<憑依>小銭おばさん②~大量の小銭を使うわたし~(完)

”大量の小銭を使う謎のおばさん”

あまりにも異様な量の小銭の利用を繰り返すおばさんを前に
それを注意した女子大生バイトー。

しかし…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー両替お願いします」

礼儀正しく、ニコニコしながら銀行の窓口で
両替をお願いする明菜ー。

コンビニでバイトをしている女子大生・明菜は
昨日まで、自分のバイト先にやってくる
”謎の小銭おばさん”に頭を悩ませていたー。

同一の小銭は20枚まで。
そんな法律があるー。
それ以上の場合は、お店としては断ることもできるー。

しかし、その”小銭おばさん”は、10円玉を50枚使ったり、
酷い時は100枚以上の小銭を使うことは
日常茶飯事だったー。

それも、週に何度もやってくるー
そんな常連客なのだー。

しかしー
今日、明菜は、”自分の有り金”を、
ほぼ全て小銭に両替しようとしていたー。

銀行の窓口の女性も少し困惑した様子だー。

”こんなに小銭をたくさん何に使うのか”と、
少し思っているのだろうかー。

「ーーーありがとうございます」
明菜は両替が終わると、大量の小銭をバックに入れて笑みを浮かべるー

「ーチッー重いなー」
小銭は数が増えると、とても重いー。

「ーーう~~~~~~~ん… チッー、非力な身体だぜ」
小声で呟く明菜ー。

明菜の身体は”男”の思った以上に非力で、
大量の小銭を手に、腕が悲鳴を上げているー

「ー役に立たねぇ腕だなー 働け」
自分の腕に向かってそんな冷たい言葉を口にすると、
明菜はそのまま腕を真っ赤にしながら家に向かって歩き始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「ーーえ???」

大学では、明菜の友達たちが
困惑の表情を浮かべていたー。

「ー退学するの? 明菜が?なんで?」
友達の一人がそう言うと、
別の友達も「わ、わからないけどーさっき退学届けを出しに来たってー」
と、困惑しながら答えるー。

今朝ー、突然明菜が大学に退学の意向を伝えたというのだー。

そしてー…
それは、明菜のバイト先でも同じだったー

「えぇっ!?やめたいー?」
松下店長が驚いて声をあげるー。

「ーはいー。今までお世話になりました」
明菜はニコニコしながらそう言うと、
そのまま立ち上がるー。

「ーー」
松下店長は困惑しながらも、
「どうして、急にー?」と、声をかけるー。

突然”今日辞めます”ということはー
基本的に”よろしくない”やり方で、
円満に退職できない可能性が高いー

法律上も、何日前までに言うこと、とするものがあり、
いきなりの場合、バイト先が「いいよ」と言えば話は別だがー
そうでない場合はーーー

しかしー
松下店長は”優しすぎる”性格故に
「ーー堀崎さんにも何か理由があるんだろ?わかったー。
 今まで、お疲れ様でした。本当にありがとう」と、言葉を口にしたー

明菜は「ふふ」と、微笑むと、
「あ、帰りに買い物していいですか?」と、
松下店長に確認し、店内で買い物を始めるー

そして、缶ビールを1個手にすると、
明菜は、レジにやってきて、「あ、煙草もー」と、
言葉を口にしたー

「煙草?堀崎さん、吸わないんじゃ?」
松下店長が言うと、
明菜は「”昨日から”吸い始めたんです」と微笑むー

「そ、そ、そっかー」
松下店長が、缶ビールと煙草、という明菜の
買い物の組み合わせに違和感を覚えながらも、
660円という値段を伝えるとー

明菜は突然ーーー…
5円玉を「132枚」受け皿に放り込んだー

「え?」
呆然とする松下店長ー

「ーー660円ですよね?どうぞ」
明菜が微笑むー。

”ククククー
 今日からこの女は、小銭JD-
 いや、もう大学もやめたから
 小銭お姉さんだー”

「ーーーす、少し待っててな」
松下店長はそう言うと、5円玉を必死に数えるー。

明菜はその後ろ姿を見つめながら、
ニヤニヤした口元を手で隠してー
笑みを浮かべるー

”あぁ、昨日は俺を注意してたこの女に
 こんなことさせてると思うとーーー”

「ー興奮するなァー」
小声でそう呟く明菜ー

やがて、松下店長が必死に小銭を数え終えると、
「ーあのおばさんみたいだなぁ~急にびっくりしたよ」と、微笑むー

明菜はそれを無視して「ありがとうございました」と、頭を下げると、
そのままコンビニの外に出たー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”逆怨み”ー

帰宅した明菜は
煙草を吸いながら、笑みを浮かべるー

「そんなことは俺にも分かってるけどよー」
明菜はそう呟くと
「やめられねぇんだーこれがー」と、笑うー。

”小銭おばさん”と呼ばれていたおばさんに憑依していてー
今は明菜に”移動”した男ー

彼はー
10年以上も昔はー”普通の男”だったー。

子供もいてー、
”普通の父親”だったー。

しかし、ある日ー
彼の子供は貯金箱にためていた大量の小銭を手に
欲しかったお菓子を買おうと、一人でコンビニに行きー、
そこで、大量の小銭を使ってお菓子を買おうとしたー。

その際に店員から”拒否”されて、
彼の子供は「何で!?」と、店内で駄々をこねたー。

その結果ー、店員からきつく叱られて
店から追い出されてー
落ち込みながら帰宅している最中に、
車に轢かれて、命を落としたー。

後から父親が聞いた話では、
コンビニで説教された際にー
彼の子供は酷く落ち込んでいた様子で、
帰り道に事故に遭ったのも、それが原因と、
彼ー父親は考えたー。

もちろん”50枚越えの小銭”を使おうとした息子が悪いー、
いいや”小銭の使い方”を息子に教えなかった親が悪いー。
それは、彼自身にも理解は出来ているー。

コンビニは法律に基づき、21枚以上の硬貨の使用を断っただけだし、
説教したのも、
断られたあとに、息子がお店で駄々をこね、商品を投げるような行為に
及んだからだと聞いているー

だからー
悪いのは自分たちだー。

彼も、それは理解していたー。

だがー、”小銭”で息子を失った彼は壊れてしまったー

後を追って自殺しようとした父ー。
しかし、自殺には失敗しー、
奇跡的に助かったところでー
”他人に憑依する”力を手に入れたー。

既に”精神(こころ)”が壊れていた彼は、
手始めに息子に注意したコンビニの店員に憑依しー
”お前にも俺の息子の気持ちを分からせてやる”と、
何故か乗っ取ったコンビニ店員で”小銭”を使いまくる生活を続けたー

やがてー
それを続けているうちに、彼は完全に壊れー

今では”乗っ取った身体で小銭を使いまくる生活”を送り、
”それを注意してきた相手に憑依する”ことを繰り返しているー。

自分でももう、彼は何が目的なのだか分かっておらずー
ただ、欲望と快感のためだけにそれを繰り返していたー。

「ーーまた来たよー」

半月後ー

呆れ顔で書店の店員が呟くー

「ーこれ、お願いします」
”小銭女”ー
周囲の店からはそんな風に呼ばれるようになってしまった明菜が
笑みを浮かべながら本をカウンターに置くー。

おばさんに憑依している間はおばさんっぽくー、
明菜に憑依してからは女子大生っぽく振る舞っている男ー

800円の本に対して、10円玉80枚をカウンターにばらまく明菜ー

「あの女の人、何なんですかー?」
「わからないー」
本屋の他の店員たちが呟くー

「ーーあの、お客さまー」
接客を担当している店員がそう呟くと、
明菜は「ーー注意しない方が”あなたのため”ですよ?」と
クスクスと笑うー。

「ーーー」
店員はイラッとした様子を見せながらも、
思いとどまったのか、10円玉を数えて、
そのまま会計を済ませたー。

”小銭女が来た”
そこら中のお店でそう呼ばれるようになり、
今の明菜は興奮していたー

「ふふふーわたしは小銭女♡」
そう、囁きながらー

「どうだ?へへー自分が小銭女になった気分はよ?」
明菜の身体を見つめながらそう質問する明菜ー

しかし、当然乗っ取られている明菜から返事が
返ってくるはずもなくー
明菜はニヤニヤと笑みを浮かべるだけだったー。

”元”バイト先のコンビニにも足を運ぶー

バイト仲間だった男子大学生バイト・幸一が
明菜の姿を見ると同時に、表情を歪めるー

ビールとおつまみを手に、780円の買い物をする明菜ー

明菜はにやりと笑みを浮かべてからー
”大量の5円玉”を、カウンターにばらまいたー。

「ーーーーーっっ」
幸一が苛立ちを露わにするー

「ーー……ほ、堀崎さんー
 あんなにこういうの、嫌がってたのにー」
幸一が愚痴を漏らすと、
「ーわたしに、注意する?」と、
明菜が挑発的に言い放つー

「ーーー……」
幸一は、困惑の表情を浮かべるー

バイトをしていた時と、バイトを辞めたあとの明菜は
まるで別人のようだー。

それにー…
”明菜”がここで小銭を使う様になってからー、
あの小銭おばさんが一切お店に来なくなったー。

「ーーーー………」
幸一は明菜のほうをチラッと見つめるー。

あの日ー”明菜が小銭おばさんを注意したから”
小銭おばさんが来なくなったー。
そう考えれば確かに小銭おばさんがここに来なくなった理由は
頷けるー。

だがーー
今度は明菜がまるで小銭おばさんのようなことをしているー

”そういえば、あの小銭おばさんも、前は普通の店員だったとか聞いたようなー”
幸一はそう思いながら会計を終えるー。

明菜は満足そうにそのまま立ち去っていくー。

幸一は”変わってしまった明菜”のことを頭の中で考えるー。

そしてーーーー

”まさか、小銭おばさんに何かされたんじゃ!?”と、
表情を歪めたー

小銭おばさんを注意したすぐあと、明菜はバイトを突然辞めているー。
しかも、それ以降明菜がまるで”小銭女子”みたいになってしまっているー

小銭おばさんが”何か”明菜にしたー、あるいは脅したー
そんなことを幸一は考えるー

幸一の推理は”少し”ズレているもののー
明菜本人の意志ではないのではないかー、と
次にお店に来た時に確認してみようー、と、
そう考え始めたー。

がーーー
”それ”は実現しなかったー

ある意味、幸一にとってそれは幸運と言えたかもしれないー。

何故ならー
もしも、”次”明菜が来た時に明菜を追求していたらー
恐らくー、幸一自身が次は”小銭お兄さん”になっていたからー

しかしー
その未来は回避されたー。

翌日の朝ー

「ーーいい加減にして下さい!」
書店のお姉さんが、明菜に”キレ”たからだー。

500円の雑誌を買うのに、
1円玉500枚を袋に入れてそれを出した明菜にー
書店の店員がキレたのだー。

明菜は笑みを浮かべるとー

「大変申し訳ございませんでしたー」
と、本屋で土下座をしたー。

”小銭男”に憑依された人間が”謝罪”するときはー
”次の憑依先はお前に決めた”という証だー。

明菜はニヤニヤしながら本屋から立ち去るとー
そのまま、書店の眼鏡をかけた若い店員が出てくるのを待ちー
夕方ー、バイトを終えたその子に声をかけたー。

「なんでわたしが小銭ばっかり使うかー
 教えてあげましょうか?」

明菜の言葉に、書店の女性店員は困惑の表情を浮かべるー。

「こういうことさー」
明菜がニヤッとして女性店員にキスをすると、
その場に倒れ込んで痙攣し始めるー

女性店員はニヤッと笑みを浮かべると
「今度はわたしが小銭女ー」と、ニヤニヤ笑みを浮かべてー
倒れている明菜に唾を吐き捨てたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーえ」

後日ー
幸一は、元バイト仲間の明菜が入院しているという話を、
人づてに聞かされたー

そんな明菜の元を訪れるとー
明菜はボサボサの頭で生気のない目を幸一に向けたー

「ーーーぁ」
明菜が弱弱しく呟くー。

「ーほ、堀崎さん、いったいなにが?」
幸一が不安そうにそう問いかけるもー
”自分の意識がしばらく飛んでいて大学もバイトもやめた状態”に
なってしまっていた明菜は、ガクガクと震えるだけで
まともな受け答えができなくなってしまっていたー。

憑依のショックか、
それとも憑依自体が脳に何か影響を残しているのかー
明菜は悲鳴と泣き声をあげるだけでー、
何も、まともな会話をすることはできない状態になっていたー…

そしてー
また、隣町で”小銭を大量に使う女”が出現したー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

大量に小銭を使うお客様から思いついたお話でした~!★

お店で大量に小銭を使う人を見かけたら
もしかすると…?笑

お読み下さりありがとうございました~!★

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憑依<小銭おばさん>

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