男性アイドルグループの一員として
活動する男。
しかし、彼はイベント中の事故で
最前列にいた女性ファンに憑依してしまうー…
がー、そのファンは”危険すぎる”ファンだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
派手なライトに照らされー
会場に集まったファンたちが歓声を上げているー
今日は、4人組の男性アイドルグループによる
イベントが、この会場で行われていたー。
会場には多くのファンが詰めかけているー。
全体的に見渡すと、
女性ファンの数が多いものの、
男性からの人気もそれなりにあり、
会場内にも男性ファンの姿もところどころに点在しているのが分かる。
その最前列で熱烈な歓声を送っていたのはー、
このグループの熱狂的な女性ファンー、
相馬 美奈(そうま みな)ー。
美奈は、一人暮らしのOLで、数年前にこの男性グループの存在を知ってから
熱狂的なファンになったー
いいやー、”熱狂的”という言葉は
ふさわしくないかもしれないー。
なぜならー…
「ーーー♪~~~」
イベントは順調に進み、現在は
そのグループのヒット曲が会場内に
流れているー。
が、その時だったー
4人組のアイドルグループの一人、
竜司(りゅうじ)が、ステージの手前の方で
ファンたちに向かって歌を披露している最中にー
突然、背後から衝撃を感じー
竜司がステージから転落ーー
「えっ!?」
「あっ!?!?!?」
最前列にいた熱狂的な女性ファンー
美奈の席に向かって転落してしまったのだったー
流れていた曲は止まりー、
どよめく会場ー
悲鳴のような声や
慌てる声ー、
色々な声が会場の中に響き渡るー
ステージから転落した竜司と、
最前列で見ていてそれに巻き込まれる形になってしまった
女性ファンの美奈ー。
二人は意識を失っておりー
そのまま救急車で病院に運び込まれたー
・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー…!!!」
病院で美奈が目を覚ますー
「ーーーー………」
美奈は、朦朧とした意識で周囲を見渡すー。
どうやら、ここは病室のようだと理解し、
身体を起こすー
だが、その瞬間、美奈はその見た目とは別人のような
「うぉっ!?」という声を出したー
「えっ…な、何ー!?」
美奈は困惑しながら、自分の頬を触りー、
髪を触りー、
そして、身体を見下ろしたー
「えっ…?え?何…?」
美奈が激しく戸惑った様子を見せているー。
そうこうしているうちに、病院の看護師が、
美奈が目を覚ましたことに気付き、
病室に入って来るー。
「相馬さんー良かったー
意識が戻られたんですね」
女性看護師の言葉に、美奈は「え…あ、は、はいー」と、
困惑した様子のまま、とりあえず返事をしてしまうー。
看護師から状況の説明が行われるー
参加していたイベントの最中にアイドルの一人が転落、
それに巻き込まれた美奈は頭を打ち、意識を失った状態で
病院に搬送されたのだとー。
「ーーそ…そうでしたかー」
美奈はそれだけ言うと、すぐに
”自分のことなどどうでもいい”とでも言わんばかりに話題を変えたー。
「あ、あの…それよりも、お、俺はどうなっているんですか!?」
とー。
美奈が突然”俺”と言い出したことで、看護師が困惑の表情を浮かべるー
すぐに、美奈は”あ…”という表情を浮かべて、
「え、え、え~っと、ご、ごめんなさいー
意識が戻ったばかりで混乱しててー」と、それらしい理由を
付け加えると
「あ、あのーわ、わたし…わたしのところに落ちて来た
アイドルの方はー…?」と、転落したアイドル、竜司のことを
心配そうに聞き始めたー
「ーーーー…それがー」
女性看護師が言いにくそうに口を閉ざす
一瞬、”竜司”は死んでしまったのではないかと思い、
表情を歪めたものの、すぐに女性看護師は言葉を続けたー
「ー身体的には問題はないはずなのですがー
意識が戻らない状況が続いています」
と、女性看護師は言葉を口にしたー。
「ーーそ、そんなー」
自分のことのように落ち込んだ表情を浮かべる美奈ー。
女性看護師が事務的な話をしばらく続けー、
それが終わると病室から立ち去っていくー。
一人になった美奈は、静かにため息をつくとー
「どういうことだー…?」と、首を傾げた
ベッドの上で男のような座り方をして
腕組みをする美奈ー
「ーー……俺は……竜司、だよなー?」
美奈はそう呟くー。
そう、目を覚ました美奈は、美奈ではなかったー。
美奈の中には、竜司がいるー。
「ーー………ーーーー」
美奈が考え込むー。
”もしかして、俺、このファンの女性になっちゃったのかー?”
そう頭の中で考えると、
美奈の中にいる竜司は困惑するー
”実は俺はもう死んでいて、この女性に取り憑いてしまったとかー?”
”いや、それとも身体が入れ替わってるとかー?”
そんなことを考える美奈ー。
だが、答えは出ないままー
竜司は美奈として翌日ー”退院”の瞬間を迎えてしまったー。
最初は竜司の身体の方に美奈の意識がいるのではないかー、と
そう思ったものの、
後に、意識が戻らないことを疑問に思った病院側が検査をしたところー
”まるで抜け殻のように、脳に動きがみられない”ということだったー。
脳死ではないが、”何の意識もそこには入っていないような”
そんな感じなのだと言うー。
つまりは、竜司の身体の中に美奈がいる、ということではなくー
”誰もいない”ため、竜司の身体は腕や足の打撲程度で健康なのに
目を覚まさないー、
そんな状況に陥っているようだったー
「いったい…どういうことなんだー」
竜司の身体の中に美奈の意識がいないー、ということは
美奈の意識は美奈の身体の中にいるが、竜司の意識が美奈に憑依していて
それが表に出て来れない状況ー、
あるいは、既に美奈の意識が消滅してしまっている状況だと考えられるー。
「ーーーファンの方の身体で、変なことするわけにはいかないからなー」
美奈は、自分の胸のほうを見下ろしながらそう呟くー。
スタイルが良く、美人な美奈の身体にドキドキしてしまう気持ちが
全くないー…と、言えばウソになる。
だが、ファンを大切にする竜司は、美奈の身体で変なことをしたり、
そういう気持ちは全くなかったー。
もちろん、ベッドの上でお漏らしをするわけにはいかないから、
”ごめんなさい”と謝りながらトイレには何度か行ったし、
退院前には着替えもしたが、
それは下心からではなく”必要なことをやむを得ずしただけ”に過ぎないー。
だがー
美奈になった竜司を大きな衝撃が襲ったー
同じアイドルグループに所属していた英吾(えいご)が逮捕されたのだー。
昨日ー、イベントの最中に竜司がステージから転落することに
なってしまったのは、英吾の仕業だったのだー。
ニュースを見て、初めてそれを理解した美奈ー。
英吾は”竜司の方が人気があることに嫉妬していた”と供述しているらしいー
昨日、確かに転落する直前、背中から衝撃を感じたー。
恐らく、後ろにいた英吾が竜司を押したのだろうー。
英吾本人としてもさりげなく押したつもりだったようだが
大勢が集まっていたイベントー
どんなにさりげなくやったとしても、周囲には必ず目撃者がいるー。
それ故に、英吾はあっけなく逮捕されたのだったー
がーーー
そんなことはどうでもよかったー
何故ならー
”もっと恐ろしいもの”を見てしまったからだー。
「ーーーーう……」
美奈として、ひとまず美奈の家に帰宅した竜司は、
恐ろしい物を見たー
彼女の部屋の中には
部屋中に竜司の写真が貼られていたー
あまりにも異様な量の竜司の写真ー
トイレの便器にまで貼り付けられてありー、
部屋中が全部竜司に染まっているー
しかも、その写真はー
”公式に”グッズとして発売されたものなどではなく、
”明らかに隠し撮り”されたものだったー
「こ…この人が撮ったのかー?」
美奈の身体で呆然とするー。
部屋中にー
天井にも床にも”異なる写真”が貼られていてー、
トイレの便座にも、浴室の壁にも、あらゆるところに
竜司の写真が貼られているー
「ーーー!」
ふと、部屋の奥の方に人影が見えて美奈はドキッとするー。
病院で”美奈”は一人暮らしであることが確認できているー
同居人はいないはずだー。
そう思いながら、改めてよくその人影を確認すると、
どうやら”人影”は、全く動いておらず、人間では
無さそうなことが分かったー
少しホッとする美奈ー。
ファンの女性・美奈に憑依したとは言え、
竜司は、美奈のことを全く知らないし、
美奈になったからと言って”美奈の記憶”が読み取れているわけでもないー。
美奈の知り合いと遭遇しても、
”美奈として振る舞う”のは困難だろうー。
だが、幸い、部屋の中の人影は、人間ではなくー
”人型の何か”だったー
美奈に憑依した状態の竜司が、それを確認しようと
”人型の何か”に近付いたその時だったー
「ーーーひっ!?!?」
美奈は思わず変な声を出してしまうー
そこにはーー
竜司の等身大の写真を張り付けた”マネキン”が置かれていたのだー
しかも、竜司の写真は”何度も何度も触れたかのように”
傷んでいるー
「ーー…こ…これで…この子は何をー…?」
”熱狂的なファン”は、何人もいるー。
だがー、ここまで熱狂的なファンは、なかなかー
「ーー!!!」
さらに、隣の部屋を見て、美奈は呆然としたー。
もはや”狂気”というほかないー
壁中に”竜司”と、文字がびっしりと書かれていてー
”竜司の顔が印刷された紙を貼りつけた謎の藁人形”が
何体も設置されていたー
その藁人形にはー釘のようなものではなく
先端に♡のついた針のようなものが何個も何個も刺さっていたー
「ーうっ…オェッ…」
美奈の身体で気分が悪くなり、その場で嘔吐しそうになってしまう竜司ー
鏡で美奈の姿を見るー
さっきまで”美人”だと思っていたが、
途端にその容姿に狂気を認め、恐怖を感じたー。
「ーーはぁ…はぁ…はぁ…なんなんだ…いったい…」
美奈は、ようやく気持ちを落ち着かせると、
机の上に日記のようなものを見つけたー。
そこにはー
”細かく”何か計画らしきものが書かれていたー。
ファンの女性の日記を覗くことはためらわれたが、
このような部屋の状況を見せ付けられて
何となく”見なければいけないような”そんな感覚に襲われたー。
そしてーーー
それを読み進めるうちに、美奈は唖然とした表情を浮かべるー。
”竜司くんを殺したいほど愛してる”
”竜司くんといっしょに、死んじゃおっかな”
”他のやつら、ホント邪魔!竜司くんと一緒に死ねば
わたしは天国で竜司くんと二人きり”
”竜司くんも、きっと喜んでくれる”
”今日、竜司くんも”君と一緒に天国に行こう”って言ってくれたー”
”来週の握手会のときに竜司くんといっしょに死のうー。そうしようー”
そんな風に書かれていたー
「ーー…」
恐怖を感じてカレンダーのほうを見るー
”来週の握手会ー”
そう、本来、事故で美奈に憑依してしまうようなことがなければ、
あと3日後に、握手会が控えていたー。
もし、今回の事故で美奈に憑依してしまうようなことがなければー
竜司はそこで死んでいたのかもしれないー。
そう思うと、途端に背筋が凍るような思いになるー。
「っていうか…俺”君と一緒に天国に行こう”なんて言ってないぞ?」
そんな疑問を抱き、美奈の部屋を調べるとー
その理由は、さほど苦労せずに分かったー
”きみと いっしょに てん ごく に いこう”
「ーーー…」
呆然としたー
テレビやイベントの最中の竜司の言葉を一つ一つ録音して
それを合成しー、
美奈は”竜司の声”で色々なことを言わせていたー
”みな おまえ の こと だいすき だ”
竜司のテレビでの”関係のない発言”を合成して
そんなセリフまで生み出してパソコンに保存していたー
「ーーオェッ…」
今度はついに吐いてしまったー
このファンは危険すぎるー
そう、思いながらー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
狂気のファンに事故で憑依してしまったアイドル…!
この先どうするのでしょうか~?
続きはまた次回デス~!
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