<憑依>どんなにおかしいと言われても②~困惑~

彼氏が事故で命を落としたー

しかし、そんな彼氏の霊が自分の中に存在していることに気付いた
史奈は、そのことを周囲に伝えようとするー。

が、誰も信じてくれるはずはなくー、
史奈はおかしくなった”と周囲に思われてしまうー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーごめんねー」

「ーー……そ、そっかー」

「ー史奈…ゆっくり休んだ方がいいかもよ?」

大学の仲間たちの困惑した表情ー。

史奈は、死んだ彼氏・雅之が、自分の中に憑依していることを知りー、
それを周囲に伝えようとして、空回りー…
すっかり、おかしな目で見られるようになってしまったー

”おいおいおいー…史奈ー…”
史奈の脳に、彼氏の雅之の声が響き渡るー

死んだ直後ー
気付いたら雅之は”史奈の中”にいたー。

最初は、その状況に混乱しながらも、
”黙って”史奈を見守ることにしたー。

どうやったら消えることが出来るのかも分からないしー、
どうすることも出来ない以上、そうするしかなかったー

本当はすぐにでも”史奈!”と、声をかけたかったがー、
いくら彼氏とは言え
”自分の中に他の人間がいる”と言う状況は
気味が悪いだろうしー、
正直、”全部”見えてしまうー。

史奈がいつ、どんなことをしているか
24時間ずっと史奈の中で見続けることになりー、
プライバシーも何もあったものではないー

いきなり”俺は史奈の中にいるよ”なんて言われたら
史奈も困ってしまうー。

そう思って雅之は”ずっと”黙っていたー

黙って覗きをしているような罪悪感に襲われつつもー、
それでも”俺は中にいる”なんて伝えて
怖がらせてしまうよりはマシだと、史奈のことを考え、そう思っていたー

自分が逆の立場だったらー
喜ぶ部分はあっても、やっぱり”気になる”部分もあるのは事実ー。

急に身体を奪われたりしてしまわないかどうか気になったりー
こういうことも史奈に見られているのか、と気になったりー

”気になること”が全くないのか?と言われれば
”ある”ー。

それは史奈も同じはずだー。
そう思って、雅之は黙り続けていたー。

けれどー
それが出来なくなったー

”史奈の落ち込みぶり”は、
雅之の予想をはるかに上回っていてー
家庭でも、大学でも”日常生活に支障をきたす”状態になってしまっていたー。

しかもー、時間と共に解決…していくどころか、
史奈はみるみる元気を失っていき、
夜中もずっと泣いていて、ほとんど寝ていない状態ー

このままでは”史奈が壊れてしまう”
そう思って、雅之はついに史奈に声をかけたのだったー。

史奈は、雅之がこうして”史奈の中に存在していること”を
想像以上に喜んでくれたー。

けれどー…
今度はーーー

「ーーあ、雅之と話もできるよ!うん!ホントホント!」
史奈が、雅之と親しかった男子生徒に声をかけて
”雅之が生きている”と、伝えてしまうー。

「ーーー…いやいやいや、アイツは死んだだろー?
 俺だって悲しいけどー…
 でも、北里さんも…それを受け入れないと、
 アイツだって困ると思うぞー」

雅之の友達が
”雅之がわたしの中にいるの!”と史奈から言われて、
そんな返事をしているー

「ーーえ~…でも、ホントにいるんだってば~」
史奈が困惑した様子で言うー。
雅之の友達も、困惑した様子で「ご、ごめんー俺、用事あるからー」と
そのまま立ち去ってしまうー

”ふ、史奈ー…あのさ”
たまらず雅之が史奈の中から声をかけるー

「ーなぁに?」
史奈がそんな返事をすると、雅之は
”俺のこと、色々気遣ってくれるのは嬉しいけどー
 他の人には言わない方がいいー”と、史奈に忠告をするー

”昨日、史奈のお母さんもそうだっただろ?
 俺の姿は誰にも見えないし、俺の声も誰にも聞こえないー
 だからー…俺がここにいるなんて言っても
 誰も信じてくれないし、みんなが史奈のことを変な目で
 見るようになっちまうー…

 だからー…いいんだー、俺のことは”

雅之がそう言うと、史奈は
「分かってるよー…そんなこと」と、悲しそうに呟くー

「ー雅之がわたしの中にいる!なんてわたしが言っても
 みんなそう簡単に信じてくれないことは分かってるし、
 わたしがおかしくなったと思われるのも分かってるー

 だってー…わたしだって、
 たとえばー…萌美とわたしの立場が逆で、
 萌美が急に”雅之はわたしの中で生きてるの!”って言いだしたら
 ”萌美、だいじょうぶ?”って思うと思うしー”」

史奈がそれだけ言うと、
雅之は”じゃあ、なんでー”と、言葉を口にするー。

”そこまで分かってるならーやめた方がいいー
 みんなにもっと心配をかけるだけだー”

雅之がそう言い放つと、史奈は首を横に振ったー

”な、なんで!?なんで横に振るんだよ!?”
雅之がツッコミを入れるような口調でそう叫ぶと、
史奈は「ダメだよそれじゃ…」と、唇をぎゅっと噛みながら呟いたー

「ーーわたしだけ、普通にこんな風に生きてー
 雅之はわたしの中で何もできずにずっとこのままなんてー…
 不公平だよー」

史奈はそれだけ言うと、
「雅之は、わたしのせいでこんなことになっちゃったんだしー
 残った身体がわたしの身体だけなら、半分ずつにしなくちゃー」
と、さらに言葉を続けたー

”ふ、史奈ー…”
雅之は戸惑うー。

「わたしが雅之の目に、身体に、口になるからー
 
 だから、わたしはどんなにおかしいと言われても
 みんなに雅之がここにいるって、理解してもらうの」

史奈のそんな言葉にー
雅之は表情を歪めるー

史奈は、死んだ雅之のことを考えてー
”雅之も人生を楽しめるように”と、配慮してくれてるのかもしれないー

”半分ずつ生きる”そんなような状態にー
満足する人間もいるかもしれないし、
お互いが納得してるなら、それも一つの選択肢だとは思うー

けれどー

”ーーー…史奈ー…俺は…俺は、そんなこと望んでないよー”
雅之はそう言い放つー

少なくとも雅之はそんなこと、望んじゃいないー。
そんな生活を続ければ、少なからず史奈は
”頭のおかしな子”だと周囲に思われて生きることに
なってしまうだろうし、
史奈の人生が大きく変わってしまうー。

「ーー今度は…今度はわたしが雅之を助ける番なの!」
史奈は、そう叫ぶと、立ち上がるー

”お、おい、史奈ー!
 やめろってー…!”

雅之は史奈を止めようとしたー

しかしー、
史奈は大学の友人、知り合いからー
よく話す教授にまでー、雅之のことを伝えようと躍起になってしまうー

当然、誰にも信じてもらえるはずもなくー
大学の仲間たちは史奈のことを強く、心配するようになったー

”ーー史奈ー”

雅之は”後悔”したー。
酷く落ち込んでいる様子だった史奈を立ち直らせようと、
史奈に声をかけた雅之ー

だが今度はそれが逆効果になり、
史奈がおかしな方向に進んでいるー。

史奈本人に何を言っても、
史奈は聞く耳を持たず、
止まる様子はないー

ついに、雅之の幼馴染・萌美からも
”ねぇ!いつまでもそんなじゃ、ダメだってば!”と、
きつい口調で言われてしまったー

このままじゃ、史奈が孤立してしまうー

史奈が”完全に頭のおかしなやつ”だと思われてしまうー
どうにか、どうにかしなくてはならないー

「ーーーーーまさゆき……」

夜ー
寝静まった史奈は、そう呟きながら涙を流すー

「ーーーーーー」
史奈に憑依した状態の雅之はもはや”寝る”という概念もなくー、
そのまま史奈の寝ている姿を、不思議な感覚で史奈の中から見つめるー

「ーーーーー」
雅之は”あること”を試そうとするー。

それはー
”史奈”の身体のコントロールを奪うことー
つまり、史奈を乗っ取ることー

”こんな史奈、見たくないー”
日に日に、その想いが強くなっていくー。

そしてー

「ーーあ…」

強く念じたところー
史奈の手をピクッと動かすことができたー

”今…手をー…”

そう思った雅之は、
”このまま続ければ史奈の身体を乗っ取ることができるのではないか”という
結論にたどり着くー

その日からー
雅之は、夜、史奈が寝静まると同時に、
史奈の身体を支配しようと、少しずつ、けれども着実にー
色々な方法を試したー

そしてー
ついにー

「ーーすげぇ…」

夜ー
部屋で一人、鏡の前に立ちながら笑みを浮かべる史奈ー

ついに、”身体の全ての主導権”を握りー
史奈を完全に支配したー

鏡を見つめながらゴクリと唾を飲み込む史奈ー

「ーーー……あ… あ… あ~~~」
本当に、自由に声を出せるしー
身体も、自由に動かせるー

ぶんぶんと腕を踏みながら笑みを浮かべると、
史奈を支配した雅之は、少しだけ笑みを浮かべながら
”あること”をさらに現実的に考え始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

史奈は、自分の身体が思ったよりも疲れていることに気付くー

「あれ…昨日はいつもより少し早めに寝たはずなのに…」
そう思いながら、眠そうにあくびをすると、
雅之が”おはよう”といつものように言葉を口にしたー

「あ、雅之おはよう~!」
すごくうれしそうに笑う史奈ー

雅之は改めて思うー

”これじゃ、ダメだー”

とー。

”このままじゃ、史奈がダメになってしまうー”

とー。

確かに、史奈は雅之がこうして史奈に憑依した状態で
声をかけた時から、”元気”にはなったー。

だが、それはー
”どこか不自然な元気さ”だー。
自然と元気になったわけではないー。

その証拠に、史奈は大学で友達にー、自宅で家族に
”雅之はわたしの中にいるんだよ!”と、言って回りー、
信じてもらえずに”周囲からおかしいと思われてしまう”
そんな行動を繰り返しているー。

このままじゃいけない。
雅之は強くそう思うー。

けれどー…
雅之自身も、正直、今の状況には困惑しているー。

自分が死んだのは事実だが、
”俺は死んだ”と思った直後ー、
気付いた時には史奈の中にいて、
自分がどうしてこのような状態になったのかも
分からないのだー。

自分が死んだと思っていたら急に史奈の泣く声が
響いてきて、意識が戻ってきたら
史奈の中にいたー。

最初はすぐに史奈から出て行くか、
あるいは消えようと思った。

けれど、何をしてもそれは出来ず、
こうして史奈の中に留まり続けているー。

そして、史奈に一度声をかけてしまった以上、
このままでは史奈がダメになってしまうー。

「ーーねぇ、雅之?」

考え事に没頭している雅之を現実に引き戻したのは
史奈の心配そうな声だった。

”あ、いやー…大丈夫ー。ちょっと考え事を”

そんな言葉を口にすると、
史奈は、嬉しそうに雑談を始めるー

”雅之が見たい映画とかテレビとか本とかあったら
 わたしの目を通じて見れるようにするから、
 何でも言ってね”

だとか、

”雅之って、わたしが食べたものの味とかも分かったりするの?”

だとか、

「これから先もずっと一緒でいる前提」の話を繰り返すー。

日に日に、そういう傾向がエスカレートしている。

まるで”ダメな方法”で無理やり史奈を元気にしてー、
その結果、史奈がどんどん蝕まれているような、
そんな感覚を覚える雅之ー。

”やっぱ、このままじゃダメだー”

雅之はそう思うと、
ついに、最初から朧気に思い浮かべていた、
”あること”を実行することにしたー

”史奈”
雅之が、史奈を呼ぶー

「なぁに?」
嬉しそうに返事をする史奈ー

”ー俺さー…
 やっぱーーー…”

雅之は少しだけ躊躇うー。
これを”実行”に移したらもう後戻りすることは出来ないー。

けれどー
それでも、
史奈にこれ以上、おかしくなってほしくはなかったー。

”これ”を実行した結果ー
史奈がどんな方向に進むのかは、正直、雅之にも想像はできない。
けれども、なんとか良い方向に進んでくれることを願ってー
雅之はついにそれを実行に移したー

”ーー俺、史奈の身体が欲しいー
 だからー、その身体、貰うよ”

雅之がそう言うと、史奈は「えっ!?」と驚いた様子で声をあげるー

その直後、史奈がビクッと震えてー
雅之は、史奈の身体を強引に支配したのだったー

③へ続く

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次回が最終回デス~!
どんな結末を迎えるのか、楽しみにしていて下さいネ~!

今日もありがとうございました~!

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