工事現場での落下事故から
彼女の身を庇い、命を落とした彼氏。
彼女が失意のどん底で悲しみに暮れる中、
突然、彼氏の声が聞こえて来たー。
命を落とした彼氏が、彼女の中で生き永らえていたのだ。
しかし…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同じ大学に通う
北里 史奈(きたざと ふみな)と、
内山 雅之(うちやま まさゆき)の二人は
大学でも評判の仲良しカップルだったー。
”あの二人は絶対に別れたりしそうにないよね”とか、
”二人を見ていると安心する”とか、言われることもあるし、
史奈の友達は”史奈を見習わなくちゃ”などと、
彼氏と喧嘩したりするたびに、そんなことを口にするほどだー。
そんな二人は、今日も幸せなひと時を楽しんでいたー
「ーさっきのお店の新メニュー美味しかったな~」
休日のひと時を過ごす二人ー。
昼食を食べ終わって雅之がそんな言葉を口にしていると
史奈が「うんうん!前より味が濃くなって美味しくなったよね」などと、
先程食べたお昼の話題を口にするー。
「そういえば、萌美(もえみ)がさ~」
色々なことを話す二人ー。
”萌美”とは、雅之の幼馴染の女子の
相沢 萌美(あいざわ もえみ)のことでー、
現在は史奈・雅之と同じ大学に通っているー。
史奈も、雅之を介して萌美と知り合い、
今では友達として仲良くしているー。
ただー”浮気”の心配は全くなくー
雅之と萌美は”幼馴染すぎて”兄と妹、
あるいは姉と弟のような間柄となっていて、
”付き合うとか絶対に考えられない”と、
二人揃って言葉を口にしていたー。
史奈から見ても、雅之と萌美ー、どちらと会話をしていても、
その言葉は嘘ではない、ということが良く伝わってくるー
そんな関係に見えたー。
昔から距離が近すぎる故に、
そういう相手として見ることはできない、という関係なのだろうー。
「へ~…じゃあ今度わたしも見せてもらおうかな~」
そんな、雅之の幼馴染・萌美の話題で盛り上がる二人ー
話はさらに別の話題に進みー
”話すことが尽きない”という様子で
次の目的地を目指すー
昼食を済ませたらこの先にある映画館で、
史奈が見たがっていた新作の映画を一緒に見ることになっているー。
史奈が見たがっている映画は”ホラー”系で、
正直、雅之は苦手なジャンルだったが
”史奈と一緒に見れるなら”と、嫌な顔一つせずに、
こうして今、その映画館に向かっていたー。
「ーー映画観終わったらどうする?」
雅之がそんな言葉を口にするー
「う~ん…あ、映画館の反対側に新しくー」
史奈がそう言いかけたその時ー
強い風邪が吹き荒れるー。
今日は強い北風が吹く予報でー
予報通り、風が強くなってきたのだー
だがー
その時だったー
雅之が”先”にそれに気づくー
気付いた時には、
雅之はもう、身体を動かしていたー
咄嗟のーー
ほんの数秒しか猶予のないその中でー
じっくり考えることもできないその出来事を前に、
雅之が咄嗟に起こした行動はーー
「危ない!!!」
「え!?」
大切な彼女を”守る”ことだったー
普段、怒ったり声を荒げたりすることのない雅之の突然の怒声に
驚く史奈ー
史奈は何が起きたのか理解する前に、
雅之に思いっきり突き飛ばされてー
その直後、聞いたことのないような大きな音が聞こえたー。
突き飛ばされて、近くの地面に手をつく形になってしまった
史奈はー
「え…なに…!?」と、痛みをこらえながら
雅之のほうを見つめるー。
だがー
既にそこに雅之の姿はなくー
ちょうど真横にある工事現場から落ちて来たと思われる
鉄骨のようなものが、”雅之がいたであろう場所”に
大量に落下してきていたー
「ーー!!!
え…うそ…?」
呆然とする史奈ー
すぐに鉄骨の方に駆け寄り、「雅之!」と声をあげるも、
雅之からの返事はなくー、
慌てて救急車を呼ぶ史奈ー。
けれどー、
雅之は”即死”の状態で、
もはや助かることはなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーーーーー…」
雅之は、死んだー。
歩いていた場所から考えるとー
本来、”死ぬのは”史奈の方だったー。
建設中の工事現場から、強風により落下してきた鉄骨が
落ちた場所はー
元々史奈が歩いていた場所ー
それを、雅之が突き飛ばしたことで、
史奈は難を逃れて、代わりに雅之が命を落としたー
「雅之ー……」
失意のどん底の中、史奈は
抜け殻のような生活を毎日送っていたー
”もう”二度と雅之から連絡は来ないのに
スマホを何度も確認したりー、
大学でいない雅之の姿をうっかり探してしまったりー、
急に涙を流したりー…
目の前で大好きな彼氏が、しかも自分を庇って死ぬー、などという
出来事は、史奈には耐えられなかったー。
”ありがとう”という感謝の気持ちはもちろんあるけれどー
雅之が死んでしまったら、それも伝えられないし、
そもそもありがとうと、言うような気分にもなれなかったー
「ーー史奈ちゃんー」
雅之の幼馴染だった萌美が、ずっと落ち込んでいる史奈を
心配して声をかけるー。
雅之の葬儀関連が終わっても、
史奈はずっと落ち込んだままー
「ーーー史奈ちゃんが、ずっとその状態だとー
史奈ちゃんを守った雅之もきっと、心配で心配で安心できないと思うよー」
萌美が心配そうに言うー。
「ーーーうん…分かってるー」
史奈は落ち込んだ様子でそう呟くとー、
「でもーーー…分かっててもー…分かってても……それでも」と、
目に涙を浮かべるー
「ーーー……」
萌美は黙って史奈を優しく撫でるー。
どうしてあげたらいいのか分からないー。
萌美自身も、少なからずショックを受けているしー
弟のように可愛がっていた雅之が死んだことは
今でも受け入れることができていないー
それでもー
だからと言って、ずっとこの状況でいるわけにも行かないー。
雅之のことを小さい頃から知っている萌美ー。
きっと、今の史奈を見たら、雅之は悲しむだろうし、
心配で成仏もできないだろうー。
”俺が兄だろ!”
雅之に、そんなことを言われたことを思い出して、
史奈を慰めながら、萌美自身も悲しい表情を浮かべるー
前に”弟のようなものだから”と言った時に
”えぇ!?俺は萌美のことを妹のようなものだと思ってたけど!?”と、
雅之が笑いながら反論したのだー
そこからー
”俺が兄だろ!”
”わたしがお姉ちゃんよ!”というような
子供みたいな争いに発展したのもー
今では懐かしい思い出だー
「ーーー」
萌美は、史奈を慰めながら”雅之ー…”と、
史奈を残して逝ってしまったことに、とても悲しそうな表情を浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だがー
その日の夜のことだったー
帰宅した史奈が暗い表情で
母親に「ただいま」と声をかけて
部屋に戻ったその時だったー
”史奈ー”
「え」
”史奈”と、名前を呼ぶ声が聞こえたのだー
しかもその声はー
史奈自身が誰の声よりも聴きたかった
雅之の声だったー。
「ーーー…え?ま、雅之ー?い、いるの?」
誰もいないはずの自分の部屋で周囲をキョロキョロしながら
そう言葉を口にする史奈ー
だが、返事はなく、
史奈はため息をつくと
「ーーいるわけ、ないよね…」と、再び悲しそうに言葉を口にするー。
”ついにわたし、幻聴まで聞こえるようになっちゃったのかな”と
自虐的な笑みを浮かべると
”あ、いやー…史奈ー”
と、もう一度雅之が自分を呼ぶ声が聞こえたー
「えっ…!? えっ…!?」
史奈は”2度目”の雅之の声に、今度は幻聴じゃないと言う確信を持って
周囲を見渡すー
「雅之!?どこ!?雅之!?」
慌てた様子で周囲を見渡しながら史奈がそう言い放つと、
雅之の声が続けて聞こえたー
”ーーー…ずっと黙ってようと思ったんだけどー、ごめんー”
「え…」
史奈が”どこから聞こえるのかも分からない”雅之の声に
困惑の表情を浮かべながらさらに周囲を見渡すー。
すると、雅之の声は信じられない言葉を口にしたー
”俺ーー史奈の中にいるんだ”
とー。
「え…?? え…??? ど、どういうことー?」
流石に、理解の範疇を超えているー。
史奈は混乱しながら、そう言葉を口にすると、
”ーー死んだと思ったらー
史奈の中にいたんだー…
なんて言えばいいのかなー?
ほら…取り憑くとか、憑依とか…そんな感じの
状態なのかなー…”
雅之の言葉に、
「ほ、ホントに雅之なのー?」と、
史奈は目に涙を浮かべながら言うー
”あぁ”
雅之はそれだけ言うと、史奈と雅之しか知らないであろうことー、
雅之本人しか知らないであろうことを、
史奈に信じてもらうため、次々と口にし始めたー
「す…すごい…ほ、本当に…本当にー」
史奈がそこまで言うと、
”史奈…?誰かいるの?”と、
部屋をノックする音と共に、母親の声が部屋の外から聞こえて来たー
そして、母親が部屋の扉を開けるー
「あ、お、お母さんー」
史奈が困惑した様子で言いながら
「ま、雅之がー、雅之が帰って来たのー」
と、嬉しそうに言うー。
しかしー
史奈の母親は表情をしかめるー。
それもそのはずー
部屋にいるのは”史奈”だけー。
彼氏の雅之のことは、史奈の母親も知っているし、面識もあるー。
史奈の将来を任せることが出来る
理想的な彼氏だと思ったし、
もしも今後、二人が結婚に進むのであれば
それは、心の底から応援しようと思っていたー。
だがー、
雅之はもういないー。
「ーー史奈ー…辛いのは分かるけどー…
でもー」
母親が困惑した様子で言うー。
史奈が悲しみのあまり、現実逃避に走っているー。
母親はそんな風に思ったのだー
「え…お、お母さんーほ、本当に雅之がー」
史奈はなおも、そう食い下がるも
史奈の中にいる雅之が、そんな史奈を止めたー
”史奈ー
ダメだよー俺の声は史奈にしか聞こえないー”
そんな言葉に、史奈は「そんな…」と言いながらも
母親が戸惑っているのに気づいて、
「あ、ご、ごめんーお母さんー 今日は…もう、疲れちゃったみたい」と、
苦笑いしながら慌ててそう誤魔化すー。
「ーーー…今は、ゆっくり気持ちを落ち着けて」
母親のそんな言葉に、史奈は悲しそうに「うん」と頷いたー。
部屋の扉が閉まり、母親が立ち去っていくー
確かにー、
史奈からも”姿”は見えないし、”声”しか聞こえないー
史奈の中に雅之の幽霊のようなものがいるのだとしたら、
その声は他の人間には聞こえないのかもしれないー
「ーー…わたし……わたしのせいで、雅之がー」
史奈は小声でそう呟きながら、涙を流すと、
雅之は”いいんだよー…俺は史奈のこと、全然恨んでないしー”
と、優しく言葉をかけると、
”史奈が無事で本当によかったー”と、
史奈の中で静かにそう言葉を口にしたー。
「ーーーでも…」
史奈が悲しそうに呟くー
”はははー…そんなに泣くなってー
むしろ、命懸けで史奈を助けたつもりだったのに
史奈も助けられなかったーなんて結果になってた方が
悲しいし、俺、かっこわるすぎだろ?
本当に、史奈が無事でよかったー”
雅之がそこまで言うと、
ふぅ、とため息をついて言葉を続けたー
”ー史奈が怖がるといけないと思ってー
ずっと黙ってようと思ったけどー…
史奈があまりにも落ち込んでるものだからさー…
こうしてー…話をしようと思って”
雅之が優しい口調で続けると、
史奈は目から涙をこぼしながらー
「ありがとうー…ありがとうー」と、何度も言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日からー
史奈は元気を取り戻したー
史奈の中には雅之が憑依している状態ー。
しかし、史奈はそのことに怯えることなくー、
むしろ、とても嬉しそうにしていたー。
だがー
週明けの大学でー…
史奈はそのことを嬉しそうに”報告”してしまったー
「ーー……史奈ちゃんー…何を言ってるの?」
それを聞いた雅之の幼馴染・萌美は
完全に引いた表情で、そう言葉を口にしたー
「だ、だから雅之がわたしの中に!」
史奈が必死にそう説明するー
しかし、萌美は悲しそうに
「史奈ちゃんー…雅之はもういないのー」と、
史奈を抱きしめるようにして、慰め始めたー
「ーー…ほ、本当に、本当にいるんだってば!」
史奈はなおも食い下がるー。
”おいおいー史奈…俺のことは誰にも見えないしー
声も聞こえないからー”
雅之が史奈の中から慌ててそう言い放つー
しかし、史奈は必死に萌美に説明を続けるー
「ーーーーーー史奈ちゃんーーー」
萌美が唖然とした表情で、そう呟くとー
「ーー………雅之が、悲しむよー…?」と、困り果てた様子で言葉を口にしたー
”史奈ー…”
そんな史奈の姿を見て、
史奈に憑依した状態の雅之は困惑の表情を浮かべながらー
心の底から史奈を心配したー
そしてー
雅之の中に”ある想い”が芽生え始めていたー。
②へ続く
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コメント
事故死した彼氏が、彼女の中に宿ってしまうお話ですネ~☆
今は宿っているだけですが、
このあと、身体を乗っ取る描写も…☆!
でも、それは次回以降のお楽しみデス~!
今日もありがとうございました~!
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