”身体を賭けた決闘”
西部劇の時代ー
そんな戦いが行われている地域が存在していたー。
しかし、そこに現れた一人の女がー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
パァン!
銃声が荒野の中に存在する小さな宿場に響き渡るー
「がっ……」
胸部を撃ち抜かれて膝をついたのはー
ここら一帯を支配する女ーイヴが従えている
”四天王”の一人、チャーリー。
信じられない、というような表情を浮かべながら
カウボーイハットを落としてー
そのまま地面に倒れ込むー。
これから死にゆく相手を想いー
決闘前に必ず”詩”を口にするチャーリーは、
いつものように、メアリーの死を思い、詩を口にしていたがー
決闘の結果は”己の死”という形で締めくくられたー
「次」
メアリーが冷たい口調で言い放つー
華奢なカウガール姿のメアリーに既に四天王の二人が
倒されたー
宿場の中に存在する一番豪華な建物の窓からワインを飲みながら
その様子を見ていたイヴは
「あの女ー…やるじゃねぇか」と、笑みを浮かべるー
「この身体も、そろそろ少し劣化してきたしー
”乗り換え”時かもなー」
ワインを一気に飲み干したイヴは”憑依銃”を手に、笑みを浮かべたー
「ー他の二人は、四天王の中でも小物ー
けどねー、わたしはそうはいかないー」
四天王の三人目ー、女性ガンマンのキャロラインがそう言いながら
前に出て来るー。
ドレスのような服装で、決闘向けとは思えないー
そんな風貌のキャロラインー。
「ーーそんな格好でいいの?」
メアリーがボソッと質問すると、キャロラインは「えぇ。これがわたしのスタイルだからー」と
余裕の笑みを浮かべたー。
「ーーーー…あなたは”自分の身体”?」
メアリーがそう質問すると、
キャロラインは「えぇー。もちろんー」と頷くー
「わたしに憑依しようと、決闘を挑んできた男は今までに何人も
いたけれどー、その都度、この銃で頭を撃ちぬいてやったわー」
キャロラインは銃を手にそれをペロリと舐めるとー
「この銃が次に撃ち抜くのは、あなたー」と
静かに微笑んだー。
決闘の準備が始まるー。
合図を待つ二人ー。
「ーーーーー」
メアリーはすぅっと、深呼吸をして、
気持ちを整えるー
”あと少し”
メアリーはそう呟くー
”あと少し”で、”憑依銃”を根絶できるー。
この宿場一帯を根城にしていたガンマンたちは知らなかったが、
この1、2年で”憑依銃”を持つガンマンや
憑依銃を使うグループは大幅に減っていたー
メアリーが”憑依銃”に関係するガンマンがいる
場所に次々と乗り込み、次々と始末しているからだー。
残るはイヴ率いるこの場所と、
”憑依銃”を最初に作り出したと言われる伝説のガンマン”ロジャー”が
支配している一帯のみー。
「!」
合図が聞こえて、
メアリーとキャロラインが同時に振り返るー
「ーー!!!」
一瞬ー、キャロラインの方が早く見えたー。
だがー、
メアリーの方が”正確”だったー
キャロラインの銃弾は、メアリーの頬をかすめただけでー
命中せず、メアリーの銃弾は、キャロラインの頭部を撃ち抜いたー。
「ーーーはぁ…はぁ」
初めて動揺を見せたメアリー
”今までの連中”より、キャロラインは強かったー。
あと一歩ー、あとほんのわずかな差を埋められていたら危なかったー
そう思いつつ、最後に残った四天王・アンディのほうを見つめるー。
「ーーーー逝ったか キャロラインよ」
盲目のアンディはそう言うと、銃を手に、メアリーの前に
やってきたー
「ーー貴殿は”内に潜むもの”だなー?」
アンディの言葉に、メアリーは表情を歪めるー
「ーその身体と、内側から発される”気”が違うー。
その身体を奪った、別の人間だな?貴殿はー」
アンディの言葉にメアリーは「だったら何?」と呟くー
”メアリー”は、既にメアリー本人ではないー。
かつて、”決闘”を行い、対戦相手の男に敗北ー
その男が憑依銃を使っていたため、
メアリーはその男に身体を乗っ取られてしまったのだー。
その後、欲望の限りを尽くしてきたメアリー。
だがー
ある時ー、
考えは変わったー
他のガンマンとトラブルを起こし、ボロボロになったメアリーを
メアリーの親が助けてくれたのだー
”俺はあんたらの娘じゃないのにー”
そう思いながらも、メアリーの家族が、”メアリーに憑依した自分”を
本当の娘を助けるかのように愛情を注いでくれたことにー
メアリーに憑依した男は涙したー。
男は、家族の愛情を知らずに育ったー
それゆえ、男は涙せずにはいられなかったー
「ーあんた、メアリーじゃないんだろ?」
出立する直前、母親からそう言われたー
メアリーに憑依している男は表情を歪めるー
「自分の娘のことだものー。見れば分かるよ」
母親はそう言うと、
メアリーは「じゃあ…なんで?」と、言葉を口にするー
”憑依された娘”と知っていながら、
この両親は、必死に自分を助けてくれた、ということなのだろうかー?
そう思いながらメアリーが母親の返事を待つとー
母親は目に涙を浮かべながらー
「もうメアリーじゃないと分かってても、それでもー」と、
そう呟いたー
娘のメアリーは誰かに憑依されているー
そうは分かっていても、この両親は放っておけなかったのだろうー
身体は”娘”なのだからー。
もしかしたら元に戻るかもしれないという希望ー、
あるいはーーー
メアリーに憑依した男はー
そんな母親の言葉を聞いて、
後悔したー。
他人に憑依したことをー
他人の身体を奪ったことをー
そしてー
せめて自分にできる罪滅ぼしはーー
”憑依銃をこの世から消し去ること”ーー
そう、思ったー。
それから数年ー
メアリーに憑依した男は、
メアリーの身体で戦い続けているー
憑依薬根絶のためにー。
「ーークククーお前みたいな綺麗な姉ちゃんの身体が手に入ったらー
ぐへへー 人生、楽しそうだぜ」
「ーー……父の病気を治すため、絶対に負けません」
自分が、メアリーと対決した時のことを思い出すー。
”この女は、父親を助けようとしていたー
あんな、素晴らしい家族をー”
メアリーに憑依した男が、メアリーの家族に助けられた際にはー
父親はすっかり衰弱していたが、それでもメアリーを心配してくれたー
あんな暖かい家族の未来を、自分は奪ってしまったー。
「へへへへへ お前ら見たか!
この女は俺様のものだ!」
「おぉぉぉ…ベンジャミンのやつ、やりやがった!」
メアリーに憑依した男・ベンジャミンは思い出すー。
あの日、メアリーに憑依した時のことをー。
”この女のようなー
この女の家族のようなー
悲しみを繰り返さないためにも、俺はーー
憑依銃を根絶するー”
そう思いながらー
銃を放ったー
「ーーーー…見事ーーー」
最後の四天王・盲目のアンディがその場に倒れ込みー
四天王は全滅したー。
奥の建物からこの街を支配する女ボス・イヴが
拍手をしながら姿を現すー。
「ーーー素晴らしい腕前ねー」
イヴが笑いながら近づいてくると、その手には
薔薇のような模様が刻まれた銃を持っているー。
「ーーー…憑依銃ー」
メアリーが呟く。
デザインは人によって違うが、
”通常の銃”と”憑依銃”は撃ちだす弾丸が異なるため、
形状が若干異なるー
”知っている”人間が見れば
相手が持っている銃が、どっちだかは分かるー。
「ーあなたを倒して、あなたの身体を貰うわー」
クスクスと笑うイヴー。
「ーーーーー負けない」
メアリーはそれだけ言うと、イヴに背を向けたー
イヴはクスッと笑うとー
「あなたも”わたしと同じ”なのねー」と、笑みを浮かべたー
「他人の身体を奪った者同士、仲良くしない?
今ならあなたを、新しい四天王の一人にしてあげてもー」
「ーーー断る」
メアリーは、イヴの言葉を途中で遮り、イヴの誘いを断るー。
少し腹を立てたイヴは”絶対にお前の身体を奪ってやる”と、
メアリーから離れた場所に立ち、背を向けたー
撃ち合いの合図を待つ二人ー。
静まり返り、二人を見守る周囲の荒れくれ者たちー。
”ククククーお前は俺には勝てない”
イヴに憑依している男が笑みを浮かべるー
イヴに憑依した男は”絶対的な反射神経”を持つー。
誰よりも早く合図に反応できず自信があるし、
誰よりも早く振り返り、相手に銃弾を叩きこむことが出来るー。
そんな自信があるー。
それは決して自信過剰などではないー。
何故ならこうして、この一帯のボスとなれるぐらいに、
数々の人間を下してきたのだからー。
四天王も”模擬戦”でー
全員力でねじ伏せて仲間にしたものたちだー。
あの4人も、それぞれがかなりの実力を持つ者たちだったー
イヴはその上に立っているー。
「ーーー”次はお前の身体を堪能させてもらうぜ”」
イヴは小声でそう呟くと、すっと深呼吸をしてー
その時を待ったー
メアリーも、合図を待つー
そしてー
撃ち合いの開始を知らせる合図が、鳴り響いたー。
「ーーーー!」
「ーー!!!」
お互いに振り返って銃を相手に向けて、放つー
”勝った”
イヴは笑みを浮かべるー。
やはり、早かったー
自分の方が、早かったー。
イヴが振り返り終わって、銃弾を放った時、
まだ、メアリーは銃弾を撃つわずか前だったー
”ーーー!!!”
それには、メアリーも気づいたー。
四天王・キャロラインの時とは違うー。
”確実に”あっちの方が早いのは分かったしー
キャロラインの時と違い、狙いも正確ー。
だがーーー
メアリーは思うー
”それでも、わたしは負けないー”
とー。
銃弾をほんの「0.いくつか」そのぐらい遅れて
撃ち出すー
先にーーー
”憑依銃”の銃弾がメアリーにあたるー
だがーーー
「ーあんたがー”実銃”を使ってたら、引き分けだったー」
メアリーがそれだけ言うと、自分の額に命中した憑依銃の弾を
手で掴みー、
それを荒野に放り捨てたー
「ーーーーー…」
メアリーの反対側に立つイブは、頭を撃ちぬかれて倒れていたー。
”憑依銃”には殺傷能力はないー。
”命中”した時点で、撃った人間が”死んでいれば”ー
何も意味がないただの物体でしかないーー。
「ーー”銃”ー
あんたはそのメンテナンスを怠ったー」
メアリーはそれだけ言うと、倒れ込んだイヴを憐みの目で
見つけながら、”元の身体の持ち主”に黙とうをささげて
そのまま立ち去って行ったー。
メアリーは、いや、メアリーに憑依しているベンジャミンは
元々”銃”の改良にも力を注いでいたー。
”ほんのわずかでも弾速を早めるためにはどうすれば良いか”
それを常に考え、カスタマイズに余念がなかったー。
イヴの方が確かに早かったー。
だがー、イヴの銃より、メアリーの銃の方が弾速が早かったー。
結果ー
先に放たれたイヴの銃弾よりもー
わずか0.1秒ー、いや、それ以下だろうかー
後に撃ち出されたメアリーの銃弾の方がー
先にイヴに到達、イヴを貫きー、イヴは憑依銃の銃弾がメアリーに
到達する前に、即死したー。
結果ー、メアリーに命中した憑依弾は意味をなさずー、
イヴは敗北したのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日ー
「ー手段は選ぶな!ぶち殺せ!」
”伝説のガンマン”ロジャーの根城に乗り込んできたメアリー。
馬を走らせて、
華奢な身体からは想像もつかないほどの早撃ちで、
荒れくれ者たちを葬り去っていくー
”憑依銃”を持つ最後の一人、伝説のガンマン”ロジャー”
その根城に単身乗り込んできたのだー。
イヴの街とは違いー、
決闘ではなく、実力行使でメアリーを排除しようとするロジャー。
だがー、1対大勢であっても、次々と部下が倒されていき、
ついに残るはロジャー一人になったー。
「ー小娘ー。」
ロジャーが表情を歪めるー
そんなロジャーに対して、メアリーは「憑依銃を、消滅させるのがわたしの役目」と、
言い放つー。
「ーふんーやれるものならやってみなー」
ロジャーとメアリーが互いに背を向けるー。
だがー、
”合図”を前に、メアリーはロジャーのほうを向いて撃ち抜いたー
”イヴ”のように、一応は”ルール”に沿って決闘を申し込んできた人間には
正々堂々応じるー。
だが、このロジャーのように、
”ルール無視でいきなり部下を使って殺そうとしてきた人間”には容赦しないー
1対1になったから今更決闘何て言われても、応じるつもりはないー。
下法には下法をー。
ルール無用で勝負を挑んできたのは、そちらだー。
最後の憑依銃の持ち主、ロジャーが倒れ込んだのを見て、
メアリーは静かに呟いたー
「これで少しは、罪滅ぼしに、なるかー?
いいやー…ならない、かー」
メアリーはそれだけ呟くと、馬に乗って走り去っていくー。
その後の彼女の行方は、誰も、知らないー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
西部劇X憑依のお話でした~!
最後は、イヴの後、伝説のガンマンのところに向かうところで
終わりにしようと思っていたのですが、
残しても仕方がないので、伝説のガンマンも葬っちゃいました~笑
お読み下さりありがとうございました!
コメント
無名さん遅れましたが新年明けましておめでとうございますm(._.)m
今年も宜しくお願いします(^o^ゞ
流石ですね!
新しいジャンルに挑戦しても面白いです\(^o^)/
メアリーはベンジャミンだったんですね!
ハッピーエンドで良かったです。
バッドエンドになるんじゃないかなと…思ってました汗
安心しました(^-^)/
多分あのあとメアリーは病気でくるしむ人達の役に立つことをしたんじゃないかと想像しました!
あとは悪党を壊滅させたんでしょうね!
ベンジャミンが思った以上に強くてビックリしました!
確かに相手と同じ銃じゃないしメンテナンスもそうだし改良も大事ですよね…さすが無名さんですね(*^o^)/\(^-^*)
ベンジャミンはメアリーに憑依して銃もメンテナンスしてましたがカラダのメンテナンスも日頃からちゃんとしてたんですね笑
綺麗なお姉さんのままですからね!
わわ!先に後の方のコメントを見てしまいました~笑
2度目のあけましておめでとうございます~!★
ベンジャミンはやりたい放題をしてきたからこそ
色々な経験をして、強くなったのかもしれませんネ~!
メンテナンスはどんなところでも欠かせないのデス…!
笑笑
ダブってすみません笑笑
なんかコメントの仕方の最後が変わってて汗
ベンジャミンが元々ワルなのもあってロジャーに対して容赦ないのが正解でしたね!
あっ!!
自分も憑依銃欲しいです笑笑
いえいえ~!全然大丈夫ですよ~!☆!
憑依銃を探し求めて過去の時代へ…☆笑
無名さん明けましておめでとうございます!
今年も宜しくお願いしますm(._.)m
新しいジャンルも面白いですね♪
メアリーはベンジャミンだったんですね!
ベンジャミン強いし銃の事までしっかりしていてビックリしました!
ハッピーエンドで安心しました(^-^)
TSマニア様~!
あけましておめでとうございます~!
①冒頭のキャラは、イヴの方ではなくメアリーでした~★!
楽しん下さってありがとうございます~!!
ロジャーは憑依銃を持っていたのに誰にも憑依してない?
彼は憑依銃の売人で自分で憑依する気はない?
それとも既に誰かに憑依して生活していたのか?
コメントありがとうございます~!☆
ロジャーは憑依銃の大本(最初に流通させた人物)で
彼自身は緊急事態が起きない限りは使うつもりはありませんでした~!