<入れ替わり>何もかもが嘘だった③~嘘の果て~(完)

入れ替わってしまった彼女が
あらゆる”嘘”をついていたー…

そのことを知った彼氏はー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼女の病室にー
重い空気が流れるー

治樹と入れ替わってしまった彼女の綾乃ー
いいやー本名は”藤木翔子”であった彼女が
治樹の身体で困惑した表情を浮かべながら話し始めるー。

「ーーーーー
 治樹の言う通りー…
 わたし、嘘をついてたー」

目に涙を浮かべながら、治樹(綾乃)は語るー。

自分の本名は藤木翔子であり、
白川綾乃というのはただの偽名であることー、
前に一度、サッと見せた学生証は偽造したものであることー
年齢も嘘で、治樹と同い年ではなく、30歳であることー、
正弘という夫と、子供がいることー、全てを自白したー。

綾乃(治樹)は、呆然として、言葉を失ってしまうー

「ーーー……はは…はははー」
やがて、笑いだしてしまう綾乃(治樹)ー

「ー綾乃に喜んでもらおうって、一生懸命色々なことを
 考えてたのにー
 俺はいつの間にか”不倫相手”になってたのかー」

綾乃(治樹)はそう言うと、
「ーすごいなー…これが”絶望”ってやつかー はは」
と、笑いながら、少しだけ目に涙を浮かべたー

「ーーー俺はー騙されてたのかー
 馬鹿みたいに浮かれてーー

 いや、ホント、馬鹿みたいだー
 俺は、馬鹿だー」

綾乃(治樹)はそう呟くと、
頭を抱えて、うつむいてしまうー。

”ショックを受けている自分”の姿を
目の前で見せつけられて、
治樹(綾乃)は悲しそうにしながら
「騙すつもりはなかったのー…」と
言葉を続けるー

「ーー…夫……正弘とは、離婚するつもりでいてー、
 本当に、治樹と真剣に付き合うつもりだったのー…!

 いずれ結婚もしたいって思ってたしー、
 
 ただー、あなたを傷つけたくなくて、
 言えなかったー
 最後までずっと隠したまま離婚してー
 あとはーあなたをー」

治樹(綾乃)の言葉に、
「ーあの人、そんなにひどい人なのかー?
 優しそうに見えたけどー」と、
首を横に振りながら呟くー。

「ーーー…ううんー……何も、酷いことはないんだけどー…」
治樹(綾乃)はそう言うとー
「ーーでも…”普通”すぎる日常が退屈になっちゃってー…
 若い頃みたく、学生同士の恋愛をまたしたくなっちゃってー」
と、そう呟いたー。

「ーーーははっ…勝手すぎるだろー…
 あの夫が、綾乃ー…いいや、藤木さんに暴力を振るったりしてるなら
 分かるけどー”普通の日常が退屈になっちゃって”ーなんて理由で
 子供も捨てるのかよー」

綾乃(治樹)が苦笑いしながらそう呟くー。

治樹(綾乃)は、その言葉に悲しそうに
「藤木さんって呼ばないでー… 綾乃って呼んでー」と、
声を振り絞るようにして呟くー

「ーーーー」
綾乃(治樹)は、治樹(綾乃)のほうを見つめるー

顔は青ざめ、身体は小刻みに震えてー
目に涙を溢れさせて激しく動揺しているのが見えるー。

”嘘”をついて騙していたのは事実とはいえー、
”悪意”を持って近付いてきたというよりかはー
”善悪の区別がつかずに、己の欲求を満たそうとした”感じだろうかー。

「ーーー大学の学園祭に行ったのはー……
 出会いを求めてたからー…
 
 コンタクトレンズも…嘘…
 最初から何も落としてなかったけど
 誰かが声を掛けてくれるかなって思って
 何かを探してる素振りをしてたら
 あなたがー…治樹が声を掛けて来てくれたのー」

治樹(綾乃)の言葉に、
綾乃(治樹)は、かける言葉が見つからずに首を横に振るー

「ーー正弘とはちゃんと離婚してー
 これからはもう絶対に嘘をつかないって約束するからー

 わたし、本当に治樹のことが好きなのー
 だから…わたしを捨てないでー」

泣きながら言う治樹(綾乃)ー
目の前でこんなに泣かれると、変な気分になるー

しかも、目の前にいるのは”自分自身”の身体なのだからー。

治樹(綾乃)は、さらに泣きながら
”子供が生まれたあとに、子育てに疲れ果てて
 自殺まで考えていた”ことを告げるー。

その話は恐らく本当のようで、
「わたし…子育てには向いてなかったみたいでー
 もう、耐えられなくてー…だから…だからー…」
と、泣きながら、言葉を振り絞ったー

「ーわたしを助けてー」
とー。

「ーーー……」
綾乃(治樹)は、そんな彼女の様子を見つめながらー
ため息をつくと、
「ー全部、話してくれてありがとうー」と、だけ呟くー。

その上で、綾乃(治樹)は優しく言葉を投げかけるー

「ー俺にとってー
 綾乃は綾乃だー。」

それだけ言うと、静かに治樹(綾乃)を抱きしめながら
「ー彼女の身体で、俺の身体を抱きしめるなんて
 なんだか鳥肌が立つ不思議な経験だなー」と、
苦笑いすると、
治樹(綾乃)は「治樹ー…」と、涙目のまま呟いて、
”綾乃”と呼んでくれたことに嬉しそうに頷くー。

「ーでも、まずは、二人が元に戻る方法を見つけないとなー
 もう1回…転落すればいいのかもしれないけどー…
 とりあえず、まず病院を退院しないと試せないからー
 まずは、安静に、なー」

綾乃(治樹)はそれだけ言うと、
まだ不安そうな表情を浮かべている治樹(綾乃)に対してー
「元に戻れたら、今まで以上に綾乃のことを大切にするからー
 だから、頑張って元に戻ろう」と、力強く言葉を言い放つー。

その言葉を受けて、
治樹(綾乃)は「本当に、ありがとうー」と、
偽りの自分を受け入れてくれた治樹に対して
心からの感謝の気持ちを口にしたー。

二人とも、検査の結果、命に関わるような怪我はなく、
異常も認められなかったため、
数日の入院で退院することになったー。

綾乃になった治樹も
治樹になった綾乃も
異性の身体での生活には困惑しながらも
次第に慣れて来るー

とは言え、ずっとこのままでいるわけにはいかないー。

「ー元に戻れたら、すぐに正弘に離婚の相談を始めるからー」
治樹(綾乃)がそう言うと、
綾乃(治樹)は「昨日も一緒に過ごしたけど、悪い人じゃないけどなぁ」と、
苦笑いしたー。

昨日の夜にはー
綾乃の身体で入浴もしたー
だが、治樹は全く欲望に負けることなくー
そのまま淡々と身体を洗いー
髪を洗いー、お風呂を済ませたー

髪が長いとこんなに大変なのか、だとか
胸を洗う時に困惑したりだとか
そういったことはあったものの、
それ以上のことは特に何もしなかったー

一方、治樹の身体で入浴した綾乃は
嬉しそうに治樹の身体を見つめたりー
男の身体でイク経験をお風呂の中でしたり、
色々お楽しみの時間を過ごしたー

若い治樹の身体に興奮したりー、
男の人しか味わえない感覚を味わったりもしたー。

そんな二人は今日ー
”元に戻るため”
色々なことを試すべく、合流していたー

「ー恵麻ちゃんだったっけー。
 今日も、恵麻ちゃんと遊びに行くって言って
 家を出て来たけどー」

綾乃(治樹)がそう言うと、
治樹(綾乃)は「ありがとうー」と、呟きながらも、
夫に説明していた”学生時代の友達”も嘘であることを認めたー。

”恵麻”という友達もやはり架空の存在で、
実際には実在しない人物のようだー。

”また嘘が増えたなー”
と、思いつつも”元に戻るための方法”を
色々と試していくー。

だが、握手したり、ぶつかってみたりする程度では
元に戻ることが出来ずー
”やっぱ危険だけど、同じ状況を作るしかないか”と、
綾乃(治樹)は提案するー。

できればー
他に方法があるのであれば、
もう一度歩道橋の階段を転落するー、
なんてことはしたくなかったがー
やむを得ないー。

あの時のように、ぶつかられて転落する、ということは難しいが、
”似たような感じで転落する”ことであれば
不可能ではないとは思うー

時間帯ー
場所ー
シチュエーションー

再現できることはできる限り再現して、
もう一度転落するー

あの場所だったからなのかー
自分たち二人が転落したからなのかー
あの時間帯であの場所だから、なのかー
条件がどれなのかは分からないー。

だが、条件を可能な限り合わせればー
元に戻れる可能性は高いー

「ーーーー」
同じ歩道橋ー
同じ階段ー
同じ時間帯ー
可能な限り、条件は合わせたー。

これで、元に戻れなければー…

「ーーーー」
綾乃(治樹)は、治樹(綾乃)のほうを見つめながら
お互いに頷くー。

「ーー元に、戻れるかなー?」
治樹(綾乃)もとても不安そうだー。

「ー大丈夫ー。きっと、大丈夫ー」

治樹(綾乃)を安心させるかのようにー

いいや、綾乃(治樹)自身が安心するために、
まるで自分に言い聞かせているかのようにー、
そう言葉を呟くとー
あの時と同じような状況を作り出すべくー、
綾乃(治樹)と治樹(綾乃)は
自ら歩道橋の階段を踏み外しー
そのまま二人で転落したー。

今度はー
最初に転落した時のようにー
意識を失うほどの状況にはならなかったもののー

「ーーー!」
転倒後に、慌てて身体を起こすー。

「ーーー!!!」
治樹は、”目の前に綾乃”が見えたことで、
笑みを浮かべるー

「やった…!戻ってるー!
 戻ってるぞ!」

治樹がそう叫ぶと、
周囲を歩いていた人の視線を感じて、
起き上がった綾乃に「場所を移動しよう…」と、
慌てて声を掛けると
元に戻れたことで、安堵の表情を浮かべている綾乃も、
治樹のほうを見て、安心した様子で頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

場所を移動した二人ー

”何が”条件だったのかは分からないー。
けれど、結果的にこうして元に戻ることができたー

治樹と綾乃はお互いに元に戻れたことを喜ぶと、
治樹は綾乃のほうをまっすぐと見つめたー。

「ーーごめん…わたし…わたし…本当に、たくさん嘘をついてー」
綾乃が、治樹のほうを見て、申し訳なさそうにそう呟くー。

「ーーー…」
治樹は少しため息をついてから、言葉を続けたー

「”元に戻れたら、今まで以上に綾乃のことを大切にするからー
 だから、頑張って元に戻ろう”

 ーーって言ったけどー、あれ、嘘なんだー」

病院で、綾乃の”嘘”を知った治樹が、綾乃に対して言い放った言葉ー

あれは、”嘘”だったー。

「ーー正弘とはちゃんと離婚してー
 これからはもう絶対に嘘をつかないって約束するからー

 わたし、本当に治樹のことが好きなのー
 だから…わたしを捨てないでー」

病院で、嘘が発覚した綾乃の振る舞いを見てー
治樹は一つの危機感を覚えたー

”ここで、素直な気持ちを打ち明ければ
 綾乃ー…いや、藤木翔子は”元に戻るために協力すらしてくれなくなる”
 かもしれないー”

とー。

”俺の身体に何をされるか分からない”

とー。

だからー
元に戻るまで”綾乃に合わせる”ことにしたー

これからも、綾乃を大事にする、と”嘘”をついて、
元に戻ることに対して、前向きになってもらったー。

結果ー、こうして元に戻ることができたー。

「え……」
目の前にいる綾乃が呆然としているー

「ーごめん。でも、もう無理だー。
 あんなにたくさん嘘をつかれててー
 しかも、平気で夫と子供を捨てようとしてるー

 …いや、そりゃ、夫に暴力を振るわれてるとか
 そういうことなら、まだ分かるけど…
 そうじゃないのに、あんなに簡単に家族を捨てて
 俺に乗り換えようとしてるなんてー

 学生同士の恋愛がしたくなっちゃった、なんて理由で
 子供まで捨てるなんてー

 俺には、俺には理解できないよー」

治樹が本心を打ち明けるー

綾乃はそれでも
「これからは、もう嘘をつかないから!」と、
治樹に縋りつくー

「ーそんな言葉、どうやって信じろって言うんだよ!」
治樹が語気を強めてそう叫ぶー

綾乃は震えながら「治樹…」と、呟くー。

「ーーー俺ー……
 親が片方しかいないんだー

 何でだか分かるかー?
 父親が浮気して、母さんと俺を捨てて出て行ったんだー」

治樹は、綾乃に話したことがなかったことを口にするー。

「ーーえ…」
綾乃が困惑しながら治樹のほうを見つめるー

治樹の”父親”は、治樹が小学生の頃に
浮気をして、家を出て行ったー。

だからこそー
綾乃が夫と子供を”浮気”して捨てようとしていることが
治樹には特に、許せなかったー

「ーーー綾乃ー
 いや、藤木さんー
 俺には、藤木さんがしようとしてることがー
 理解できないし、許せないー

 そんな、嘘ばっかつく人とは、
 付き合うことはできないし、
 ここでお別れだー」

治樹がそう言うと、綾乃は目に涙を溜めながら
その場に座り込んだー

「ーこのまま黙って、連絡を絶つことも考えたけどー
 俺は藤木さんとは違うー

 だから、ちゃんとこうして伝えたよー」

治樹はそれだけ言うと

「ーー…嘘はつかれてたけどー
 楽しいこともあったー

 だから、それだけはありがとうー」

と、頭を下げてそのまま立ち去ろうとするー

「待って!」
綾乃は座り込んだまま、治樹に向かって叫んだー

治樹は振り返らずに立ち止まると、
静かに言葉を口にするー

「そうだー…あんまり嘘つきたくないんだけどー
 俺、もう一つ、嘘つきになるよー」

治樹は振り返らず、そう言葉を口にするー

騙されていたとは言えー、
”藤木翔子”の夫である正弘には申し訳ないことをしたー。

治樹は、夫・正弘に詫びに行くことも考えていたー

しかしー
それは、しないことに決めたー

「ーーー…このことは、誰にも言わないー
 聞かれても、ただ”別れた”とだけ、嘘をつくー」

治樹は、そう呟くと
そのまま立ち去っていくー。

”これが、藤木さんー
 いいや、綾乃に対する最後の情けー”

「ーーー子供、大事にしてやってくれよー」
治樹は悔しそうにそれだけ呟くと、
もう、綾乃に声を掛けることはなかったー。

綾乃は座り込んだまま、
一人、いつまでもいつまでも涙を流し続けたー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

もしも入れ替わりが起きていなかったら…
そのうち大変なことになっていたのか、
それとも何も知らずに幸せになれたのか…
それは、謎のままですネ~笑

お読み下さりありがとうございました~!

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