入れ替わってしまったカップルー。
彼氏が”絶対に元に戻りたい”と願う一方、
彼女の方は”絶対に元に戻りたくない”と、そう願うー。
その先に待つ結末は…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーーー」
彼女の里奈のためにー
その一心で、里奈になった雅夫は必死に
元に戻る方法を探していたー。
「ーーーーー」
里奈の顔を鏡で見つめて、一瞬ドキッとする里奈(雅夫)ー
里奈になってから数週間が経過したー。
それなりに、”自分が里奈”という状況には慣れて来たー…
とは言え、
やはり、約20年も苦楽を共にした自分の身体の感覚は
そう簡単に消えるものではないー。
「ーー鏡を見るたびに、びっくりしちゃうよなー…」
苦笑いしながらそう呟く里奈(雅夫)ー
鏡を見て、自分のー…いや、里奈の姿が映るたびにびっくりするし、
ドキッとするー。
髪や胸に手を触れてしまうとドキッとするし、
お風呂や着替えの時間には妙にドキドキするー
一方で、トイレに入ればー
里奈もやっぱり同じ人間なのだとある意味、実感するー。
自分がその人間の身体になれば、
綺麗なことも綺麗じゃないことも含めて
全てを体感することになるのだからー。
「ーーーー…」
ふと、里奈(雅夫)は、表情を歪めるー
先日ー、
里奈(雅夫)は”あること”に気付いたー。
それはーー……
鏡を見つめながら表情を歪めるー。
「ーーーー……」
だが、里奈(雅夫)はそんなことを払拭するかのように
首を横に振ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雅夫(里奈)は、時間が経つにつれて、
里奈(雅夫)との接点を避けるようになり始めたー。
”入れ替わった状態”で生活するための必要な情報交換などは
相変わらずだが、
”ごめん、わたし、まだ元に戻りたくない”と、言い始めてー、
里奈(雅夫)を避けるようになったのだー
「ーど、どうしたんだよー…?
元に戻りたくないなんてー」
里奈(雅夫)は困惑するー。
入れ替わった直後から、確かに
”今しかできない貴重な経験だし”と、いうようなことは
言っていたものの、
日に日に”絶対に元に戻りたくない”というトーンに
意見が変わってきているー。
その理由が分からず、困惑する里奈(雅夫)ー
「ーーー雅夫は…!雅夫は、優しすぎるのー…!」
雅夫(里奈)は、それだけ言うと、目に涙を浮かべながら
立ち去っていくー。
分からないー。
一体、どういうことなのかー。
やっぱりー
”入れ替わった状態のまま”というのが不安なのだろうかー。
昼食を飲み物だけで済ませた里奈(雅夫)は
親友の朋美に声を掛けられるー。
「大丈夫?」
心配そうな朋美ー
「え、あ、うんー!大丈夫大丈夫ー」
朋美は入れ替わりのことを知らないー。
最近、”朋美から見て親友の里奈と、その彼氏の雅夫”が
上手く行ってないような気がして心配してくれているのだろうー。
里奈(雅夫)が苦笑いしながら、
そのまま立ち去ろうとすると、
「無理しちゃだめだよ?」と、朋美は心配そうに言葉を口にしたー
「ーーう、うんー」
里奈(雅夫)はそう答えると、
そのまま立ち去っていくー
”ーーーー”
”あること”に対する不安が強まる中、
里奈(雅夫)は、入れ替わった際に転落した階段付近の近くのお店に
”防犯カメラ”があることに気付いたー。
あまり目につかない感じのカメラで、
里奈(雅夫)も、今まで気づかなかったー。
個人経営の小さな商店でカメラもお店が独自に設置したもののように見える。
もしかしたらここに”当日の映像”が残っているかもしれないー。
”角度的に”階段から転落した際の映像が
ギリギリ映っているかどうかー、という際どいラインで
あったものの、”手がかりの可能性があるのならば”と、
そのお店の店主に頼み込む里奈(雅夫)ー
ダメ元で、”少し前に、彼氏と歩いている時に誰かに押されて転落した”
ことを説明し、必死に、必死に頼み続けたー。
すると、店主は困惑しながらも
「そこまで言うんだったらー…」と、カメラの映像を見せてくれたー
これでー
元に戻る方法は分からないとしてもー
”里奈を押した犯人”は分かるー。
里奈(雅夫)は、店主の許可を得て、奥の事務所で
録画映像を確認するとーーーー
そこにはーー
”真実”が映し出されていたー。
「ーーーありがとうございました」
映像の確認を終えた里奈(雅夫)が穏やかな表情でそうお礼を口にすると
店主は心配そうに「なにか分かったのかい?」と、尋ねて来るー。
「ーはいー」
そう返事をする里奈(雅夫)の表情は、どこか悲し気だったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”そういうことだったのかー”
里奈(雅夫)は家で表情を歪めながら、そう呟いたー。
防犯カメラに残された映像はーー
”雅夫の背後を歩いていた里奈が、
自ら雅夫にぶつかって階段から一緒に落ちた”という映像だったー。
里奈は”誰かに押された”と言っていたが、
実際には誰にも押されておらず、
里奈が自ら、雅夫と共に階段から転落したのだー
映像を見る限りー
里奈は直前に”何か”を飲んでいるのも確認できるー。
小さなタブレットキャンディのようなものを口に入れてー
そのあとに”きゃっ”と、声を上げて、
雅夫に自らぶつかり、転倒しているー。
恐らくはー里奈自身も監視カメラが近くの商店にあるとは
気付いておらず、まさか映像が残っているなどとは
夢にも思っていなかったのだー
”ー入れ替わりはー里奈が仕組んだこと”
だと、里奈(雅夫)は確信したー
そして、その理由もー
何となく、理解したー。
”すごく調子悪い”
そうー
この身体が日に日に調子悪くなっていくのにー、
雅夫は気づいていたー
最近気づいた”あること”とは、このことだー。
最初は”女子だから”食欲がないのかと思ってたー。
だが、日に日に”異様に食欲がなくなって”いくー。
徹夜して、妙に身体への負担が強すぎると思っていたのもー
里奈の身体だからー、というよりかはーー
”明らかにおかしい”
この感じはー、多分”病気”
それも、かなり良くない病気だー。
昔から”何でも我慢してしまうタイプ”で弱みを誰にも見せない里奈はー
病気のことを、一人でずっと抱え込んできていたのだー。
いやー、親友の朋美は知っていたのかもしれないー
大学で何度か”大丈夫?”と聞かれたのはー
病気のことを言っていたのかもしれないー。
「ーーーー……気持ちは…分かるよ…里奈ー」
里奈が”絶対に元に戻りたくない”と言っていたのはー
たぶんーーー
”里奈の身体はもう長くない”からだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間後ー
”大学”にやって来なくなった里奈(雅夫)ー
雅夫(里奈)は、里奈(雅夫)に連絡を取ることもなくなりー、
雅夫の身体で生活を続けていたー
これが、里奈の”計画”ー
雅夫が見た通り、入れ替わりは里奈が仕組んだことー。
体調に異変を感じ、病院で診察を受けた里奈を待ち構えていたのはー
自分が病魔に侵されていること、
気付く前に、それはかなり進行していたことー
さらにはーーー
”余命宣告”
一人で何でも抱え込んでしまうタイプの里奈は
そのことすら誰にも言えずー、一人で苦しみー
”死にたくない”と、必死に”生きる方法”を探したー
その結果ー里奈が手に入れたのが入れ替わり薬ー。
入れ替わり薬を手に入れた里奈は”余命あとわずか”の自分の身体を捨てて
雅夫の身体を奪おうと画策ー、
入れ替わり薬を飲んでー、”誰かに押された”フリをして雅夫と共に
階段から転落しー、
雅夫の身体を奪ったー。
あとは、里奈になった雅夫が病気で死ぬのを待つだけだったー。
相手に雅夫を選んだのはー
”入れ替わったあともできるだけトラブルにならず、
かつ、疑われる可能性が限りなく低い相手”だったからー
「酷いよね、わたしー」
雅夫(里奈)は呟くー。
彼氏への愛情よりも、死への恐怖が上回ってしまったー。
でも、入れ替わったあとも、必死に元に戻る方法を探す雅夫を見てー
里奈はさらに心を痛め、迷い続けて来たー。
入れ替わった初日にも、里奈は自分が”やったこと”の恐ろしさと
”余命あと僅かな身体を彼氏に押し付けた”ことで、
恐怖し、震えー、雅夫の優しさに涙していたー。
入れ替わり初日に雅夫(里奈)が突然泣いたのはー、
”雅夫が優しすぎて辛かった”からー。
入れ替わった直後も、ずっとずっと迷い続けて来たー。
だが、雅夫の身体が”こんなにも元気に動く”ことに
だんだんと”生への欲望”が強まってきて、
やがて、里奈の中での迷いは消えていきー
”どうしよう”から”絶対に元に戻りたくない”に変わったー。
”余命宣告ーーー 受けた時ってねー…
世界が止まるのー。
何も聞こえなくなるー
何も感じなくなるー
…そのあと、死んだあと、どうなるんだろうーって
怖くなって ずっとぐるぐるそれが頭の中に回るのー”
雅夫(里奈)は、悲しそうに心の中でそう呟くとー
「ーー……わたし、死にたくなかったー…
ごめんねー」
と、悲しそうに呟きながらー
そしてー
自分で自分に”これで良かった”と言い聞かせながら
大学の廊下を一人、寂しそうに歩いて行ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから、1ヵ月近くの時が流れたー。
里奈(雅夫)は大学に全く来ることは無くなりー、
不思議そうにする周囲ー。
だがー、雅夫(里奈)は”その理由”を知っていたー。
恐らく、里奈(雅夫)は、もうー。
そんなある日ー
電話がかかって来たー。
”ずっと、言うかどうか迷ってたー
余計に里奈を苦しめることになるかもしれないと思ってー
でもー、やっぱり言うことにしたよー”
里奈(雅夫)からの電話ー
その声はとても弱弱しくー
もう、まもなく命の灯が消えることを、
雅夫(里奈)は理解するー
「雅夫ー……わたしーーー」
自分は、悪魔だー。
死にたくない、という理由で、大切な彼氏の身体を奪うなんてー
悪魔にもほどがあるー。
でも、死にたくないー。
まだ、死ぬには早すぎるー。
入れ替わりを決断してから、そんな死の恐怖と罪悪感の狭間で、
里奈は苦しみ続けているー
”死ぬか”
”悪魔になるか”
最悪すぎる選択肢しか、存在していないー。
”ーーー里奈の気持ちは分かるよー
俺だってー、余命宣告受けてー
”入れ替わり”なんて、道を見つけたらー
里奈と同じことをしたかもしれないー。”
里奈(雅夫)の口調は穏やかだったー
”法律上犯罪にならない方法で、死を回避できる方法があるー
それでもあなたは死を選びますか”
と、言われたら、自分だったらどうするだろうかー
迷わず、”それでも私は死を選びます”と言えるだろうかー。
即答できる人間は、どれほどいるだろうかー。
”ーー俺の身体、やるよー。
大丈夫、恨んでなんかいないー。
こういう電話をしたらー
里奈が気にすると思って、ずっとするか迷ってたけどー
このまま俺が里奈の身体で、何も言わずに死んだら、
里奈、きっと一生、気にするだろ?
だからー電話したー。
俺は、里奈を恨んでないー。
好きな人のー大切な幼馴染を助けられるならー
それでいいー
恨んでないよ、里奈ー。
今までありがとうー”
それだけ言うと、里奈(雅夫)は穏やかな口調で
”さようなら”と、呟いたー
「ーーー!!!」
電話が切れるー
電話を終えた雅夫(里奈)はー
目から涙をこぼしながらー
もうー罪悪感に耐えられなかったー
いっそのこと、恨んでくれた方が楽だったー
「昔からーーー
雅夫は、優しすぎるよー…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー!!!!!」
雅夫が目を覚ますー
自分は、意識を失いー、
もうあとは、死ぬだけだったはずー
「ーーどうかされましたか?」
看護師の女性が声を掛けて来るー
「えっ・・・?」
雅夫がそう呟くとー
手に何か容器を握りしめたままー、
”里奈の病室で、自分の身体に戻っていること”に気付いたー
「ーーーい、いえー」
女性看護師にそう返事をすると、
雅夫は、もう意識を失っている里奈のほうを見つめたー。
手に握られていたのはー
入れ替わり薬の容器ー…
「ーーま、まさかー…!」
雅夫はすぐに悟るー
里奈には”雅夫の身体を奪って生き永らえる”ことはできなかったー
最後の最後で罪悪感に負けー、
自分の身体が入院している病院を調べー、
そしてー、
ここに戻ってきて、入れ替わり薬を使いー、
既に意識を失った里奈(雅夫)と入れ替わったのだー
「ーーーい、いやー…だ、だからーー
いいって言ったじゃんかー…」
雅夫が目に涙を浮かべながら言うー。
「ーー何とか、ならないのかよー」
雅夫が震えながら呟くー。
雅夫が助かれば里奈が死ぬー
里奈が助かれば雅夫が死ぬー。
里奈には”死ぬか”
”罪悪感で苦しみ続けるか”の
選択肢しか残されていないー。
まだ、大学生なのにー
あまりにも、残酷な選択肢ー
「ーーーくそっ!」
そう呟きながら雅夫は、
里奈が雅夫の身体で持ってきた鞄の中を見つめたー
そこにはーー
「これってー…」
里奈は入れ替わり薬を何本か用意していたー
最初に入れ替わった時に使ったものー
今、病室で使用したものー
そして、あと2本ほど残っているー
「ーーー」
「ーーーーーー」
雅夫は表情を歪めながらー
”半分使ったら、どうなるー?”
と、眠っている里奈のほうを見つめて呟いたー
「ーーー………!!」
雅夫は、里奈を何とかしてあげたい一心でー、
”絶対に、里奈を助けたい”
と、思わぬ行動に出たー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その数日後、里奈は意識を取り戻すことなく、死んだー
里奈の葬儀に参列していた
雅夫は、複雑な表情を浮かべているー
だがー、その表情は、どこか穏やかだったー
一連の葬儀が終わり、
雅夫は呟くー
「ーー……大丈夫か?」
とー。
”ーうんーーーー”
雅夫の中から聞こえてくるのは、里奈の声ー
”ーまさか、自分の葬式に出るなんて思わなかったしー”
里奈の声が言うと、
雅夫は「ははー、そうだなー」と笑うー。
”でも、本当に、よかったのー…?”
困惑した様子の里奈ー
「ーーーあぁー構わないさー
どうなるか分からなかったけどー…
ー俺と里奈で、身体が一つしか残らないならー
二人でひとつ、使うしかないだろ?」
雅夫が笑うー。
”ーーーー本当に、ごめんなさいー”
申し訳なさそうに呟く里奈ー
”でも、ありがとうー…”
里奈の言葉に、雅夫は「俺こそ、もっと早く気づいてあげられなくてごめんなー」と
呟いたー
入れ替わり薬を半分使った雅夫ー。
その結果ー
里奈の意識も、雅夫の身体に入り込みー
現在は、雅夫と里奈が二人で、雅夫の身体を使っている状態になったー。
雅夫が表に出ることもできるし、里奈が表に出ることもできるー
もちろん、不便はあるけれどー、
雅夫も、里奈も結果的に”死”を回避できたー
賭けと言えば賭けだったー
何かおかしな作用が出る可能性もあったし、
最悪、里奈の身体の方に二人とも入り込んでまとめて死ぬ可能性もあったー
だが、咄嗟に取った行動が結果的に良い方向に作用したー。
「ーー好きな人のために、人生半分ずつにするってのも、悪くないー」
雅夫はそう呟くと、
「色々これからも不便はあると思うけどー、頑張ろうなー」と、
自分の中にいる里奈に対して、静かにそう呟いたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
最終回でした~!★
余命あとわずかになって、
入れ替わりの力が手元にあったら…?
皆様ならどんな選択をしますか~?
(※作中の里奈は、信頼してくれる相手じゃないと、
入れ替わった相手が騒ぎ出すことを懸念して
彼氏を入れ替わり相手に選んでいますネ~)
お読み下さりありがとうございました~!★
コメント