ある日、”半分”だけ
クラスの男子生徒に憑依してしまった少女…
”自分”と協力しながら元に戻る方法を模索していくものの…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーとりあえず、今日はー…
大竹君の家に帰るしかないよねー…」
晴彦姿の咲織がそう呟くと、
咲織も「うん…そうだね…」と頷くー。
「ー家で一緒に…って言いたいところだけどー」
咲織がそこまで言うと、
晴彦は首を横に振ったー
「ううん…大丈夫ー
お父さんとお母さんが、急に男子を連れてきたりしたら
混乱するだろうし、
家に泊める、なんてなったら変だもんねー
分かってるから大丈夫ー
心配もかけたくないし」
晴彦になった咲織のそんな言葉に、
咲織は「ごめんね」と、申し訳なさそうに呟くー。
”わたしが反対の立場”だったら、やっぱり同じように声は掛けるー
けど、一方で”晴彦になったわたし”を家に連れて帰ることはできないー。
自分が一人暮らしならそれもできたけれど、
まだ高校生で実家暮らしだし、それができないのはよく分かってるー
「ー今日は、大竹君のフリをして、大竹君の家に帰るよー…」
晴彦が不安そうにそう言うと、
「変わってあげたいけどー…何も力になれなくてごめんね」と、
心の底から申し訳なさそうに、咲織が言葉を呟いたー
「ーー……連絡ー取れるようにした方がいいよね」
咲織がそう呟くと、
晴彦になった咲織は「か、勝手に連絡先交換しちゃっていいのかな?」と
困惑の表情を浮かべるー。
「ーーーー…う~ん…」
咲織は少し躊躇ったあとに、
「元に戻れる方法が見つかったら消せばいいんじゃないかな…連絡先」と、
言葉を口にすると、
晴彦になった咲織は戸惑いながらも頷いたー
スマホの暗証番号の類は一切かかっておらず、
そのままスムーズに起動することができて、
晴彦と咲織は連絡先を交換したー
「ーそれにしてもー」
連絡先交換を終えた咲織は、少し照れくさそうに笑うとー
「まさか、”わたし”と連絡先交換することになるなんて、思わなかったー」と、
言葉を口にしたー。
「ーふふ…それはわたしもー」
晴彦になった咲織がそう言葉を口にすると、
そのまま二人は少し雑談を交わして
そのままお互いの家へと下校していったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…………」
帰宅した咲織は、険しい表情を浮かべるとーーー
少しだけ間を置いてから
言葉を口にしたーーー
「ーーーあ~~わからないー…
一体、何が起きてるのー?」
とー、
頭を抱えながらー
「ーー大竹くんに、急に”わたしは咲織なの!”なんて
言われてもー
びっくりするに決まってるよねー…
でも、本当に大竹くんの中身もわたしみたいだったしー」
一人、そう呟きながら、
何度もため息をつくー
”晴彦になった咲織”の前では咲織は平静を装っていたものの
正直、かなり動揺していたー。
”こっちの咲織”からすれば
”いつも通り生活していただけ”なのに
いきなりクラスの孤立気味な男子が”わたしも咲織なの!”と
言ってきたのだー
混乱しないはずもないー
「ーーでも…本当にわたしならー…
やっぱり、もう一人のわたしも困ってるんだろうな…」
咲織はそう呟くー。
話した感じ、”本当にわたし”だったー。
自分では何も違和感はないけれど、
きっと、何かあったのだと思うー。
”わたしの一部”が、他の男子に入り込んでしまったなら、
やっぱり元に戻してあげないといけないし、
”わたし自身”にも何か影響が出るかもしれないー
それに、大竹君もこのままじゃかわいそうだしー
そんなことを思いながら
「でも…本当に、何が起こってるのかさっぱり分からないー」
と、咲織は頭を抱えたー。
学校では、立派に振る舞っているものの、
何かあると、咲織が帰宅後に
一人あたふたと悩むのはー
”いつもの咲織”が、普段からやっている、
彼女自身の”癖”だったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方、晴彦になった咲織も、
帰宅して「お、お邪魔しますー」と言いかけてすぐに
それを修正、部屋に駆け込むとー、
「ーーーあ~~わからないー…
一体、何が起きてるのー?」
とー、同じように言葉を口にしたー
どっちも咲織である以上ー
考えることは、同じー
「ーでも、もうひとりのわたしも、
普通に生活してたらいきなりわたしに
「わたしも咲織なの!」って言われたから
困ってるだろうなぁ…」
そんな言葉を呟きながら、
晴彦のスマホを見つめる咲織ー。
その日はー
男の子の身体に戸惑いながらも1日を過ごしたー。
案外、晴彦の家族はノータッチなタイプだったため、
その点は助かったかもしれないー
”もう一人のわたし”とスマホで色々話し合いながらー
偶然ー
晴彦のスマホに
”遠くから撮影した咲織”の写真があることを
発見した晴彦になった咲織ー。
「ーーえ…これ、わたしー?
どうして大竹君のスマホにー?」
そんなことを呟きながらも
今一度、晴彦になった咲織は
晴彦のスマホに何故か保存されていた”わたし”の
写真を再度確認するー。
「ーー…あ~~…わたしじゃなくて、これを撮影したかったのかなー?」
去年の文化祭の時の写真ー
よく見ると、咲織の背後に綺麗な色の蝶々が舞っていて
そっちを撮影した写真であるようにも見えるー。
「ー大竹くん、人間に興味ない感じだしー
わたしの写真なんて撮らないよねー」
晴彦になった咲織はそう呟くと、
それ以上、その写真を気にすることはなく、
そのままその日は眠りについたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日以降も、元に戻れない状況が続くー
晴彦になった咲織と咲織は
お互いに連絡を取り合いながらも、
元に戻る方法は見つからないままー
状況が変化することもなく、
1ヵ月が経過してしまいー、
晴彦になった咲織は、辛い胸の内を打ち明けたー
「ーわたしも早く、わたしに戻りたいよー」
目から涙をこぼす晴彦になった咲織ー
咲織は「ごめんねー…大して力になれなくてー」と、
悲しそうに”もう一人のわたし”を見つめるー
1か月が経過しー
お互いに”相手は本当にわたし自身だ”ということを
確信していたー
けれど、肝心の元に戻る方法ー
”ひとつになる方法”が見つからないー
「ねぇ…元に戻れるまでー
”恋人”にならないー?」
咲織が突然、そんなことを口にしたー
「えっ!?」
晴彦姿の咲織は驚くー。
「ー恋人になれば休日も一緒に行動できるし
家に連れて行ってもお父さんとお母さんも納得するだろうしー
それに、もう一人のわたしだって、
お母さんたちとお話したいでしょ?
もちろんー…わたしとしてお話することは難しいかもだけどー」
元に戻れない状況が続く”晴彦になってしまったわたし”への配慮を
咲織がしたのだー
そしてーーー
”もしー”
もしも、ずっと元に戻れなかった時の場合も考えて
咲織本人はそう言葉を口にしていたー
元に戻れなかった場合ー
”咲織が少しでも元の生活”に近い距離で生活するには
咲織の…”わたし自身の恋人”になってしまうのが
一番、距離を近づけることができるー
そう思っての判断ー
「ーーー…ーーーうんーー色々迷惑かけて、ごめんね」
晴彦になった咲織はそう頷きー、
その日以来、二人は”仮”のカップルになったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから数年が経過したー
”半分になったわたし”は元に戻れないまま
”わたし”は大学生になってー
一人暮らしを始めて”同居生活”を始めたー
”わたしとわたし”の同居生活ー。
そんな不思議な状況が続くー
二人はすっかり”わたし同士”で仲良くなりー
もう、元に戻れないかもしれないけれどー
これはこれで、そう思い始めていた矢先だったー
”それ”は起きたー
「ーーー長かったー」
夜ーー
晴彦は呟くー
ククク、と笑いながらー。
晴彦はー
”咲織”を乗っ取ろうと目論んでいたー。
ずっと、ずっとー。
クラスで孤立している晴彦のような男子にも
普通に声を掛けて来てくれる咲織ー。
そんな咲織に晴彦は一方的に好意を抱きー…
いや、”咲織そのものになりたい”と考え始めたー
そしてー
そんな矢先ー、”注射器”を手に入れたのだー。
咲織に憑依するためー
咲織を乗っ取るため、晴彦は動き出したー。
だがー
結果的にー
”今”はー、
”咲織の半分が晴彦に憑依して、咲織が二人になっている状態”だー
晴彦が咲織に憑依しようとしていたのに、
”咲織が半分ずつになって、二人になっている”
理由は、何なのかー。
数年前ー
高校生の頃に、晴彦は
”咲織の半分”を、自分に憑依させたー。
魂を吸引する”特殊な注射器”を使い、
ウトウトしていた
咲織の魂を”半分”だけ吸引ー
そして、あの日ー
自分に”憑依”させたー。
晴彦は自ら”咲織の半分”を自分に憑依させたのだー
それから数年間ー
晴彦は、咲織の半分に、自分の身体の主導権を渡し、
自分自身はひたすら”奥”で耐えて来たー
”咲織”と”咲織の半分に憑依された晴彦”が
お互いに強い信頼関係を築き上げる”までー。
晴彦の手に入れた”魂を吸引し、移し替える注射器”は
通常の憑依と違い、少し使い勝手が悪いー。
自分が他人に憑依するためには、自分自身に注射をして、
そして自分の魂を完全に注射器の中に吸引する必要があるー。
その上で、”自分の魂が入っている注射器”を憑依したい相手に
打つ必要があるのだー。
しかしー、そこで問題があったー。
晴彦には友達がいないー。
つまり、自分の魂を吸引しても、
その注射器を咲織に打ってくれる人間がいないー。
注射器に自分の魂が完全に吸引された状態のままでは、
晴彦の身体は抜け殻ー。
その状態のまま放置されてしまっては
晴彦の意識は、”永遠に注射器の中”
死んだも同然だー。
そこで、晴彦は咲織を乗っ取るため
”年単位の計画”を企てたー
それがー
”咲織の半分”を、自らに憑依させることー。
そして、あの日ー
ウトウトしていた咲織にこっそり注射器を打ち
”咲織の魂を半分”吸引ー
それを自分の身体に注射したあと、
注射器を見つからないように鞄の奥底に隠しー
眠りについたー
それからはずっと”咲織の魂の半分”に身体の主導権を渡し、
晴彦は奥底で耐え続けて来たー
”咲織と、晴彦になった咲織”が強い信頼関係を築きあげるまでー。
自分に、”咲織のフリ”をすることは流石にできないー
だから、”咲織の半分”を自らに憑依させることによって
”晴彦になった咲織”を、咲織本人にやってもらったー
結果ー
大学生になった今、”咲織”と、”咲織になった晴彦”は
強い信頼関係で結ばれているー
しかし、晴彦に憑依した
”咲織の魂”は、半分ー
憑依されているとは言え、晴彦本人の意識が表に出ようとすれば、
晴彦はいつでも、自分の身体を取り戻すこともできるー。
”自分の魂を半分だけ吸引して、咲織に憑依させることもできた”が、
それでは、咲織を乗っ取ることはできず、
半分だけの自分は消えてしまうー。
だから、遠回りになっても、こうする必要があったー
「ーねえ、もう一人のわたしー」
自分に憑依した”咲織の半分”を心の奥底に抑え込んで、
表に出て来た晴彦は、咲織のフリをしながら
咲織本人に話しかけたー
「ーついに、元に戻る方法、見つけたの!」
そう言いながら注射器を手にする晴彦ー
「ーこの注射器を使えば
”大竹くんの身体に入り込んじゃった”わたし”を吸い込んで、
自分の身体に戻すことができるんだってー」
晴彦がそう言うと、
咲織が「ほんとに!?よかったじゃん!」と、嬉しそうに言い放つー
本来、怪しむべきだが、
数年かけたことによって
”咲織”と”晴彦になった咲織”は強い信頼関係がありー、
咲織はすぐに信じてしまったー
晴彦がニヤリと笑みを浮かべながら
手順を説明するー
晴彦の身体に注射器を打ち込み、
”晴彦になった咲織”を吸引し、
晴彦が気を失ったら、
咲織が、”晴彦に憑依していた咲織の半分”が吸引された注射器を
咲織自身に打つー。
それで、半分ずつになった咲織は元に戻れる、とー。
「ーー大竹君は長い間眠ってたから意識を取り戻すまでに
少し時間があるみたいだからー
その間に場所を移動してあげたりした方がいいかなー」
そんな言葉を付け加えると、
「ーついに、”もう一人のわたし”も、わたしの身体に帰って来れるんだねー」
と、咲織は笑ったー。
「ーーうん!」
晴彦は、自分に注射器を打ち込むー
本当は、こうだー
晴彦の身体に注射器を打ち込み、
”晴彦になった咲織”と”晴彦の魂”の両方を吸引し、
晴彦が気を失ったら、
咲織が、”晴彦に憑依していた咲織の半分”と”晴彦の魂”が吸引された注射器を
咲織自身に打つー。
その結果ー
どうなるのかー
「ーーー」
注射器を自分の首に打ち終えた咲織は、にやりと笑みを浮かべたー
「ーやった…!やったぞー…!
クククー
すっごい遠回りしたけどー
クク…
僕はー
僕はーーーー!!!」
咲織が嬉しそうに笑うー。
目の前には”抜け殻”になった晴彦の身体ー
ようやくー
ようやく、”咲織の身体に、自分の魂が入った注射器”を注射させることができたー
「ーへへへへ…!長い間待って正解だったよー!
ふへへへへ!」
嬉しそうに鏡のほうを見つめながら
咲織が微笑むー。
「ーーあとはーーー」
注射器を再び自分の首筋に打ち込みー
”咲織”の魂だけを吸引するー
そしてー
その注射器に”咲織の魂”が全て吸引されたことを確認するとー、
「ーーやっと一つになれて、よかったねー」
と、咲織になった晴彦が不気味な笑みを浮かべてー
その注射器を床に叩きつけてそのまま踏みつぶしたー
「ククククー
これで、これで、浅井咲織は僕のものだー!」
「今日から、僕が浅井咲織だ!!!!」
咲織は、自分の抜け殻の頭を足で踏みにじりながら
嬉しそうにそう叫んだー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
回りくどい方法で、咲織を支配した晴彦…
でも、このあと
”晴彦の抜け殻”をどうするつもりなのかは、
作者の私も気になっちゃいますネ~笑
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
咲織は完全に騙されてしまいましたね。最後は注射器ごと、魂を消されて、物凄くダークですね!
前の、頭に咲いた花 にも似た展開ですが、実の弟に裏切られて乗っ取られた、あの話よりは、この話
方が他人なので、まだマシですかね?
コメントありがとうございます~!☆
完全に騙されてしまいました~!☆
男子に憑依していた方の咲織(の半分)も、何も知らなかったので
仕方がないですネ~…!
どっちがマシか……
う~ん…
どっちも辛そうデス笑