彼氏の雅之を事故で失い、
失意のどん底にいた史奈。
それを見かねた”史奈の中に宿る雅之の霊”は、
史奈に声をかけ、元気づけようとしたー。
しかし、それは逆効果となり、雅之は”ある行動”を実行に移したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
”ーーーーて”
”ーーーーを、覚ましてー”
「ーーー…?」
史奈は、誰かが叫ぶような声を聞いて、
うっすらと目を覚ますー。
”ーーーーーー負けちゃダメ!”
そんな声が聞こえるー
この声には聞き覚えがあるー
誰だったっけー?
そんな風に思う史奈ー
ふと、周囲が暗闇であることに気付くー
あれ?今、何をしてるんだっけー?
そんな風にも思うー。
あぁ、わたし、寝ぼけてるのかなー
史奈は、自分でそんな風に納得してー
今日が休日なのか、平日なのか、
今が朝なのか、夜なのかも思い出せないまま
また、ウトウトしそうになるー
だがー
”お願い!目を覚まして!”
今度はハッキリとそんな声が聞こえたー
「ーーえ…」
意識が再び遠のきそうになっていた史奈が
そんな声に反応して、
今度はさっきよりも明確に、自分の意識が
ハッキリとしてきたことを感じるー。
そうだー
この声は、雅之の幼馴染の、萌美のー…
「ーーー…!」
そこで、史奈はついに”自分の状況”がおかしな状況であることに気付くー
意識はあるのに、何も見えないー?
身体を動かすこともできないー
これは、いったいー…
「ーあはははは!この身体はもう俺のものだ!」
”え?”
史奈は驚くー
そう叫ぶ”女”の声はー
自分の声だったからだー
”わ、わたし…何を言ってるのー?”
そう疑問を感じているうちに、
再び萌美の声が聞こえるー
”史奈ちゃんから出ていきなさいよ!
あんたがそんなことする人間だとは思わなかった!”
そんな言葉ー
やがて、さらに意識がハッキリしてきてーー
”史奈”は、何が起きているのかを理解したー。
場所はー大学近くの、あまり人が来ない
空き地のような場所ー
そこでー
史奈が、萌美と対峙していたー
「ーだってそうだろ?いつまでも落ち込んだり、
おかしなことを言ってる史奈より、
俺がこの身体を使った方が有意義にこの身体を使えるー」
”史奈”を支配した雅之が、史奈の身体で叫ぶー
「ーーまさか本当に、本当にあんたが史奈ちゃんの中にいたなんてー!
早く、その身体から出ていきなさいよ!」
萌美が叫ぶー
そんな会話が聞こえて来てー
光景が”自分の目”を通して見えるぐらいに意識がハッキリしてきた
史奈は”え…ま、雅之ー?”と、言葉を口にするー
「ーーーあぁ、目が覚めちゃったかー
でも、もうこの身体は俺のものだぜ、史奈ー」
史奈の身体で雅之が”中”の史奈に対して声をかけるー
”ーーーーーー…!!!!!”
史奈は、そんな言葉に驚きの表情を浮かべー
しばらく口を閉ざすー
「ーーー…なんだよ?何とか言えよー」
史奈の身体で雅之が言い放つと、
史奈はこうなるまでの状況をハッキリと思い出しー、
そして、全てを理解したー
”ーーーーーーー”
史奈はさらに沈黙するー
「史奈ちゃんから、出て行って!」
萌美が叫ぶー。
史奈の意識は、雅之に完全に身体を支配され、
しばらく眠っていたのだろうー。
どれだけの時間が経過したのかまでは分からないものの、
雅之が、史奈の身体を支配したことに、
雅之の幼馴染・萌美が気付き、今に至るー…
と、いうことなのだろうー。
「史奈ちゃん…!負けちゃだめ!」
萌美がそう叫ぶとー、
心の奥底に追いやられた史奈の意識が
戸惑いの感情を覚えながらも、
必死に、色々なことを考えるー。
やがてー、萌美と史奈を支配した雅之のやり取りは続きー
萌美が、史奈を支配した雅之を取り押さえたー。
「ー史奈ちゃん!聞こえてる!?
諦めちゃダメ!
史奈ちゃんの中にいる雅之は、もう雅之なんかじゃない!
悪霊よ!
負けちゃだめ!
身体を取り戻そうって、ちゃんと強く思って!!
死んだ雅之のためにも、史奈ちゃんは生きなくちゃだめ!」
萌美のそんな必死の叫びを聞くー
「この身体は…俺のものだぁぁああああ…!」
史奈の身体で叫ぶ雅之ー
しばらく何かを思い悩んだあとに、
史奈は心の中で何かを決心して、強く頷くとー
”雅之ー”と、生前の雅之のことを思い出しながらー
”わたしの身体を、返して!!!!!”と、強い意思で叫ぶーーー
「な…何だ…くそっ…!?こ、この…この力はー!」
史奈の身体を支配していたはずの雅之が苦しみだすー。
「ーー史奈ちゃんからーーー出ていきなさい…!!!!!」
萌美がそう叫ぶとー
雅之が悲鳴に似た叫び声をあげてー
そしてーーー
史奈は自分の身体の主導権を取り戻したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
雅之は、消えたー。
史奈が落ち着いたのを見計らって、
萌美は事情を説明するー。
「ー史奈ちゃんー3日間ぐらい、雅之の悪霊に支配されてたのー」
とー。
前に、史奈から”雅之がわたしの中にいる”と言われた時は
信じなかったけれど、その言葉を気にしていた萌美は、
”史奈ちゃんの様子がおかしい”ということに気付き、
問いただしたー
その結果、”雅之”がボロを出したことで、
憑依が発覚ー、先ほどのように、萌美が憑依された史奈と対決しー、
今に至るのだと言うー。
「ーー…」
史奈は悲しそうな表情を浮かべるー
「ーー史奈ちゃんの中にいたのは、雅之じゃなくて
雅之の悪霊ー。
だからー、本当の雅之はもういないのー
これで、良かったの」
萌美がそう言うと、
雅之はきっと、これで完全に成仏できたー、と呟くー。
「ーーー」
史奈は目から涙をこぼしながら頷くとー
もう、声の聞こえない雅之に向かって”ありがとう”と、
静かにそう呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
史奈と別れた萌美は
”3日前”のことを思い出すー
「ーーーま、またその話ー?」
史奈から呼び出された萌美は、今度は史奈が
”俺、雅之なんだ”と言いだしたことで呆れ顔で応じるー。
雅之が、史奈の身体を完全に支配した直後ー
史奈の身体で、萌美を呼び出し、萌美と会ったー
そしてー
「ーーお前と俺しか知らないことー
いくらでも言えるからー、質問してくれ」
と、史奈の姿で言うー。
萌美は困惑しながらも、色々質問すると、
目の前の史奈は全て答えて見せたー
「ま、まさか本当にー」
萌美がそう言うと、
「ーそういえば、まだ小学校に入学する前ー
自動販売機の前で萌美がお漏らししちゃったことーあったよな?」と、
史奈の姿のまま言い放つ雅之ー
「ーーーっっ!」
顔を真っ赤にした萌美は「ーーほ、ホントに雅之なの?」と、
ようやく”今の史奈”が雅之だと信じてくれたのだったー
そしてー
史奈の身体で雅之は”あるお願い”をしたー
「ーー”俺が史奈の身体を乗っ取る悪霊”の役ー
萌美が、そんな史奈を助けようとする役ー…
…数日ー…3日ぐらいでいいかな、
そしたら、俺が支配をわざと弱めるから、
萌美は”悪い俺をやっつけようとする”演技をしてほしいー
そして最後には俺は”消えたフリ”をするー」
史奈の姿でそう呟く雅之ー
そうー
雅之は史奈のために”消える”決意をしたのだー
なるべく史奈に傷を残さないように、”また”落ち込みモードに
戻らないようにするためには、どうすれば良いのかー
それを、考え抜いた末の決断ー
”史奈を乗っ取ったフリ”をして、
萌美に協力してもらい”萌美が史奈を助けた”設定にしー、
最後には”雅之が消えた”フリをするー
史奈の身体から出ていく方法は分からないー。
だが、このままじゃダメだー。
史奈を立ち直らせるためには”俺が消えなくちゃダメだ”と、考えた雅之は、
”史奈を乗っ取ろうとして失敗、萌美によって史奈は救出されて雅之は消える”という
ストーリーを演じようとしていたー
もちろん、本当に消えることはできない。
だが、”消えたフリ”をして、以降は二度と史奈に話しかけないー
そういう、決心だったー。
「ーーー雅之ー…あんたは、やっぱり優しいねー…不器用だけど」
萌美はそう呟くと、
”あとは、史奈ちゃんが立ち直るかどうか…だね”と、
心の中で静かに呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから数日後ー
雅之が”消えた”史奈は、
雅之が死んだときのように、落ち込むことはなく、
多少、落ち込みつつも、元の史奈と同じような
”元気”を取り戻していたー。
「ーー大分落ち着いたみたいでよかったー」
雅之の幼馴染・萌美が、そんな史奈の元にやってきて、
安心した様子で微笑むー。
「ーーうんー……辛くても、ちゃんとわたしも、
前に進まないといけないと思って」
史奈が穏やかな表情で言うと、
萌美は安心した様子で
「それがいいと思うよー
雅之も、きっと今の史奈ちゃんのことは、
安心してみてくれてると思うー」と、
穏やかな口調で言い放つー
「ーーうん。」
史奈はそう言いながら、萌美のほうを見て、
口を開こうとしたものの
「ーなんでもない」と言って、静かに笑みを浮かべたー
二人で何気ない日常的な会話を続ける史奈と萌美
「ー雅之ーよかったねー
これで、安心できるでしょ?」
ふと、背後の窓のほうを見て、空に向かって呟く萌美ー。
その様子を、史奈は微笑みながら見つめているー
”ーーーーーーーーーーーー”
史奈のために、萌美と結託して
”史奈の中から消えた”フリをしている雅之は、
そんな萌美の言葉を聞きながら
”あぁ”と、心の中で呟くー
萌美は、史奈にバレないように
”天国にいるであろう雅之”に向かって呟いている風を
装っているものの、
きっと、史奈の中にまだいる雅之に対して
そう言葉をかけてくれているのだろうー
雅之はそう思いながら
”ーーありがとな”と、もう届かない言葉を、
史奈の心の中で思い描くー。
「ーーあ、そろそろ時間ー」
萌美が次の講義の時間が近づいていることに気付き、
そんな言葉を口にすると、
「頑張って」と、史奈が応援の言葉を口にするー。
「ーうん。ありがとうーまたね!」
萌美はそれだけ言うと、そのまま立ち去っていくー
一人になった史奈は、
萌美とは反対側に向かって歩き出すー
”ーーーーーー雅之ー”
言葉にはせず、心の中で思うー
心の中で思っていることまでは
”憑依している雅之”には伝わらないからだー
”嘘…下手だなぁ…”
史奈が心の中でそう呟くー。
”ーー…でもーーー……
あそこまでされちゃったらー…”
史奈はー”気づいて”いたー。
雅之と萌美が結託して、
雅之が”自分が消える演技”をし、
史奈の中から”消えたフリ”をしていることをー
完全に乗っ取られてー
そのあと意識を取り戻して、すぐに気づいたー。
なぜならー
”身体の本来の持ち主である史奈”にはー
意識を乗っ取られている間の記憶もー
脳に”保存”されていてー、
意識を取り戻したあと、すぐにそれが流れ込んできたからだー。
雅之が史奈を乗っ取って、萌美と相談していたこともー
すぐに、分かったー。
そのため、”雅之の消えたフリ作戦”は、すぐにバレバレだったのだー
けれど、史奈は気付かないフリをし続けることを
決意していたー
”本当は消えることすらできないのにー
ずっと、無言でいるー”
それは、きっととてもつらいことだと思うし
本当に大きな大きな決心だと思うー
でも、そこまでされてしまったらー
”もう、心配かけることはできないよねー
せめてーー
せめて、雅之が安心してわたしのことを見てられるようにー
わたしも、頑張らなくちゃー”
史奈は、雅之に憑依された状態になってからの自分の行動を反省しー
心を入れ替え、前に進む決意をしたー
また、話をしたい気持ちはあるけれどー
雅之が、あんな演技をしてくれたのにも関わらず
ここで史奈が話しかけてしまったら全部台無しになるー
だからー、史奈は、もう雅之には話しかけないことにしたー
”ーーーわたし、雅之が安心できるように、頑張るからねー”
聞こえないように心の中で呟くと、
史奈は少しだけ一人、微笑んで
そのまま廊下を歩きだしたー
”ーーー?”
史奈の中にいる雅之は、そんな史奈の笑みの意味が分からずに
史奈の中で少しだけ首を傾げると
史奈に届かないよう、心の中で”がんばれよー、史奈”と、
静かに呟いたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
前向きに生きていくことを決意できるエンドでした~!★
何かの拍子にまた、どちらかが話しかけてしまうことも
あるような気もしますけどネ~…笑
お読み下さりありがとうございました~!
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