”そんな風に警察の人が
わたしのこと調べてるって聞いたらー、不安だからー。
だから、また何かあったら教えて欲しいって言ってるだけ。
何か不満なの?”
何だか刺々しいー
そんな亜香音の物言いに、龍平は「ごめんー」と思わず謝ると、
「分かったー…何かあったら連絡するよー」と、言葉を口にするー。
亜香音はその言葉を聞くと、すぐに電話を切ってしまったー。
「ーーーーーふぅ」
ため息をつく龍平ー。
そこにー
亜香音に一方的な好意を抱く太史が声をかけてきたー
「へへへー亜香音ちゃんと喧嘩かー?」
相変わらず下品な笑みを浮かべている太史ー
龍平は「またお前か」と、ため息をつきながら
「悪いけど、お前に構ってる暇はないんだ」と、
面倒臭そうにその場から立ち去ろうとするー
「ーー亜香音ちゃんは僕の彼女になるんだー…!
へへへー言っただろ?
亜香音ちゃんはお前のことが嫌いになったんだよー!森本!」
太史が勝ち誇った表情で言い放つー
「ーーーそんなわけないだろ!
亜香音は体調を崩してるだけだ!」
龍平がそう言い放つと、
太史は煽るような口調で、
「ー現実逃避でちゅかぁ~?」と、龍平を挑発したー
龍平は、思わずカッとなりそうになったがー
”こんな奴にムキになるだけ無駄だ”と、思い留まり、
拳をぎゅっと握りしめると、そのまま太史に背を向けて
大学から立ち去ろうとするー
「ーー言っておくけどよー」
太史が元の口調に戻って、龍平に向かって叫ぶー
「ーー亜香音ちゃんがクラブに入って行ったのはマジだからな?」
太史のそんな言葉に、龍平は「そんなわけあるか」と、
冷静に言葉を吐きだすー。
「ーーーーー」
立ち去っていく龍平ー。
そんな龍平の背中を見つめながらー
「へへへー…そこまで言うならお前に決定的な証拠を見せ付けてやるぜ」と、
ニヤニヤと笑みを浮かべたー。
「ーーーーーー」
暗い表情で家路につく龍平ー。
”本当に、亜香音はただの体調不良なのだろうかー”
そんな不安を払拭することが出来ないー。
亜香音は、何かに巻き込まれているのではないかー?
何か、とてつもなく、恐ろしいことにー
「ーーーーー…!」
龍平がふと気配を感じて振り返るー。
だが、背後には特に怪しい人物は見当たらないー。
「ーーーーーーーー…気のせいかー」
龍平は深々とため息をつくと、再び前を向き、
そのまま歩き始めたー
「ーーーーっと、あぶねぇ…」
龍平を尾行していた刑事ー…馬渕は、
木の陰に身を隠しながらそう呟くー
「ーーー勘のいいガキだぜー」
木陰から姿を現すと、馬渕刑事はそう呟きながら
少し先を歩く龍平のことを見つめたー。
「ーーあのガキが、あの女と”共犯”って線もー
捨てきれねぇからなー」
そう呟くと、馬渕刑事は再び気配を消して、龍平の後を
静かに歩き始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーもうサツが俺のことを嗅ぎつけてるらしい」
”憑依”されている亜香音がニヤニヤしながら、
クラブの中で裏社会の情報屋・今泉と接触するー
スーツ姿の今泉は笑いながらー
「お前はいつも適当すぎるんだよー
もうちょっと、乗っ取ったその子のフリをするとかさー
そういうことすりゃ、もう少し長持ちするんじゃないか?」
と、目の前のグラスを口に運ぶー
「クククーどうせ俺の身体じゃねぇんだー」
亜香音はそう呟きながら自分の胸を乱暴に揉むと、
「ヤバくなったら、捨てりゃいいー
身体なんてそこら中に転がってるー」と、
ニヤニヤ笑みを浮かべるー
「ーははははー
女の子のセリフとは思えないなぁ」
今泉がそう呟くと、
亜香音は「ま、コイツから別の奴に乗り換えたらまた
”いつもの方法で”連絡するさ」と、笑みを浮かべたー
酒を口に運びー、亜香音は笑みを消すと、
「で、例の件はー?」と、今泉に確認するー
その目つきは、とても鋭く、恐ろしささえ感じさせるー
普段は優しく穏やかな亜香音の顔とは思えないぐらいの
”恐怖”がそこには宿っているー
「ーあぁ、その件ならー、
もう居場所は突き止めてるー」
今泉が、”何か”が記されたメモを亜香音に手渡すと、
「流石今泉ー仕事が早いな」と、笑みを浮かべるー
それを確認すると、満足そうに笑みを浮かべた亜香音はー
「ー礼にコイツとやらせてやろうか?」と、亜香音が
自分を指さしながら笑うー。
今泉は「そんな使われ方して、ホント、お前に憑依されるやつは災難だよ」と
やれやれ、という仕草を見せると、
「ー俺も色々忙しいのは知ってるだろ?」と笑うー。
「ーーへっー、何だよ、せっかくこの女の身体もヤル気になってたのにー」と、
ため息をつく亜香音ー。
「ーーははー、ま、またの機会になー」
今泉はそれだけ言うと「お先に」と、そのまま立ち去って行ったー。
亜香音は一人、残ったワインを飲み干すと、
そのまま立ち上がりー、
クラブの外に出たー。
だがーー
そんな亜香音の目の前にー
太史が姿を現したー
「へへへー
亜香音ちゃんー
やっぱ、ここにいたー」
ニヤニヤする太史ー
「ーーーあ?」
亜香音が面倒臭そうに返事をするー
太史は、亜香音の上から下までをじろじろ見まわすとー
「いやぁー…えへへ…大学にいる時とはまるで別人だなぁ」と、
派手なミニスカート姿の亜香音を見つめてー
下心丸出しの笑みを浮かべるー。
「ーーー森本のやつがさぁ、
亜香音ちゃんがクラブに行ってたって言っても信じないからさー
ぐへへー
証拠写真をー」
ニヤニヤしながら、スマホで亜香音の姿を撮影する太史ー
亜香音は少しだけ笑みを浮かべるとー
「ちょうどよかったー」と、太史に向かって微笑むー
「ん?なにが?」
太史が首を傾げると、
「ーちょうどムラムラしちゃってたからーちょっと遊ばない?」と、
亜香音が邪悪な笑みを浮かべたー
「マ…マジかよ…!」
太史は顔を真っ赤にしながらそう言うと、
「ラッキー!俺はついてるぜ!」と、満面の笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”わたしも、調子悪い時は、ちょっとイライラしちゃうときとかも
あるし、亜香音ちゃんだって、天使じゃないんだからさー
そういうこともあるんじゃないかな?”
幼馴染の瑠香が、大学で龍平が元気ないことに気付きー
心配して電話を掛けてきてくれたー。
龍平は、そんな瑠香の気遣いに感謝しつつ、
亜香音のことを相談していたー。
”ーー警察のことは、ちょっと分からないけどー…
たぶん、亜香音ちゃんが何かをしてるとか
そういうことじゃないと思うなぁ~
瑠香さんの勘だけど!”
「ーー自分で瑠香さんとか言うなよー」
苦笑いする龍平ー
”まぁほら!亜香音ちゃんが逮捕されたら
可愛い可愛い瑠香さんが代わりにデートしてあげるから、ね?”
瑠香のそんな言葉に
「だ~か~ら~!お前は根岸と付き合ってるだろ?」と、
ツッコミを入れる龍平ー
「俺は絶対に浮気はしないし、浮気相手になるつもりはありませ~ん!」
龍平はふざけた口調でそう叫ぶと、
瑠香は”え~!瑠香さんのこと好きなくせに~”と、
不貞腐れた声を出すー。
「好きは好きでもLOVEじゃないし!」
龍平が突っ込むとー、
笑いながら「ーーありがとな」と、言葉を口にするー
”ん?なにが?”
瑠香が少しとぼけたような口調で言うー。
龍平には分かっているー
瑠香が元気づけようとしてわざわざ電話をかけて来てくれたことぐらいー。
「ーーありがとうー。おかげで少し元気が出たよ」
龍平はそう言うと、
瑠香は”まー、亜香音ちゃんと龍平のこと、応援してるから、頑張りなさいよ?”と
急にお姉さん口調になって、言葉を口にしたー
「はいはいー、
お前も根岸と仲良くするんだぞ?」
龍平はそんなことを言いながら、瑠香との会話を終了したー
「ーーーーーーーー」
龍平の家から少し離れた場所では馬渕刑事が
龍平のことを見張っていたー
”デビル・トラッカー”
犯罪者たちからそう恐れられている馬渕警部は
”マークした獲物”を絶対に逃さないー。
恐るべき執念で捜査を続けて、確実に牢屋にぶち込むー。
「ーーーー……」
無言で龍平の家を見つめ続ける馬渕刑事の目はー
”犯罪者を逮捕してやる”という狂気にも似た執念の炎が
浮かび上がっていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーうへへへへ…うへへへへへへー」
亜香音と欲望の時間を過ごした太史は
ニヤニヤしながら
「マジで最高だぜ!」と、笑うー。
「ーーふふー”この女”ー
いい声で喘ぐよな?」
亜香音がそう言うと、太史は「へ?」と首を傾げるー。
亜香音に憑依している”城戸悠斗”が、隠れ家にしているバーで
お楽しみを終えた二人ー。
外を歩きながら、亜香音の放った言葉に、
太史は疑問を感じていたー。
亜香音とお楽しみをしている最中の写真も撮らせてもらったー
これを、龍平に見せつけたらさぞ、アイツは驚くだろうー
太史がそんなことを思いながら笑みを浮かべているとー、
亜香音が「ー死ぬ間際に童貞卒業できてよかっただろ?」と、
邪悪な笑みを浮かべたー
「え?」
太史がそう言うと同時にー
スカートの中に隠していたナイフで、亜香音は素早く太史の首を
斬りつけたー
「は、、、はぅっ!?!?」
太史が激痛と共に血が噴き出した首を抑えるー。
血のついたナイフをペロリと舐める亜香音ー
「ーーー俺はこれから”やること”があるんでなー
ゆっくりおやすみー
変態野郎ー」
亜香音はそれだけ言うと、必死に首を抑えている
太史を笑いながら蹴り飛ばして、そのまま立ち去っていくー
「ぁ……ぁ…… ぇ???」
太史は、何が起きているのか理解もできないまま、
翌朝ー、その場で変わり果てた姿となって発見されたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大学に到着するとー
大学がざわついていたー。
「なにかあったのか?」
龍平がそう尋ねると、
「ーーあ、森本くんー ねぇ…聞いた?」
亜香音の親友ー
大人しい性格の琴美が険しい表情で龍平のほうを見つめるー。
「ーーえ?」
龍平が首を傾げると、
琴美は気まずそうに言葉を口にしたー
「亜香音ちゃんに付きまとってた気持ち悪い人ー……」
その言葉に、龍平は
”大久保 太史”のことを思い出すー。
「ーー昨日、死んだんだってー…」
「ーーー!?」
琴美がそう言いながら、その件で、質問攻めになっている
大学の職員を見つめるー。
龍平は表情を歪めるー
”大久保が、殺されたー!?”
正直、大久保太史のことは好きではないー。
奇行も目立つし、迷惑行為も目立つしー、
最近は、亜香音の件で、元々抱いていた良くないイメージが
さらに悪くなっていたー。
だが、そうは言っても、こうして”同じ大学に通う人間”が
殺されたとなれば気味が悪いー
「ーは、犯人は?」
龍平が言うと、琴美はスマホを見ながら
「ま…まだ分かってないみたいー」と、呟くー。
「ーーーそ、そっかー」
龍平がそう返事をすると、
「でもよかったぁ…」と、琴美が横で安堵のため息をつくー
「ーーえ?」
龍平が少し困惑しながら琴美を見ると、
琴美はすぐに「わっ!ご、ごめんなさいー、そ、その!
亜香音ちゃんが何かされる心配はなくなるって思ってー」と、
申し訳なさそうに平謝りし始めたー
「あぁ、そういうことかー」
龍平は、苦笑いしながら琴美から目を逸らすー
大人しくてネガティブな琴美はー
時折天然なのか、実は腹黒なのか辛辣なことを口にしたり
爆弾発言をするー
「ーー(それは、ともかくー)」
龍平は、”嫌いなやつ”とは言え、同じ大学の人間が死んだことに
不安を強めるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方ー
大学から出ると、馬渕警部が待ち伏せていたかのように
姿を現したー
「ーまたですかー」
ため息をつく龍平ー。
先日、亜香音について聞かされた際に
龍平は、この刑事に対して”嫌な印象”を抱いているー。
馬渕警部はそんなことお構いなしに龍平に近付いてくるとー、
言葉を口にしたー
「ーー昨日は、狭霧 亜香音と連絡を取り合ったか?」
馬渕警部が挨拶もなしにそう聞いてくるー
龍平は不快そうに「彼女なんだから、連絡ぐらい取り合いますよ」と、
返事をすると、
馬渕警部は、龍平のほうをじっと見つめるとー
「大久保太史について、何か言ってなかったか?」と、龍平に確認の
言葉を口にするー
「ーーどういうことですか?」
龍平がさらに不快そうに聞き返すー。
「ーーー亜香音が、大久保のやつと、何か関係があるんですか?」
龍平が思わず、こみ上げてくる怒りを抑えながらそう言葉を口にすると、
馬渕警部は険しい表情で言葉を続けたー
「ーーーー大久保太史を殺したのが、狭霧 亜香音だと言ったら?」
その言葉にー、
龍平は、今までの人生で一番の衝撃ー…とも言えるぐらいの衝撃を受けて
そのまま言葉を失ったー
⑤へ続く
第5話「亜香音」
”ナイトメア”を名乗る犯罪者・城戸悠斗に憑依されてしまった
彼女の亜香音。
そのことに気付けないまま、大学に来なくなった亜香音に
不安を強めていく彼氏の龍平。
そんな中、亜香音に付きまとっていた同級生・大久保太史が
遺体となって発見された。
龍平の前に姿を現した警察官の馬渕は、
戸惑う龍平に対して
”大久保太史を殺したのが、狭霧亜香音だと言ったら?”と、
言葉を投げかけたー。
Nightmare desire episode.5-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
森本 龍平(もりもと りゅうへい)
大学生。彼女の亜香音と楽しい学生生活を送っていた。
狭霧 亜香音(さぎり あかね)
大学生。龍平の彼女。ある日を境に不穏な行動が目立つように。
小野寺 瑠香(おのでら るか)
大学生。龍平の幼馴染。小悪魔的な性格の持ち主。
根岸 和夫(ねぎし かずお)
大学生。瑠香の彼氏。ひたすら瑠香に振り回されている。
馬渕(まぶち)
”デビルトラッカー”の異名を持つ刑事。高圧的な態度が目立つ。
”ナイトメア”(城戸 悠斗)
裏社会で暗躍する謎の人物。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー大久保太史を殺したのが、狭霧 亜香音だと言ったら?」
馬渕警部のそんな言葉に、龍平は表情を歪めるー
「それは、どういう意味ですかー?」
夕日に照らされながら、龍平が再度聞き返すと、
「日本語が分からねぇのか?そのままの意味だ」
と、馬渕警部は言葉を返してきたー。
いかにも屈強そうな身体つきに、鋭い目つきー
おまけに不愛想で高圧的と来たー。
犯罪者と対峙する、という点に関してはこの刑事の
こういう感じは有効的なのかもしれないー。
だが、龍平からしてみれば”やっぱ、この人、イヤな感じだな”と、
しか思えなかったー
「ー大久保を、亜香音が殺したと言いたいんですか?」
「ー言いたいんじゃない。そう言ってるだろうが」
馬渕警部はそこまで言うと、
「なにか知らねぇか?何か聞いていたら全部吐け」と、
龍平に詰め寄るー。
「ーし、知りません!
それにー、亜香音がそんなことするはずがありません!」
龍平がムッとしてそう言い返すと、
馬渕警部は「どうかな」と、少しうすら笑みを浮かべたー
「人間ってのはー”分からねぇ”もんだー」
夕日を見つめながらそう呟く馬渕警部ー。
「ーーーー」
龍平は、そんな馬渕警部の目に、少しだけ”寂しげな”色を
感じ取ったー。
「ーーー亜香音は、刑事さんに絡まれるようなことは
何もしてませんし、そんなことをする子じゃない!
絶対にー!」
龍平が、馬渕警部を睨みつけながら言うー。
「ーーークク」
馬渕警部は少しだけ笑うと、
「なら泳げ」と、煙草を口に咥えながら呟くー。
「ーどういう意味ですか?」
龍平がムッとして、さらに聞き返すと、
「俺たちはなー、必要な時には
ーー決定的な証拠をつかむため、あえて犯人やー
その関係者を”泳がせる”んだよー」
と、馬渕警部が言葉を口にするー
そんな馬渕警部の態度に、龍平は悔しそうな表情を
浮かべながら見つめるー
「ーーーー亜香音の何を知ってるって言うんですかー…!?
亜香音は、そんなことする子じゃないー!」
龍平が今一度、そう断言するー。
だが、馬渕警部はバカにするように煙を横に吐き出すと、
笑みを浮かべながら言い放ったー。
「ーほら、狭霧 亜香音が犯人じゃないってんならー
それを証明してみせろー
俺はお前を泳がせて、狭霧亜香音がクロだってことを
証明してやるー」
そんな言葉に身体を震わせる龍平ー。
「ーーーーー…分かりましたー
あなたの目が節穴だってこと、証明してやりますよー」
そう言い放つと、龍平はそのまま、馬渕警部を無視して
歩き出すー
「ふんー」
馬渕警部は煙草を携帯用の灰皿にしまうと、笑みを浮かべながらー
「ー人を信じてやまないー。まだまだガキだな」と、
言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
大学を出た龍平は、
そのまま亜香音の家に向かっていたー
確かに、最近の亜香音の様子は”変”ではあるー。
今まで、こんなに長く休んだことはなかったし、
本当に体調不良なのか不安になるー。
連絡を取ろうとしても、最低限しか反応がなく、
それも龍平の不安を増長させていたー
”ーーー…”
けれどー、龍平は信じていたー。
亜香音が休んでいるのには、何か”理由”があるのかもしれないー
それでも、人を殺すような子ではないー、と。
最悪の中の最悪ー
そんなことがあったとしても、
”大久保太史に襲われて、正当防衛のような状態で命を奪ってしまった”
と、いうことぐらいしか浮かばないー。
それならそうで、亜香音に早めに話をして、
あの馬渕とかいう警部にも本当のことを話した方がいいしー
濡れ衣なのであれば、亜香音と一緒にその濡れ衣を晴らしたいー。
そう思いながらー
龍平は亜香音の家の方に向かうー。
♪~~
途中ー
スマホにメッセージが届き、龍平はそれを確認するー。
「ーーお~!楽しそうじゃんー」
龍平の4歳年上の姉・梨絵(りえ)からの連絡ー。
梨絵は大学の在学中に彼氏・正樹(まさき)と結婚ー、
去年、子供も生まれてー、
幸せな家庭を築いているー。
そんな姉・梨絵から”子供が1歳になった”という
メッセージと写真が送られてきたのだー。
よくお互いに近況報告をしているためー
別に幸せ自慢などではなく、
”いつもの”やり取りだー
”こっちは相変わらず、元気にやってるよー”
そんなメッセージと、1歳おめでとうのメッセージを
添えて、返信を終えると、龍平はそのまま亜香音の家の方に向かいながらー
亜香音に電話を掛けたー。
”繋がるかどうか”
怪しいところだったが、亜香音は電話に出てくれたー
”もしもし”
亜香音が少し面倒臭そうに言葉を口にするー
「ーー…あ、亜香音ー
俺だけどー…
あ、あのさー」
龍平が気まずそうに言うと、
亜香音は”まだ体調が悪くてー、ごめんね”と、
早々に会話を打ち切ろうとしてきたー
「ーあ、ちょ!ちょっと!待って!」
龍平が慌てて叫ぶと、亜香音に対して
「今日、また警察の人が来てー」と言葉を口にしたー。
先日ー
亜香音と電話で話した際に
”警察の人が来た”と言うと、亜香音の食いつきが
妙に良かったー。
”別にー
わたしだって、”何もしてないのに”そんな風に警察の人が
わたしのこと調べてるって聞いたらー、不安だからー。
だから、また何かあったら教えて欲しいって言ってるだけ。
何か不満なの?”
確か、そんな風に言っていたー。
妙に棘のある言い方だったのは少し引っかかるがー、
いずれにせよ、”警察”の話題を口にすればまた話に乗ってくると
思ったのだー。
”警察?あぁー…”
亜香音はそう呟くと、
”なんて言ってたの?”と言葉を続けるー。
「ーーーー」
龍平は、不機嫌そうな亜香音に対して
少し躊躇しながらー
「ーー俺は信じてるーって先に行っておくけどー」と、
前置きをした上で
「ー昨日、大久保のやつが殺されたんだー」と、
言葉を口にするー
”大久保?ーーーーあぁ…”
亜香音はそんな返事をすると、
龍平は言葉をさらに続けたー。
「ーーー…大久保を殺したのが、亜香音だって
決めつけてる感じだったー」
龍平がそう言うと、
亜香音は”ははっ…あはははははっ!”と、突然笑い出したー
いつもの亜香音とは、”違う”ー
そんな強い違和感を感じてしまうー
”あはははー…
わたしは~そんなことしないよ~!
龍平だって、わかってるでしょぉ~?”
亜香音の言葉に、
龍平は「ははー…そ、そうだよなーだから、最初に
信じてるって言っただろ?」と、手を震わせながら答えるー。
「ーーーー」
龍平は歯ぎしりをしながら、言葉を続けるー。
”聞く”のが怖かったー。
今、話をしている亜香音の雰囲気が明らかに”いつもと違う”からだー
「ーーーー…大久保から、何かされてーーー
それで……そうなっちゃった、とか、ないよな?」
龍平は”信じてる”って言ったのにーと、自分でも
自虐的に心の中で呟きながらそう言い放つー
”ないないー大丈夫。わたしも”じきに”回復するからー
心配しないでー”
亜香音の言葉に、龍平は「そっかー…よかった」と、
安堵の声を出すー。
そしてー
「ー俺は今日はもう眠いし、帰るけどー
もし急に調子が悪くなったりしたら、いつでも電話
かけて来ていいからなー?
すぐ、すっ飛んでいくからー」
と、龍平は”あえて”そう伝えたー
”うん、ありがとうー おやすみ”
そう言葉を口にする亜香音は
なんだかー”笑いをこらえているような”
そんな気がしてしまったー。
「あぁ、おやすみー」
龍平は穏やかな口調でそう答えると、
スマホを切りー
そのまま家に帰らず、亜香音の家の方に向かったー
”寝る”と言ったのはわざとだー
”亜香音はそんなことしない”
そうは思いつつもー
亜香音を守るためにも”本当のこと”を知りたかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「く…くくくく…」
電話を終えた亜香音は、邪悪な表情を浮かべながら笑っていたー
「あはははははっ!あはっ!あはははははははァ♡」
悪女のような笑い声ー。
亜香音はしばらく笑うと、
「ーいやぁ、面白い野郎だー」と、笑みを浮かべながら、
時計を確認するー
「まァ、”今日”で最後だー
この女ももう警察にマークされてるし、
俺は”次の器”に乗り換えるだけだー」
亜香音はそう言うと、服を脱いで、下着姿になると、
ラバースーツに着替えて、サングラスを掛けるー。
「ーーー”奴”をぶっ殺したらなー」
亜香音はナイフを手に、それを隠すように身に着けるとー
情報屋の今泉から昨日、受け取った情報を頼りに
”ある場所”へと向かうため、家の外へと出たー。
”人生は一度きりー”
「やりてぇことは、全てやるのがー、俺の人生だー」
亜香音はそう呟くと、完全に支配されたまま
ペロリと唇を舐めて、そのまま歩き出したー
”亜香音ー…”
物陰から亜香音の家を見張っていた龍平は、
夜間にラバースーツ姿で外出を始めた亜香音に強い不安を抱きながら
そのあとを追跡し始めるー。
「ーーもしもしー あぁ… あぁ…わかったー」
亜香音が乱暴な口調で誰かと電話をしているー
”ーーー…亜香音…”
龍平はさらに不安を強めるー
”裏の顔”があるようなー
そんな子だとは思えないー
でもーー
だったら、”今の亜香音”は何なんだー?
亜香音は、あんな格好をしてどこに向かっているー?
亜香音は、こんな夜に何をしようとしているー?
「ーーーーー」
亜香音が振り返るー。
サングラスを掛けている亜香音の表情は計り知れないー。
咄嗟に身を隠した龍平は、安堵のため息をつきながらー
再び歩き出した亜香音の後をつけて、歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月が夜の闇を照らす中ー
近くの工場のような場所にやってきた亜香音は立ち止まるー
「ーあらー…どちら様ー?」
そう呟くと、笑みを浮かべながら奥から女が出て来たー
黒いマスクで鼻まで覆っている彼女は
目元しか見えないがー、まだ20代だろうかー。
若そうな雰囲気に見えるー。
「ーーー……ククーようやく見つめたぞ、染谷(そめや)ー」
亜香音がそう言うと、染谷と呼ばれた女は表情を歪めるー。
「ーーお前みたいな計算高い女は初めてだー。
”あの時”は俺も油断してたー
だがなー
俺は”受けた屈辱”は地獄の果てまででも追いかけて
晴らす主義でねー」
亜香音がそう言うと、隠し持っていたナイフを取り出してペロリと
それを舐めるー
反対側に立つ女ー、染谷 真凛(そめや まりん)は、
そんな亜香音を前に、少し表情を歪めながら
「あなた、誰ー?」と、言葉を口にするー。
「ーーー”ナイトメア”ー」
亜香音に憑依している”城戸 悠斗”が自分の異名を名乗ると、
真凛は思わず笑いだしたー
「ーーあはっ!!!あははははははっ!!!」
真凛はしばらく笑い続けるとー
「冗談はおよしなさいーー」と、諭すような口調で言い放つー
「ーナイトメアは、”男”よー
あなたは、女の子でしょう?
何が目的か知らないけど、あんまり物騒なことはしようとしない方が
いいわーーーー」
そこまで真凛が言うと同時に、
亜香音がナイフを真凛の顔面目掛けて投げつけて、
真凛に向かって襲い掛かったー
”染谷 真凛”ー
”裏社会の仲介人”を名乗る女ー。
裏社会では”薔薇の女”と恐れられていてー
全身のあらゆる場所に武器を仕込んでいる危険な女ー。
以前ー
真凛は、亜香音に憑依している城戸悠斗と組み、
”ある仕事”をしたことがあるー。
しかし、その最中に真凛は、城戸悠斗を裏切りー、
危うく彼は死にかけたー。
その報復のために、城戸悠斗は何年もかけてー
真凛の行方を追っていたのだー
「ーーーあらあら、可愛い顔して、怖い子ねー」
真凛はそう言うと、自分の爪に仕込んでいた鋭い刃で、
亜香音の頬に傷をつけるー
ピッ、と音を立ててー
亜香音の頬から血が吹き飛ぶー
「ーわたしの爪はー10本全てが殺人刃ー」
真凛が笑みを浮かべながら、両手を見せ付けるー
亜香音は血を手に付けると、それをペロリと舐めながらー
「あぁーゾクゾクするー♡」と、笑いながら
真凛に襲い掛かるー
憑依された亜香音と、女犯罪者・真凛の戦いは続くー
そんな現場にー
龍平が到着すると「あ…亜香音…」と、呆然と言葉を口にしたー
少し先でー
”亜香音”が”知らない女”と殺し合っているー
そんなー
どうしてーーーー
真凛が、スカートの中から、小型の撒菱をバラまくと、
そのまま背後に2回転して、服の袖の中に隠していた
ワイヤーのようなものを発射するー
「ーケッ…!武器女が!」
亜香音がそう叫びー、真凛が天井にフックを引っかける直前ー
そこに飛び掛かりー
真凛を押し倒すー。
「ーーくっ…!」
真凛が、表情を歪めるー
亜香音が狂気の笑みを浮かべながら、ナイフを手に、
真凛の首をかき切ろうとするー
だがーー
その時だったーーーー
「やめろーーーーーーーー!!!!!」
”彼女が人殺しをしてしまうー”
何も知らない龍平はそう思って、亜香音に突進したー
「ーぐぁっ!?」
亜香音が、龍平に突進されて、龍平と共に地面に倒れるー
「チィッ!」
それを見た亜香音と対決していた女犯罪者・真凛は
天井にフックを飛ばすと、そのまま上に上昇しー
工場の窓を突き破って、笑みを浮かべたー
「ふふふー
あなたのおかげで命拾いしたわー
ありがとね」
真凛が、龍平に向かってそう言うと、
龍平は「あー、あんたは誰だ!?」と、叫ぶー
だが、真凛は「わたし?わたしは闇に生きる女ー」と
クスクス笑いながら、そのまま姿を消したー
「ーーーく…よくもジャマしやがったな!テメェ!」
亜香音が急に怒鳴り声を出しながら、
龍平を蹴り飛ばすー
突き飛ばされた龍平は、
「あ…あ…亜香音!?」と、困惑しながら亜香音のほうを見つめるー
そんな龍平の反応を見て、亜香音はニヤニヤしながら
言葉を口にしたーーー
「ーーーククー 今のこの女はー
狭霧 亜香音であって、狭霧亜香音じゃねぇ」
とー。
「ーーな、なに…?」
戸惑う龍平ー
「ー身体はお前の彼女のものだー
だが、中身はーーー」
亜香音はそこまで言うと、ナイフを舐めながら龍平のほうを
恐ろしいほどに冷たい目で見つめたー
「ー”ナイトメア”ー」
そう、呟きながらー。
⑥へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
FANBOXの方で長編第7弾が始まったので、
今回も試し読みコーナーに追加しておきました~!★
試し読みの部分だけ楽しんでも全然大丈夫なので、
皆様のお好きなように楽しんでくださいネ~☆!
冒頭の説明にもある通り、このコーナー以外では
絶対に「憑依空間の外で完結」はやらないので
心配しないでくださいネ~!
絶対に、憑依空間内の作品は憑依空間で完結させるのデス!
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