<入れ替わり>お前でヨシ!③~結果を考えない男~(完)

”適当な入れ替わり”を
繰り返し続ける男ー。

そこには悪意も、策略も、何もないー。

男はただ、思いつきで入れ替わりを繰り返しているー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「次はお前で、その次はお前ー

 はははっ!ははっ!」

雅文の”場当たり的な入れ替わり”は、
さらにエスカレートしていたー。

クリスマスー。
多くのカップルでにぎわう場所にやってきた
雅文は、”手あたり次第”入れ替わりを繰り返したー。

その行為に深い意味はないー。
強いて言えば”せっかくのクリスマスだし、派手に楽しむか!”という
思いだけー。

「えっ!?わ、わたしの身体を返して!」
一人の女が、別の女に向かって叫ぶー。

しかし、”わたしの身体を返して”と叫ばれた方の女も、
自分の身体が別の人間になってしまっていて、困惑している当事者だー。

雅文が次々と思いつきで入れ替わっていくためー
”入れ替えられた人たち”は、他の身体に取り残されたままー

雅文に身体を入れ替えられたあとー
雅文は奪ったその身体でさらに別の人間と入れ替わるー

そのため、”雅文が出ていっても”
その身体は元の持ち主の元には戻らないのだー

「ーお前…!恵美(めぐみ)じゃないな!誰だ!」

「ーあんた!わたしの身体を返しなさいよー!」

「ど、どうなってるのこれ!?」

「ーわたしより可愛いからいいかも♡」

色々な声が響き渡るー

50回ぐらい入れ替わっただろうかー。
サンタコスの女子大生の身体になった雅文は
嬉しそうに「メリークリスマス!」と叫んで、
そのままその会場を後にしたー。

サンタコスの女の身体で、
デパートのトイレに入り、満足するまでエッチなことを
繰り返した雅文はー、
見回りに来た警備員に叫ばれたため、
警備員にサンタコスの女の身体をあげて、
そのまま警備員の身体で堂々とデパートを後にしたー。

警備員にとっては、若い子になれてラッキーだったかもしれないー。

「ーーーは~やっぱ高齢になればなるほど燃費が悪いなー」

そう呟きながら、雪の降りしきる路上を歩いているとー
目の前に車が停車したー。

中からサングラスの男が出て来るー。

雅文に入れ替わり能力のテストのため、
入れ替わり能力を授けた国際犯罪組織ガルフの日本支部副支部長・ミヤゾノだー。

「ーーいっ!?」
なんとなく”やべっ!”と思った
警備員(雅文)ー。

ミヤゾノからは明らかに殺意のオーラが溢れ出ているー。

だがー

「あ、そうだー
 このおばさんー、燃費悪いし、お前でいいや」

思いついたかのように笑う警備員(雅文)はー
「ごついおっさんには興味ないけどー」と言いながら
ミヤゾノのほうを指差して、自分を指さしたー

「ーなっ!?」
警備員のおばさんになってしまったミヤゾノは
表情を歪めるー。

「ーー…あ、サングラスはいらないからどうぞ」
ミヤゾノになった雅文はそれだけ言うと、
警備員のおばさんになって戸惑っているミヤゾノに
サングラスだけ渡して、
そのまま車に乗って走り去ったー

「おい!俺の車!俺の身体!」
警備員(ミヤゾノ)が叫ぶー。

しかし、ミヤゾノ(雅文)はもう、そんな声をまるで聴いていなかったー。

鼻歌を歌いながらご機嫌そうに運転するミヤゾノ(雅文)ー

ふと、バックミラーで自分の顔を見るとー
「つぶらな瞳で可愛いなー だからサングラスしてたのか?」と、
ニヤニヤしながら笑うミヤゾノ(雅文)ー

しばらく行先も決めず、適当なドライブを続けるー。

がー、その最中ー
運転中に寂しそうな表情で歩いている女を見つけてー

「うおっ!美人!」と叫んだミヤゾノ(雅文)は、
運転中に片手を話して、その女を車の中から指さしー、
自分を指さしたー。

「ーーー!!! よし! いい身体ゲット!」
嬉しそうにガッツポーズする女(雅文)ー

「って、この人、はだしじゃんー?なんでー?」
女(雅文)は首をかしげながらも、”まぁいいか”と、
そのままゆっくりと歩き始めたー。

「ーーーーあれ…」
ミヤゾノの身体になった女は、首を傾げながらも
「ーーー…どうせ、自殺するんだしーなんでもいいか」と、呟いたー

雅文が入れ替わったはだしの女は
”これから命を絶とうと”していた女だったー

その女はー、ミヤゾノの身体になったこともお構いなしにー
”っていうか、わたし、もう死んだのかな?”と、
自分がもう命を絶ったのか、それすら分からずに首を傾げたー

ミヤゾノになった女は、しばらく運転すると、海の方に向かって行くー

そしてー
埠頭にたどり着いたその時だったー

「ーーようやく追いついたぜー」
バイクに乗って警備員(ミヤゾノ)が、”自分の身体”に追いついたー。

「ーへへへ…まさか俺の身体を入れ替わりで奪うとはなー
 イシカワのやつも、そうやって撃退したのか?

 もう始末しちまったけど、考えてみりゃ、アイツがママ~!なんて
 いうわけがないもんな」

ニヤニヤしながら語る警備員(ミヤゾノ)ー

だがー”自殺しようとしている”ミヤゾノ(女)には
そんな言葉は全く耳に入らずー
そのまま車を急発進させたー

「ぐほっ!?」
警備員の身体ごと、吹き飛ばされるミヤゾノー。

ミヤゾノ(女)が乗った車は、自らそのまま埠頭から海に飛び込みー
そのまま地上に上がって来ることはなかったー

「ーお…俺の身体ぁ… 俺の車ァ…!」
苦しそうにそう叫びながら警備員(ミヤゾノ)も、その場で息絶えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”各地で続出する怪奇現象”

雅文が思い付きの入れ替わりをその後も
繰り返し続けたことによって、
既に”表ざたなニュース”になり始めていたー

”各地で、突然”自分が他人であると言い始める”現象が起きている”
と、そんな風にニュースになっているー

”入れ替わり”とは夢にも思っていない人々は
”奇妙な現象”としてそれを報じたー。

急に人の”中身”が変わったかのように自分は別人だと主張し、
性格も変わるー

精神的ストレスによる新種の病気のようなものではないか、と
主張する人もいれば
怪奇現象だと主張する者、
大気汚染による新手の病気だと主張する者、
色々な説を唱えるものがいたー。

ごく一部ー。
デパートの女性店員のように”目の前で雅文に身体を奪われた”人たちだけは
”自分が身体を入れ替えられた”ということを理解していてー、そのことを
病院などにも伝えていたが
”入れ替わり”などという話が現実的ではないことや、
一部では精神疾患と言われていたために、
”入れ替わりの妄想”として片付けられてしまい、

世間的に真相は”謎”のままだったー。

国際犯罪組織ガルフも、責任者だったイシカワや上司のミヤゾノが
死亡したことで、”この件には一切関与していない”と
ノータッチを貫き始めたー。

そんな状況であるがゆえにー、
雅文は”野放し”の状態だったー

そんな、ある日ー

「ーーお?」

女子大生ライフを満喫していた雅文は、
友達と歩いている最中に突然そんな声を出したー

「え?どうしたの?」
友達が首を傾げるー

「いやぁ、別にー
 そうだ!急に用事を思い出しちゃったから、待ってて!」

女子大生(雅文)がそう呟くと
混乱する友達を放置して、そのまま
”あるもの”に近付いていくー。

そこにいたのはーーー

”雅文”の身体ー。
最初に入れ替わり能力を手にした雅文が入れ替わった”隣人のお姉さん”が
中にいるであろう雅文の身体がいたのだー

「ーーー”す、すげぇ、俺が清潔感溢れるおじさまに…!”」

女子大生(雅文)は感動すら覚えたー。

既に数年が経過しているが、
雅文になった隣人のお姉さんは、
最初は絶望しながらも、やがて諦め、
今では雅文の身体でそれなりの生活を
送っているのだー。

「ーーどうかされましたか?」
穏やかに笑う雅文(隣人女性)ー。

「ーーえ?あ、いいえー…
 イケメンだなぁって」

女子大生(雅文)がそう言うと、
雅文(隣人女性)は困惑した様子で、
「え???あ、ありがとうございますー?」と、頷いたー。

だがーー
ふと、”久しぶりに俺の身体もいいかもしれない”と思った
女子大生(雅文)は、雅文(隣人女性)を指さしてー
そのまま続けて自分を指さしー

何年かぶりに元の身体へと戻ったー

「えぇっ!?」
女子大生(隣人女性)が戸惑っているー。

雅文はそれを無視して、「へっへっへ」と、久しぶりに
自分の身体で歩き出すー。

だがー、3分後ー

「やっぱこの身体、クソだな」
と、思った雅文は、すぐに自分の身体を捨てて、
近くを歩いていた別のOLを指さしー、
身体を入れ替えたー

「えっ!?えっ!?!?えぇっ!?!?」
雅文の身体になってしまったOLが戸惑いの声をあげるー。

OLになった雅文は
「ーじゃあな、俺の身体ー」と、
小声で呟くと、そのまま仕事の休憩中だったOLの身体を
職場放棄させて、お楽しみを始めるために
その身体の自宅へと向かったー。

それがー
雅文が、雅文自身の身体と出会った”最後の”日だったー。

それ以降、
雅文は、自分の身体がどうなったのか知らないー。

別に興味すらなかったー。
自分の身体がどうなっていようともー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

行き当たりばったりの入れ替わりを繰り返す
雅文は、その後も入れ替わりを繰り返し続けたー。

”突然他人を名乗り出す奇病”として、
雅文の”入れ替わり被害者”たちのことも
問題はなっていたものの、
雅文が入れ替わった相手に状況を説明したりするケースは少なく、
また”入れ替わった相手の身体のまま次の身体と入れ替わる”ために
同一人物による仕業だということも、世間は突き止めることは
できないまま、

やがてそれは”一種の精神的なストレスによる疾患”のような形で
”あたりまえのように存在する病状”と、
世間では受け止められるようになっていたー。

”入れ替わり”が適当すぎて、”決まったパターン”がなく、
結果はどうあれ、悪意もなかったため、
逆に”追跡”が困難かつ、バレずに済むー、という状況になっていたー

そしてー

数百年が経過したある日ー。

「ーーーそういや俺、何年生きてるんだ?
 滅茶苦茶長生きじゃね?」

ふと、人妻の身体で生活していた雅文が呟くー

自分が何年生きているのかも忘れたー。

身体を乗り換え続けているため、
雅文は老化知らずー。

気に入った身体では何年、何十年と同じ身体で
過ごすこともあったが、
病気になったりしたら、そのまますぐに別の身体に移動するー

何十年前だろうかー。
アイドルの子の身体を奪い、それなりに気に入って
何年も生活していたところ、
病気で余命宣告を受け、その日のうちに
その病院の看護師と”入れ替わった”こともあるー。

その後、そのアイドルになった看護師は、
余命宣告通り死んだー。

だが、それも別に可哀想ともー、いいやー、特に何とも思わないー。

そんなある日ー、

”未知の飛行物体 襲来”

ニュースにとんでもない見出しが表示されているー。
ニュースを見る人妻(雅文)ー

「んんん?ついに宇宙人の襲来か?」

そう呟きながら、人妻(雅文)が”この時代のテレビ”にあたる、
立体映像を見つめていると、
どうやら”光の反射”とかそういう類ではなく、
ついに本当に宇宙人がやってきた様子だったー

「ははははー 急にとんでもない展開になったなー」

テレビに映る”宇宙人の代表”を名乗る
異形の存在ー。

「すげぇ」

そう呟くと、人妻(雅文)は笑みを浮かべたー。

「ーーーこれはー…入れ替わるしかないな」

これまで、数えきれないほどの身体を堪能してきたー。
宇宙人と来ればー
これは、もうー試すしかないー。

”指もあるなー”

雅文は行き当たりばったりだが、馬鹿ではないー
”昆虫と入れ替わって、相手を指させなくなり、入れ替わり条件を満たせずに
 昆虫の身体のまま死ぬ”などというミスは犯さないー。

「ーーー次はーー
 お前でヨシとするかー」

宇宙人の映像を見つめながら、宇宙人の母船が上陸したという
場所に向かって人妻(雅文)は
夫も子育ても放棄して、そのまま移動し始めたー

”宇宙人”と入れ替わったことがー、

宇宙戦争の引き金になるのかー
それとも、雅文のとんでもない行動が地球を救うきっかけになるのかー

それはまた、別の話ー。

思いつきで入れ替わる男。
彼は、深く考えないからこそ、案外うまく、生き延びているのかもしれないー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

悪意も(結果はどうあれ…笑)、策謀も、悩みも何にも持っていない…
その上、事故で入れ替わったわけでもない…
そんな入れ替わり能力の持ち主でした~!★

意外と私の作品の中では
自ら入れ替わりを仕掛けている人で、
策略も何も持っていない人は珍しいかもしれませんネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    雅文は結局、最後までなんの報いも受けることなく、やりたい放題のままで終わりましたね。犯罪組織のイシカワもミヤゾノも呆気なく返り討ちされちゃいましたね。入れ替わりの研究してるなら、入れ替わり能力を防ぐような対処法くらい用意しとけばいいのに。

    最初の被害者の隣人のお姉さんはラッキーでしたね。前向きに生きてたおかげで、ある程度、元の身体に条件が近いであろう女子大生の身体になれましたから。もし絶望して自殺でもしてたりしたら、こうはいかなかったでしょう。
    その反面、いきなりおじさんの身体にされちゃったOLは可哀想ですが。

    何はともあれ、大変面白い作品で非常に楽しめました。

    ところで、この話、もし雅文が手に入れた能力が入れ替わり能力でなく、憑依能力とかでも面白くなりそうですよね。

    きっと、憑依能力にしても、考えなしの行動で同じように滅茶苦茶になること間違いなしでしょうし。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!★

      無能感漂うミヤゾノ・イシカワさん…笑

      得をした人と、得をしなかった人、色々描けて私も楽しめました!~!★

      憑依能力だったら…!
      自分が年老いるタイプの場合は、雅文もここまで長生きは出来ていないので
      彼にとっては入れ替わりがベストなのかもですネ~笑