<憑依>眼科医のめぐすり②~悪意~(完)

謎の眼科クリニックが処方している目薬”ソール”には、
男の魂の”分身体”が大量に含まれていたー

そうとは知らずに、目薬を点眼した絵里はー
男に完全に支配されてしまうー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

浩明は、振られたあとも、絵里のことを心配して
その様子を探っていたー。

「ひ、ーーー浩明…ごめ……んーーー
 わたしにもう……関わらないでー」

絵里に振られたあの日ー
絵里の様子は明らかに途中からおかしくなったー

まるでー
”急に普段の絵里に戻ったようなー”
そんな、強い違和感ー

だがー
あの日以降の絵里は、また”何だか違和感を感じる絵里”に戻ったままー。

見れば見るほどに”強い違和感”を感じるー。

絵里に振られてから1週間ー

やはり”何かがおかしい”と感じていた浩明は
絵里の大学内での行動を注意深く観察していたー

”これじゃ、まるで振られて未練を断ち切ることができない
 やべぇ元カレだよな…”

そんな風にも思うー

いや、もしかしたら本当にただ、振られただけで
”絵里の様子がおかしい”と感じているのは
自分が”振られたことを受け入れることができていない”からではないかと
そんな不安も時々感じてしまうー。

けれど、やはり絵里の様子はおかしいー

振られたあと、絵里の行動を観察していて
おかしいと思った行動はいくつもあるー。

時々、男のような言葉を口にしているのを何度か目撃したことー
男子トイレに間違えて入りそうになる場面を数回目撃したことー
ニヤニヤしながら女子のほうを凝視している場面を何回か見たことー

そして、極めつけはー
大学の帰りに、人目のつかない場所で、
胸を揉んだり、自分のスカートをめくったりしていたことー

何かが、おかしいー。
浩明のそんな不安は、日に日に、膨れ上がっていたー。

「ーー絵里の様子?」

そこで、浩明は
絵里の様子がおかしいー、という話を
絵里の親友である凜花(りんか)に相談することにしたー

凜花は首を傾げながらも
「ー最近、ボディタッチが多くなった気はするけどー」
と、だけ答えたー。

「ーーっていうか、尾口くん、絵里と別れたんだよね?
 何があったの?」

凜花が戸惑いながらそう言葉を口にするとー、
浩明は素直に”俺にも原因がよくわからなくてー”と、
困惑した表情で答えるー。

「ーーまぁ…確かに尾口くんが、絵里を怒らせるようなこと
 するとは思えないしー」

凜花はそう言うと、少し考えてから
「うん!とりあえずー、わたしも絵里に変な部分があったら
 尾口くんに伝えるようにするね」と、微笑みながら答えたー

だがーー
凜花に相談してしまったことでー、
浩明の予期せぬ方向に事態が動き始めてしまうー。

実はー、凜花も浩明から相談される前にー、
”絵里に若干違和感を感じ始めて”いたー。

そんな中、浩明から相談されたことで
絵里の不安は”確信”へと変わったー。

浩明にも相談せずー、
放課後の絵里を尾行したりー、
独自に調査を始めてしまった凜花はー

数日後ー、
”診療時間が終了した”はずの眼科クリニックに
大学帰りの絵里が入っていくのを目撃してしまったー

「ーーーー(絵里ー…?)」
表情を曇らせる凜花ー。

”診療時間終了後の眼科クリニックに堂々と入っていく絵里の姿ー”

そんな光景に強い違和感を感じた凜花ー

普通であれば、診療時間終了後の眼科クリニックに
入ることなど、ないー。

あるとすれば、”絵里の知り合いが経営している”かー、
あるいは急病か何かで特別にー…ぐらいしか思い浮かばないが、
たった今、眼科クリニックに堂々と入って行った絵里の姿からは
やむを得ず…、という雰囲気を感じることはできず、
むしろ、”当たり前のように”中へと入って行ったー。

”最近感じている違和感”

”今は元カレになってしまった浩明の言葉ー”

そんな数々の違和感が積み重なりー、
凜花は、銀城眼科クリニックの中へとこっそり、足を踏み入れたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「クククククー…いい身体だー」

診療時間終了後の院内では、倉島院長が笑みを浮かべながら
絵里の胸を触っていたー

「えへへへ…だろ?
 触られるだけでーこう…なんかゾクッとした感じが
 身体中を駆け巡るんだよー」

ニヤニヤしながら言う絵里はー
「そうだーお前のソレ、咥えてやろうか?この女の口でー」
と、自分の口を指さしながら笑みを浮かべたー

「クククク…たまらねぇなー」
倉島院長がそう言うと、
「ーへへへ…喜べよー?”俺”」と、
ニヤニヤしながら絵里は、倉島院長のアレを口に咥えようとしたー

その時だったー

ガタッ!と音がしてー
ズボンを下ろしている倉島院長とニヤニヤしていた絵里が
振り返るー

「ーーーひっ…… な……何してるの…絵里?」
銀城眼科にこっそりと足を踏み入れていた凜花は
信じられない光景を目の当たりにして、呆然としていたー

絵里は「あ~~~~見ちゃったんだ?」と、笑うー。

倉島院長が慌ててズボンをはきながら
「ー今は…今は診療時間外だぞ!」と、叫ぶとー
凜花は「絵里に何をしてるんですか?!」と叫ぶー。

だがーー
その”絵里”に無理やり腕を掴まれて、
診察室の方に叩きつけられてしまう凜花ー

「ーなぁなぁ、こいつも”俺”にしちまうしかねぇだろ?」
絵里が笑いながら言うと、
倉島院長はニヤリと笑うー

慌ててスマホを操作して助けを呼ぼうとする凜花ー

だがー
倉島院長に身体を無理やり押さえつけられてー
目薬”ソール”を手に持った絵里が、ニヤニヤしながら近づいてきたー。

「目がイカれるかもしれないけどー…
 一気に俺の魂ーぶち込むか」

絵里は笑いながら、悲鳴を上げる
凜花に対して、目薬を何滴も何滴も
容赦なく点眼し始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー!」

”がんか ーぎん”

倉島院長たちに捕まってしまった凜花が必死に
送ったメッセージー。

それに気づいた浩明は表情を歪めるー

”何があったんだ!?”と返事を送っても、
返事が返ってこないー

慌てた様子で、そのメッセージを見直しー
”眼科”? と、首を傾げるー。

だがー
やがてー
”銀城眼科”に、絵里が通っていたことを思い出しー、
凜花からの”がんか ぎん”のメッセージは
銀城眼科のことを示していると考えたー

慌てて銀城眼科に向かう浩明ー。

ノックしても返事はないー。

「ーーー誰か…!誰かいませんか!?」
ただならぬ雰囲気を感じ取ってそう叫ぶ浩明ー。

だが、返事はないー。

「ーーー!」
しかし、銀城眼科クリニックの扉が
開いたままであることに気付くー。

少し前に、凜花が入ったあと、
鍵を閉めることなく、そのままになっていたのだー

「ーー」
少し躊躇ってから、”行くしかない”と、浩明が中に突入するとー
銀城眼科クリニックの内部は、奥の方だけ照明がついている
不気味な状態だったー。

「ーーーー…誰かー…」
そう声を出しかけて浩明は表情を歪めたー。

院長らしき人物と、女に囲まれて、
誰かが診察台のような場所で、横たわっているー。

浩明が慌ててそちらに向かうとー
拘束された凜花が、”目薬”を何度も何度も点眼されて
呻いているー
そんな光景が広がっていたー

「な、何をしてるんだー!」
浩明がそう言うと、
倉島院長とー…横にいた女ー、
絵里が振り返ったー

「え…絵里…?なんでここにー…」
戸惑う浩明ー

絵里はクスッと笑うとー
倉島院長のほうを見て笑ったー

「なんだー…バレちゃ仕方がないー」
とー。

「絵里…?」
絵里の口調に違和感を感じる浩明ー

すると、絵里は倉島院長と共に、
”目薬を介して、自分の分身を点眼し続けて
 お気に入りの患者を乗っ取っている”ことを説明したー

「つまり、わたしはもう、”俺”なのー」
絵里はクスクス笑いながら言うー。

「そ、そんなー…ふ、ふざけるな!」
倉島院長に向かって、そう叫ぶー。

しかしー、絵里は目の前で倉島院長に抱き着いてキスをし始めたー

「ーへへへへ”俺”同士のキスー どう?浩明ー」
クスクスと笑う絵里ー

絵里に憑依した男の分身は、
絵里の記憶も持っているー

「ーそうだーわたしの恥ずかしい秘密ー
 浩明が知りたくないであろうー
 あんなことやこんなことも、ぜ~んぶ教えてあげよっかー?」

挑発的に笑う絵里ー。

「な…なんだと…?」
困惑する浩明ー。

絵里はクスッと笑うー。

「人間、記憶を全部読めばさー
 ”他人に知られたくない秘密”なんていくらでも見つかるのー
 わたしー
 いいやー”この女”にもなー」

絵里がニヤニヤ笑いながら自分を指さすー

”確かに、俺にも知られたくない秘密なんていくらでもあるー”

些細なことから、恥ずかしいことまでー
探せばいくらでも”知られたくないこと”なんて人間にはあるー。

浩明は戸惑いながら絵里のほうを見つめるー。

”ーーーー”

そしてー
咄嗟に浩明は”ある行動”に出たー。

「ーーうおおおおおおおおっ!」
絵里を救いたいー

ある意味、冷静さを失ったその判断ー
だが、ここで”憑依されて完全に男に意識を奪われている絵里”の話を
いつまでも聞いているよりかは、
それは正しかったのかもしれないー

「ーーがっ!?」

浩明は、絵里を無視して、一直線に”元凶”である
倉島院長を殴りつけたー。

吹き飛ぶ倉島院長ー

「なっ…!おい!テメェ!」
絵里が怒鳴り声をあげるー。
絵里のフリをするのも、忘れているようだー。

「ーーこ、この光景ー!」
浩明はスマホを手に叫ぶー。

「この光景を、警察にも、世の中にも流す!
 眼科医の院長が、女子大生を診察台に縛り付けてるなんて知られらー
 あんたは!」

浩明がそう言うと、倉島院長は瞳を震わせたー

「おい…!やめろ!くそっ!」
そう叫ぶのはー
診察台に拘束されている凜花ー。

目薬を大量に点眼されてしまった凜花も”手遅れ”だったようだー。
目薬”ソール”の餌食となり、男の分身に支配されてしまったー

腰が砕けた倉島院長は立てないー。
凜花は診察台に拘束されたままー

「ーーくそっ…!」
怒りの表情で、絵里が怒声をあげながら襲い掛かって来るー。

だがー、絵里の華奢な身体では、決してスポーツ万能ではない
浩明が相手でも、どうすることもできずー、
浩明に取り押さえられてしまったー。

「くそっ…!くそっ!くそっ!」
浩明は絵里を押さえつけながら警察に通報するー

そしてー
程なくして警察が駆け付けたー

目薬の成分を分析すればー銀城眼科の悪事も明らかになるはずだー。

そうなればー
絵里を救う方法もー…

「ーーくそっ!ふざけやがって!」
連行されていく絵里を見つめながらー
男の分身体に憑依されてしまった絵里が、何とか元に戻ることを祈る浩明ー

警察に状況を説明しー
倉島院長は連行され、患者の記録から
”ソール”が処方された犠牲者たちも次々と確保されたー。

銀城眼科は廃業ー
絵里や凜花ら、”目薬・ソールの犠牲者”たちは今も、
警察が手配した病院で治療を受けているもののー
未だに”正気”に戻すことは出来ていないー。

浩明も、毎日のように絵里のところに足を運んでいるものの、
絵里は「ーこの身体は俺の物だよー永遠にー」の一点張りー。

だが、それでもいつかはー

浩明は、決して絶望することなく、
”いつかは”ーと、希望を信じて
今日も絵里の入院する病院へと向かうのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ~~~~~~あ」

男が笑みを浮かべるー

「”倉島院長”ー便利だったのになー」
男はそう呟くと、
「まァーーあいつも”俺の分身”に過ぎないー
 俺の本体はーー”ここだ”ー」
と、不気味な笑みを浮かべたー

そうーー

”己の分身”をたくさんの人間に憑依させて、
”俺”にしている男の本体はー
倉島院長ではなかったのだー

倉島院長も”分身に憑依された”一人に過ぎないー

「ーーさ~て、今度は学校の教師に俺の分身を憑依させてー
 効率よく”俺”を増やしていくか」

男はそう呟くと、闇の中で不気味な笑みを浮かべたー

おわり

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コメント

眼科の院長も、”男”の本体ではありませんでした~!

なので、
作中では”男の分身”と、常に書いてありましたネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

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