人気小説家として活躍する彼女は、
人間が嫌いだったー。
なるべく人と接することなく、
それでいて自分の得意なことを生かせる仕事ー
それが、小説家だったー。
それなりに順調だった日々ー。
しかし、ある日、よりによって”アイドル”と入れ替わってしまうー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
神里 美彩(かみさと みさ)は、
今日も小説の執筆を続けていたー。
美彩は、昔から”人付き合い”が苦手で、
そもそも人間が嫌いだったー。
小さい頃は、明るい性格だったものの、
ある時、親友から酷い裏切りを受けて、人間不信に陥った美彩は
それ以降、人間が”大嫌い”になったー。
色々な人間を見れば見るほど、
”人間は信用しちゃいけない生き物”だという考えが強まりー、
中学生になったころには、美彩は人付き合いを拒絶、
友達を全く作ることもなく、学生生活を過ごしたー
そんな彼女が唯一心を許すことができたのが”読書”だったー。
本の中の登場人物は、現実の人間と違って、
とても愛おしい存在だったー。
汚い現実とは違って、小説の中の世界には夢があるー。
汚い世界も、綺麗な世界も、色々な世界が本の向こうには
存在しているー。
美彩は、みるみるうちに、本に没頭したー。
学校でも休み時間になると、いつも本を読んでいた美彩は、
やがて、自分で物語を作ることに興味を抱き、
今は小説家として、生計を立てているー。
大人気小説家ー…というような大それた存在ではないけれど、
ちゃんと生活していけるぐらいの収入は得ることが出来ていて、
”大好きな創作”を”仕事”にして生活しているという
今現在の自分の状況に、美彩は満足していたー。
「ー美彩ちゃんー」
そんな美彩の元に大学時代から美彩と一緒に
活動している涼子(りょうこ)がやって来るー。
涼子も、元々本が好きで、
大学時代に美彩の書いた作品を読み、
美彩の作品に惚れ込んで、必死に何度も何度も頼み込み、
今はこうして二人三脚で仕事を続けているー。
美彩が小説自体の執筆、涼子が美彩の専属アシスタントのような感じで、
出版社とのやり取りなど、
色々な実務的な部分をこなしているー。
”人間が嫌い”かつ、”人前に出るのが苦手”な美彩にとっては
涼子の存在は欠かせない存在でもあったー。
「ーーあ~すっごくいい!感動した!」
涼子が、美彩の書き上げた”最終話”を見つめると、
そう言いながら、美彩のほうを見つめるー
「そうーありがとう」
美彩は不愛想にそう言い放つー。
涼子が少しだけ、そんな美彩の様子にため息をつくー。
美彩としても作品を褒められることは嬉しいのだが、
感情表現も苦手で、つい不愛想になってしまうー。
ちょうど、美彩が現在書いていた作品は
今回で最終話ー。
また次の創作にも取り掛かる予定だが、
ひとまず、一段落を迎える段階だったー。
「今回もお疲れ様ー」
涼子が美彩に対して飲み物を差し出し、
美彩がそれを受け取ると、涼子は受け取った原稿を
もう一度嬉しそうに見つめ始めるー。
そして、思い出したかのように、
口を開くー。
「ーーーあ、そういえばー
出版社から、サイン会どうですか?って話来てたけどー」
本の購入者にサインをするー
そんな、イベントの提案を口にする涼子ー
だが、美彩とは5年以上の付き合いの涼子からすれば
その返事は聞くまでもなかったー
「いいー。人と会いたくないから」
美彩の言葉に、涼子は「そうだよね」と、苦笑いするー。
「ーーーー」
涼子は、美彩の作品に惚れ込み、今、こうして美彩と一緒に
活動を続けているー。
美彩一人では、恐らくこうして”小説家”として
活動することは難しかっただろうー。
小説家と言えども、”全く他人と何のやり取りもしない”と、
言うのは難しいー。
もちろん、そんな美彩の性格を知っていたからこそ
”美彩ちゃんの作品が世の中に出て行かずに埋もれてしまうなんてもったいない!”
と、美彩の作品に惚れ込んだ涼子は、今、こうして美彩と共にいるー。
しかしー…
美彩の極度の人間嫌いをー
涼子はずっと心配していたー。
もちろん、人前に出るのが苦手でも、ある程度人間嫌いでも
それは個性の一つだし、悪く言うつもりは涼子にはないー。
がー、
美彩の場合は”異常なまで”に人間嫌いだー。
とにかく、人と会いたがらないー。
容姿にはとても恵まれている美彩は、
大学でもよく”可愛いのに勿体ない”とか、そんなことを言われていたのを
涼子は何度も聞いたことがあるー。
”島 三郎(しま さぶろう)”と書かれた原稿を見つめるー
美彩の”小説家”としての名前だー。
”できるだけ個性が無さそうな名前で”
”女性作家!とか言われるのが面倒臭いから男の名前で”
そんな理由から、美彩は”島 三郎”を名乗り
活動を続けているのだー。
”島 三郎”は、一度も公の場に姿を現していないし、
写真も1枚も世間には出ていないー。
そのため、”島 三郎”が、女性であることを知る人間は
内部のごくわずかな人間だけだー
「ーーーーーーー」
涼子は「じゃあ、この原稿、預かっておくねー」と、
美彩に確認すると、美彩は「うん」とだけ頷いて、
涼子の方を見ることもなく、何か別の作業を始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
♪~~~~~~~~~
「ーーーーー」
目覚まし代わりにセットしておいた
スマホのアラームの音が鳴り響くー。
目をこすりながら、あくびをすると、
スマホを手にして、面倒臭そうに
そのスマホのアラームを停止するー。
「ーーーーー」
ぼーっとしながら、目をぱちぱちさせると、
「あれ?」と、少し違和感を覚えるー。
美彩は視力が悪いー。
そのため、朝、眼鏡をしないと
周囲の風景がぼやけている状態だー。
しかしー今日は、妙に”よく見える”ー
一瞬、眼鏡をしたまま眠ってしまったのかと思い、
眼鏡をかけていないかどうか、手を目のあたりに
持って行き、確認したものの、眼鏡は掛けていないー。
「ーーーーー」
”急に視力回復したのかな…”
少し天然な部分もある美彩は、そんなあり得ないことを
思いながら、スマホを今一度見つめたー。
するとー
「ーーーーー?」
美彩は表情を歪めるー。
いつも使っているスマホと色が違うー。
というより、”わたし”のスマホではないー
そんな風に思いながら
「っていうか…ここ、どこー?」と、
周囲を見渡しながら首を傾げたー。
美彩の無機質で、創作に関係するもの以外、
ほぼ何もない部屋とはまるで違うー、
小物がたくさん並んでいて、可愛らしい雰囲気の部屋ー。
しかもー
よく分からないアイドルの写真が飾られているー。
「ーーーーー…え」
美彩は、ふと自分の喉のあたりを触れるー
そういえば、声も変だー。
自分の声とは何だか違う、明るい感じの声ー。
「ーー」
そう思いながら、美彩が部屋にあった姿見の方に向かうとー
そこにはーーー
「ーーーーーー……え…???? え…????」
自分とは全く違うー、明るそうな雰囲気の美少女の姿があったー。
「ーーー!?!?!?!?!?!?」
美彩は混乱して、自分の身体を触るー。
鏡の中に移る”美少女”も、自分と同じ動きをしているー
「え???え????」
困惑しながら、ふと、”あれ?”と思って、
部屋に飾られているアイドルの写真を今一度見返すー。
鏡に映る美少女ー
部屋に飾られているアイドルの写真ー
その両方を見比べながら、
美彩は「え……この子…アイドル?」と、
困惑した表情で首を傾げたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーおはようございま~~~~」
美彩のアシスタント・涼子が美彩の仕事場に
やってくると、美彩がおろおろしながら、
「あ、あの…!」と、近付いてきたー
涼子が「え?」と、言葉を口にすると、
美彩は言うー
「ーあ、あの!こ、”この人”
ど、どなただかご存じですか?」
とー。
「ーーーーーーえ?」
涼子が困惑するー。
「ーい、いえ、あの、そ、その…!
わたし、目が覚めたらこの人になっていて!」
美彩がそう言うと、
涼子は「う…うん??? ちょ、ちょっとまって!落ち着いてー」と、
言葉を口にすると、
「ど、どういうこと?」と、
美彩に対して問いただしたー
すると、美彩は不安そうに言葉を口にしたー。
「あ、え、えっとーわたしは、そ、そのー
こ、この人じゃなくてー」
美彩がいつもとは違う、ソワソワした様子でそう言葉を口にすると、
「わ、わたしは水嶋 綾乃(みずしま あやの)なんです!」
と、美彩は言葉を口にしたー
「ーみずしまあやのー?」
涼子はそう呟くと、綾乃を名乗る美彩に対して
「え!?もしかして、今テレビにも出てる!?」と、声をあげたー
「ーーは…はい… その…アイドルの…綾乃ですー」
美彩(綾乃)は恥ずかしそうにそう呟くと、
涼子は「え…?ど、どういうこと?」と、我に返ったかのように、
美彩(綾乃)に対してそう言い放ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーと、言うと、君は綾乃ちゃんじゃない、とー?」
一方、アイドル・綾乃になってしまった美彩は、
困惑の表情を浮かべながら
マネージャーを名乗る男、倉島 和義(くらしま かずよし)に
事情を説明していたー
彼は、仕事の打ち合わせのために、はるばる綾乃の家に迎えに来ていたのだー。
だが、綾乃と入れ替わってしまった美彩は、
そのまま和義についていくわけにはいかずー、
「ちょ、ちょっとお話をー」と、玄関先で、事情を説明し始めたー。
どうやら、綾乃は現役女子大生のアイドルのようでー、
そこそこテレビにも出たりしているようだが、
そもそもテレビも見ない美彩は、綾乃のことも知らなかったー。
「は…はいー…」
綾乃(美彩)は暗い表情でそう呟くー
「ーでは、君はいったいー…?」
マネージャーの和義の言葉に、綾乃(美彩)は
表情を歪めるー。
アイドル・綾乃とは違い、
”すぐに自己紹介できない”理由があったー
何故なら、美彩は”島 三郎”として活動していて、
”島 三郎”の正体は誰も知らないし、
誰にも教えるつもりなどなかったためだー。
「ーーえ…えっと…そのー
い、一般の人っていうか……うん…一般人」
綾乃(美彩)は、そもそも人とのコミュニケーションも
得意ではなく、こういう状況では微妙すぎる返事をしてしまうー
「い、一般人…?はぁ…」
マネージャーの和義は困惑した表情を浮かべながら
綾乃(美彩)のことを見つめるー
時計のほうを見つめながら、和義が
「……き、君が綾乃じゃないって言うならー
き、君の名前はー?」と、困惑した様子で言うと、
「ーーー…う…う~んと……名乗るほどのものでは…」と、
綾乃(美彩)は、またもや、さらに疑われてしまいそうな微妙すぎる返事を
口にしてしまうー
「ーーーー」
和義がゴクリと唾を飲み込むー。
そんな時だったー
車がやってきて、
その中から美彩のアシスタントの涼子と、
美彩自身が姿を現したー
「あっ!」
綾乃(美彩)が”自分”がやってきたのを見て驚くと、
小説家の美彩の身体になってしまった綾乃も
「あ、…わ、わたし!」と、驚いた様子で、
綾乃(美彩)を指さしたー
美彩のアシスタント・涼子と、
綾乃のマネージャー・和義が顔を合わせて会釈をすると、
そのまま涼子が「ー美彩ちゃん、だよね?」
と、綾乃(美彩)のほうを見て確認するー。
綾乃(美彩)が頷くと、
「ちょっとあっちのマネージャーさんと話してくるから、
待ってて」と、アイドル・綾乃のマネージャー、和義に
入れ替わりの事情を説明し始めたー
綾乃(美彩)と美彩(綾乃)は困惑しながら
そんな二人の話し合いの結果を待つー。
「ーーあ…あの…はじめましてー」
美彩(綾乃)の方が挨拶をすると、
綾乃(美彩)は「え…ぁ…どうも」と、不愛想に頭を少し下げたー
”どうして、こんなことにー?”
アイドルの身体になってしまった小説家・美彩は
困惑の表情を浮かべながら、
静かにため息をついたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
人間嫌いの小説家とアイドルの入れ替わりデス~!
ちなみに私は
別に人間嫌いじゃないですからネ~笑
(そもそも趣味で書いているだけなので、小説家ではないですし☆…!)
今日は全国とっても寒いので、皆様も
気を付けて下さいネ~!
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