彼はー
100を超えるアカウントをSNS上で持っていたー。
見ず知らずの他人に”変身”して、自撮りを投稿し、
ネット上で別人として振る舞う男ー…
そんな彼の日常とはー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーふふふふふふ」
可愛らしい少女が笑みを浮かべるー。
”菜々”と、書かれたツイッターのアカウントに
自分の自撮り写真を投稿しながらー
その投稿につく”いいね”や”かわいい”というコメントを見て
嬉しそうに笑みを浮かべるー。
「ーーー…へへへへー
清楚な子って可愛いよなー
”俺”もそう思うぜー?」
”菜々”を名乗る彼女はー
外見や声とは”まるで別人”のような言葉を吐き出すと、
静かに笑みを浮かべるー
彼女の名前は”菜々”ではないー。
ネット上では、本名ではない名前を使うことも多いー。
だから、”菜々”を名乗る彼女の本名が
”菜々”でなかったとしても、それは別に珍しいことではないしー、
特別なことではないー。
しかし、”彼女”の、いいやー”彼”の場合は
そういう話ではないー。
彼は”菜々”を名乗る彼女の名前を知らないー。
何故ならーーー
「ーへへへへへへ…」
笑みを浮かべながら、”菜々”を名乗る
可愛らしい少女の姿が、突然スライムのようにドロドロとした
状態になりー、”人型のスライム”のような姿になるー。
そしてー、
数秒で、今度は、中年の小太りのおじさんの姿に変わるとー
おじさんは笑みを浮かべたー
これがーー
彼の本当の姿ー。
岩滝 源三(いわたき げんぞう)ー
彼はーー
”他人に変身する力”を、持っていたー。
左目で見つめた相手に変身する力だー。
以前、目の病気を患い、その治療をした際に、
病院側のミスがあり、彼は失明してしまったー
しかしー
何が起きたのか、その数日後ー
源三の視力は急激に回復ー
しかもー
その左目で”特定の相手を数秒間”見つめ続け、その相手になりたい、と念じることでー、
その相手の姿に変身できることに気付いたのだー。
それ以降、源三は”他人に変身”できるようになったー。
何故かはわからないー。
だが、結果的に目の病気になったり、
目の手術でミスがあったりー、
そういう悲劇的な出来事の連続がなければ
今の幸せを手に入れることはできなかったー。
源三は笑みを浮かべながらー
パソコン上に”写真”を表示するー
先程まで変身していた”菜々”ー、
他にも多数の女性やイケメンー、色々な種類の人間の写真が
飾られているー。
”ゆみ”で行くかー。
そう思った源三は、”ゆみ”と書かれた写真を見つめるー。
そしてーーー
再びスライムのような形状になるとー
その写真の女”ゆみ”に、変身したー。
彼はーーー…
街で”お気に入りの人間”を見つけると、
その姿に変身しー、
”コレクション”を集めているー
それがー
彼のパソコンに保存されている写真たちだー。
変身能力を得た彼は、色々試していくうちに
”写真”相手であっても変身することができるー、
ということに気付いたー。
当初は、街中で偶然見かけた可愛い子に変身して
色々楽しんでも、
一度変身を解除したり、次の姿に変身したりすると、
”もうその子には変身できない”状態だったー。
見ず知らずの街を歩く人と”再会”することは
現実的には困難だからだー。
しかし、ある日ー
彼は気づいたー
アイドルが出演するテレビ番組を見ている際にー
”あぁーこの子になりたいなぁ”と思いながら
見つめていたところー
何と、自分がそのアイドルの姿に変身したのだー
テレビ越しでも変身できるー。
そこから、写真越しでも変身できることに気付いた源三は
”ある方法”で、
変身コレクションを集めるようになったー。
それはーー
”変身した状態で自撮りを撮影”しておくことー、だ。
”本物”でなくても、
”変身した状態の自分”の写真を保存しておけば
その写真を見ることで”過去に変身した相手の姿”にもう一度なることが
できることに彼は気づいたー。
そのため、
”初めて変身した相手”は、必ず自撮りをして、
写真を保存しておくようにしているー
そうすれば”またいつでも”ー
もう2度と本人に会えなかったとしても、
その姿に変身できるのだからー。
そうして”コレクション”を増やした彼は今ー、
SNSに…ツイッターにはまっていたー。
”大量のアカウント”を作りー
あるお楽しみをしているー。
ツイッター上では、”複数のアカウント”を持ち、
アカウントごとに別人のように振る舞っている人間も少なからずいるー。
だが、ネット上でどんなに別人のように振舞おうとも、
身体はひとつー。
結局、他人として振る舞うには限度があるー。
だが、彼は違うー。
”菜々”のアカウントを閉じて”ゆみ”のアカウントを開く源三ー
夫と一緒に歩いていた”通行人”の姿だー。
源三が住むベランダから、その姿が見えたために
”変身”して、以降は彼のコレクションの一つとして
その姿を利用し続けているー。
”ゆみ”という名前は本名ではないー
”偶然”本名と一致している可能性はあるがー、
この姿の”本物”とはそもそも面識がないし、
あの日”ベランダから見えた”以外、直接見たこともないー
当然、本名も知らないし、何も知らないー。
”本物”も、源三のことなど知らないだろうし、
”源三が自分の姿に変身して勝手にSNSで使われている”
ことも知らないだろうー。
「ふふふふふー」
”ゆみ”として自撮りを繰り返す源三ー
源三はSNSで”100”を超える人間を演じ、
楽しんでいたのだー
他人に変身できる以上ー
自撮りも自由自在だし、スケジュールを合わせれば直接会うことだってできるー。
そしてー
SNS上の付き合いであればずっと一緒にいるわけでもないためー
”何人もの人間を演じることができる”のだー。
”今日も、夫が帰って来ません”
”ゆみ”は、
自由奔放な夫に振り回される人妻ー…
と、いう”設定”のアカウントだー。
本物の”ゆみ”はー、
名前も違うだろうし、夫との関係も知らないがー
源三は一人ひとりの姿に”設定”を作って、色々な人間として
SNS上で反応を楽しんでいるー
さっきの”菜々”は一人暮らしで頑張る女子大生、という設定の
アカウントだー。
「ーーへへへへ…今日も同情させてるぜー ゆみちゃん」
”ゆみ”のアカウントで、フォロワーから同情が
集まると、笑みを浮かべるー。
源三はー
基本的に”有名人”に変身したりはしないー。
仮に、人気アイドルに変身してSNSを始めてもー
すぐに問題になるだろうー。
ニセ垢扱いされても、本人と同じ姿をしている以上、
”わたしが本物です!”みたいな動画を出すこともできるがー
大問題になってしまい、
万が一”変身”能力が世間に知れ渡っては困るー
だからこそー
”見ず知らずの人間に”変身しているのだー。
”めいめい”
そんなアカウントを開くー
本名”愛唯”という設定のアカウントでー
自殺を考えているメンヘラな感じの子ーという設定のアカウントだー。
今日もー
”わたし、もう死のうかな”
みたいなツイートを繰り返し、
フォロワーから慰めてもらうー
「ぐへへへーありがと」
”愛唯”は、ベランダから見かけた下校中の女子高生の姿だー。
本人は楽しそうに友達と話をしていたし、
自殺なんて考えていないだろうがー、
何となくそういう設定で、この姿を使っているー
”あきら”は、アカウント削除だなー
そう思いながら”あきら”と書かれた写真を見つめるー。
”あきら”は、炎上するようなことばかりしている
”アホ”なアカウントとして運用していたがー
あまりに拡散されてしまったために
”この姿”の本物の知り合いにも見つかってしまいー
”え、蘭!?何してるの!?”と、言われてしまったー。
”他人の空似”ということにしてごまかしたがー
これ以上続ければ面倒なことになるかもしれないしー
”アカウントを削除”することにしたー。
だがー
アカウントを削除してすぐに、
源三はさらに次のアカウントに切り替える
”みおっち”
これは、”ゲーマー女子”を装っているアカウントー。
”本物”はゲームをやるのかなど知らないが、
ゲーム好きからたくさんフォローされていて、
元々ゲームが好きな源三は、よく”みおっち”に変身して
ツイートしたり、配信したりしているー。
”低浮上のくまさん”
これは、その名の通り低浮上なアカウントー。
ベランダから見える大通りを歩いていた
”やる気のなさそうな女子高生”の姿に変身して
作ったアカウントだー。
その子の顔が可愛いからかー、
たまに浮上すると、フォロワーが妙に喜ぶのが面白いー。
”つぐみの裏垢♡”
裏垢風アカウントー。
家にやってきた保険会社の営業の女子がしつこかったため、
インターホンのモニター越しに変身ー
その姿を使って、裏垢女子風アカウントを作って、運用しているー
”本人”は、まさか自分の姿がそんな、
裏垢女子のようなことをさせられているとは気づかないだろうー。
顔は一部しか出していないためー、
あの保険会社の女本人が見ても、恐らく気付かないと思うー。
源三はー
今日も”今まで変身した人々”の姿を存分に使いー、
自分の多数のアカウントで、フォロワーたちの反応を楽しんだー
「あ~~~あ ”KEI”炎上してらぁ…」
源三は笑うー。
KEIは”面倒くさい話題”を扱うアカウントー。
この子も、ベランダから見える大通りを歩いていた女に変身して
その姿で運用しているアカウントだが、
ツイッターでは”炎上”を招きかねない話題ばかりをしている
アカウントでー、案の定、今日も炎上していたー。
「ーーーへへー
ツイッターで色々な人生を味わえるのーたまんねぇぜ」
源三はそう呟くと、
”今日はそろそろ終わりにするか”と、
変身コレクションとも言えるー、パソコンに保存した画像たちを閉じてー、
そのまま1日を終えたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”見知らぬ人に変身して”
”勝手に適当な名前でツイッターのアカウントを作り”
”それぞれ、異なる人間を演じる”
それがー、源三の変身能力の楽しみ方ー。
それ以外のことに使うことはなくー
直接的な悪事に変身能力を使ったりすることはないもののー、
”勝手に姿を使われる人たち”からすれば、
たまったものではないことは事実だったし、
”身に覚えのない自分”の写真が載っていることはー、
当事者たちからすれば恐ろしいことだったー。
通常ー
ネット上や、その他の場所で”自分の写真”が勝手に
使われていたとしてもー
それは”本人にとって身に覚えのある写真”だー。
しかし、源三に”勝手に変身された”当事者たちはー
”自分に身に覚えのない自分の写真”が使われているためー
普通ではありえない恐怖を感じることになるー。
そしてー
ここにもそんな人間が一人いたー。
「ーね~ね~麻耶(まや)~!これ、麻耶?」
女子大生・麻耶がいつものように大学で
過ごしていると、友達の一人からそんな言葉をかけられたー
「え?」
麻耶が、友達に見せられたスマホを確認するとー、
そこには”コスプレ大好き葵ちゃん”と書かれたアカウントが
表示されていてーーーー
”麻耶のコスプレ姿の写真”が
たくさん掲載されていたー
「えー……な…な…何…これ?」
麻耶が困惑するー
確かに”わたし”だー。
けれどー
麻耶はバニーガールの格好をしたこともないし、
巫女服を着たこともないし、
ラバースーツを着たこともないー。
それなのにー
そのアカウントにはー
”バニーガール姿の麻耶”や、”ラバースーツ姿の麻耶”の
写真が載っているー
”全く身に覚えのない”わたし”の写真”が
そこにあるー。
源三はーーー
ベランダから見える大通りを歩いている人々に”変身”しているー
そのため、”変身されてしまった本人”は
そもそも自分の姿が誰かに使われていることに気付いてすらいないー
”気づかぬうちに勝手に”姿”を使われている恐怖ー”
それを今、麻耶は味わっていたー。
麻耶は震えながら
”コスプレ大好き葵ちゃん”のアカウントを見せて来た友達を
見つめるとー
「ーーこれ…なに?」
と、今一度聞き返したー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
変身能力を使って、
ツイッター上で、色々なタイプの人を演じている男の物語デス~!
100もアカウント作ったら凍結される気もしますケド、
これはフィクションということで~☆笑
続きはまた明日デス~!
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