<他者変身>正義に目覚めた犯罪者②~善意~(完)

女性刑事に変身して、
その立場と姿を奪った犯罪組織所属の男。

しかし、その先には予期せぬ未来が待ち構えていて…!?

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「ーー全員、動かないでー」
女性刑事・梨乃が、銃を向けながら
裏社会組織・銀狼(ぎんろう)が経営する
バーに突入するー。

「ーーーなっー…どうしてここがー!?」
銀狼に所属する男は、呆然とした様子で両手をあげるとー、
「ー警察よ」と、梨乃は警察手帳を示しながら
堂々と店の奥へと歩いていくー。

そしてーその奥から”違法なブツ”を見つけ出すと、
梨乃は「これはー何?」と、銀狼のメンバーたちを
睨みつけるー。

「ーーーくっ… ぐっ…」
銀狼の男は、表情を歪めると、観念したのか、
梨乃と、梨乃の仲間の刑事たちにそのまま連行されていったー。

「ーお手柄だったなー」
アビス対策班に所属する刑事の一人が言うと、
梨乃は嬉しそうに「いえーありがとうございます」と、頭を下げるー。

表向きは”梨乃が捜査の末に、違法なブツの取引をしているこの場所を
突き止めた”ことになっているー。

だがー
今の”梨乃”はホンモノではないー。
本物は既に、”梨乃に変身しているこの男”ー…益夫に
始末されていて、この世にはいないー。

”ーーご苦労だった”
梨乃は現場を離れると、電話を手に、相手と会話を始めたー

相手はー
犯罪組織アビスの幹部・鵜飼ー。

「ーありがとうございますー」
梨乃が微笑むー

梨乃に変身した益夫は”女性刑事”としての立場を利用して
暗躍を続けているー。

今日はー
犯罪組織アビスと勢力争いを繰り広げている組織の一つ・銀狼が
経営するバーの摘発を”刑事”として行ったー。

アビスのライバル組織の勢力を弱体化させるために、だー。

”俺たちは色々と裏事情を知ってるがー、
 警察もいちいち俺たちが提供した情報なんざ、信じねぇからなー”

鵜飼が電話の向こうから言うー。

裏社会組織同士の潰し合いは日常茶飯事ー
ライバル組織の都合の悪い情報をあえて警察に提供しようとすることは
日常茶飯事だがー、
警察もいちいち相手にしなかったり、情報提供が仇となって、
自分たちも疑われたり、色々リスクがあるー

だがー、鵜飼が”梨乃に変身した益夫”に情報提供をし、
梨乃が”自力の捜査で入手した情報”ということにすればー
ライバル組織に打撃を与えることもたやすいー。

”次はーいつも通り、捜査班の情報を送信してもらいたいー
 頼むぞ”

鵜飼の言葉に、梨乃は「はいー」と、静かに微笑んだー

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梨乃に変身してからもうすぐ1ヵ月ー。

”女”としての生活にも、慣れたー

いいやー
厳密に言えば”最初から”
慣れていたかもしれないー。

何故ならー
変身用のサングラスで”変身”したその時からー、
益夫には”梨乃の記憶”もあったからだー。

身体の内部まで忠実に受け継ぐ変身ー。
それは、梨乃の記憶も含まれるー。

”しかし、すげぇサングラスだよなー
 記憶まで全部再現するなら、
 相手の記憶も探ることもできちまうー”

そうー
変身用サングラスは、
”その相手に成りすます”以外にも
”相手の記憶を読み取る用途”で使うこともできるのだー。

「ーーさて」
髪を整え、服を着替えて、メイクを終えてー、
梨乃は今日も仕事モードになると、
そのまま家を出たー

「あ、正義のヒーローだ!」
近所の子供が、梨乃を見つけて嬉しそうに微笑みながら
駆け寄ってくるー

「ーーあははは~そんなんじゃないってば~」
梨乃の記憶を受け継いでいる益夫は、
梨乃として振る舞うー

この子供は、梨乃が警察官だと知って
”正義のヒーロー”とか、いつもそんな風に呼んでくる子だー

「ーーううん!お姉ちゃんはヒーローだよ!
 だって、この前だって道に迷ってたおじいちゃんを
 助けてたもん!」

子供が言うー。
梨乃は「あははーーそれは、君にだってできるでしょ」と、笑うー。

”嬉しい”
梨乃に変身した益夫は”人から感謝されること”に次第に喜びを
感じるようになっていたー

そしてー
この子供が言っている”道に迷ってたおじいちゃん”を助けた時もそうー
困ってるおじいさんを見て、梨乃に変身した益夫は自然に身体が動いたー

”こんなジジイ、放っておけばいいのに”という益夫の気持ちよりも
それが、上回ったー

「ーーあ、そろそろお姉ちゃん、お仕事に行かなくちゃ」
梨乃に変身した益夫がそう言うと、
子供は「今日も悪い奴ら、やっつけちゃって!」と嬉しそうに笑ったー

「ーーー!」
一瞬ー、”鵜飼”の顔が浮かんだー

「ーーな、なにを考えてんだ俺はー」
梨乃に変身した益夫は戸惑いながら、そんな表情を浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

定期的にアビス対策班のデータを鵜飼に送信しー
捜査情報も漏らすー。

ライバル組織の情報を提供し、摘発するー。

一方で、アビスの取引が行われる際には
別の情報を捜査班に流し、アビス以外の組織に打撃が向かう様にするー

だがーーー
いつしか、梨乃に変身した益夫は
”アビス対策班の捜査情報”を漏らす際にー
”大事な情報はあえて抜く”ようになっていたー。

「ーーーまただー」

ある日ー
犯罪組織アビスの”犠牲”になった若者の遺体が発見された
現場に駆け付けた仲間は、そう呟いたー

アビスの蛮行に怒りを覚える捜査官たちー

そしてー

「ーーーー」
梨乃に変身した益夫も、ギリッと唇を噛みしめたー

「ーーひどいー…」
自然と口から言葉が漏れるー

「ー(おいー…何言ってんだ、俺ー)」
益夫はそう思いながらも
”アビスを許せないー”という気持ちが次第に膨れ上がっていくのを感じたー

(なんなんだ、この気持ちー)

人助けをしているときー
”梨乃”として真剣に刑事をやっているときー
そんな瞬間に生きがいや喜びを感じるー

一方ー、鵜飼に情報を流している時ー
アビスのために暗躍しているときー、
そんな時には、罪悪感を強く感じるようになったー

「ーー俺ーーー…この女に、影響されてるー?」
梨乃は、帰宅するとそう呟いたー

”梨乃に変身した”益夫は、
梨乃の強い正義感まで受け継いでしまっていたー

次第にーーー
梨乃の姿でいればいるほどー
梨乃として振る舞えば振る舞うほどー
益夫はー正義に目覚めつつー
いいやー、影響を受けつつあったー

やがてー
鵜飼に漏らす情報が、どんどん少なくなっていくー。

ある日ー
地下駐車場に呼び出された梨乃の姿をした益夫は
その場所へとやってきていたー

「ーおいーどういうつもりだー?
 最近、ゴミみたいな情報しか送ってこないのはー」

鵜飼が鋭い目つきで、梨乃を睨みつけるー。

「ーーーーーいえ…申し訳ありません
 なかなか対策班のガードも固くー」

梨乃がそう言うと、
鵜飼は表情を歪めるー。

「ーそんなはずは、ねぇんだけどな」
鵜飼はそれだけ言うと、ナイフを取り出して
くるくるとそれを回転させ始めたー。

「ーー俺の”手が滑らないうちに”
 俺が納得する理由を言って見ろ」

鵜飼が言うー。

”狂犬”の異名を持つ鵜飼は、
例え舎弟のように可愛がっていた益夫が
相手であったとしても、
気に入らない受け答えをすれば、容赦なく始末するだろうー。

エンジンを切らずに停車させた状態の車から
ライトを浴びながら梨乃は目を閉じるー。

”お姉ちゃんは、正義のヒーローだ!”
近所の子供のことを思い出すー

”いつも、ありがとうございますー”
市民たちから感謝される光景を思い出すー

「ーーーー……わたしは…刑事」

小声でボソッと呟く梨乃の姿をした益夫ー。

「ーーん?何だって?」
鵜飼が半笑いで、耳に手を当てながら
梨乃のほうを見るー

「ーーわたしはーーー梨乃!
 あなたを、逮捕します!」

梨乃に変身した益夫はーーー
決意したーーー

正義に生きることをー

「ーーあん????
 何言ってやがるんだ!」

鵜飼はそう叫ぶと、
梨乃の姿をした益夫は言い放ったー

「ーー鵜飼さんーー
 俺、気づいたんですー!

 俺たちは、間違っていたとー!
 ーーあなたたちはーー悪だと!」

梨乃の姿で叫ぶ益夫ー

「馬鹿が!その女に変身して影響を受けやがったか!」
鵜飼が叫ぶー。

鵜飼が変身サングラスを必要以上に使わないのはー
”多数の人間の記憶を得てしまった場合”の副作用が
不明瞭なためだー

たとえば、毎日のように他人に変身して過ごすとー、
二人、三人、五人、10人と、どんどん
”色々な人間の記憶”を得てしまいー、脳がパンクしたりする可能性も
考えられるー。

だから、鵜飼はサングラスの使用には慎重だったー

だがーー
まさか、”同じ人間に長期変身している”ことによる
こんな作用がーーー

「ーったく、変身の副作用を受けやがってー
 仕方ねぇー
 元の姿に戻れー
 
 そうすりゃ、馬鹿も言わなくなるー」

鵜飼はそう言うと、変身用サングラスを梨乃の姿をした益夫に
投げつけたー

しかしーーー

「ーーア?」
鵜飼が唖然とするー。

梨乃の姿をした益夫がサングラスを地面に叩きつけてー
それを踏みつぶして破壊したのだー

「わたしは、梨乃よ!」
と、叫びながらー

「ーーふ、ふざけやがって!テメェ!」
鵜飼が怒りの形相で叫ぶー

「ー鵜飼さんー
 俺、決めたんですー
 俺は、この女ー
 女刑事として、生きていくー

 ”俺が変身してること”は
 確か鵜飼さんしか知らないはずですー

 だからー
 ここであなたを殺せばー」

梨乃がそう言うと、鵜飼は歪んだ表情を浮かべながら、
梨乃の姿をした益夫を睨みつけて叫んだー

「テメェ!俺が拾ってやった恩義を忘れたのか!?
 あァ????」

だがー
そんな怒鳴り声を、梨乃が放った銃弾が打ち消したー

鵜飼は鬼のように表情を歪めたままー
目を見開いてー
エンジン音のする自分の車の前に倒れ込んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー”アビス”の拠点の一つを突き止めました」

梨乃に変身した益夫がそう呟くー

”何やってんだ俺はー”
自分でも、そう思うー

でも、この姿に変身してからー
人から感謝される喜びを感じてしまったー
仲間たちと共に犯罪組織アビスを追い詰めていくことに
やりがいを感じてしまったー

仲間たちを裏切り、鵜飼に情報を流すことに
強い罪悪感を感じてしまったー。

街の人々を守ることに、喜びを感じてしまったー

この姿に変身してー
梨乃が元々持っていた強い正義感に自分もーーー
影響を受けてー

悪く言えば”汚染”されてしまったのかもしれないー

けれどー

今はこう思うー。

”アビスをわたしは許せない”
とー。

「ーーすごいなー…どうやって突き止めたんだ?」
上司が少しだけ戸惑いの表情を浮かべるー

犯罪組織アビスはかつてより勢力を大幅に弱めている組織であるとはいえー、
それでもまだ、危険な組織の一つであることには変わりなく、
なかなかその拠点などを突き止めることもできない危険な存在だ。

その拠点を梨乃が突き止めたことに、驚く上司ー。

「ーーーこの街を守るためー寝る間も惜しんで聞き込みに捜査にー、
 色々した結果ですー」

梨乃がそう微笑むと、
「よくやったなー」と上司は頷きー、
犯罪組織アビスの拠点に、捜査官の半数を向かわせたー

結果ー
犯罪組織アビスは大打撃を受けー
鵜飼以外の幹部も半数が逮捕されたー。

「ーーーー」
かつて自分が所属していた組織が
大打撃を受けるー

そんな様子を見て、
梨乃に変身した益夫は
「ーーこの街を守るのが、わたしの使命ー」と、
静かに呟いたー

本物の梨乃は、もういないー。

しかしー
梨乃に変身した益夫が、
その意志を受け継ぐかのように、
”正義”に目覚めたのだったー。

もちろん、それは梨乃本人からしてみれば
自分の人生を奪われたものだし、
許せることではないー。

けれどー、
この、”偽物の梨乃”によって、
この先の未来、守られるであろう命や、
犯罪組織の魔の手から逃れられる人がいることも
また、事実だったー

「ーーあなたを逮捕しますー」

今日もまたー
梨乃は、この街を守るため、犯罪者たちとの戦いを
続けるのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

以前書いた「憑依戦隊ポゼレンジャー(題名は憑依ですが、内容は変身モノ)」みたいな
お話が見たいというご意見があったので、
今回は現代モノで書いてみました~!
(※リクエストは停止していますが、時々続編の希望やその他、叶えられそうなものは
 書くことがあります~! ※希望を頂いても書けないものもあるので、それはお許し下さい~!)

3話完結モノにすればもう少しじっくり変化を描けた気がしますが
今回は2話構成のお話にしてみました!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    こういう、身体の影響を受けて、本来の性格とは全く違う人間に染まっていく話はいいですよね。

    入れ替わり、憑依、皮とかではなく、変身系でこういう話は割と珍しい気がします。

    ところで、この話、逆の展開にしても面白そうですよね。
    正義感溢れる女刑事が犯罪組織を潰すために、犯罪者の男に変身した結果、身も心も犯罪者になっちゃうとか。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      確かに逆パターンも面白そうですネ!
      また違う世界観でそのうち考えてみようと思います~!!

  2. 匿名 より:

    ポゼレンジャーの様なSF?じゃなくこういう現代モノもありですね女刑事もいいけど婦警に変身するのもいいかも記憶は読めない設定も見てみたいですでもやっぱりポゼレンジャーみたいなSFもの見たいです

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      SFモノもまた機会があれば考えてみますネ~!
      今度はレンジャーじゃない何かを考えてみるかもしれません~☆!