<憑依>過去のお前に憑依する③~最後の改変~(完)

”元カレ”による過去の改変ー

幸せだった彼女は、
過去の自分が憑依されて、歴史を改変されていることにも気付けないまま、
徐々に、徐々に、その生活を壊されていくー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーあははははははははっ♡」

大学時代の琴美が、狂ったように笑いながら、
突然、大学内で暴れ始めたー

「ー琴美!何してるの!?琴美!」
周囲の友達が唖然とする中ー
琴美は”本来夫となるはずだった”駿介を刺して
そのナイフをペロペロと舐めながら笑っているー

「わたしの未来を壊してるの~♡」
笑う琴美ー。

そして、琴美はあろうことか、
自分の顔にナイフで傷をつけ始めたー。

一生消えることのない傷をー

「ーークククク…ひはははははははっ♡」
ゲラゲラと笑う琴美ー。

琴美はーーー
”元カレ”の秀雄に憑依されていたー

過去に戻った秀雄は、
さらに琴美の人生を破壊しようとしていたー

琴美の顔に消えることのない傷をつけー、
”前科”という消えない烙印をつけー、
全てを壊すー。

”琴美の記憶”に
”全てが嫌になって暴れた”と、刻みつけておきー、
そのまま琴美の身体から抜け出すー

「ぁ…」
倒れ込む琴美ー

琴美は顔から血を流したまま失神して、
警察官に連行されたー。

当然、本来夫になるはずだった駿介とは
こんなザマでは結婚できるはずもないー。

そして、秀雄は”この前と同じように”
琴美の実家の母親に憑依して、
夫の命を奪い、同じように家を燃やしたー。

”その出来事が起こる前”に一度でも戻ると
同じことをしないと、”それが起きなかったこと”になってしまうー。

だから”一度憑依で狂わせた過去”よりも前の時代に戻った場合は
また同じことをしなければ、ならないー。

”さぁ~て、今度はどうなっているかなー”
秀雄は笑みを浮かべるー

”お前に振られたせいで、俺の人生は壊れたー
 だから俺はお前を徹底的に壊してやるー”

そう思いながら秀雄は現代に戻るー

何故、祖父の蔵にこんなものがあったのか、秀雄は知らないー。
祖父の蔵から偶然見つけた憑依薬と時間移動ができる水晶玉ー。

”それ”がそこにあった理由を秀雄は知らないー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2062年ー

「ーーー…”過去”は変わるークククー」

高齢になっていた秀雄はー
ずっとずっとずっとずっと、琴美を恨み続けて来たー

そしてー
”ある研究”に何十年ものめり込んだー

それが、憑依薬の研究と
”時空を超える技術”の研究ー

そして、秀雄は”老人”と呼べる年齢になるころまで、
長年時間を費やし、
その二つを完成させたー

「ーー俺にもう時間はねぇー…
 だがー”昔の俺”がこれを手に入れれば、きっとー」

遠い未来の秀雄は
”じいちゃんが死んでー、俺がじいちゃんの家の蔵を整理したのはー
 確かこの時代だったなー”

と、考えながら過去にさかのぼりーー…
”祖父の蔵”に憑依薬と時間を超える水晶玉を置いたー。

「ーーー俺はもう、そんな体力もねぇー…
 後は任せるぜー”過去の俺”ー」

そうー
秀雄が手に入れた憑依薬と時間を超える水晶玉は、
遥か40年後の未来からー未来の秀雄からもたらされたものー。

未来の秀雄は、”過去の自分”に合うことで、
何か起きる可能性を危惧し、過去の自分に合わず、
過去の自分が”きっと使うであろう”方法で
過去の自分ー
2022年の秀雄に”それ”を提供したのだー。

だがー
2022年の秀雄は当然、そんなことを知らないー

”復讐のために、神から授かったもの”と、考えながらー
琴美への復讐を実行し続けているー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2022年に戻ってきた”現代”の秀雄は、
笑みを浮かべながら琴美を探すー

琴美はー
ボロボロのアパートにいたー

ボサボサの髪の琴美が出て来るー

”大学で事件を起こす”
という過去に変えたことで、
琴美は夜の仕事をして生活しているーという未来も
奪われて、生気のない顔でゴミ出しをしていたー

顔には大学時代に”自ら”つけた傷が
痛々しく残っているー

おしゃれも何もしておらずー
20代であるはずなのに、40代ーいや、それ以上にも見えるー

「ーよぉ」
秀雄が笑みを浮かべながら声を掛けると、
琴美は「どちら様ですかー」と、無表情で答えたー

「へへー ひでぇもんだな」
秀雄はそう言うと、
「俺だよー秀雄だよ」と名前を名乗るー

「あぁ……わたしに、何の用ー?」

家族と暮らしている時は優しそうな雰囲気ー
実家暮らしに改変された時は自虐的な雰囲気ー
キャリアウーマンや夜の街で働いている改変の時は強気な雰囲気ー

”置かれた環境によって変わる”
そんな、琴美のことを見つめるとー
「ーーーついこの間まで、夫と娘がいたってのにーへへへ」
と、秀雄はニヤニヤと笑うー

「なんのことー?」
琴美はうすら笑みを浮かべながら
「ーーわたしみたいなゴミと結婚するやつなんて、いるわけないでしょ」
と、不気味な笑みを浮かべるー。

精神的にもかなりダメージを受けているのか
白髪の混じったボサボサの髪を
掻きむしると、
「仕事もできないしー…何にもできない」と、
琴美はアパートの部屋の方に戻っていくー

秀雄は笑みを浮かべながら琴美についていくと、
「まぁ、久しぶりに話そうぜ」と、笑みを浮かべるー

琴美の家の中は
ゴミが散乱していたー

琴美は綺麗好きだったはずだー。
それがここまで変わってしまうー、ということは
やはり人間、精神的な余裕が大事であると思い知らされるー。

秀雄は笑みを浮かべるー

「金もねぇのか?ひどい生活だなー」
とー。

琴美は「うんー」と頷くと、
賞味期限切れの食べかけのパンを口にし始めるー

「ははは…夫と娘とご飯を食べていたころとは大違いだなー
 ま、つい少し前まで”そう”だったんだけどなー」

秀雄の言葉に、琴美はバン!と机を叩くと
「意味の分からないこと、言わないで!」と、叫ぶー。

「ーへへ…そりゃ失礼」
秀雄はそう言うと、「そうそう、何だったら俺がお前を助けてやってもいい」と、
笑みを浮かべながら言うー

「どういう…こと?」
琴美がそう言うとー、
「ーーいやぁ…ほら、”元カノ”がそんなザマじゃ悲しいだろ?
 俺が助けてやろうと思って、さー」
と、秀雄はニヤニヤしながら笑みを浮かべたー

「ーどうだ?俺と結婚すればー
 お前を”地獄”から救ってやるー」

秀雄がそう言うと、
琴美は「ーーいいよー…どうせ、わたしはゴミだし」と、
顔を逸らしたー

「ーーーチッ」
秀雄は”まだ、足りねぇのか”と、
再び過去を改変しようと考え始めるー。

そしてーーー
”実行”したー。

「ーーーへへへへへへ おらおらおらおら
 食いまくれ!健康をぶち壊せ!ひははははは♡」

過去の琴美に憑依した秀雄は、
琴美の身体で暴飲暴食を繰り返しー、
みるみるうちに琴美の体重を増やしたー。

さらには、両親だけではなく、琴美を心配してくれていた親族にも
憑依し、始末したー

更なる地獄の歴史に”改変”し、
秀雄は琴美に再び会いに行くー。

まるで別人のような太りきった琴美を前にー
「お前を助けてやるー」と、笑みを浮かべながら言うと、
ついに琴美は、秀雄に泣きついてきたー

”へへへへへー
 俺に人生を壊されたお前が俺に泣きついて結婚するー

 最高の復讐だぜー”

邪悪な笑みを浮かべながら、秀雄はついに琴美の人生を
破壊しつくしたー

そしてー
”結婚後”秀雄は宣言するー

「ー琴美さぁ、”少し前”まで、
 夫と娘がいたの、覚えてるかぁ?」

秀雄が言うと、琴美はポテトチップスを食べながら「何それ~?」と、
首を傾げるー

過去の時代で秀雄に憑依されて、暴飲暴食をやめられなくなってしまった琴美は
太り続ける一方だったー。

「ーー駿介のやつが夫で、お前には円香という娘がいたー」
秀雄が言うと、
琴美は「ないない」と笑うー。

「それが、あるんだよー」
秀雄は笑いながら憑依薬と水晶玉を見せ付けると、
それを机の上に置いて、
”これまでしてきたこと”を説明したー

「う………嘘…?」
琴美に”改変される前の自分”の記憶はもうないー。

夫がいたこともー
娘がいたこともー

”キャリアウーマンとしてある意味充実していた自分”のことも
”仕事を奪われて実家暮らしをしていた自分”のことも
”家族すら奪われて夜の仕事をしていた自分”のことも、

全部、覚えていないー

次第に変えられていく過去ー
その都度変わった自分の立場ー
それらは、全て改変されて、消えているー。

「ーーはははは…
 母親だったお前の様子ー
 見せてやりたかったよー

 でも、改変するとその時撮った写真は、消えちまうからなぁ」

秀雄は笑うとー

「まぁ、もうこれ以上はしねぇよー
 俺はお前と結婚できたしー
 ”こんな無様なお前”を助けてやれるんだからー

 くくく…はははははっ!」

秀雄が笑うと、
琴美は震えながら目から涙をこぼすー。

しかしー
”娘がいた”と言われても、それが分からないー

”ママー”

ノイズのかかった微かな記憶が、見えた気がするー
けれど、それはすぐに消えていくー

「ーーまぁ、変わっちまった過去は仕方ねぇだろ?
 お前は俺の妻として、これからもず~っと過ごすんだー」

秀雄は、ご満悦そうな笑みを浮かべながら、
高々と笑い声をあげたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーークククク」

翌朝ー
秀雄は笑みを浮かべながら目を覚ますー

”俺を振ったあのクソ女がー
 今や、俺がいないと生活できない上にー
 ”妻”だもんなー”

そう思いながら秀雄が自分の部屋から出ると、
ふと首を傾げたー。

「ーーー……」

そういえばー俺は”誰と暮らしているんだ?”とー。

「ーーーーーー」
すぐに首を振って
「ーあぁ、琴美のやつー」
と、考え直すも、その記憶が靄が掛かったように消えていくー

「ーーー!!!!!!!!!!」
秀雄は、すぐに気づいたー。

自分自身が、過去に行って色々改変してきたー
それ故か、すぐに気づくことができたー

「ま、まさかー!?」
この感じは、過去が変えられて、まもなく自分の記憶や状況にも、
影響がーーー

慌ててリビングに駆け込むと、そこには琴美の姿はなくー
水晶玉と憑依薬が消えていたー

「ーー…あ、、、あいつ…!!!!!」
秀雄は油断していたー

昨日ー、憑依薬と水晶玉をこの辺に置いたままー
寝てしまったー

まさか、それを使って琴美が過去にーーーー

「くそっ…!あいつ…過去に戻って何をsーー」

秀雄が表情を歪めるー

何かがねじれるような感じがしてー
秀雄はその場から突然消滅しー、
空間が捻じれてー
過去に”起きたこと”に合わせて未来は、変わったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「きゃあああああああああっ!

琴美が高校生だった時代ー。

下校中だった一人の高校生が、
突然背後から首を刺されて、その場に倒れ込んだー

「ーーーーー・・・ぁ…?」
路上に倒れた高校生時代の秀雄は、訳も分からないまま、
そのまま息を引き取るー

「ーーーーごめんねーーーー」
2022年から、秀雄の水晶玉と憑依薬を奪いー
過去に戻った琴美はー
秀雄がこの先しでかすことを阻止するため、
この時代の人間に憑依し、過去の秀雄を抹殺したー

秀雄は説得などで改心する人間ではないー
残念ながら生かしておけば必ず”過去を変える”凶行に出るー。

だからーーー
こうするしかーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2022年ー

「ーーママー!」

ふと、そんな声で目を覚ますー。

「ーーー!!」
琴美がハッとして、視線をその声がした方に向けるとー
そこにはーーー

娘の姿があったー

「ーーーーよかったー」

琴美は何故だかそう思ったー

当たり前のように夫とー
当たり前のように娘がいるー。

でもー
何故だか、そう思ったー

琴美が過去に戻り、秀雄を抹殺したことで、
琴美の人生は、また変わったー

両親も健在でー、
琴美が前科持ちになることもなくー
琴美はまた、幸せな家庭の中にいるー

そんな、過去と現在を取り戻していたー。

「ーーーーよかったーーー 紗友里(さゆり)ーーー」

琴美が娘の紗友里を抱きしめるー

「ーははは、どうしたんだー?」
夫の京太郎(きょうたろう)が笑うー。

大学時代に出会い、結婚した京太郎ー。

そうー
琴美は家族を取り戻したー

がーーー
”わずかな違い”が未来に影響を与えるー

高校時代、クラスメイトの秀雄が突然刺殺されたことでー、
直接的には関係ないものの、琴美と、駿介が結ばれる未来にも
何か、影響を与えたー。

結果ー、
本来結婚するはずだった駿介ではなくー
大学で出会った別の男・京太郎と琴美は結婚ー

娘は生まれたが、それは円香ではなく、別の子だったー

秀雄が死んだことにより、未来の秀雄が2022年の秀雄に
憑依薬と水晶玉を提供する未来も無くなり、
琴美が過去に戻って秀雄を殺す…ということも本来起きなくなるはずだったー

が、それでは時間の流れに狂いが生じてしまうー。
秀雄が高校時代に死ねば、2022年に”憑依”や”時間移動”の技術はやってこないー。
しかし、それでは琴美が過去に戻って秀雄を殺すことも無くなり、
秀雄は死なないー。

けれどー、そうなれば秀雄が再び存在することになり、
秀雄は再び未来で憑依と時間移動を生み出し、2022年に持ってくるー。

これでは無限ループが起きー、歴史が狂ってしまうー。

歴史は、矛盾点を自然に修正するー。

結果、秀雄は高校時代に何者かによって殺されー、
琴美は時間移動に関わらず、幸せに暮らすー…という具合に
時の流れは、自然と修正されたー。

落ち着くべきところに、時間の流れは落ち着いたー。

ただー…

「ーーー琴美、朝ご飯、準備しておいたよー
 今日はせっかく休みの日だったし、琴美がゆっくり寝れればと思ってさ」

京太郎が笑うー

「うん、ありがとうー」

微笑む琴美ー

琴美はー知らない。

自分には、別の家族がいたこともある、ということをー。
それを知ることは、この先も永遠にないー。

円香が生まれることは、もう”ない”

けれどー
未来が変わったことにより本来生まれないはずだった”紗友里”が生まれたー

どちらが良いことなのかー
それは、誰にも分らない。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ダークエンドに向かいそうなどん底からの逆転…!?

でも元通りにはならず…エンドでした~!★

高校時代に”元カレ”が死んだことによって
高校時代の琴美は心に傷を負いー、
その心の傷を理解してくれた京太郎と結ばれる未来に変わってしまった…!
という感じですネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    秀雄はいい気になって余計なことを喋りすぎたのが仇になりましたね。
    それにしてもここまで憑依被害者が逆転勝ちするみたいな結末も珍しいですね。
    琴美にとって、ハッピーエンドには到底ならなそうでしたのに。

    • 無名 より:

      今回は大逆転でした~!★

      元々の家族は取り戻せていませんが、
      それを自覚できていない状態なので、
      琴美本人からすればハッピーエンドですネ~!
      (新しい家族の夫も悪い人じゃなさそうですし~★)