撮影中のドラマの主演俳優が、
撮影中に女体化してしまったー
困り果てたプロデューサーは、
”脚本を強引に変更する”という荒業に打って出たー。
・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーまさかー…あなたがー」
一人の刑事がそう叫ぶと、
サングラスを掛けた威圧感のある男が笑みを浮かべるー。
「ーもっと早く気付くと思っていたが、案外遅かったなー」
冷徹な声でそう言い放つ男はー、
刑事である彼の”恩師”にあたる男ー
「黄川田(きかわだ)さん!どうして!」
刑事が悲しそうに叫ぶー
巨大犯罪組織との戦いー
その中でも、彼を裏からサポートしてくれた
警察上層部の男・黄川田が、
犯罪組織と内通していた”裏切り者”だったからだー。
黄川田と呼ばれた男は笑みを浮かべるー。
そして、銃を手に、刑事の方に向けたー。
「ーーはい、お疲れ様でした~!」
ふと、そんな声が響き渡りー
刑事と黄川田の表情に笑みがこぼれるー
そう、これはー
”ドラマ”の撮影中ー
黄川田役だった男、原川 達平(はらかわ たっぺい)が、
「お疲れ」と、刑事役だった主演俳優・岡島 竜輝(おかじま りゅうき)に
声をかけるー。
竜輝も「ありがとうございます」と、応じると、
そのシーンの撮影が終わり、スタッフたちも集まって来るー。
全10話の連続ドラマー
現在は佳境にあたる第7話の終盤のシーンの撮影をしているー。
主演を務めるのは、最近人気の若手俳優ー、
岡島竜輝ー
2クール前の連続ドラマでは
恋愛モノの主人公を務めていたものの、
今回は打って変わって、平和のために巨大犯罪組織と戦う
熱血刑事を演じているー
「ーー岡島ー、今日も見事だったぞ」
笑いながら近づいてくるのは、3歳ほど年上の、
俳優仲間ー、
橋澤 慎吾(はしざわ しんご)ー
彼はこのドラマに”先輩刑事・田辺役”で出演しているー。
「ありがとうございます」
竜輝が差し出されたコーヒーを手にそれを口に運ぶと、
慎吾に対して「ーー橋澤さんは”もうすぐ”あのシーンですか?」と、
言葉を口にするー。
「あぁ、金曜日にそのシーンの撮影だな」
慎吾が笑いながら言うー。
慎吾が演じる”先輩刑事・田辺”は、第8話で死亡するー。
そのシーンの撮影が迫っているのだー。
死亡シーンは壮絶な最後でー
泥まみれになりながらも、巨大犯罪組織の幹部を道連れにするという
第8話終盤の見どころにもなるシーンだ。
”先輩刑事・田辺”は
これまで、竜輝演じる主人公の”真村”のことを見下し、
反発してきた刑事ー
しかし、”真村”の熱心な戦いを見て、ついに”真村”を認めて
協力しようとした矢先、”田辺”の身に悲劇が起こりー、
壮絶な最後を遂げるという展開だったー。
がーーー
「ーーーえぇぇぇぇ!?!?!?!?」
ドラマの中の”田辺”に悲劇が起きる前にー
主演を務める俳優・竜輝の身に悲劇が起きてしまったー
それはー
「ーーな、な、なんだこれは!?」
翌朝ー、
目が覚めたら、”女”になってしまっていたのだー
「じょ、冗談じゃないぞ?
な、何だこれー?」
鏡の前に駆け付けると、
自分が完全に”女”になっていることを改めて確認する竜輝ー
困惑しながら、胸を触りー
そして、胸を取ろうとするような奇妙な仕草をしたり、
胸を壁に押し付けて、まるで身体に引っ込めさせようとするような
謎の行動を取るも、
そんな行動に意味があるはずもなくー
竜輝は頭を抱えてしまったー
「な、なんだよ…いきなりどうなっているんだー?」
困り果ててしまった竜輝ー
しかも今日は
第8話冒頭の先輩刑事”田村”とのやり取りのシーンを
撮影する予定だー。
がー、当然、このままでは撮影することも出来ないー
顔が変わりすぎていて、どんなに男装したところで、
”竜輝です”は、無理があるー。
それ以前に、声も完全に女の声になっているし、
身体つきも違うー。
「な、何だよこれ…
い、いったい、何が起きてるんだー?」
そんなことを何度も何度も考えながらー、
やがて、”あること”を思いつき、
竜輝はそのままベッドにダイブしたー
”寝て起きたら女になっていた”なんてあるはずがない。
そう思った竜輝は”これは夢だ”と確信して、
そのままベッドにダイブしたのだー
がー、数分後ー
ガバッと髪を揺らしながら起き上がった竜輝は
「こ、これは夢じゃない!」と叫んで、
慌ててラフなシャツ姿のまま、ドタバタと何かを準備し始めたー。
普段の仕事着の一つを着て、出かけようとする竜輝ー
女体化したことで、身体のサイズも変わってしまったのか、
服は”ぶかぶか”の状態ー。
「ーい、いや…もう時間がない!」
服がぶかぶかの状態で、外に駆け出し、
慌てて、今日の場面が撮影されるスタジオに駆け付けるとー
「ーー関係者以外立ち入り禁止ですー」と、
スタッフに言われてしまったー
「いや、ですから!岡島なんです!岡島竜輝!」
”ぶかぶかの服を着た怪しい美人”が、主演俳優の岡島を
名乗っているー
しかも、岡島竜輝の免許証も持ってそう叫んでいるー
そんな状況にスタッフは困惑するー。
すると、そこに先輩刑事・”田辺”役の慎吾が
偶然やってきて「どうかしましたか?」と
スタッフに確認するー
スタッフは”見知らぬ女性が自分は岡島竜輝だと言っていて、
免許証も持っている”と、事情を説明したー。
慎吾は首を傾げながら
「ーーあの、失礼ですが、どちら様ですか?」と言い放つー
竜輝は必死に事情を説明したー。
「ーーいやぁ、そうは言われましてもねー」
慎吾が苦笑いしながら言うー。
20代前半の頃は、主演も多く務めていた慎吾ー
今は20代後半になり、少し渋さも増して、
より良い感じになっているー。
やはりー
そう簡単に信じては貰えないー
”そりゃそうかー”と、思いながらも
竜輝もここで引き下がるわけにはいかなかったー。
こんなになっても、自分は竜輝なのだー。
ここでもし”すみません”と帰れば
自分の代わりがやってくるわけでもないしー
”主演俳優が突然いなくなった”ということで
現場は大混乱に陥ってしまうー
それを避けるためにも、
とにかく、この場で状況を理解してもらう必要があったー。
困り果てた竜輝は、咄嗟に
昨日の撮影終了後に慎吾と話したことを思い出し、
その内容を口にしたー
その場には、竜輝と慎吾しかいなかったー
その二人のどちらかが、他の誰かに昨日の”何気ない雑談”を
わざわざ他の誰かに教えてでもいない限り、知らないような会話の
内容だー。
「ーーー…まさか、お前、本当にー」
その話を聞いた慎吾は、ようやく信じるつもりになったのか
顔色を変えるー
「そ、そうですよ!だから最初から言ってるじゃないですか!」
竜輝が可愛い声でそう叫ぶと、
慎吾は”信じられない”という様子で竜輝のほうを見つめながらー
「お前…女装、そんな上手だったのかー」と、
呆然としながら言葉を吐き出したー。
「違います!女装じゃなくてー!」
そう叫んだ竜輝は、”朝、目が覚めたら女になっていた”という状況を
再度説明したー。
慎吾は困惑しながらも、スタッフに
「問題ありませんー通してあげて下さい」と、竜輝を中に入れるように言うと、
そのまま竜輝と共に中へと入ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー女になってしまった、だとー?」
プロデューサー・刈屋(かりや)が困惑した様子で呟くー。
「ーいや、だがーしかしー
今更主演を変えるわけにもいかないしー」
刈屋プロデューサーが困惑の表情を浮かべるー。
ドラマは全10話のうち、第7話までの撮影が終了しているー。
昨日、第6話の放送が終わりー
既に、それなりに物語は進んでいるー。
「ーーーーーーー」
刈屋プロデューサーは、女体化した竜輝のほうをじっと見つめるとー
”それじゃ、男として振る舞うのも無理があるなー”と、
ため息をつくー
考え込む刈屋プロデューサー。
先輩刑事役の慎吾が
”遠くの地に旅立った設定にして、残された刑事たちが戦う形に
変えるしかないのでは?”と、困惑しながら言葉を口にするー。
「ーいや、唐突な主人公の降板はきつすぎるー」
刈屋プロデューサーは慎吾の案を拒否するー
とは言え、第6話まで放送されて、
第7話まで完成している以上ー
既に”代役で撮り直す”方法も選択肢にないー。
しかしー
”元に戻る方法”が分からない以上ー、
”元に戻れる可能性”に賭けるのは危険すぎるし、
そもそも戻れなかった場合、どうすることもできなくなるー
頭を抱える刈屋プロデューサー。
「何だかー…すみません」
申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする竜輝ー。
そんな竜輝を見て、
刈屋プロデューサーは
”その姿で悲しそうにされると、何か…放っておけない気持ちになるな…”と、
困惑の表情を浮かべるー。
女体化した竜輝はー
正直、とても美人だー。
イケメンが女体化すれば、美女になるー…と、でも言うことだろうかー。
相手が竜輝だと分かっていながらも、
こんな風に落ち込まれると、どうしてもドキッとしてしまうー。
刈屋プロデューサーはそんな風に思いながら、
「よし!」と声をあげたー
「俺が何とかするー。
とりあえず、明日まで時間をくれ。
まだある程度余裕はあるー。
第8話のシーンの撮影は明日からでも大丈夫だから、
今日は家に帰ってゆっくり休め」
刈屋プロデューサーのそんな言葉に、竜輝は
「申し訳ありませんー」と頭を下げると、
そのまま先輩刑事役の慎吾にも頭を下げて
そのまま家へと向かって歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「くそっ…どうしてこんなことにー」
竜輝は頭を抱えるー。
この長くて綺麗な髪も喜ぶ人は喜ぶのかもしれないー。
けれどー……
今の竜輝にとっては”腹立たしい”以外の言葉はなかったー。
”どうして、俺の身体にこんなものが生えて来るんだ!”と
怒鳴り散らして、自分の髪をずたずたに切り裂きたいー
そんな気分になるー。
けれどー、
自分に配慮してくれた刈屋プロデューサーやスタッフ、
共演者たちの顔を思い出して、思いとどまるー。
もし、今、そんなことをすれば
さらにプロデューサーや他のスタッフたちに
迷惑をかけてしまうことにもつながるー。
これ以上負担をかけるわけにはいかないー。
女体化した竜輝は、大きくため息をつくと、
そのまま自分の気持ちを何とか落ち着けるー。
「落ち着くんだー俺…
寝れば元に戻るかもしれないしー」
寝て起きたら、この状況になっていたのだー。
で、あれば”もう一度寝て、起きれば”
元に戻る可能性も決して0とは言えないー。
そんな可能性を信じながらー
竜輝はベッドの方に向かったー。
”女体化した自分”に、ドキドキしたりー
そういったことが”全くない”と言えば、嘘になるー。
けれども今は、そんなことよりも
”不安”や”苛立ち”の方が強かったー。
突然”自分が生きて来た性別とは別の性別で過ごす”
ことを強要されるのはー、
想像以上に、辛く、苦しいことなのだからー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
竜輝は目を覚ますと同時に、
自分のアソコを触ったー
男に戻ったかどうかを確かめるためだー。
しかしー
残念なことに、そこに”男に戻ったことを証明するもの”は
存在しなかったー。
今一度、絶望的な気持ちになりながらも、
ひとまず今日もスタジオに向かうことにするー。
刈屋プロデューサーが何かを考えてくれているかもしれないー。
そう、思いながらー
”まぁ…普通に考えたらー…打ち切りか、
橋澤さんの言う通り、他の出演者で上手く話を
つなげていくしかないよな…”
そんなことを思いながら、暗い表情でスタジオに到着すると、
刈屋プロデューサーから、
「ーほい、今後の対応、決まったぞ」と、何かを手渡されたー
「これはー?」
竜輝が驚いて顔を上げるー。
手渡されたのは、新しい台本ー
「まぁ、読んでみな」
笑いながらそう言い放つ刈屋プロデューサー。
促されるままに、渡された”新しい台本”に目を通すとー
そこにはーー
”裏切り者の黄川田に秘密裏に開発されていた性転換銃を撃たれて
女になってしまう主人公・元木(もとき)”と書かれていたー
「え…えぇっ!?」
あまりに唐突な台本の変更に、驚きの声をあげると
刈屋プロデューサーは「それで行くぞ!」と、
得意気な表情で笑みを浮かべたー
先輩刑事役の慎吾も唖然とした表情で
「ま、マジですか!?」と、困惑の言葉を口にしているー
「~~~~」
唐突な女体化展開に驚きながらも、
竜輝は”主演”を変えずにこのまま撮影を継続することを決めてくれた
プロデューサーに感謝しつつ、「ありがとうございます」と、頭を
下げるのだったー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
主演俳優がいきなり女体化してしまうお話デス~!
連続ドラマがそれなりに進んでる状況で
こうなってしまうと大変ですネ~笑
続きはまた次回デス~!
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