<憑依>1年後の美貌 ~その、十年後~(前編)

高校3年生の橋山 隼吾(はしやま じゅんご)ー

彼は憧れのクラスメイトである
影野 千奈津(かげの ちなつ)に憑依してー
その人生を奪ったー。

しかしーーー
結局”憧れの存在”にはなれなかったー。

それでも、彼は前に進むー。

けれどー…

※「1年後の美貌」の続編デス!
先に本編を読んでくださいネ~!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

20代後半になった千奈津は、
机の上に飾られている
”高校時代の写真”を見つめるー。

「ーーーーー」
それを見て、穏やかな表情を浮かべると、
千奈津は家事をするために立ち上がるー。

影野 千奈津ー。
現在はアニメに関係する会社に勤務して
順調な日々を送っているー

そんな千奈津はー
千奈津であって、千奈津ではないー。

約18年間ー。
彼女は彼女として生きー、
そしてクラスメイトの隼吾に”憑依”されてしまったー

それから10年。

18年と10年ー
あと、8年もすれば”隼吾の方が”千奈津として生きている時間は長くなるー。

けれどー
何年が経過しようともー
”自分が千奈津を乗っ取った”という事実は消えないー。

それを忘れないため”戒め”として、
その写真を机の上に飾っているー。

10年前ー
隼吾は、クラスメイトの千奈津に憑依したー

当時、千奈津に好意を抱き、告白しようとしていた隼吾ー
誰にでも優しく、明るく、可愛くー
美貌も友達も何もかもを持っていた千奈津ー。

けれどー
近所の雑貨屋で手に入れた憑依薬を使いー、
千奈津に憑依した隼吾は”思い知ったー”

僕では、影野さんになることはできないー、とー。

はじめのうちは良かったー。
だが、すぐにそれは”壊れた”

たった1年でー。

大学1年生になった頃には
”不規則な生活”の繰り返しで千奈津の美貌は失われー、
隼吾の身勝手な性格が災いして”千奈津の人間関係”も失われー
隼吾の頭では千奈津のように、勉強で成績を取ることもできずー、
”優秀な成績”も失われたー。

”脳”は千奈津のものを使っているはずなのだがー、
天才の脳を使えば天才になれるのかー?と言われると
答えはNoだということなのだろうー。

何もかも失い、自暴自棄になった千奈津ー

激太りして、見る影もなくなった千奈津ー。

苛立ちをぶつける毎日ー。

しかし、そんな”千奈津になった隼吾”を救ったのはー
”雑貨屋の店主”だったー

彼も”千奈津に憑依した隼吾”と同じだったのだー。

”雑貨屋のおじさん”は高校時代
”イケメンだった憧れの男子に憑依した女子マネージャー”の慣れの果てだったのだー。

憑依薬は”戒め”のためにお店の後ろに並べていたのだとー。

それを知り”僕と同じ境遇の人がいる”と知った隼吾はー
千奈津の身体でー
”憧れの人生”を得ることはできずともー
このまま”生きていく”ことを決意したー。

それから9年が経過ー
憑依してから合計10年が経過した今ー
千奈津に憑依した隼吾は”それなり”の生活を送っているー

「ーーおはようございます~」
千奈津としてー”憧れの千奈津”にはなることはできなかったけどー
今では標準体型に戻りー、
美人ー、とは言えないまでも、”それなり”の体形を維持しているー。

”千奈津として”
それなりの人生を手に入れた隼吾はー
”憑依したこと”を今では後悔していなかったー。

会社ではー
”大好きなアニメ”に関わる仕事であることからかー
千奈津はとても熱心に仕事をしていたー。

主にグッズに関係する仕事だがー、
千奈津がー、いや、隼吾自身が好きなアニメに関係する仕事が
入ってくると、千奈津は本当に舞い上がってー
嬉しそうに仕事をしていたー。

”影野さんは、本当にアニメが好きだなぁ”

”影野さんと一緒にいると、こっちまで楽しくなるよー”

同僚社員からも、次第に千奈津は認められー
会社に無くてはならない存在になったー。

”千奈津本人”は、アニメに全く興味がなかったー
それが、今ではアニメ関連の仕事を嬉しそうにこなしているー。

”仕事”と言えばそれまでだがー
小さい頃からの千奈津を知る人間は、千奈津の豹変ぶりに驚いていたー。

しかしー…
”順調”な人生がいつまでも続くとは限らないー

やがてー、
千奈津は先輩の1歳年上のアニメ好きの男、誠也(せいや)と付き合い始めー
後に婚約したー。

”僕が、男の人と結婚することになるなんてー”と
一瞬思いながらもー
もうー、”10年も”女として過ごして着ていた隼吾は、
特に違和感もなく、本当に誠也のことが好きになっていたー

「ーーー僕が僕のままだったら、一生独身だったかもしれないしー
 やっぱり、憑依して良かったかも」

そんなことをふと呟く千奈津ー。

「ーーなんてー…もう10年も経っていると
 ”僕”って言うほうが違和感すごいよね」

千奈津は一人、そう呟くと、今日も家事を始めるー。

だがーーー
千奈津は気づいていなかったー。

”人の身体を奪って生きる”ー
それはー、そう簡単なものではない、ということをー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーうん!またね~!」

今日も仕事を終えて千奈津が
”婚約者”にもなった誠也に対して手を振り、
自宅に帰ろうとするとー
目の前に、女が姿を現したー。

「ーー久しぶりー」
女はそう呟くー

「ーーえ」
千奈津が表情を歪めると、
その女は、自分の名前を名乗ったー

沢木 美乃梨(さわき みのり)ー。

千奈津の高校時代の友人の一人でーーー

「--え~?あいつきもいだけじゃん~!
 よくあんなやつと付き合ってられるよね~」

「---そういう言い方されると不愉快なんだけど!」

「--え?何怒ってんの?
 本当のこと言っただけじゃん!」

千奈津に憑依したばかりの隼吾がー
性格の悪さを発揮してーーー
”喧嘩”になった相手ー。

「ーーーーーあ、み、美乃梨ー」
千奈津として、受け答えをする隼吾ー

だが、美乃梨に敵意があるのは明白だったー。

あれ以降、”どんどん性格が悪くなっていく千奈津”と、美乃梨は
次第にさらに険悪なムードになっていき、
最終的には”絶縁”状態になったー。

今ではー隼吾は”あの時の僕はどうかしてた”と、
自分の振る舞いを反省しているー

”憧れの子の身体”を手に入れたことで、有頂天になりー
”影野さんに憑依すれば、僕は影野さんになれる”と、
そう思っていたー

けど、違ったー。

人は、”中身”と”外見”が揃って初めて、
その人本人なのだー

”影野 千奈津”という人間は
”千奈津の身体”と”千奈津の中身”が揃ってこそ、影野千奈津ー。

だからこそー
隼吾は、千奈津に成りきることが出来ずに、
一度はあっという間に全てを失ったー。

今の自分の人生はー、
雑貨屋のおじさんとの会話を通して、そのことに気付きー
”自分自身で作り上げたもの”だー。

本来の千奈津が通るはずの未来ではなかったはずー。

「ーーそうやってー”また”わたしから奪って、満足?」
美乃梨がうんざりした表情でそう呟くー

「な…なんのことー?」
千奈津が困惑しながら言うとー、
美乃梨は表情を歪めたー

「ー誠也と、付き合ってるんでしょ?」
とー。

千奈津は「え」と、声を出すー

誠也とは、既に婚約した
”同じ会社の同僚”であり、千奈津の彼氏だー。

その誠也のことを、何故知っているのかー?

そう思っていると、美乃梨は言葉を続けたー

「ーわたしがあの人のこと好きだって、知っててー
 ”そういうこと”してるんでしょ?」

美乃梨は言うー。

今、千奈津の会社にいる誠也は、美乃梨が通ってた大学の先輩でー
美乃梨も良くお世話になった先輩なのだというー。

結局、告白できずに誠也は卒業ー、
美乃梨と誠也は付き合ってはいないし、誠也からすれば
美乃梨はもう”過去の人”なのだがー、
その誠也が、千奈津と婚約したという情報を、人伝に聞いた美乃梨は
怒りを露わにしていたー

「え…え…?な、なんでそうなるのー?」
千奈津は困惑しながら言うー。

美乃梨とは高校までは一緒だったが、大学は違ったー。
美乃梨とは絶縁状態だったため、誠也のことが好きだったなんて知らないし、
そもそも同じ大学であったことも知らないー。

「ーーあんたー…最低な女だよね」
美乃梨が千奈津を睨みつけるー

「ーーえ… そ、そんなの逆怨みだよ!」
千奈津が思わず反論すると、
美乃梨は怒りの形相で「高校を卒業したあとー、わたしにしたことを
忘れたなんて言わせない!」と、千奈津の胸倉をつかんできたー

「ーーっっ…!」
千奈津は表情を歪めるー

”僕が、したことー?”

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー美乃梨なんかより、わたしの方が可愛いんだからー」

高校卒業後ー、
千奈津に憑依した隼吾は
”男を誘惑すること”にも快感を覚えていたー。

”可愛い”を手に入れてー
”人気者”の立場を手に入れてー
まだ有頂天だった頃だー。

「ーーーち…千奈津ちゃんー」
ドキドキした様子で相手の男子・健太郎(けんたろう)が
千奈津のほうを見るー

高校卒業後の春休みー
既に千奈津は、髪の手入れなどをしなくなって髪が傷みつつあったしー、
体重も少し増えてはいたものの、
元々”とても可愛い”容姿だった千奈津はー
まだ完全に”劣化”したわけではなく、
それなりに可愛かったー。

”最低な性格”を露呈し、友達との間には
既に亀裂が入っていたとは言えー、
こうして誘惑することはまだできるー
そんな状態だったー

いやー…”性格の悪さ”から、友達を失いつつあった当時の千奈津は
余計に”自分の身体で誘惑する”ということに快感を
覚えていたのかもしれないー。

「美乃梨と別れて、わたしと付き合わない?
 あんな女、捨てちゃえばいいじゃんー

 わたしならー、毎日毎日一緒に楽しくしてあげられるしー」

千奈津が囁くようにして言うとー
健太郎は「ち…千奈津ちゃんー」と、困惑した様子で
笑みを浮かべながらも顔を真っ赤にしたー

有無を言わさずー、健太郎にキスをしてみせる千奈津ー

”女子として誰かとキスをする”
そんなことに隼吾はドキドキしながら
満面の笑みを浮かべるー。

相手はー
卒業式直前に、
千奈津が美乃梨に対して

「--え~?あいつきもいだけじゃん~!
 よくあんなやつと付き合ってられるよね~」

と、言った相手ー。

だがーもはや隼吾は、”千奈津として上手くいっていない”
状況からか、なりふり構わず、欲望を満たしー
”人の心をつなぎとめること”に躍起になっていたー

そしてー、千奈津は”憑依される前の親友”であった美乃梨の彼氏を奪いー、
その後、その彼氏に対し、”可愛いから何でも許される”という
持論を展開、好き放題しすぎた結果、あっという間に振られてしまいー、
かつ、美乃梨とも絶縁状態になってそれきりだったー

あれからー
美乃梨とは一切連絡を取っていなかった千奈津ー。

千奈津として10年以上の時を過ごした隼吾は
今にして思うと”あの時の僕は本当にクズだった”と、改心しているがー
目の前にいる美乃梨にとって、そんなことは関係なかったー。

「今度は、誠也まで奪うんだ わたしからー」
美乃梨はそう言い放つと、
憎しみの目で千奈津を見つめたー

「呪ってやるー」
とー。

「ーーみ、美乃梨ー…本当に、本当に、あの時は、ごめんなさいー」
千奈津は、慌ててそう謝罪するー

しかし、美乃梨にそんな言葉は響かなかったー

「あんたのこと、恨んでる子ー多いよー
 同窓会ー 呼ばれてないでしょ?

 そこで、あんたに対する”恨み”トークで盛り上がったのー」

美乃梨はそう言いながら笑みを浮かべるー。

「ほ、本当に、ご、ごめんねー… 
 わ、わたし、い、急いでるからー」

”あの時の僕”のことは、自分でも忘れたいー。
耳を塞ぐようにー
過去の自分から逃げるように、千奈津は
早足で立ち去っていくー

「ーーーー絶対に許さないー
 あんたのことーーー
 絶対に呪ってやるから!」

美乃梨のそんな言葉が、
帰宅した千奈津の耳に、いつまでもいつまでも響き続けていたー。

”憑依してから10年”ー

例え”容姿”をある程度取り戻してもー、
健康をある程度取り戻してもー、
改心したとしてもー

”過去の傷跡”は全ては消えないー。

”人生についた傷”は
決して消えないー。

消えたと思っても、
どこかで必ず”残って”いるのだからー…。

<後編>へ続く

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コメント

「1年後の美貌」の番外編が見たい!というお声を頂いたので
後日談+当時を思い出しつつ当時の新たなシーンも描く内容で
続編を作ってみました~!
(※「見たい!」は必ず実現するわけではありません~!ねんのため…!)

次回、どのようなお話になっていくのか、
ぜひ楽しみにしていてくださいネ~!

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憑依<1年後の美貌>

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