<憑依>映画館デート③~真相~(完)

人の気配の消えた映画館の中で、
翻弄される久雄ー。

その先に待つ”真相”とはー。
久雄の運命はー?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”4番シアターで間もなく、上映がはじまりまぁ~す♡”

馬鹿にするように笑う美咲の声ー。

「くそっ!牧村さんを助けないとー!」
久雄は必死に走るー。

”5番シアター”で見せられた
美咲が謎のタイツ男に憑依される映像ー。

あの、タイツ男は誰なのかー。
憑依なんて力ー、いったいどこで手に入れたのかー。

”憑依なんて、現実ではできないはずー…それを、どうしてー”

久雄は4番シアターの前までやってくると、
そんなことを考えながら、その中に足を踏み入れたー。

”2番シアター”で見せられた親友・一成の映像を思い出すー。

”好きだった子を、親友に奪われた気分は、いかがですか?”

”ーーえ?ま、まぁー…内心穏やかではないですねー
 正直に言うと”

”誰か”が一成にインタビューしている映像だったー

「ーーーま…まさか、一成……いや、そんなはずないよなー」
久雄が不安そうにそんな言葉を呟くー。

すると、4番シアターの中の照明が暗くなり
”上映”が始まったー。

そこに映し出されていたのはーーー

”久雄”ーー

「ーーえ?俺…?」
映し出された久雄の姿ー。

だがー
久雄は見たこともない高校の制服を身に着けていてー、
血を流している誰かの前で、必死に声を上げているー

”父さん!父さんっ!”
叫ぶ久雄らしき人物ー。

だが、その久雄が”父さん”と呼んでいる相手は
そもそも久雄の父親ではなく、
久雄からすれば”見たことのない”相手だったー。

そしてー
映像は続くー

背後から久雄が刺されて、
久雄がそのまま床に倒れ込むー

聞いたこともないような変な音を立てながら
見たこともない特殊な形状のナイフが、
映像の中の久雄を指しー…

久雄は涙を浮かべながら、死んだー。

「ーーーなんだよ…これー」

例え”映像”であっても、
自分が死ぬ姿を見せられるのはゾッとするー

そう思っていると、4番シアターの照明が明るくなったー。

「ーーくそっ!こんなもの見せて一体何が目的なんだ!」
久雄が叫ぶー。

すると、再びスクリーンに
”NO MORE 彼女泥棒”が流れ始めるー

「ー何が彼女泥棒だ!俺がいつ、牧村さんを盗んだって言うんだ!」

久雄がそう叫ぶー。

するとー
4番シアターの入口の部分から憑依された美咲が姿を現したー。

「ーークククー…どうしても、欲しいんだーこの女がー」
美咲がクスクス笑いながら自分の手を見つめて笑みを浮かべるー

「どうしてもどうしてもどうしてもどうしてもどうしてもー
 美咲が欲しいんだー!!!」

美咲に憑依した男は狂っているー

久雄はそう思ったー

だがー、このまま引き下がるわけにはいかないー

「ー牧村さんを返せ!」
そう叫びながら美咲の方に向かっていく久雄ー

けれどー
美咲は突然、左目を青く光らせてー
謎の衝撃波を発すると、久雄は4番シアターの前の方まで吹き飛ばされたー

「ーー無駄無駄ー
 俺は美咲を手に入れるために、はるばるここまでやってきたんだー」

美咲はそう笑うとー
「絶対に、失敗しないー」と、笑みを浮かべるー。

「ーーくそっ…お前は…お前は何なんだー」
久雄が苦しみながらそう呟くー。

”映画館を占領するほどの力”
”美咲に憑依する力”
”今の衝撃波”

相手は超人か何かかー?
明らかに常人が得ることのできない能力・力を発揮しているー。

「ーーそうそうー
 一つ教えてやるよ」

憑依された美咲はそう言い放つとー
スクリーンのほうを指差したー

「さっきの映像ー
 あれは”現実”の映像ー
 ノンフィクションだー」

美咲の言葉に、久雄は「なに?」と、
スクリーンのほうを見つめるー

美咲がニヤッと笑うと、
再び4番シアターの中が暗くなるー。

再び再生される、
”久雄”が”知らない父親”の前で叫ぶ映像ー。
その直後、”久雄”が何者かに刺されて
無残にも息絶えていく映像ー。

「ーーふ、ふざけるな!これのどこがノンフィクションなんだ!
 俺はまだ、生きてるぞ!」

久雄が暗闇の中で叫ぶー。
暗闇の中から美咲が笑うー。

「ーーそう、”まだ”生きてるー」
美咲の言葉に、久雄は「どういう意味だー」と、困惑しながら
周囲をキョロキョロするー

美咲の足音が近づいてくるー。

「ーーー画面を見な」
美咲の冷たい声に、恐怖すら感じながら
再び画面を見ると、右下の方に”小さな数字”が表示されていることに
久雄は気づくー。

そこを拡大する美咲ー。

そこにはーー

”2045 07/02”と表示されているー

「なっ…」
久雄が困惑していると、
「その映像はーお前から見て”未来”で撮影されたもの」と、
美咲が笑うー

「未来のお前の”末路”ー」

その言葉に、久雄はもう一度再生された映像を見るー

映像の”久雄”は、よく見ると久雄にはないほくろがありー、
若干顔も違うように見えるー

「ーーそいつは、”未来”のお前の息子」
美咲が笑うー。

「そしてー映像の最初で死んでるおっさんー
 それがーー父親になった、お前だー」

その言葉に、久雄は表情を歪めるー

「ーじ、じゃあ、お前はーー…」
久雄が困惑しながら暗闇に向かって話しかけると、
美咲は笑いながら答えたー

「ーそう、俺は”未来”からやってきたー」
とー。

「ーーな…何だってー」
呆然とする久雄ー。

憑依も、映画館を占領した力も、先ほどの衝撃波も
”未来から来た”というのであればその通りなのかもしれないー。

「ーー……お、お前は誰なんだー!」
久雄は今一度叫ぶー。

照明が明るくなり、美咲が笑うー

「”今のお前”に名乗っても、お前は俺のことを”まだ”知らないー。
 だから、名乗っても意味がないー。

 まぁー分かるように説明してやるとー
 俺は美咲の大学の同級生だー。

 孤立していた俺にも、美咲ちゃんは親切にしてくれたー。

 そんな美咲ちゃんに俺は恋をしたー。
 だが、俺は告白することも、想いを伝えることもできず、
 そのまま大学を卒業してー
 それで、運命は終わったはずだったー

 けどなー
 久しぶりの大学の同窓会で、美咲ちゃんに俺は再会したんだー。

 俺は10年以上ため込んでいた”想い”を 美咲ちゃんにようやくぶつけたー。
 ついに俺は告白したんだー

 けどー……
 美咲ちゃんは10年の間に結婚していたー

 そう、お前とー!

 俺が勇気を出して告白したのに、
 お前は俺の想いを踏みにじったー!

 お前は俺の彼女を盗んだんだ!」

憑依された美咲が、怒り狂った表情で叫ぶー

がー、久雄はすぐにそれを否定したー

「な、何だよそれー
 ま、牧村さんがいつお前の彼女になったんだよ!

 今の話の通りならー
 お前は牧村さんの彼女でも何でもないはずだ!」

久雄がそう叫ぶと、
美咲は「うるせぇ!お前は俺の想いを踏みにじった!」と
怒りを露わにするー

憑依されてしまった美咲の身体は完全に男の意のままー
男の怒りをそのまま表情と声に現しているー。

”美咲を、何とか助けないとー”
久雄がそう思いながら、美咲の方に少しずつ近づいていこうとすると、
美咲は笑ったー

「だから俺は2045年にー
 お前と、息子をぶち殺したんだー」

美咲が笑うー。

「ーーーでも、それじゃダメだったー
 上手くやったつもりなのに、俺は指名手配されー
 美咲ちゃんはショックから精神的に病んで壊れてしまったー

 だから俺はー
 ”過去”を変えることにしたんだー

 研究中の技術を盗み出してー
 この時代にやってきたんだ!」

美咲の言葉に、久雄は表情を歪めるー

「この時代で、彼女泥棒のお前を粉砕してー
 俺が、”彼氏のいない”美咲ちゃんと大学で出会い、
 美咲ちゃんと結ばれるんだ!」

叫ぶ美咲ー

それと同時に4番シアターの照明が消えるー。

「ーお、おい待て!何をするつもりだー!」
久雄が暗闇に向かって叫ぶー。

「ーーーー俺を…!俺を殺すつもりか!」
そう叫んだ久雄ー。

暗闇から、憑依された美咲が笑うー。

「クククーそう!そうだよ!この時代でお前を殺せば
 大学生になった俺が出会うのはー
 ”彼氏のいない美咲”ちゃんだー!

 大学で俺は美咲ちゃんに告白してー
 美咲ちゃんの彼氏になるんだー!

 彼女泥棒のお前は、ここで消えるんだァ!!!」

憎しみの籠った美咲の声に、
周囲を計画しながら、久雄は一旦映画館の外に出ようとするー

「ー俺を殺したら、牧村さんの身体はー…犯罪者扱いされるだけだぞ!
 お前にとっても、それはー!」

久雄がそう叫ぶとー、
美咲はそれを否定したー

”未来の技術を舐めるなよー
 そのぐらいは対策済みだー。
 お前が死んだあとー、
 映画館は普通に再び営業を再開してー
 ”何事もなかったように”いつも通りに戻るー

 美咲ちゃんは、デートしていたことを忘れてー
 何事もなかったかのように一人で映画を見て、帰るー”

その言葉に久雄は表情を歪めるー。

変体タイツ野郎がそう言っているということはー
方法は分からないが、何か手段があるのだろうー。

映画館を占領して美咲に憑依するーなんてことを
やってのけるやつだー。

何が出来ても、不思議ではないー。

4番シアターから飛び出した久雄ー。

”牧村さんー…必ず助け出すから、待っててー!”
そう呟きながら映画館の出口の扉を
開こうとするー

しかしー

「ーー!?!?!?」
映画館の出口の扉が開かないー。

「ーくそっ!何で!」
久雄がそう叫ぶと同時にー
「ーはい~チェックメイト」と、背後から笑う美咲の声が聞こえてー
久雄が強い痛みを感じたー

「ーーぐっ…」
久雄が苦しそうに呻くー。

美咲が持っていたナイフを久雄に刺して笑うー。

「ーーー…め…目を…覚ましてくれ……牧村さー…」

久雄はそれだけ呟くと、その場に倒れ込んだー

美咲はニヤリと笑うと、倒れた久雄に謎の粉を掛けて、
久雄の身体を消滅させたー。

そしてー
美咲は笑みを浮かべたままその場で気を失いー、
美咲の身体から出て来たタイツ男は
満足そうに”後処理”をして元の時代へと戻って行ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーククククー」

未来の時代で、研究施設から盗み出した
時空を超える装置で、時空を超える男ー。

未来は変わったー。

久雄が死んだことにより、
大学時代の美咲には彼氏がいなくなったー

彼氏のいなくなった美咲に、自分は告白してー
そして、美咲と結ばれるー。

大学時代の自分がいる時代に立ち寄り、
美咲に告白するように促した男は、
満足そうに自分のいた時代へと戻って行ったー。

・・・・・・・・・・・・・・

2045年ー

男は、自分のいる時代に戻って来たー。

時空の扉を開きー、
”変わったであろう未来”に、満面の笑みを浮かべるー

しかしーーー

笑みを浮かべたままー
男は、2045年に足を踏み入れた直後、
一瞬にして”消滅”したー。

「ーーーーーーー」

通行人たちは、男が消えたことにも気づかないー。

何故ー。
何故、消えてしまったのかー。

2045年で、男が過去に戻って久雄を殺そうとしたのは、
美咲に同窓会で”夫がいる”と言われたことがきっかけだー。

しかし、男が2022年に戻り久雄を殺してしまったことで、
その未来は消えたー。

がー
それで美咲と自分が結ばれる、という考えは甘かったー

2022年で久雄が死んだことにより、
同窓会で美咲に振られる未来が消滅したことによりー
男が”過去に戻って久雄を殺そうとする”未来も消滅したー。

そのためー、2022年で久雄は死ななくなり、
再び男は美咲に振られー、また、男は過去に戻ろうとするー。

男の取った行動によって
歴史に”修正しようのない不具合”を生んでしまったー

男が、過去に戻り久雄を殺しに行けば、
男は、2045年の世界で”過去に戻る”ということを思いつかなくなるー
男が、過去に戻ることを思いつかなければ
2022年の久雄は映画館デートで悲劇に見舞われることはないー

タイムパラドックスー。

過去で何かをすればそれが起きー、
恐ろしい”何かが”起きるー。

だからこそ、この時代で研究されていたタイムマシン技術は
その後も実用されることなくー
2022年の時代においても”未来からの来訪者”は来ていないー。

未来からやってきた人間が2022年に存在しないー。
それはつまり、”遠い未来”においても”誰でも使える過去に戻れるタイムマシン”は
存在していないことを示すー。

誰でも過去に戻れるなら、2022年にも”未来から来た人間”が
そこら中にいるはずなのだからー。

”過去に戻れる技術を作ってはならない”
人類は未来において、そう結論付けたー。

そしてー
2045年ー、その技術を盗んで過去に戻ったこの男はー

”タイムパラドックス”を生み出してしまった結果ー、

それを修正しようとする力により、
”そもそも存在しなかった”ことにされたー。

タイムパラドックスが生み出したねじれに巻き込まれて、男は死んだー。
いや、生まれてすらいなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2022年ー。

「ー楽しかったね~!」
美咲が笑うー

久雄は「ん?あ、あぁーそうだね」
と、笑うー

「どうしたの?」
美咲が不思議そうに首を傾げるー

久雄は「んー…いや、なんかー映画館で恐ろしいことが起きた気がしてー」と、
映画館のほうを振り返るー

美咲はそんな久雄を見て笑うと、
「ーーもしかして、寝ぼけてる?」と、微笑んだー

「そ、そんなことないよー」

久雄は”男がタイムパラドックスを起こして自滅したおかげで”で先ほどまでのことが
”修正”されて、なかったことになったー

などということに気付く由もなく、
そのまま美咲と共に昼食へと向かうのだったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

最終回でした~!★

元々この結末の予定でしたが
読み返してみると、少し唐突に未来云々が出て来た気もしますネ~!

①か②の時点で「未来の久雄が殺される映像」を物語中で流しておいた方が
良かった気が今更ながらしました~笑

今後の作品作りに、活かします~!★

お読み下さりありがとうございました!

PR
憑依<映画館デート>

コメント