<入れ替わり>人間嫌いの小説家がアイドルに!?③~泥棒~(完)

人間嫌いの小説家と、
明るい性格の女子大生アイドルが入れ替わってしまった…

それぞれのアシスタントとマネージャーが、
元に戻る方法を探る中…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー…あ~、まぁ、こんなこともあるよー
 初めてにしては上手く書けていたしー」

人間嫌いの小説家・美彩のアシスタントの涼子が、
美彩になった綾乃の書いた小説の悪評を見つめながら
美彩(綾乃)に言葉をかけるー

「すみませんーわたしのせいで」
美彩(綾乃)がそう言葉を口にすると、
「ーーー!」と、涼子が少し驚いたような表情で
美彩(綾乃)を見つめるー。

「えっ…ど、どうかしましたか?」
美彩(綾乃)がそんな言葉を口にするとー
「あ、ううんー。美彩ちゃんから、謝られるなんて
 なんだか、新鮮だなぁって」と、涼子は笑うー。

「ー美彩ちゃん、人付き合いが苦手だからー
 書くお話はすっごく素敵なんだけどー
 人間としては、ねー

 だからー、その姿で謝られると、すっごく意外な感じで」

涼子が笑いながらそう言うと、
美彩(綾乃)は「そうなんですかぁ…」と、言いながら、
パソコンの画面を見つめるー。

その時だったー

「ーーー…え」
美彩(綾乃)が表情を歪めるー。

「どうしたの?」
涼子がそう美彩(綾乃)に確認をすると、
美彩(綾乃)は困惑した表情を浮かべながら
「ーあ、あの…わ、わたしのことがー」
と、パソコンの画面のほうを指さしたー

そこにはー
アイドル”綾乃”を批判する内容の記事が表示されていたー

”突然の豹変ー
 これが人気女子大生アイドルの本性か!?”

などと書かれているー。

悲しそうな表情でそれを見つめる美彩(綾乃)ー

「ーーち、ちょっと、マネージャーさんに電話で相談しますー」
美彩(綾乃)が少し慌てた様子で言うー。

綾乃は小さい頃からアイドルになることを夢見ていたー。
それなのにー、その夢がこんな形で壊れてしまうのは
耐えられなかったー。

「ーーーーー」
マネージャーの和義との電話がつながると美彩(綾乃)は、
「ーあの…わたしの活動、しばらく止めてもらえませんか?」と、
困惑の表情で話し始めるー。

マネージャーの和義が”上手くコントロールしてくれる”
美彩(綾乃)はそう思っていたがー、
和義にとっても、綾乃になった美彩の”人間嫌い”は想定外だったのか
すっかりネット上では叩かれる対象になっていて、
週刊誌でも面白おかしく叩かれるー

そんな状況に陥ってしまっていたー。

”人間嫌いの小説家”がいきなりアイドルになるなんて、無理だったのだー

”ーー分かったー。元に戻る方法が見つかるまで、綾乃は
 病気療養という形で対応できないか検討してみる”

和義のそんな返事に、美彩(綾乃)は「どうかーお願いします」と、
懇願するように言葉を口にしたー。

別に、美彩に対して恨みや怒りは感じないー。
いきなり”アイドルをやれ”と言われたら厳しいことぐらい、
美彩(綾乃)も理解しているー

自分だって、小説を上手く書くことはできなかったー

「ーーすみませんー
 色々とー。
 わたしも、神里先生の小説家としての評判を
 下げるようなことをしてしまってー」

申し訳なさそうに言葉を口にする美彩(綾乃)ー

「ううんーいいの。
 元に戻れるまでどのぐらい時間がかかるか分からないし、
 わたしが美彩ちゃんの代わりに小説を書くからー
 しばらくはそれで時間を稼げると思うしー」

涼子がそう言葉を口にするー。
元々本が好きで、美彩の作品に惚れ込み、
アシスタントとして美彩の作品を誰よりも理解してきた涼子ー。

その涼子であれば、”美彩の作風”をそのまま維持して
新作を書くことも不可能な話ではなかったー。

元々、”棘”がありすぎる美彩の作品を、
世間に放っても”大丈夫なように”調整していたのは涼子だー。
美彩の同意も得て、いつも”バランスよく”調整してきたー。

その涼子ならー

「ーーーー」
涼子は美彩(綾乃)のほうを見つめながら
「元に戻れるまで、頑張ろう!」と、笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー生放送の歌番組!?!?!?!?」
綾乃(美彩)が、困惑の表情を浮かべるー

「あぁ、綾乃が、入れ替わる前に発売したばかりの
 新曲を歌うことになっててー
 君には難しいことは分かっているんだがー
 どうしても、これだけはー」

と、頼み込むようにして
マネージャーの和義が言葉を口にしたー

”暗記力”には自信があるー。
アイドル・綾乃の歌など知らないが、
歌の歌詞を覚えることは、美彩にとっては造作もないことだー

だがーー

綾乃の新曲のPVを見せてもらうー

明るく、自信に満ち溢れた表情で、可愛らしさも振りまく綾乃ー
そんな映像を見て
”絶対真似できないしー、わたしがこんなことすると思うと
 吐き気がするー”
と、表情を歪めるー

「ーーー…まぁ……無難に歌ってくれればそれでいいからー
 すまないー頼むー」

和義の言葉に「は…はぁ…どうなっても知りませんよ?」と、
言いながら美彩(綾乃)は、その当日を迎えたー

当日ー

歌詞は丸暗記したー。
このアイドル丸出しの衣装は恥ずかしいし、今すぐジャージに
着替えたい気分だったけれどー
我慢しながら、本番の時を待つー。

だがー、
美彩(綾乃)は表情を歪めたー。

”続いては、綾乃ちゃんの”危険なバラと危険なわたし”です!”

そのアナウンサーの声に、
美彩(綾乃)は「えっ!?」と、声をあげるー

マネージャーの和義から、
言われた歌う曲は”放課後の教室できみはわたしに言った”という曲だったー。

しかしー、

「ーーえ?? え??? ”放課後の教室で~”じゃないの…?」
困惑する美彩(綾乃)

そうこうしているうちに、ステージに上がってしまいー、
”危険なバラと危険なわたし”が流れ出してしまうー

歌詞が全く分からないー
大勢の人に見つめられてー
美彩(綾乃)はパニックになってその場で過呼吸のような状態を起こしてしまうー。

生放送の番組で、しゃがみ込み、
叫び声をあげてしまう美彩(綾乃)ー

完全な放送事故だー。

ただでさえ下落中だった綾乃の評判は地に落ちてしまったー

「ーーーーー」
マネージャーの和義は、そんな映像を見つめながらー
ニヤリと笑みを浮かべたー。

一方、”美彩”の方の評判は取り戻されていたー。

アシスタントの涼子が優秀さを発揮ー、
”島 三郎の新作”として発表した作品は、
”正真正銘 島先生の作品だ!”などと、
ネット上で絶賛されたー。

前回、美彩になった綾乃が代わりに書いた作品は
”島三郎じゃなくて、島四郎が書いてるんじゃね?”などと、
不名誉な評判になってしまったものの、
今回の作品はヒットを記録したー

だがー、
美彩(綾乃)は暗い表情を浮かべていたー

”放送事故”ー
そんな映像を見つめながらー
”アイドルの夢”が壊れていく
そんな瞬間を目の当たりにしてしまったからだー

”ーーーかわいそうー”
涼子はそう思いながら、美彩(綾乃)のほうを見つめるー

”でもーー可愛いー”
ゾクゾクしながら涼子は笑みを浮かべると、
美彩(綾乃)のいる部屋から外に出てー、
電話を手にしたー

”そっちも順調みたいね”
涼子が言うと、電話相手ー
綾乃のマネージャーである和義が”あぁ”と、言葉を口にしたー

”涼子先生も、作家デビューおめでとうー”
和義が揶揄う様にして言葉を口にするー

「ふふ、ありがとう」
涼子がそう言うと、和義は”これで君が、”島 三郎”だなー”と、笑うー

「えぇ、そうねー」
涼子の言葉に、和義は”しかし、恐ろしいことを考えるやつもいたもんだー”
と、言葉を続けるー。

”入れ替わり”ー
それを仕組んだのは、美彩のアシスタント・涼子だったー。

”入れ替わる組み合わせ同士”が、同じ時間帯にそれを飲むと、
身体が入れ替わってしまうー
海外のネットで手に入れたそんな薬を、涼子は和義と共謀して使ったー

涼子と和義は高校時代の同級生ー。
元々恋人同士でもあった二人でー、
涼子が和義に話を持ち掛けて、入れ替わりを共謀したのだー

入れ替わる前日ー

「今回もお疲れ様ー」
涼子が美彩に対して飲み物を差し出し、
美彩がそれを受け取ると、涼子は受け取った原稿を
もう一度嬉しそうに見つめ始めるー。

そして、思い出したかのように、
口を開くー。

「ーーーあ、そういえばー
 出版社から、サイン会どうですか?って話来てたけどー」

あの時の”飲み物”に涼子はその入れ替わりの薬を盛っていたー

同じ日ー、和義も同じようにアイドルの綾乃に渡した飲み物に
涼子から受け取った入れ替わり薬を盛りー、
その結果、翌朝、二人は入れ替わったー

入れ替わった二人を前に、涼子と和義が
案外スムーズに信じてくれたのは”そもそも二人が仕組んだこと”だからー。

涼子は美彩の”人間性”に前から不満を抱いていて、
美彩の作品に惚れ込んで、美彩をサポートする形で、
美彩の小説家”島 三郎”としての活動を支え続けて来たー。

しかし、その一方で美彩と一緒にいればいるほど、
美彩の人間性の部分に不満は高まっていき、
涼子は、いつもニコニコしながら、裏では”キレて”いたー。

仕事場から美彩が出ていくと、モノを放り投げて
暴れることもあったー。

もう、涼子にとって我慢の限界だったー。

そんな中、高校時代から繋がりのあり、元彼氏でもある和義も、
”担当しているアイドル”の愚痴をよく言っていることを知ったー。

”俺への感謝が足りない”だとか、
”だれのおかげで人気者になれたと思ってるんだ”だとか、
”他に売れるようにしたい子がいるけど、そのためには綾乃がジャマ”だとか
色々な不満を口にしていたー

和義がそんな不満を抱く理由は分からなかったし、
美彩と入れ替わったあとの綾乃と接している限り、
涼子からすれば、綾乃は”いい子”に見えるが、
近くにいると色々不満も出て来るのかもしれないー

それに、和義と”別れた”経験を持つ涼子からすれば、
和義の性格上、綾乃が成功すればするほど、
そういうことを言い出すのは、よく理解できたー

和義のような男は”ある程度距離を保ちつつ”付き合うのが
最適解なのだー。

”まぁ、これでもう”水嶋 綾乃”は終わりだろうよー
 芸能界ではこのザマでは生きていけないー”

マネージャーの和義が笑いながら言うと、

「そうねー。
 こっちの”島 三郎”は、中身が変わって生き続けるけどねー」

と、涼子は笑ったー。

アイドル・水嶋 綾乃は、もう終わりだー。
綾乃になってしまった美彩が、綾乃の代わりなどすることは出来ないー。
じきに引退することになるだろうー。

だが、小説家・”島 三郎”は生き続けるー。
島三郎の”素顔”は誰も知らないし、
涼子なら”美彩と同じような作品”を作ることが出来るー。

それゆえ、美彩の中身が綾乃になろうと、関係のないのだー。

「ーーー綾乃ちゃんはちょっとかわいそうだからー
 わたしが色々支えてあげるとしてー

 これでー島三郎はわたしのものよー」

涼子は嬉しそうに微笑むと、
和義に対して「じゃ、後はお互いに上手くやりましょ」とだけ告げて
そのまま電話を切ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから数か月ー。

アイドル・綾乃はとっくに失脚して表舞台から姿を消したー

マネージャーの和義は、新しいアイドルのマネージャーになり、
その子を売れるようにしようと、日々躍起になっているー。

美彩になった綾乃は、アシスタントの涼子の”お手伝い”をしつつ、
なんとか生活は続けているー

全てを仕組んだ涼子は”島 三郎”として新作を世に放ちー、
読者からの評判も上々と順調だったー。

「ーー”明日の予定はー”」
駅の改札を出ながら、涼子は明日の予定を考えるー。

アシスタント時代よりもはるかに忙しいー
けれど、充実しているー

これはこれで、美彩のおかげだー。
美彩と一緒に活動を始めた頃にはー
”美彩のような小説”は書けなかったー

美彩と一緒にいたからこそ、今の自分があるー

ドッ…

「?」
美彩が身体に衝撃を感じて振り返るー

すると、そこにはーー
生気を失って、狂った目つきの綾乃(美彩)の姿があったー

「ーーーえ…?」

涼子が驚いて目を見開くと同時に、
綾乃(美彩)は「ーー泥棒猫」と、だけ呟いて
血のついたナイフをその場に落とすー

「ーーーえ………? え……?」
涼子は震えながら、激しい痛みを感じてその場に膝をつくー

「ーーーえ……… …なに…???」
涼子が、綾乃(美彩)のほうを見つめると、
綾乃(美彩)は言い放ったー

「ーーーこの……裏切者…!!!!
 ゆるさない…ぜったいに、ゆるさないー!」

綾乃(美彩)の言葉に、涼子は「ち…ちょっと…まっ…!」と、
言葉を振り絞るもー
綾乃(美彩)は聞く耳を持たず、涼子にさらに襲い掛かったー

”元アイドルの凶行”

その日ー
そんなニュースが、テレビを、ネットを賑わせるのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

穏やかな流れの入れ替わりと思いきや、
恐ろしい結末に…☆

私の作品は最後までどちらに転ぶか分からない(?)のデス…!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    因果応報な感じの結末ですねー。
    和義の方も涼子と似たようなことになる可能性もありそうで恐ろしいです。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      和義の方は、堂々と小説家の地位を奪った涼子と違って、
      表だって裏切っているか分かりにくいので、
      狙われない可能性もありますネ~笑

      綾乃になった美彩が捕まっていなければ
      危険な気もしますケド…☆