”世界で一番大嫌いな兄”と入れ替わってしまった妹ー
美咲の身体になった重治が困惑する中、
翌日の朝ー、
”重治の身体のまま美咲が自ら命を絶った”
ということを重治は聞かされてー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーう…嘘だろ…?」
呆然とする美咲(重治)ー。
美咲の笑顔を思い出すー
美咲に罵倒されたことを思い出すー
良いことも、悪いことも、
色々な思い出が頭の中を巡るー。
美咲の部屋で、鏡に映った美咲の姿を見つめながらー
”美咲はここにいるのに、美咲はもういないー”
ということを実感するー
”お兄ちゃん!わたし今日から高校生だよ!
ほら、大人っぽくなったでしょ~?”
”ははは、俺から見ればまだまだ子供だなぁ~”
”え~!?”
ムスッとしていた美咲のことを思い出すー
高校生になったころはまだ、仲良しだったー。
それなのにー
「ーーーー…死ぬほど、俺が嫌いだったのかー」
”自分の身体”も、一緒に自殺させられてしまったー。
重治からすればそんな状況だったがー、
”自分の身体”を失ったことよりも、
美咲を失ったことの方が、美咲(重治)には、
深く、深く、悲しみとなって、心に突き刺さっていたー
「ーーーー…」
ふと、鏡に映る美咲の目に涙が浮かんでいることに気付くー
「ーーあれ……ははーダメだー……
こんな別れ、辛すぎるよなー」
泣いている場合じゃないー
そうは思いつつも、美咲(重治)は、一人、部屋でしばらく
涙を流し続けたー
ようやく落ち着くと、
「ーは~~…」と、ため息をつきながら
”美咲の身体だから、あれかなー涙腺的なものが俺より脆かったのかなー”
などと”人生で一番泣いた”ような気がする自分を振り返るー。
両親は”重治が自殺した”と、思い込んでいるー。
だがー
”こうなってしまった以上”
両親に入れ替わりのことを打ち明けるのはやめておいたー。
”悲しみに暮れる両親”をさらに混乱させるだけだー。
”お、俺が実は美咲でー…”なんて言うのは簡単だ。
だが、信じてもらえたとしても
貰えなかったとしても、
余計に両親を苦しめるだけの結果になってしまうことは、
安易に想像できたー。
「ーーー…………」
美咲(重治)は、両親が悲しみに暮れながら
色々な準備、手続きなどをこなしていくのを見つめるー。
やがてー、
葬儀の日程も決まりー、
「ー美咲は、どうするー?」と、母親が聞いてきたー
ここ半年ほど、美咲が
”兄のことが大嫌い”だったのは両親も知っているー
それ故の配慮なのだろうー。
「ーーー…お…わたしも、行くよー」
美咲(重治)はそう答えるとー
”自分の葬式”に参列したー。
”おいおいー山野井(やまのい)お前、泣くなんてガラじゃないだろー”
大学の親友・山野井が大泣きしているのを見て、
美咲(重治)はぎゅっと手を握りしめるー
”泣くなよー似合わないぜ”と言いたくなったがー
それを言うことはできないー
今の自分はもう、”美咲”なのだからー。
”ーー……重治ー……”
幼馴染の茉莉花(まりか)が、駆け付けて涙を流しているのを見て
美咲(重治)の目にも涙が浮かんだー。
「ーーーごめんな…茉莉花ー…」
茉莉花は彼女ではなかったが、かなり親しく、大学生になってからも
時々会うようなこともあったし、連絡も取り合っていたー。
茉莉花には彼氏がいなかったし、
もしかしたらーこの先ー…そういう未来もあったのかもしれないー
”自分の葬式ーって…なんか、悲しいなー”
母親が泣いているー
父親が唇をかみしめて天井を見上げているー。
”美咲の方が大事にされている”
そんな風に思ったこともあったがー
あそこまで悲しんでいる両親を見ると、
そんな気持ちは吹き飛んでしまうー。
「ーーごめんなー…父さんー母さんー」
なんだか、本当に自分が自殺したかのような気持ちになり、
そう呟くと、
美咲(重治)はひと段落ついたところで、会場の外に出たー。
”髪、切ろうかなぁ…”
美咲の長い髪はどうにもなれないー。
葬式で傷んだ自分の心を何とか紛らわせようと、
そんなことを思いながら夜空を見上げていると、
幼馴染の茉莉花が、「美咲ちゃんー大変だったね」と、
背後から声を掛けて来たー
「ま、茉莉花ー!」
思わず、美咲(重治)はそんな声を上げてしまうー
「ーーえ?」
茉莉花が困惑した表情を浮かべるー。
美咲と茉莉花は面識はあるが、
少なくとも”茉莉花”なんて呼ぶ間柄ではないー
「あ、い、いえー…ま、茉莉花さんー」
美咲(重治)がそう言うと、
茉莉花が寂しそうに笑いながら近くにやってきてー
色々雑談を交わしたー。
”兄を失った妹を気遣って”声を掛けてくれた様子だったー
そして、思い出話を続けていると
茉莉花は言葉を口にしたー
「ーーーーー去年、告白しておけばよかったなぁー…」
とー。
「え?」
美咲(重治)が茉莉花のほうを見るー
茉莉花が夜空の月を見上げながら
目から涙をこぼしているー
「去年ー
クリスマスにねー
わたし、重治に告白しようとしてたんだけどー
たぶん、重治はわたしのこと、幼馴染としか
思ってないし、笑われると思って
”来年にしよ”って先延ばしにしちゃったのー
今年こそは、って思ってたのにー
こんなことになるなんてー」
茉莉花はそれだけ言うと、涙を拭きながら
「あ、ごめんねー…美咲ちゃんの方がもっとつらいのに
こんな愚痴をー」
と、無理に笑みを浮かべたー
”ま、茉莉花ー…嘘だろー…?
お、俺ー…告白されてたらー喜んでー…”
美咲(重治)は、溢れ出しそうになる思いを抑えながらー
「ーーお兄ちゃんー…兄はー
きっとーー、喜んでると思いますー」
と、唇をかみしめながら、ようやく、そう言葉を口にしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”重治”のお別れが済み、
美咲の身体で、重治は美咲の高校に登校したー。
人間関係はよく分からないがー
授業はなんとかなるー。
”そういや、美咲のスマホー
暗証番号も分からないし、勝手に覗いちゃいけないと思って
そのままにしてるけどー…
美咲として生きてくならー…
そろそろちゃんと見なくちゃなー”
そんな風に思ってると
「ー大変だったなー 美咲」と、背後から声がしたー
「え?」
美咲(重治)が振り返ると、
そこには美咲の”元カレ”だった
安原 幹夫の姿があったー
美咲から”あんたなんて大っ嫌い”と言われるようになったのは、
この幹夫と付き合い始めてからー
彼氏が出来て、お兄ちゃんが鬱陶しくなったー。
そんな感じなのかもしれないー。
幹夫とは既に別れていることは分かっていたが、
”今”どんな関係なのかは、ハッキリとは知らなかったー
例えば、円満に別れてれば普通に話すことができるし
喧嘩別れしていたなら、馴れ馴れしく話しかければ幹夫は
戸惑ってしまうだろうー。
「あ、うんー」
美咲(重治)がそう答えると、幹夫は「ーー辛い気持ちは分かるよ」と
言いながら、気を紛らわせるためか、
色々な雑談をしてくれたー。
「ーーー辛いことがあったら、相談だけならいつでも乗るから」
幹夫がそう言いながら立ち去っていくー
「うんーありがとうー」
美咲(重治)はそんな返事をしながらー
”安原くんも、いいやつだなー”と、ため息をつくー。
そういえば、美咲に彼氏ができた、と聞かされた時にはー
少し嫉妬するような態度も見せてしまったー。
いや、もちろん兄として妹に恋愛感情があったわけではないー。
だが、何だか美咲を取られてしまうような気がして
会ったこともない幹夫に対抗意識を燃やしたこともあったー
”安原くんに、聞けばいいだろー?”
みたいなことも美咲に言ってしまったことがあるしー
”彼氏自慢は後にしてくれ”みたいなことも
言ってしまったことがある気がするー
思えばー
美咲から”アンタなんて大っ嫌い”と言われ始めたのは
その頃からな気がするー
「ーごめんな…バカな兄でー」
美咲(重治)は、今になって後悔しながらも、
静かにため息をついたー。
それからも、美咲の身体で過ごす日々は続くー
いやー、もう元に戻ることはできないー
これからは永遠に美咲として過ごしていくことになるー。
元カレの幹夫はとても親切にしてくれて
何かと気を遣ってくれているー。
おかげで、高校でも”美咲として振る舞う”ことが
やりやすくなったし、彼のような人間がいて、
本当によかったー。
そんなある日ー
”美咲が死んでしまったこと”
”自分の身体が死んでしまったこと”
”慣れない美咲の身体で暮らすこと”
”美咲としての生活に慣れること”
色々なショックと、
入れ替わったばかりでそれどころではない忙しい日々を
乗り越えてー
最近は、少しずつ”美咲の部屋の整理”を始めたー。
何となく美咲が帰ってくるような気がして
いじる気が起きなかったことや、
忙しすぎたことで、何も手をつけていなかったものの、
これから先、自分は美咲として生きていかなくてはならないということを
ようやく、現実として受け入れ、
ここ最近は部屋の整理を始めたのだー
いつまでも”妹の部屋だから”ではいけないー。
これからはここが”自分の部屋”になるのだからー。
「ーーーー……」
入れ替わってからも、今まで最低限の場所しか
いじらないようにしていたため、
机の引き出しの中身すら、あまり良く知らなかったー
「ーーなんだこれ?」
ふと、引き出しの中から”日記”のようなものを見つけたー。
「ーーーははは…今時日記を書いてたなんてな」
美咲(重治)はそう思いながら、
その中身を見つめたー。
勝手に覗くのはー…とも思ったが
もう、美咲は帰って来ないー。
それに、今は自分が美咲であり、今後、美咲として振る舞うためにも
読んでおいて損はないと判断したー。
それにー…
”俺のこと、散々に書かれてるんだろうなー”
半年前ぐらいからー
”世界で一番大っ嫌い”なんて言われるようになったー
時期的に彼氏の幹夫と付き合い始めて少ししたぐらいだったと認識しているー。
”日記”と言っても、ほとんどの日は数行で、何かあった日は
長い文章が書かれている、そんな感じの内容ー。
半年前あたりの記述を見つけると、
美咲(重治)はそれを読み始めるー。
まだ”お兄ちゃん”と、日記内にも書かれているー。
「ーーどうして俺は、あんなに嫌われちゃったんだろうなー」
そう思いながら
日記を少し飛ばすとー
”アイツ”に記述が変化していたー
”あんなやつ、大っ嫌い”と、日記にも重治のことが書かれているー。
「ーーーーーもういない美咲に、また大っ嫌いって言われた気分だなー」
苦笑いする美咲(重治)ー
そして”その中間”のページに戻るー
”お兄ちゃん”から”アイツ”へー。
そこまで嫌われたのは何故だったのかー
”お兄ちゃん、助けてー”
”どうして、わたしの話、聞いてくれないのー?”
”今日も”また今度”って言われたー”
”俺より彼氏に相談した方がいいよーって…
何でそんな言い方するの?
その彼氏のことで悩んでるのに!
こんなこと、お兄ちゃんにしか聞けないのに!”
”親には恥ずかして聞けないしー
友達には噂になりそうで聞けないしー
…お兄ちゃんだから聞けることなのにー
なんでーーー”
「ーーーーー」
”お兄ちゃん”から”大っ嫌い”に切り替わったと思われる頃の
日記を見つけて、美咲(重治)は表情を歪めるー
”ーーもうーめちゃくちゃー…
お兄ちゃんのせいー…
今日もーお兄ちゃんー
”なんか暗い顔してるけどー、何かあったのか?”なんて言ってたー
”悩みがあるなら、聞くからなー”
ってー
聞いてくれなかったじゃんー
あとであとであとであとでばっかりー
もう、いいよー
嫌い”
「ーーーー…美咲ー」
美咲(重治)はその前後のページを何度も何度も読み返すー。
そして、思い出すー
「ーーあの…お兄ちゃんー
幹夫ー…安原くんのことなんだけどー」
「ーーはは…仲良くやってるかー?」
そうだー
「お兄ちゃん、彼氏のことー…」
「また、今度なー」
俺はーずっとー、
「ーーお兄ちゃん!あの、聞きたいことがー」
「ーーははは、彼氏に聞いた方がいいと思うよー俺より」
ずっとー
”妹を取られちゃう気がして”
彼氏が絡む話を振られた時ー、
無意識のうちに、逃げていたー。
無意識のうちに、情けない嫉妬を剥き出しにしていたー。
悪気はなかったー
でも、それがー
何度も何度も、美咲から”何か”を相談されようとしていたー。
”また彼氏自慢か~?”
なんて冗談で笑ったこともあったー
でも、美咲はー
美咲は、何かに悩んでいて、
ずっと助けを求めていたー?
”もういいー あんなやつ、信じないー!
ずっとずっと助けてほしかったのにー
わたしがこんな目に遭ってるのにー
今日も”はははー彼氏と仲良くやってるか?”なんてー
もういいー あんなやつ大っ嫌い!”
そんな風に書かれた日記のページを見つめて、
美咲(重治)は静かに日記を閉じたー
目に涙を浮かべてー
美咲(重治)は
「ーーダメな兄でごめんなー。
妹に彼氏が出来て嫉妬するような兄でごめんなー」
と、悲しそうに、そしてもう戻せない時を後悔しながら、
そう呟いたー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
次回が最終回デス~!
この先どのように生きていくのか、
妹が最後に何を考えて、自ら命を絶ってしまったのか、
結末をぜひ見届けて下さいネ~!
今日もありがとうございました~!
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