<皮>過激な家政婦②~不穏~

なんだか、最初に顔見せした時とは
雰囲気が全然違うような…?

そんな中、美香はあることに気付く…。

・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーあ…あのぉ…」

美香が不安そうに綾に話しかけると、
綾は「何ですか?」と、淡々と答えるー。

綾は家事を終えると、スマホをいじっていることが多く、
やっぱり気まずい雰囲気が漂っているー。

「ーーじ、実は、ですねー」
美香が言いにくそうにしていると、
綾は「何でも言ってくださいー。わたし、何でもやるので」と、だけ答えたー。

美香は「そ、そうー…?な、ならー」と、
気まずそうに、”封印された押し入れ”のほうを指さしたー。

「ーあ、あそこの整理整頓とかー
 お、お願いできますかー?」

”家政婦さんは便利屋じゃないし、ダメだよねー”と、
思いながらダメもとでお願いしてみると、
綾は「いいですよ」と、淡々と答えたー

そして、またスマホのほうを確認し始める美香ー

そういえば、綾は何故か
”契約”よりも多い日数家に来てくれることになり、
報酬はそのままで、当初の予定よりも多く、
家に来てくれているー。

美香としては気まずい部分はあれど、
その方が助かる、という理由で綾にそれをお願いしていたー。

綾は相変わらず不愛想だー
最初に会った日の明るい笑顔を振りまく妹キャラのような
綾はどこに行ってしまったのだろうかー。
そんな風に思いながらも、綾はお願いしたことは
何でもしっかりとこなしてくれるし、
その点はとても信頼できるー

弟の雄一に茶化されていた部屋も、
今ではすっかり綺麗になっているぐらいだー。

「い、いいの?ほ、本当にー?」
美香は自分で押し入れの片づけをお願いしておきながら
思わずそんな言葉を口にするー

「は?」
綾が、美香のほうを見つめるー

綾は時々「あ?」とか「あん?」とか「は?」とか、
何だか男の人みたいな反応をすることがあって
怖いけれどー、元々の口癖なのだろう、と思いつつ、
美香はそれを受け流していたー。

美香が押し入れを開き、
綾にそれを見せるー

押し入れの中はもはや”地獄”という感じで
あらゆるものが
無造作に押し込まれていたー

もはや何がどこにあるのかなど、
この家に住んでいる美香ですら把握していないのだろうー

その中を見ながら
「きったね…」と、綾がボソッと呟くー

「ーえ??え???い、今、きったねぇ、って言いませんでした!?」
美香が思わず苦笑いしながら言うと、
綾は「言ってません」と、不愛想に答えるー

「ーーい、今、い、言ったよね?」
美香が笑いながら綾のほうを見つめるもー
綾はそれにはもう反応せず「ここを片付けておけばいいですか?」と
呆れ顔で呟いたー

「は、はいー…ほ、ホントに大丈夫ですか?」
美香はそれだけ言うと、
さらに続けて「無理そうならギブアップしてもいいですからね!」と、
言葉を付け加えたー

綾はそんな美香を鼻で笑うと、
「大丈夫ですよ。やっておきます」と、淡々と言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー」
美香は今日も会社に向かうー

”そういえば最近ー”
美香はふと思うー。

別のアパートに住む”桧山”という男ー。
以前、美香に告白してきた近所の男なのだが、
その告白を断って以降、美香は一方的に
桧山と会う都度、気まずい雰囲気になってしまった
彼のことが苦手だったー

桧山自身は、美香に振られてからも
別に何もしてきていないし、
潔く身を引いた感じで、
偶然会えば挨拶をする、というだけの間柄になっていたが、
美香が一方的に気まずい感じを感じてしまっていたのだー

がー、
その桧山と最近会わなくなったー。

いや、別に会いたいわけではないし、
桧山と偶然顔を合わせる機会が減るなら
それはそれでいいー

ただー、何となく少しだけそれが気になったー。

そんなことを思いながら会社に到着すると、
美香は今日も仕事を始めるのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーったくーバカなやつだなホント」

家では家政婦・綾が”見た目とはまるで別人のような”
口調で、独り言をつぶやきながら
美香から頼まれた押し入れをチェックしていたー

「ーーホント、ドジな女だぜ」
綾はそれだけ呟くと、モノをどんどん捨てたり、捨てずに
残しておくものを振り分けたりしているー。

「ーーはぁー、想像以上にやべぇ押し入れだな」
そう呟くと、綾はドサッとソファーに座り、
男のような座り方で、ガムを噛み始めるー

「ーーーは~~~~~~…」
髪の毛を掻きむしる綾ー。

まるでー
仕草も口調も”男”そのものー

しばらく休憩すると綾は
「なんか、放っておけない女だなー
 あの美香ってやつー」と、ため息をつきながら
そのまま再び押し入れの片づけを始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”焼肉食べに行きたいんですけど、一緒に来てくれませんか?”

”あ、そういえばこのゲームで一度対戦したかったんですけど
 付き合ってくれませんか?”

”会社でミスして怒られちゃったんで、慰めてくれますかー?”

綾が家に来るようになってから半月ー。
美香はお願いすれば綾が、何でもしてくれることに気付きー
そんなお願いをするようになったー

”綾ちゃん、すごいなぁ”と思いつつー、
家政婦さんってみんなこうなのかな?などと首を傾げる美香ー。

そんな日々が続く中ー
弟の雄一が久しぶりにやってきたー

「って、すげぇ綺麗になってるじゃん!」
雄一が驚くー。

「ふふー綾ちゃんのおかげ!」
美香が嬉しそうに言うと、
「あ~家政婦さんねー」と、雄一は頷くー

「でも、気に入って貰えたみたいでよかった」
雄一がそう言うと、美香は「うん!雄一が提案してくれたおかげ」と
頷いたー

色々雑談を交わす二人ー

「ーでも、綾ちゃん、いっつもすごく不愛想なんだよね~
 仕事はできるんだけどー」

美香のそんな言葉に、
雄一は「へ~」と、頷くー。

「ー最初の日だけはすっごく明るくて
 見た目通りの人だったんだけどね~」

美香のそんな言葉に、雄一は思わず首を傾げながら
「なんだそりゃ」と、言葉を口にしたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

問題が起きたー。

美香の職場の上司が異動になりー
新しくやってきた上司ー

その上司から、美香は嫌がらせを受け始めていたー

「あら、あなたー
 若いからっていい気に乗ってると、痛い目、見るわよ」

周囲の男性社員に仕事を手伝ってもらって
美香がその男性社員にお礼を言っていたその時だったー。

新しい上司として美香のいる部署にやってきた、赤坂(あかさか)という
上司が美香を目の仇にするような言葉を口にしたのだー

「ーー無能のくせして、今までよくやってこれたわねぇ」
怪しげな口調で話す40代後半ぐらいのおじさんー
それが、赤坂部長だー。

聞く話によれば前の部署でもパワハラ問題を起こして
飛ばされてきたのだとかー。

美香の仕事ぶりは決して無能ではないー
家ではあの様子であるものの、仕事はしっかりとしているし、
サボるようなこともないー

だが、若さかー、それとも容姿かー
何か気に入らなかったのだろうー。

赤坂部長による嫌がらせが始まっていたー。

連日続く赤坂部長の嫌がらせに、
次第に元気を失っていく美香ー

そんな日が続く中ー

「どうかしましたか?」と、綾が淡々と尋ねて来たー

「ーー……うん、ちょっと聞いてくれる?」
美香が、不愛想な綾に対して、
赤坂部長の愚痴を口にしながら
普段はほとんど飲まないお酒を軽く飲みつつー、
話を聞いてもらったー

綾は淡々と話を聞くだけでー
お世辞を言ったりはしてくれないー

だが、それでも赤坂部長の愚痴を聞いてくれるだけで、
美香は自分自身が、すぅっと楽になって行くのを感じたー。

「ーーー…赤坂部長が消えてなくなるといいなー」
酔った勢いか、美香はそんなことを口走ると、
「ごめんなさいー、わたし、今日はもうそろそろ寝ようと思いますー」と、
綾に言い放つー。

綾は「わかりましたー。ではわたしはこれで」と
淡々と呟くと、そのまま「おやすみなさい」と、
事務的に呟いてそのまま立ち去って行ったー。

美香は何も考えずに”眠い…”と、
そのまま部屋で眠りについたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「ーーー赤坂部長は今日はお休みですか?」

出社すると、いつも小言を言ってくる
赤坂部長の姿はそこにはなかったー。

”風邪でも引いたのかな?”と、
少し内心では”ざまあみろ”のような感情を抱きながら
先輩社員に確認すると、
「ー今日は欠勤みたいだね」と、頷いたー。

「ーでも部長、連絡もないみたいだけど?」
他の女性社員が言うと、
美香が話しかけた先輩社員は
「ーまぁ、そういう人なんじゃないか?」と、呟いたー。

赤坂部長は普段の振る舞いから、美香以外にも
好かれてはいないー。
どちらかと言うと”嫌われている”部類だー。

そのため、”無断欠勤をするような部長なんじゃないの?”という
空気が部署の中に漂っていて、
誰も赤坂部長のことを心配するような、
そんな素振りは見せなかったー。

だがーー

”赤坂部長”は、何日経過しても会社に姿を現すことなくー
そのまま”姿”を消したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーいつも、本当にありがとうございます」

美香が、家政婦の綾にそう言うと、
綾は「いえ」と、だけ返事をしてー
淡々と片付けを続けているー。

本当に、綾は”何でも”してくれるー
ついつい調子に乗って、面倒なお願いをしても、
それを叶えてくれるー

”大金持ちになりたい”みたいな願いも
叶えてくれたりしてー?

そんなことを内心で思っているとー
ふと、美香はこの前、酔ってしまった時の会話をふと思い出したー

「ーーー…赤坂部長が消えてなくなるといいなー」

今まで、そんなことを言っていたことも忘れていたー。

「ーーーー……!」

赤坂部長が”消えて”から2週間ー

”そ、そういえばー…あの日の後から、赤坂部長が
 いなくなったようなー”

そう思いながら、食器の片づけをしている
綾の後ろ姿を見つめるー。

”「ーーー…赤坂部長が消えてなくなるといいなー」”

その言葉はーー
”お願い”に入るのだろうかー。

”そ、そ、そんなわけないよねー?
 ぐ、偶然だよねー?”

美香がそんな風に思っていると
いつの間にか洗い物を終えて戻ってきていた綾が
「なにか?」と、無表情で美香のことを見つめたー

「え…あ、あのー…え…い、いえ、なんでもないです」
慌てた様子で美香が言うと、
綾は「そうですか」とだけ呟いて、そのまま帰る準備を
し始めるー。

”初めて会ったとき”と、まるで別人のような綾ー。

正直、今の淡々とした雰囲気は
”綾の容姿”から受けるイメージとは真逆な感じで
強いギャップを感じるー。

”得体の知れない”何かを感じるー

「あのっ…!」
美香が、玄関の方に向かって歩いていた綾に声を掛けると、
綾は「はい?」と、呟きながら振り返るー。

「ーーーー…そ、そのー」
美香は自分の心臓がバクバクしているのを感じながら
振り絞るようにして言葉を続けたー。

「ーーー……か、会社の部長が失踪したんですけどー
 な、何か知りませんか?」

とー。

綾はじっと美香のほうを見つめるー
”沈黙”が怖いー。

やがて綾は
「ーーー存じません」とだけ答えて、そのまま立ち去って行ったー

「な…何…?今の間は…?」

答えるまでに30秒ぐらいかかっただろうかー

美香はさらに不安を強めるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーーーーー」

美香の家から出た綾は、ため息をつくー

そしてー
呟くー

「赤坂部長は、もうこの世にいないぜ」
とー。

”「ーーー…赤坂部長が消えてなくなるといいなー」”

そう言われた翌日ー
綾はーーー
出勤中だった”赤坂部長”をー

「ーーーーお前もこの女と同じように”皮”になるんだー」

”襲撃”したー。

注射器を手にー、
それを赤坂部長の首筋に突き刺すー

みるみる”皮”になっていく赤坂部長ー

「まぁ、お前はこいつみたく”着る価値”もないからー
 そのままバラしてやるぜー」

綾がニヤッと笑うー

赤坂部長は”皮”にされて、使い古した衣類のように
普通にゴミ出しされて、”もう”この世にいないー

綾はそんな日のことを思い出しながらー
「お前のためさー」
と、静かに呟いて、そのまま闇の中へと消えたー。

③へ続く

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どんな過激なお願いでも叶えてくれる
謎の家政婦…(?)

次回が最終回デス~!

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皮<過激な家政婦>

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