”憑依予告”が行われてから
数週間の時が流れたー。
あの日から、彼女に違和感を感じ始めた
男子高校生はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
第7フューチャービルー。
あの日、彼女の美由紀と共に
”憑依予告”のあったこのビルを偶然訪れていた
男子高校生の雄太郎は、
今日、再びこの場所を訪れていたー。
”美由紀の様子がおかしい”
最近ー
特にそう思うようになったー
普段は”普通”にしているし、
学校でも普通に授業は受けているー。
振る舞いは本人そのものに一見見えるし、
記憶が飛んだりしている様子もないー。
あれは、確かに美由紀には見えるー。
しかしー…
最近は妙に冷たくなった気がするしー
妙に女子にばっかり話しかけていてー
その上ー”他の女子のことをイヤらしい目で見ている”
そんな、気がするー
「ーーー俺が気にしすぎなのかもしれないけどー」
雄太郎は、そう思いながら第7フューチャービルの下層に存在する
ショッピングモールを歩くー。
ビルの中はいつもと変わらない賑わいを見せているー。
「ーーー」
”憑依予告があったあの日、ここにいた”
その事実が、
”美由紀の様子が変わったような気がする”という気のせいに
繋がっている可能性は十分にある。
人間の精神は強いようで、脆いー。
気になることがあると、ついついそれを結び付けてしまい、
そう思い込んでしまうと、本当にそうなっているように
見えてしまうー…
なんてことは決して珍しいことではないー。
”いや、まぁ、気のせいなら気のせいでいいんだけどなー
別に別れを告げられたわけでもないしー”
雄太郎は”憑依予告のあったあの日、17時に美由紀がビルの中にいたことで
何か、その身に起きたのではないか”と、どうしてもそう、
心配してしまっていたー。
「ーーあ、あの!」
雄太郎は、以前から時々利用している
モール内の文房具店に足を運ぶー。
そこの店主であるおばあさんとは、
中学生時代から顔見知りで、良く学校の雑談もするー。
あの日もー、
このビルの中にいたはずだー。
そう思いながら「そういえば、ちょっと前に
このビル、変な悪戯ありましたよねー」と、
雄太郎は学校で使うペンと消しゴムを買いながら
”何気ない表情”で雑談を始めるー。
「あ~~~あれねぇー」
店主のおばあさんはそう呟きながら、
雄太郎のほうを見つめるー。
「ー結局、何ともなかったねぇ」
おばあさんがそう言いながら、
会計を済ませるー。
「ーーはは、迷惑な悪戯ですよねー」
雄太郎は、おつりを受け取りながらそう呟くと、
「ーそうだねぇ」と、
文房具店のおばあさんが、笑いながら、
その他の雑談を始めるー。
特に変わった様子もなく、お店から出る雄太郎ー
”ーやっぱ、憑依なんてされてるわけないよなー”
そう心の中で呟きながら雄太郎がお店の外に出て、立ち去っていくー
「ーーーーー」
文房具店のおばあさんは、モールの中を歩き始めた
雄太郎の後ろ姿を見つめながら、静かに呟いたー
「ーーーーーまさかこのババアまで憑依されてるとはー
思ってもないだろうなー」
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結局、美由紀の様子がおかしくなった…と
感じるのは気のせいなのだろう、と
そう思いながら帰路につく雄太郎ー。
だが、その日以降も、
やはり美由紀の行動に違和感を感じることが多くー、
そして、ついに美由紀から別れを告げられたー
「ごめんねー…
雄太郎に何か問題があるわけじゃなくてー
わたしの中での恋人と一緒にいたいって気持ちが
薄れちゃってー」
申し訳なさそうに言う美由紀ー
「ーーー…そ、そっかー…」
雄太郎に、嫌われるようなことをした心当たりは全くないー。
1か月前、あのビルに二人で訪れたあとから、
微妙に、”少しずつ”
まるで計画されているかのように距離が開いていくのを感じてー
そして、その結果がこれだー。
「ーーーーー……わかったー」
雄太郎は、潔くそう呟くー。
「ーーでも、一つだけ聞いていいかなー」
雄太郎が、そう言葉を口にすると、
美由紀は「ーー?」と、首を傾げながらも「いいよ」と答えたー。
「ーーー……”憑依”されてないよな?」
雄太郎が真顔で美由紀を見つめながらそう呟くー
「ーひ、憑依?ふはっ!あはははははははっ!」
その言葉に、笑いだす美由紀ー
だが、雄太郎はそれでは止まらなかったー
「ーー美由紀の気持ちがだんだん俺から離れてくのを
この1か月間、ずっと感じていたんだー
俺は何も悪いことした覚えはないしー
どうしてかな?ってずっと考えたんだけどー…
ーーなんて言うかなー…
美由紀に微妙な違和感を感じ始めたのが
ちょうどあの日なんだー
だから、少し心配になってー」
雄太郎はそこまで言うと、
すぐに言葉を付け加えて、
「あ、でも、気のせいならいいんだー
ホントに別れを告げられただけなら
寂しいけど、美由紀にしつこくしたりするつもりはないし、
恨んだりもしないー」
と、美由紀に言い放ったー
「ーーーでもさーーーー
”もし”ー
”もしも”
美由紀の身に何か起きたならー
どんなことをしてでも、美由紀を助けなくちゃってー」
雄太郎がそこまで言うと、
美由紀は「ふふっ」と、笑みを浮かべたー
少し、馬鹿にしているようなそんな笑みにも見えたー。
すると、美由紀は突然、自分の個人情報を
ペラペラと話し始めてー
雄太郎との思い出も話し始めたー
「ーちゃんと、全部覚えてるー。
わたしは、美由紀だよ♡」
笑みを浮かべる美由紀ー。
だがー
その言い方が、逆に引っかかってしまうー。
「ーーーーーー」
「ーーーーーー」
雄太郎と美由紀がしばらく沈黙するとー、
やがて、美由紀は口を開いたー
「知ってた?”憑依予告”ー
1~2か月に1回ー
あの日のビル以外にもされてることー」
美由紀がそう言うと、雄太郎は「えっ!?」と言葉を口にするー
「”最初の1回”は、1年半ぐらい前ー。
それから数か月に1回、同じことが全国のビルで起きてるー。
でもねー
”最初の1回”以外、ほとんど話題になってないー。
みんな、悪戯扱いしてるからー」
美由紀はそう言いながらスマホを操作して
雄太郎に見せつけるー。
なんで美由紀がそんなことをわざわざ調べたのかー?と、
さらに疑念を強めていくとー、
美由紀がスマホを手に、何かを表示したー
「”次”は、来週ー
隣の県のドリームアイランドビルー。
また17:00に憑依予告が出るみたいー」
美由紀がそう呟くー。
「ーな、なんでそんなこと知ってるんだよー?」
雄太郎は震えながら美由紀のほうを見つめるー
「さぁ?」
美由紀が馬鹿にしたようにそう呟くと、
「ー憑依なんてあるわけないでしょ?」と、クスクス笑いながら
雄太郎に顔を近づけて耳元で静かに囁いたー
「ー来週、ドリームアイランドビルに行けばー
”憑依なんてない”ってわかるでしょー?
17:00にそのビルにいってー
雄太郎の身に何も起きなければそれが一番の証明になるはずだしー」
美由紀のそんな言葉に、
雄太郎が疑念の目を美由紀に向けると、
「ー”憑依されてるんじゃないか”なんて疑われてると、
わたしも不愉快だからー
それなら、そこに行って”憑依なんてない”って
身をもって体験してきてーー
って、言いたいだけ」
と、少しうんざりした様子で言葉を続けたー
「ーーみ、美由紀ー」
困惑した様子の雄太郎ー。
だが、美由紀は「とにかくお別れ。今までありがとうー」と、
恋人同士の関係を解消する言葉を口にして、
そのまま美由紀は立ち去って行ったー
「ーーふ~~~ 彼氏を排除したからー
あとは…好き放題できるぜ」
美由紀は廊下で、一人静かにそう呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
美由紀の言っていた通り
”次”の憑依予告が行われたー
場所は”ドリームアイランドビル”ー。
時刻は17時ーーーー。
ビルの場所が違うだけで、あの日と同じー。
”これまでの憑依予告も何も起きなかったこと”やー
”爆破予告とは違いあまりにも非現実すぎて悪戯扱いしかされていない”のかー、
この前の第7フューチャービルの時と同じように
誰も騒ぐ素振りを見せていないー。
「ーーーー…」
ビルの中に入り、雄太郎は17時を待つー。
ドリームアイランドビルも、この前の第7フューチャービルと同じで、
下層は商業施設が多く、上層はオフィスなどが多いー。
雄太郎はフードコートにやってくると、
そのまま着席したー。
”17時までここに自分がいて、何も起こらなければ”
それが、美由紀にも何も起きていないという何よりの証明になるー。
「ーーー美由紀ー」
”ただ、お別れされただけ”なら、
悲しいけれど、それは仕方がないー
だがー、もしも、美由紀の身に何かが起きたのならー
「ーーー」
16時58分ー
本当に自分はここにいていいのか?という気持ちになるー。
だが、”憑依なんてありえない”と9割以上の確信を
心の中で持ってはいるー。
残りの1割は、不安ー。
その不安を打ち消すために、今日、ここに来ているのだー。
17時を過ぎても、自分の身に何も起こらなければー
”憑依予告”は悪戯であると、身を以て、証明することができるー
「ーーーーー…」
雄太郎は、深呼吸をして、17時を迎えたー。
「ーーーー」
17時1分ー。
雄太郎は時計を確認して立ち上がるー。
「ほ~ら…何ともなかったー」
雄太郎はそう呟きながらイスから立ち上がるとー
「ーーって、言えたら良かったのになー」
と、邪悪な笑みを浮かべたー
雄太郎はー”記憶を全て受け継いで”
憑依されてしまったー
”憑依予告”を行っている男はー
自分の魂を膨大な数に分離させて、
”予告したビルの中にその時間にいた全員”に
自分の魂を憑依させているー。
このビルにいた全員は”俺”になったー。
男は笑みを浮かべるー。
何千人・何万人レベルの人間がいたとしても、
男は、いくらでも自分の魂を”分身”させることができるー。
そして、乗っ取った相手の記憶も受け継ぐためー
”表向きは元の人間”として暮らすこともできるー。
ニヤニヤとビルから出ていく雄太郎を
監視カメラで見つめながら男は笑うー。
”予告したのに、その時間にビルにいたってことは
憑依に同意してるってことだー。
何かをする前に”許可”を取るのは礼儀だからなー”
男はそう思いながら笑うー。
”事前に場所と時間を指定して許可を取ること”
”憑依する”条件としては非常に厳しい条件だがー、
男は”ビルに予告を出すこと”で、それをクリアしてみせたー。
厳しい条件を持つ憑依能力であるが故に、
一度憑依できてさえしまえば、非常に強力な力を発揮するー。
そしてー
”憑依予告”が不自然にまで騒がれないのには、
理由もあったー
既にー
男は、”この世の多数の人間”に自分の分身を憑依させているー。
第7フューチャービルの時もそうー。
ビルの管理人や会社の一部、駆け付けた警察官、
通報された警察官ー
色々な人物が”以前、別のビルで憑依された人間”で、
それらを使って
”どうせ嘘だから大丈夫ですよ”という空気を作り出していたー
加えて
”憑依予告”を行っても、表向きは”何も起きていない”しー、
憑依された本人たちは”その瞬間に身体の自由を奪われる”ため、
もはや”わたしたちは憑依されちゃったの!”と助けを求めることも
伝えることもできないー
「クククー…10年以上修行して、力を手に入れた甲斐があったぜー」
すでに”何百万”単位の身体を分身に支配させている男は
笑みを浮かべながら
”来月はー…このビルでやるか”と、次に憑依予告を送るターゲットに
狙いを定めて不気味な笑みを浮かべたー。
おわり
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コメント
知らないうちに恐ろしい人数が憑依されている世界…!
この世界(憑依予告の世界)はもう手遅れかもしれませんネ~…!
お読み下さりありがとうございました~!
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