<憑依>危険すぎるファン②~苛立ち~(完)

イベント中の”事故”により、
最前列にいた女性ファンに憑依してしまった男性アイドル。

しかし、その女性ファンは想像以上に”危険”なファンだったー

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憑依してしまった美奈の身体で、
全身に鳥肌が立つようなー、
そんな感覚を味わう竜司ー。

”おれ みなのこと しか かんがえ られない”

テレビやイベントの竜司の声を組み合わせたと思われる
不気味な発音の音声が再生されるー

美奈のパソコンにはそんな
”竜司のセリフを合成した声”が多数保存されていたー

”みな あい してる”

”みな だい すき”

「ーーくそっ…やめろー」
美奈は頭を抱えながら呟くー

「やめろ!うるさい!」
自分で再生したのだが、もう耐えられなかったー。

”ファンの好意”は当然嬉しいー
自分のことを好きだと言ってくれるファンには感謝しているー

だが、ファンはあくまでも”ファン”だー。

アイドル側がファンに対して一線を超えることは許されないと思っているし、
その逆もそうだー。
ファン側がアイドルに対して一線を超えることも許されないー。

実際に、ファンが一線を越えて事件沙汰になった例を竜司も知っているー

「ーファンと俺たちアイドルの関係を、勘違いしちゃだめだろうがー」
鏡に映る美奈に対してそう言い放つー。

だが、美奈の意識は今、どうなっているのか分からないー。
少なくとも、”竜司の身体”は抜け殻の状態である以上ー
美奈の意識は、この美奈の身体の中で眠った状態にあるのか、
あるいは、竜司が憑依した時点で、美奈の意識は既に”消滅”したのかー
そのどちらかである可能性が高いー。

美奈に今、この声が聞こえるのだとすればー

「ーこんなことされても、俺は嬉しくないよー」と
言いたかったー。

竜司だけではない。
美奈に友達がいるのなら、こんな美奈の姿を見たら
やっぱり引くだろうし、
美奈に家族がいるのならば、まだご両親が健在なのであれば
娘がこんな”狂ってる”状態は、喜ばないだろうー。

「ーーーーー」
引き出しを確認すると、
そこには大人のおもちゃが出て来たー。

”竜司くんの”と書かれたそれは、何に使っているか
安易に想像できてしまったー

「ーーーはぁ」
ため息をついて、部屋の端っこに座り込むと、
”もう何も見たくない”と思いながら、
静かにそのままため息をついたー。

美奈の髪が、美奈の綺麗な手に触れるー。
だが、全くドキドキも何もしないー。

美奈に…
女性に憑依してしまった竜司は、
昨日から今日にいたるまで、
それは多少は、ドキドキするようなこともあった。

けれど、そんな想いは、あまりにも大きな、強大な狂気を
見せ付けられたことで、全て吹っ飛んでしまったー。

男女のー
そう、性的な欲望みたいなものは
あまりにも衝撃を受けると一気に吹き飛んでしまうのだと、
美奈に憑依している竜司は、実感したー。

「ーーどうすりゃいいんだー」
美奈の身体のまま、困惑するー

現在の状況はー
自分の身体は”抜け殻”の状態ー

世間的には、アイドルグループの竜司が、
イベント中に転落して、
そのまま”意識不明の状態”と、いうことになっているー。

しかも、転落の原因は
同じグループの英吾。

英吾は逮捕され、残りのメンバーは活動自粛の状態。

正直、もう滅茶苦茶だー。
仮に、美奈の身体から抜け出して、自分の身体に戻ることが
できたとしても、
”グループメンバーの一人が逮捕された”という状態は
今後に大きな悔恨を残しそうなことは間違いなかったし、
美奈のような”危険なファン”の存在も恐ろしいー

「もう、今まで通りにはできないなー」
そう思った美奈に憑依している竜司は、
「あぁぁ…もうダメだー」と、美奈の髪をぐしゃぐしゃになるまで
掻きむしったー。

ふと、部屋中に貼られた自分の写真を見つめるー
やはり、吐き気がするー

「あぁ!くそっ!」
美奈は立ち上がると、怒りの形相で
部屋中の”竜司の写真”をはがし、ぐしゃぐしゃにしたり
破ったりし始めたー。

「くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!
 こんなことされて、俺が喜ぶと思ったのか!

 くそっ!!くそっ!くそっ!」

美奈は”自分にとっては宝物”であったはずの
竜司の写真を怒りの形相で破り捨てていくー。

びくっ、と美奈の身体が一瞬反応するー。

”宝物”を破り捨てられていることに
身体が強い拒否反応を示しているかのようにー。

”みな かわいい みな あいしてる”

パソコンが、何らかの拍子に、
竜司の合成された音声を放ち始めるー

「う、うるせーー!!!」
美奈は思わず怒り狂ってパソコンを殴りつけてしまったー

パソコンの画面が破壊されー
美奈の手が激しく痛むー

「いってええええええ…」
その場で蹲った美奈はー
その後もしばらく苛立ちと不安から
散々暴れ続けてー
部屋の中を滅茶苦茶にしたー。

プリントアウトされた竜司が貼り付けられている
マネキンも、もう滅茶苦茶だー。

「ーーはぁ…はぁ…はぁ…はぁ」
美奈の口から出る荒い息は何だか妙に色っぽくて、
それがまた、妙に腹立たしかったー

暴れ終わって、落ち着いてくると
”取り返しのつかないことをした”と、改めて思うー。

だが、それでもこの”竜司にとって地獄のような愛”にまみれた
この空間は我慢ならなかったー

あまりにも、異常すぎるー

「ーーーーー」
しばらくそのまま座り込んでいたものの、
美奈は、ため息をついてから、自分の両胸を揉み始めたー。

”仲間に裏切られて突き落とされたこと”
”入れ替わって元に戻れるかも分からないこの状況”
”ファンの異様な愛”

色々なことで、頭がおかしくなりそうだったー

そんな不安の塊から逃げるように、
美奈の手で、美奈の両胸を揉み、笑みを浮かべるー

「きもちいい…♡」
うっとりとした表情で、しばらく無心になって
両胸を揉み続ける美奈ー

やがて、疲れ果てていたのか
そのままだらしない格好で寝落ちしてしまうとー
翌日ー…
何も変わらない状況で、竜司は目を覚ましたー

「はぁ…やっぱり、寝て起きても何も変わってないか」

もう、これで3日目だから、
期待は薄かったものの、
”もしかしたら”という思いはあったー。

けれど、やっぱり元に戻ることは出来ておらずー
美奈の身体で3日目の朝を迎えることになってしまったー。

「ーーーまさか俺、ずっとこの人の身体で生きなくちゃいけないのかー?」
美奈の声でそう呟く竜司ー。

まぁ、別に”今の時点では”このファンは、犯罪は犯していないし
このまま生活することもできはするー。

だが、竜司は別に女になりたいという願望はなかったし、
何より、”自分の人生”の続きに興味があったー。

ナルシストではないー…とは思うが
自分が好きかどうか、と言われれば好きだ。

そうでなければアイドルなんて仕事、
自信満々にやっていることは出来ないー。

自分を愛することができなければ
ファンから愛されるアイドルになることは出来ない。
それが、竜司のアイドルとしての持論だ。

だからこそ、このままでいるわけにはいかないー。
何としても、元の身体に戻りたい。

そう思いながら、美奈の身体で竜司は
”外出する準備”を始めたー。

出かける準備をしてー、
外出する美奈ー

美奈が出かける前に、いつもどんな準備をしているのかは
知らなかったが、出かけるのに適した服装を適当に選び、
髪やメイクを、自分のわかる範囲で整え、
外出したー。

別に、美奈の身体で遊ぶことが目的ではないー。
今日も病院を訪れて
”自分の身体”に何か変化があったかどうかを確認したかったー。

一般人に対して”竜司のお見舞い”は当然許可されていなかったがー
美奈は”転落した竜司に巻き込まれた当事者”として
必死にお願いし、なんとか少しの間、竜司の様子を見ることを許可されたー。

”よく許可が出たな”
自分でもそう思いながら、美奈に憑依した竜司が、
”竜司の身体”がある病室へと向かうー

「ーーーーーー…」
呼吸もしているー。
だが、それだけだー。
何も反応はなく、”抜け殻”という言葉がふさわしいー。

そんな状態だったー

「ーーーー…はぁ…」
ため息をつく美奈ー。

とりあえず”俺の身体”は生きているー
それを改めて確認することができただけで、
少し安堵するー。

だが、どうやって自分の身体に戻れば良いのかは
分からないし、
そもそも元に戻ることができるのかも分からないー。

この、美奈というファンの女性の意識がどうなっているのかも、分からないー
分かっているのは、少なくとも竜司の身体の中にはいないであろう、と
いうことだけだー。

「ーーーーー」
心配そうに自分の身体を見つめる美奈ー。

呼吸を続けているのは、自分の意志とは関係のない
本能的なものだろうー。
例えば睡眠中も、失神していても、呼吸は無意識のうちに
しているのと同じようなことだと思うー。

「ーーー…」
自分の所属するアイドルグループも、英吾の件で、
相当混乱が生じている状態だー。
本来であれば、早く自分の身体に戻って、
自分たちの問題に向き合いたいー。

だが、ファンの身体ー…
美奈の身体ではどうすることもできない、という現実が
竜司をさらに苦しめたー。

「ー早く…早く、戻らせてくれよー」
美奈がそう呟きながら、”抜け殻”になっている竜司の手を握るー。

けれどー
当然、反応はないー。

「ーーーーーーー」
”人の身体”でそんなことしてはいけないー。

そう、思いつつもー
”こうすれば元に戻るのではないか”
そんな考えが、自分の中に溢れるように膨らんで来てー
美奈は、咄嗟にーー

抜け殻になっている自分ー
竜司にキスをしたーー

”戻れるわけ、ないかー”

そう思った
その直後のことだったー

突然、全身から力が抜けていくー

「えっ…!?」
そう思うと同時に、美奈の身体から、
自分自身が抜けていくような、今まで感じたことのない感覚を覚えてー

竜司の意識は途切れたー

「ーーーーー」

「ーーーーーーー」

「ーーーー!!!!」

竜司が意識を取り戻すー

そこはー
病院の天井だったー

「ーーー…!」

”自分の身体”で意識を取り戻した竜司は
何よりも先に、”自分の身体に戻れた”ということを
実感したー

”キス”で元に戻れたのかー!?

そう、思いながら喜びの声をあげようとしたその時だったー。

”寝起き”のような状態で、
寝ぼけているから気付かなかったが、
なんだか声が出ないー
妙に苦しいー

いやー、何か”重い”ー

違和感を感じる竜司ー。
そして、その”原因”にすぐに気づいたー。

美奈に憑依してしまっていた竜司は
確かに自分の身体に戻ることが出来たー。

だがー、
”タイミング”が最悪だったー

「ーーーひっ…!?」
竜司が今、自分が置かれている状況を理解したー。

病室でー
”美奈”に上に乗られた状態でー
首を絞められているー。

「竜司くんと一緒に死ねば
 わたしは天国で竜司くんと二人きりーーー
 うふふふふふ…
 ”きみといっしょにてんごくにいこう”って
 言ってくれたもんねー?」

”ヤバいファン”美奈が、竜司の首を絞めているー。

美奈の身体から抜けて、自分の身体に戻ることができた竜司ー。

しかし、最悪なことに”憑依されていた美奈”が、
先に意識を取り戻してしまったー

”わたし、何をしてたのー?”
そう思いながらも、竜司の病室で竜司と二人っきりであったことに気付いた美奈は、
咄嗟に竜司の首を絞めたー

”竜司と一緒に天国に行く”ためにー

元々握手会の際に竜司と一緒に死ぬつもりだった美奈は
迷わず、竜司の首を絞めたのだー

「うっ… ぁ…… ぁ」
竜司が必死にもがくー。

だが、意識を取り戻した直後だったからだろうかー
美奈の力が想像以上に強くー
竜司はそのままーーー

「ーーーうふふふふふ」
動かなくなった竜司の横で、美奈は微笑むー。

そしてー
美奈は動かなくなった竜司に何度も何度もキスをすると、
「わたしも今から、死ぬから、一緒に天国で暮らそうね♡」と
狂った笑みを浮かべたー

おわり

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コメント

最悪の場所で元に戻ってしまう結末でした~!

”本当は(意識不明の身体の中に美奈がいて)入れ替わっていたんじゃ?”と思う人もいるかもしれませんが
今回は正真正銘の憑依デス~笑

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    元に戻れないまま、そのまま生きていく結末も見てみたかったかも?

    というか、あんなヤバい女に無理心中みたいに殺されるくらいならその方がずっとマシだったのではという気がしますね。

    あるいは身体に精神を汚染されて身も心もヤバいファンに染まっちゃのも面白そうですね。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!★

      色々なルートがありますネ~!
      確かに汚染されたりするのも面白そうデス~!