ある日突然憑依されてしまい、
自分の中の精神世界に幽閉されてしまった少女。
”精神世界から脱出して、身体を取り戻すためのゲーム”に
挑んだ少女の運命はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あー……」
梓に憑依した男、財前 卓が精神世界に送り込んだ
赤いスポーツカーに跳ね飛ばされた梓は
死を覚悟して、空を見上げていたー
”クククー
小さい頃にスピード違反の赤いスポーツカーに轢かれそうになった記憶ー
その記憶を元に、精神世界に赤いスポーツカーを送り込んだー
これで、もうあの子は終わりですねー”
卓は、勝利を確信するー。
精神世界での”死”はそのまま精神の死に直結するー。
つまり、梓の意識はここで消えてー、
梓の身体は、完全に卓のものとなるー。
「ーこのゲーム、私の勝ちですー」
笑みを浮かべる卓ー。
だがー…
「ーーーーーー…」
梓は、ふと冷静になったー
”そういえばここってー
わたしの精神の中の世界とか、言ってたよねー”
そうー
ここには誰もいないー。
ここにはー何もー
それにー
”わたしの身体”は乗っ取られているー…
よく分からないけれど、
今のわたしはー、魂だけのような、そんな状態ー
梓はそんな風に考えるとー
”ーーそんな状態のわたしが怪我をするなんて、おかしくない?”
と、急に冷静さを取り戻したー
そうー
今の梓は精神体ー
本体、車に轢かれても痛みはないし、
そもそもダメージもないー。
だが”車に轢かれる”ということに対する意識が
精神的ダメージを与えて、
さっきのように、まるで自分が大怪我をしたような
イメージを浮かべー、
そのままそれに飲み込まれれば”精神の死”を迎えてしまうー。
「ーーー…わたしはーーー負けない!」
痛みもー
出血もー
怪我も幻ー
”今の自分”は、実体を持たないのだからー
冷静さを取り戻した梓はー
痛みが消えてー、血も止まって、身体も元通りになったのを確認するー
”ほぅー”
卓はそんな様子を梓が見えるところから見つめながら感心するー
”一撃で心をへし折ることができると思いましたがー
案外、強い子のようですねー”
笑みを浮かべる卓ー
そういえばー、
”あなたは憑依されました”と、伝えた時も、
梓は意外と冷静だったー。
案外、冷静さを併せ持つ子なのだろうー
”これはこれは…手ごわそうですー
いいですねー…
ゾクゾクしてきましたよー
”カジノの帝王”の異名を持つこの私をー
本気にさせてくれるとはー”
卓は、梓が見える場所からそう笑みを浮かべるとー
”本気”で、梓の心を砕こうと、行動を実行に移したー
梓の記憶を探るー。
その中からー、梓の辛い出来事やトラウマを元にー
精神世界で”攻撃”を加えていくー。
「ーー!!!!」
梓が驚くー。
町中が突然炎に包まれたー。
梓の幼少期ー。
近所の家が火災で全焼したことがありー
その時の”恐怖”から梓の精神世界に生み出された光景ー。
消防車が走っていないのに関わらず、
精神世界全体に消防車のサイレンの音が響き渡るー
「ひっ…!?」
繁華街が炎を噴きー、火炎竜巻が生まれるとー、
梓は悲鳴を上げて逃げ始めたー
”クククーー…
そのザマでは、私を見つけるどころでは、ありませんねー。
最初の一撃を耐えたことには驚きましたがー
やはり、所詮は小娘ー”
そう思いながら、逃げ惑う梓を見つめるー
現実世界の方で、鏡に映る梓とキスをしながらー、
「もうすぐ、この身体は完全に私のものー」と、笑みを浮かべるー。
「ーーこの身体を完全に支配したら、”カジノの女王”として
君臨するのも、面白そうですねぇ」
クスクスと笑う卓に憑依された梓ー。
だが、まずはー
”どんな相手でも全力で叩き潰す”のが、卓の信条ー。
例え、こんな小娘であってもー。
梓は、炎とサイレンの恐怖に怯えながらもー、
必死に深呼吸して、自分を落ち着かせようとするー。
そしてーー、
梓は逃げるのをやめて、立ち止まったー。
「ーーーーーさっきの車と同じー」
梓は目を閉じるー。
炎なんて、ないー。
熱くなんて、ないー。
サイレンなんて、聞こえないー
だってここは、わたしの心が生み出した世界なんだからー
「ーーーー」
小さい頃は、すぐに緊張してしまい、人見知りな性格だった梓ー。
しかし、高校生になって”自分を変えたい”と演劇部に入りー、
自分を冷静に見つめることを覚えたー。
”慌てたり、緊張したりした時はー
まず、深呼吸して落ち着いてー。”
そんな、先生の言葉を思い出すー。
梓は身体と、心で深呼吸をするとー
気持ちを落ち着けてー
次第に、街を包み込む炎はー
全てー消え失せて行ったー。
”ーーーーー!!!!!”
卓は驚きの表情を浮かべるー
現実世界で梓の身体を使い、”お楽しみ”をしながら
精神世界でのゲームにも興じるー
そんな”ながら”作業をしていた卓は
”これはー全力で叩き潰さねばなりませんね”と
笑みを浮かべるー。
梓の身体で鏡にキスをするのをやめてー
卓に乗っ取られている梓の身体はその場に膝をつくー。
白目を剥いて、口を開いたままその場でピクピクと震える梓ー。
卓が梓の身体を動かすのをやめて、
まるで”抜け殻”のようになった梓ー。
その精神世界で、卓は宣言するー
”素晴らしいー
あなたのような子がー、ここまで抵抗するとはー
予想外でしたよー
いいでしょうー
私も全力を以てー、
あなたの心をへし折りましょうー”
卓の声が響き渡るー
梓は「ーわたしの身体は、誰にも渡さない!出て行って!」と、
決意の表情で叫ぶー。
”言ったでしょうー?私を捕まえれば、あなたの身体は返す、と”
卓はそう言い放つと、
梓の頭上からビルを落下させたーー
「ーーー!!!」
空から突然降ってくるビルに驚く梓ー。
けれどー
梓が心を落ち着かせて、目を閉じて深呼吸をすると、
そのビルは砕け散ったー。
”ここがわたしの心の中ならーー”
梓はそう言うと、目を閉じて、
小さい頃好きだった、魔法少女のアニメを思い浮かべるー。
するとー
魔法のじゅうたんのようなものが現れて、
自分が魔法使いのような服装に変身したー
「ーやっぱり!わたしの心の中ならー
わたしが思えば、何だってできるー!」
嬉しそうにそう言うと、魔法少女のような姿になった梓が、
魔法のじゅうたんのようなものに乗って、卓を探し始めるー
”むぅー”
卓は表情を歪めるー
梓は”強い子”だー
確固たる心の強さがあるー。
”これは手ごわいーだがー”
卓はー
梓の友達や家族の記憶を探りー、
その”幻影”を生み出すー
「ーー!みんな…!」
梓が表情を歪めるー。
梓を罵倒し始める家族ー友達ー…先生ー…
その言葉に、梓は悲しそうな表情を浮かべるー
しかしー
「ー全部”幻”だって分かってるんだから、怖くないもん!」
そう叫ぶとー
全ての幻影は消滅しー、
梓は街中を”魔法”を使って探し始めるー
”ーーーーー!…!!!!”
卓は”まさか、ここまでとはー!”と、驚くー
”自分が憑依された”
そう知らされてー、さらに精神世界で追い詰められれば
普通の少年少女はすぐに心が壊れるー。
だが、梓はそうはならずー
果敢に卓に立ち向かってきているー
”やりますねー…でも、あなたに私を見つけることはできないー”
卓は心の中で笑みを浮かべるー
”なぜなら私は”あなたの影の中”に隠れているのだからー”
卓は笑うー。
そう、梓に卓を見つけることなどできないのだー。
必死に探し回る梓ー。
今は、強い気持ちを持っていても、やがて、卓が見つからず
時間が経てば経つほど、不安になっていくー
梓は次第に焦りを見せ始めるー
色々な場所を、色々な魔法を使って探し回る梓ー。
それでも、卓は見つからないー。
するとー
梓はその場に座り込んだー。
「ーー…おやおやーいよいよギブアップですかー。
まぁ、あなたはよくー」
卓がそこまで言いかけたその時だったー
”ーーー全部、幻ーだったらー”
梓は、これまで以上に精神を集中させてー
全ての雑念を振り払いー、
”無”となって、心を落ち着かせたー。
”なっ…!”
卓が驚くー
梓の深層心理が作り出した”精神世界”が砕け散っていくー
梓の”影”すらなくなりーーー
そしてーー
「ーーー!!!!」
何もない白い空間に、梓と卓だけが残ったー
「ーーーーーみつけたー」
梓が目を開いて微笑むー。
「ーー!!」
梓は、「わたしの…勝ちですー」と、言いながら
卓の肩にタッチしたー
「ーーバ…バカな…!」
卓が目を震わせるー。
「ーーわたしの身体をー…返して」
梓が冷静に、そして悲しそうにそう呟くと、
卓は静かに頷いたー
それと同時にー
精神世界が砕け散りー、
梓が、現実世界へと舞い戻ってー
自分の身体の主導権を取り戻したー
「ーーー!!!!」
急に現実世界に引き戻されたことに少し驚く梓ー。
目の前では、卓が膝をついて
「まさか…あなたのような強い精神の持ち主がいるとはー」
と、驚きの表情を浮かべていたー
「ーーーーー………」
梓が困惑した様子を見せていると、
卓は「約束は守りますーそれが、勝負師と言うものですからー」
と、悔しそうに言葉を呟くー
「あなたは自由ですー。
二度と、あなたには近寄らないし、憑依もしないということも
約束しましょう」
卓がそう言うと、
梓は警戒心を露わにしながらー
「ーーー…本当に、信じていいんですか?」と、言葉を口にするー。
”憑依”のことも色々聞きたかったが、
あまり詮索はせずに、早くここを立ち去りたかったー
「ーーははは…まぁ、私があなたの立場ならー
そう思いますし、当然の不安ですねー。
ですがー…私は必ず約束を守りますー。
”裏社会のカジノ”では自分が有利になるように仕込みをしたり、
ゲームでイカサマを働くこともありますがー
勝敗だけは常に絶対の掟ー。
自分に有利なフィールドであなたに勝負を挑み、そして私は負けたー。
約束は守りますよー。
それが、”カジノの帝王”としての誇りですー」
卓はそれだけ言うと、何もする気配も見せず、
梓を開放したー。
梓は、卓のアジトから外に出たー。
卓は、本当に梓に何もするつもりはなく、
約束を守ったー。
大抵、こういう時に悪党は何かをしてくるものー。
だが、梓は無事に解放されてー、
卓は後を追うこともなく、
アジトで一人呟いたー
「まさか私が負けるとはー
いやー…お見事でしたー」
少しだけ満足そうにそう呟くと、卓は一人、椅子に腰かけたまま
「ーー良い勝負でした」と、静かに呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
解放された梓は自宅に向かうー。
卓が追ってくる気配はないー。
時間は数時間が経過して、夜になっていたものの
遅い時間ではないし、両親にも心配をかけることはないだろうー。
そう思いながら歩いていたその時だったー
物陰から男が姿を現すー
「あららー…財前は負けたのかー」
その言葉に、梓は警戒心を露わにするー。
そして、男は笑みを浮かべたー。
「ーーアイツは確かに、ゲームの勝敗には正直だー。
お前に二度と憑依することはないだろうしー
お前に二度と手出しはしないだろう」
男の言葉に、
梓は「あなたはー…」と、呟くー
見覚えがあるー
事務所のテレビが突然写り出しー、
”自分”の姿が映し出されたー。
”自分”がニヤニヤしながら知らない男とキスをしているー。
精神世界で最初にコンビニに入った時、
事務所のテレビに”現実世界の憑依された自分”の映像が映し出されたー
その時、梓とキスをしていた男ー。
そう、梓に憑依していた財前卓とは別に、もう一人仲間がいたのだー。
「ーーへへ…憑依成功って連絡を貰ってちょっとお楽しみをさせてもらったんだよー
お前、可愛いよなー へへ」
男はそう言うと、笑みを浮かべたー
「ー財前のやつは反対するだろうがー
俺はお前とは”約束”してねぇー。
悪いなー
お前の身体はこの俺ー”裏社会の竜王”こと、龍牙(りゅうが)様が頂くぜ」
「ーーえっ…や…やめー」
梓が、言葉を言い終える前に、龍牙は突然霊体となって姿を消し、
そのまま梓に憑依したー
ニヤッと笑みを浮かべる梓ー
「さ~~~て…」
スマホで両親に”今日は遅くなる”とメッセージを送ると
「ー財前のやつに見つかるとうるさいだろうしなー
アイツとも縁を切ってー、この身体をたっぷり堪能するとしますかー」
と、笑みを浮かべながら呟きー、
梓は夜の闇へと姿を消したー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
結局、憑依されてしまいました~!
ゲームを挑んできた男のほうは、本当に梓を開放するつもりで、
もう一人の男と打ち合わせもしてなかったのですが、
結局、身体を奪われてしまいましたネ~
(素直に解放する珍しいタイプ…笑)
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
すぐに緊張してしまい人見知りな性格だったけど、自分を変えたい思い努力して心が強くなった梓が最高に好きです
魔法少女に変身するのも大好きだ
リーフ様~!☆コメントありがとうございます~!
楽しんでいただけて何よりデス~!
今年もよろしくお願いします~!!