<憑依>映画館デート②~狂気~

彼女との楽しい初デート…

に、なるはずだった映画館デート。
しかし、無人の映画館の中で、彼はー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーなぁなぁ、お前、美咲ちゃんのこと、
 まだ”牧村さん”呼びなのか?」

美咲と付き合い始めてから半月ー。
親友の一成が苦笑いしながら、
久雄にそんなことを聞いてきたー

「ーははは…何かさー…
 下の名前で呼んじゃっていいのかな?とか
 色々考えちゃってさー

 …なんかほら、恥ずかしくね?」

久雄が一成にそう言いながら
「牧村さんも、俺のこと”菅沼くん”呼びだし、
 何だか申し訳なくてさ」
と、言葉を付け加えるー

「お前は、ホント~に恋愛に奥手だなぁー
 
 ってか、俺の方が”美咲ちゃん”とか呼んじゃってるし、
 俺の方が彼氏にふさわしかったんじゃね?」

ニヤニヤしながら自分を指さす一成。

「おいおい、奪うのは無しだぞー!」
久雄がそう言うと、一成は「んなことしねぇよ」と笑うー。

少し間を置くと、一成はため息をついてからー
「まぁ、でもー…奥手同士だからこそ、
 意気投合したってのもあるんだろうなー」と、
離れた座席で女子と会話している美咲のほうを見つめる一成。

久雄も、美咲のほうを見つめると、
一成は「ー美咲ちゃんのこと、大事にしろよ!
二人のこと、親友として応援してるからな!」と、
力強く、言い放ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」

しかしー
”今”ー

久雄は”初デート”で、困惑していたー

初デートの待ち合わせ場所である映画館にやってきた久雄はー
”臨時休館”となっていた映画館の中で待っていると、美咲から
連絡が来たため、その中に足を踏み入れー、
そして、5番シアターで謎の映像を見せ付けられているー

映像の中で、全身タイツの謎の男に追い回されている美咲ー

泣きながら逃げ惑う美咲ー
全身黒タイツの男は笑いながらそれを追い回していくー。

映像の中で美咲は、久雄が今いる”5番シアター”へと逃げ込んだー

久雄は思わず周囲をキョロキョロとするも、
ここに美咲の姿はないー

再び映像の方に視線を向けるー。

5番シアターの前方に追い詰められた美咲は
”な、何なんですか!やめて下さい!”と
目に涙を浮かべながら叫ぶー

”ぐへへへへへ…”
全身タイツ男は笑いながらそう呟くー

映像は、タイツ男自身が撮影しているのか
タイツ男の主観視点だー。

”君の身体、いいねぇ”
タイツ男が合成された音声のような声でそう呟くー

”ひっ…け、警察…!警察を呼びますよ!”
泣きながら叫ぶ美咲ー

「ー牧村さん…!くそっ!くそっ!」
映像を見ながら久雄は悔しそうにそう呟くー

やはり、美咲の身に何かあったのだー。
この映画館の状況も普通じゃないー

何かー
何かが起こっているー

続けてー
タイツ男は自分にカメラを向けて笑みを浮かべたー

”今から、この可愛い女の子に”憑依”しちゃいま~す”
と、ふざけた口調でー。

「ーー!?」
映像を見ながら、久雄は表情を歪めるー。

映像がタイツ男の主観視点から切り替わりー、
少し離れた場所からの視点に変わるー。

タイツ男がー
美咲に近付きー、
美咲に無理やりキスをするー。

驚いた表情のままー
じたばたともがく美咲ー

やがてー
信じられないことに、タイツ男の姿が
美咲に吸い込まれるような形で消滅しー
美咲がゲホゲホと咳き込み始めるー

「ーーーー…」
咳が落ち着くと、美咲が一人立ち上がり、
カメラの方に近付いてきたー。

カメラの目の前にやってきた美咲は
ニヤッと口元を歪めると
「憑依大成功…」と、囁くようにして呟いたー

「ーー!?!?!?」
久雄は青ざめるー

「なんだこの映像はー…
 ま、牧村さんが”憑依”されたー…?」

呆然としていると、上映が終わったのか、5番シアターの中が明るくなるー。

「ーーく…くそっ…な、何なんだこれは!」
久雄は大声で叫ぶー。

”自分しかいない”5番シアターの中でー。

すると、
5番シアターの扉が開いたー

そこにはー
カメラの着ぐるみのようなものを着た人間の姿ー。

カメラの被り物を着た謎の人物が、
ふざけたポーズを取りながら久雄のことを挑発するー

「ふざけやがって…!」
久雄は、そう叫ぶと座席から飛び跳ねるような形で
すぐに走り出すー。

5番シアターから出ると、
カメラ人間が、奇妙な甲高い笑い声をあげながら逃げていくー。

「ーーくそっ!お前は誰だ!俺に何か恨みでもあるのか!」
久雄がカメラ人間に向かって叫ぶもー
カメラ人間は返事をしないー。

映画館で流れる映像を真似ているのかー。
いずれにせよ、馬鹿にされたような気分になって
ものすごく腹が立つー。

やがてー
カメラ人間が2番シアターの方に逃げ込んでいくー。

久雄もあとを追って2番シアターの方に入ると、
カメラ人間の姿はなく、
既に”映像”が上映されていたー。

”好きだった子を、親友に奪われた気分は、いかがですか?”
映像では、謎のインタビューが流れているー

”ーーえ?ま、まぁー…内心穏やかではないですねー
 正直に言うと”

インタビューに答えていたのはー
久雄の親友の一成。

学校の近くの商店街のような場所で
インタビューを受けているようだー

”でもまぁ、俺は二人のこと、応援してるんでー”

そう言いながら笑う一成。

その映像を見て
「か、一成…?何でこんな映像がー」と、
困惑しながら立ち尽くす久雄ー。

意味が分からないー
一体、この映画館で何が起きているー

一体ー、”誰が”
”何の目的で”

そんなことを考えていると、スマホが鳴ったー

LINEなどのメッセージではなく
”電話”だー。

しかも、
その相手はー

”牧村 美咲”と表示されているー

「ま、牧村さんー」

美咲はさっきの映像で、”謎のタイツ男”に”憑依”されたー。
あの映像が本物なのかどうかも分からないが、
美咲からの電話が、本当に美咲からなのかも怪しいー。

しかしー…
とにかく、今は電話に出るしかないー

「もしもしー…牧村さん、今、どこだ?」
久雄がそう言うと、
美咲の声が電話の向こうから返って来たー。

”ふふふー…菅沼くんー
 わたし、憑依されちゃった♡”

馬鹿にするような口調ー
”いつもの美咲”ではないー。

「ーま、牧村さんー」
困惑の表情を浮かべる久雄ー。

だが、そんな久雄をおちょくるかのように、
美咲は言葉を続けるー

”ーわたし、今おっぱい片手で揉みながら電話してるの
 ふふっ エロイでしょ?”

その言葉に、
「ふ、ふざけるな…!
 お、お前…さっきのタイツ男だろ?」と、
久雄は怒りの形相で呟くー

”さぁ?わたしは牧村美咲ですけどぉ?”

煽るような口調ー

「牧村さんは、そんな喋り方しない!」
言い切る久雄ー

”今、”そんな喋り方”してるんですけどぉ~?”
なおも笑う美咲ー

怒りに拳を震わせているとー、
突然館内放送が流れたー

”菅沼久雄様ー
 お連れの方が3番シアターでお待ちですー”

女の声ー

怒りを感じながら、久雄は既に切れているスマホを
見つめると、3番シアターに駆け込んだー。

3番シアターに入ると、
”憑依された美咲”が、変顔をして「ば~~~~か!」と
叫ぶ映像が流れたー

徹底的に久雄を煽ってくるー。

「ーー…ーーーー」
普段は比較的穏やかな性格の久雄も、
彼女を弄ばれて、ここまで煽られて
流石に腹が立ってきているー。

拳を震わせて、
「誰だか知らないけどー…ふざけるなよー」と、呟くー。

その時だったー
背後から突然蹴り飛ばされて、3番シアターの前方まで
転がり落ちる久雄ー。

「ぐっ…くそっ…何なんだ!」
久雄が叫びながら起き上がると、そこにはカメラの被り物のような
ものを身に付けた先ほどのカメラ人間がいたー。

馬鹿にするような動きをしながら
近付いてくるカメラ人間ー。

「ーお、おいっ!待て!目的は何なんだ!」

”ヤバいやつが近づいてくる”
そんな恐怖に久雄は思わず叫ぶー。

だが、カメラ人間はそれを無視して、
久雄に突進してきたー

3番シアターの床に押し倒される久雄ー。
カメラ人間が奇声を上げながら
久雄の首を絞めて来るー

「ぐ…くそっ…な、なんなんだー…!」
次第に苦しくなってきた久雄は、
慌ててカメラ人間を足で吹き飛ばすー。

バランスを崩して3番シアターの客席に激突した
カメラ人間をすぐさま追いかけて、
カメラの被り物のようなものを無理やり引きはがしたー

だがー
その下から出て来た顔に久雄は目を見開いたー

「ーーー…!?!?!?!? ま、牧村さんー!?」

カメラ人間は、カメラの被り物を被った美咲だったー。

「ーーえ…ど、どういうー?」
全く意味が分からないー

久雄が困惑の表情を浮かべていると、
美咲はニヤニヤしながら、
「ーわたし、憑依されちゃった~♡」とゲラゲラと笑い始めるー

「ーーう、嘘だー…そんなこと、あるわけがー」
久雄がそう言い放つも、
「ーーへ~~~~」と、美咲は笑いながら立ち上がるー。

「ーじゃあ、正気のわたしがこんなことするって思ってるんだ?」
美咲の言葉に、久雄は「い…いや、そ、それはー」と、
戸惑いの表情を浮かべるー

確かに、美咲がこんな訳の分からないことをするはずがないー。
”憑依”されて、誰かに操られているわけでもなければー

こんなことー

そんな風に考えているうちに、突然3番シアターの照明が全て消えるー。

「ー!?」
久雄がハッとして「ま、牧村さん!」と叫ぶも、
美咲の笑い声が聞こえてくるだけで、
美咲は返事をしないー

狂気に満ちた狂った笑い声ー
美咲がこんな笑い方をしているのは見たことがないー

やがてー
奇妙な音が聞こえてきて、久雄は身構えるー

3番シアターが真っ暗で何が起きているのか分からないー。

久雄は思わず叫ぶー

「くそっ…!なんなんだよ!なんなんだよ!!!くそっ!
 俺が、俺が何をしたって言うんだよー!」

しかし、その言葉もむなしく、館内放送では
ずっと奇妙な、頭のおかしくなりそうな音が響き渡っているー

”あははははー あははははははははぁ!”
美咲の笑い声が一緒に響くー。

そういえばー
さっきから”館内放送”で聞こえてきている声もー
声のトーンがいつもと違ったから気付かなかったけどー
美咲の声のような気がするー

”憑依された美咲”が、館内放送で久雄を誘導しつつ
弄んでいるのだろうかー

「ーこんなこと…こんなことして…!何が目的なんだよ!」
久雄が必死に叫ぶー

しかしー
返事はなく、
”間もなく4番シアターで上映がはじまりまぁ~す♡”という
美咲のバカにしたような声が響き渡ったー

「くそっー!」
久雄は舌打ちしながら、3番シアターの外に出ると、
再び無人の通路を歩くー。

がーー
久雄は4番シアターにはいかずー、
一度映画館の入口付近のホールまで戻ると、
スマホを手に、”警察”に電話をしようとし始めたー

「ー俺だけじゃ手に負えないー」
そう呟く久雄ー

映画館が何者かに乗っ取られて臨時休業になっているこの状況ー
警察に通報すれば、警察も捜査してくれるはずだー

そう思いながらスマホを操作し始めるとー
”いいのかなぁ~~~?”と、館内放送が響き渡り始めたー

「ーーーー…!」
久雄が手を止めるー。

”警察に通報したらー
 わたしーー…”

その声と同時に入口付近で映画の宣伝をしていたモニターが切り替わりー
美咲の顔が映し出されるー

ナイフを持った美咲が自分の首筋にナイフを突きつけて笑みを浮かべるー

”通報したければしてもいいよ?
 でも、どうなるか、わかるよね?”

脅すような美咲の口調ー

久雄は「ーくそっ!一体何なんだよ!」と、叫ぶと
スマホでの通報を諦めて美咲の映像のほうを見つめるー

”やっぱり、こいつ、俺に恨みでもあるのかー?”
久雄はそう思いながら、
険しい表情を浮かべるー。

そしてー
美咲の映像のほうを指さしながら
「分かったよ!4番シアターに行けばいんだろ!」と叫ぶと、
そのまま4番シアターの方に向かって走り出したー

③へ続く

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コメント

久雄を弄ぶ憑依人ー…
その目的は一体何なのでしょうか~?

次回が最終回デス~!

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憑依<映画館デート>

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