彼女と入れ替わってしまったことをきっかけに
”彼女が嘘に嘘を重ねていた”ことを知ってしまった彼氏ー。
あまりの衝撃に困惑を続ける彼氏の運命は…?
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別の大学に通う彼女の
白川 綾乃の本名が”藤木 翔子”だったー?
しかも、同い年だと言っていたのに、30歳ー!?
その上ー…
「翔子!」
”旦那”ーー
つまり、夫が病室に駆け込んできたー
「ーーえ…… え…?? あ…?」
綾乃(治樹)は、もはや声を出すのもやっとの状況だったー。
今までー
今まで付き合っていたのは一体ー…?
あまりに意味が分からな過ぎて、
首を180度傾げて首が取れてしまいそうな気分になりながら
”夫”を名乗る人物に
「わ、わたしは…だ、大丈夫だからー」と、
言葉を続けるー。
「ーよかったー
”友達”と出かけている最中にまさかこんなことになるなんてー」
夫がそんな言葉を呟くー。
「友達ー?」
綾乃(治樹)がそう呟くと、
「ーあぁ、恵麻(えま)ちゃんは大丈夫だったのか?」と、
夫を名乗る人物は呟いたー
「え…恵麻…?」
綾乃(治樹)は困惑しながらもー
この人物がもしも”綾乃の夫”ならばー、
まさか綾乃は”デートしてくる”などとは伝えていないだろうー
”友達と遊んでくる”とでも言っているのだろうかー。
そんなことを考えたー
「ーーーー」
困惑しながら、”夫”と色々話をする綾乃(治樹)ー
ぎこちない会話になってしまったものの、
女性看護師が”勘違い”して「まだ記憶がハッキリしないようなのでー」と
助け舟を出してくれたため、なんとかなったー。
ようやく夫が帰り、
改めて脳の検査をすることになりー
寝台に寝転んだ状態で、色々なことを考えるー
どうやら”藤木翔子”は、夫である藤木正弘(まさひろ)と、同居していてー
しかも、子供が一人いるらしいー
別居しているということもなく、
家族三人で仲良く暮らしているのだとかー
”白川綾乃”とは何だったのかー
「ーーいやー……この身体ー、綾乃じゃないのかもー?」
容姿も、声もどう考えても綾乃だが、
そんな現実逃避をし始めてしまう治樹ー。
無理もなかったー
名前が”白川綾乃”ではなく”藤木翔子”で、
”同い年の大学生”ではなく”30歳の女性”で、
しかも人妻でー、
ついでに運転免許証も持っているー
何もかもが嘘で、
そんな事実、受け入れられるはずもなかったー。
検査が終わり、脳に異常がないことが
確認されると、綾乃(治樹)は
「ありがとうございました」と、伝えて
病室に戻るー。
今までそんな余裕もなかったからか、
病室に戻る途中に
長い髪が触れたり、胸が視界に入ったりして
一瞬ドキッとしてしまったもののー
すぐにまた暗い表情を浮かべて、
悲しそうに歩き出すー。
「ーそうだ…この人、綾乃に似ているだけでー…」
そう思った綾乃(治樹)は、
近くにいた看護師にー
「白川 綾乃って人ー…この病院に運び込まれていませんか?」と、
質問してみたー。
しかしー、
看護師は首を縦には振らずに、横に振ったー
少なくとも”綾乃”はこの病院にはいないー
「ーーー!」
さらにー、治樹はとんでもないことに気付いてしまったー。
「あ、はいー…コンタクトレンズを落としちゃってー…」
初めて綾乃と出会った時のことを思い出すー。
あの時ー
治樹の大学の学園祭を訪れた綾乃が
”落としたコンタクトレンズ”を探しているのを見かけて
治樹が心配して声を掛けたのが”出会い”のきっかけだー。
結局、コンタクトレンズは見つからなかったものの、
そこからお互いに親しくなっていき、今に至るー。
だがーーー
「ーー目…普通に見えてるじゃんー…」
困惑する綾乃(治樹)ー
視力は”全然ふつう”どころか、
治樹自身の身体よりも”さらに見やすい”感じで
視力が悪いどころか良すぎるぐらいだったー
”いや、待て待て待てー
レーシックなんたらとかやったのかもー”
視力回復の治療のことを思い出しながら、
綾乃はあの後、それを受けたのではないかと
現実逃避を始めてしまう綾乃(治樹)ー
そもそも綾乃は親元を離れて一人暮らしを
しているとも言っていたし、
一体、何がどうなってー…?
そんなことを思いながら自分の病室に向かって歩いていると、
周囲の視線が集まっていることに気付くー
「ーーあ…」
男っぽい歩き方をしてしまったからだろうかー。
そんな風に思いながら、恥ずかしそうな表情を浮かべると、
いつもとは違う歩き方を、何となくイメージで心がけながら
そのまま病室へと戻ったー
「ーーーーーーー…」
病室に戻った綾乃(治樹)は、
窓の外の景色を見つめるー
藤木翔子ー
それが、彼女である綾乃の本当の名前だと言うのだろうかー。
”この身体”がもしも綾乃のものなのだとすればー…
彼女は何もかも、嘘をついていたことになるしー
そもそも既婚者ということになるー。
そうなれば、治樹としてはこれ以上付き合うことはできないー。
綾乃のことは好きだしー、
人によっては、人妻だったと知ってもなお、
そのまま付き合いを続けるかもしれない。
しかし、治樹にはそんなことはできないし、
するつもりもなかったー
「はぁ……」
深くため息をつく綾乃(治樹)ー
自分の口から綾乃の声が出ていることに
ドキドキすることも忘れてしまうぐらいに、
”綾乃の嘘”は強く、深く、治樹の心に
鋭い刃となって、突き刺さっていたー
「ーー…そういや、トイレどこだろうー?」
トイレに行きたくなってきた綾乃(治樹)は
そのまま病室を出て、近くに見つけたトイレに向かうー
いつものように、男子トイレに堂々と入ってしまいー、
普通にいつものように、立って済ませようとする綾乃(治樹)ー
しかしーー
その時にようやく気付くー
「あー……え… やべっ…」
綾乃(治樹)は、”今の自分は女だった”と思いながら
慌てて周囲を見渡すー。
堂々と綾乃が男子トイレに入り、
立って済ませようとしているところなんて
見られたら大変だー。
そう思いながら慌てて男子トイレから飛び出す綾乃(治樹)ー。
幸い、誰にも見つからずに、
隣の女子トイレに駆け込もうとしたもののー
ここで、治樹は”いいのか??いいのか???”と困惑した
表情を浮かべるー
いや、確かに綾乃の身体である以上問題には
ならないだろうしー、
正しい対応だとは思うー。
だが、”中身は男”である以上、
真面目な治樹からしてみたら”本当に入っていいのか?”
と、いうような状態だったー
「いや…で、でもこのままじゃ漏れるー」
そんな風に苦悶の表情を浮かべながら
目をつぶりながら女子トイレに突入しー
そのまま個室になんとか入ってー
苦戦しながらトイレを済ませたー。
トイレから出て、病室に戻った
綾乃(治樹)ー
しかし、頭の中は”綾乃の嘘”でいっぱいだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
綾乃(治樹)は無事に退院しー
”夫”を名乗る人物と、”息子”を名乗る人物の待つ
家へと向かったー
信じたくはなかったがー
やっぱり、綾乃=翔子は間違いない状態で、
夫の正弘も息子も”本物”であることも間違いなかったー
いつも、治樹とのデートの日はー
”友達と遊びに行く”と説明したらしくー
架空の友達か、本当に実在する友達かは分からないが
「恵麻」という子や「穂希(ほまれ)」という子と
良く遊びに行っていたらしいー
だがー、綾乃のスマホを確認しても、
そういった名前の子は、電話自体の連絡先にも
LINEにも繋がっている様子はなくー、
綾乃が、治樹だけではなく家族にも嘘をついていることを
治樹は悟ってしまったー
そんな中ー
数日が経過したタイミングでー
”治樹”の身体が意識を取り戻したと病院から連絡があったー。
とりあえず、友達という設定にして、
意識が戻ったら連絡して貰えるように頼んでおいたのだー。
すぐに病院に向かう綾乃(治樹)ー
そこでー
”自分の身体”と対面を果たしたー
「は…治樹ー…わたしー」
治樹(綾乃)は不安そうな表情でそう呟くー。
その反応を見る限りー
治樹と綾乃は”入れ替わってしまった”というのが
正しい答えのようだったー
「ーーーーー……」
綾乃(治樹)がどう言葉を掛けてよいのか分からず、
困惑した表情を浮かべているとー
「ーー…ーーーあの……これ、どうなってるの…?」
と、自分の身体を指さしながら呟いたー
治樹になった綾乃は、
”まだ”自分の嘘がバレたことに気付いていないのかもしれないー。
そう思うと同時にー、
綾乃(治樹)はとても悲しそうな表情を浮かべたー
何故ならー
この身体は”綾乃にそっくりな人”という線が消えたからだー。
治樹の身体が目を覚ますまではー、
入れ替わった相手が彼女である”綾乃”ではなく、
”綾乃にそっくりな藤木翔子という別人”である可能性もー
僅かながらあったー。
けれどー今、
こうして目の前にいる入れ替わった相手はー
確実に綾乃であることが分かってしまったー
それはつまりー、
白川綾乃が、藤木翔子であることを意味するー。
白川綾乃を名乗っていた彼女は、
名前も年齢も、立場も、何もかも、嘘をついていたことになるー
「ーーー歩道橋で転落した時ー…
身体、入れ替わっちゃったみたいだー」
綾乃(治樹)が悲しそうにそう言うと
「ーあ…大丈夫、変なことはしないからー」と、
すぐにそう言葉を付け足したー
「ーーー…」
少し不安そうな表情を浮かべている治樹(綾乃)を見て、
「あ、でも、トイレだけはさっき行ったけどー…
ほら…漏らすわけにはいかないだろ…?」と、
恥ずかしそうに呟くー
すぐに”嘘”のことを聞かなかったのはー
治樹自身、現実を受け入れたくなかったからー。
綾乃と知り合って、綾乃と付き合ってー、
本当に楽しい日々だったー。
けれどー
追求して、彼女がそれを認めてしまったらー
もう、今までの関係でいることはできないー
名前と年齢は、100歩譲って、それを飲み込んでもいいー
だがー、
綾乃が既婚者で、子供もいるとなれば、
例え1万歩譲ったとしても、治樹にそれを受け入れることはできないー
”離婚して、治樹と結婚するから!”と言われたとしても
「はいそうですか」とは、治樹には言えないー。
「ーーー目…思ったより、よく見えるんだなー」
綾乃(治樹)は手を震わせながら
ようやくー、”嘘”のことを指摘する言葉を口走ったー
本名のことも、年齢のことも言えずー
やっとの思いで口にしたのが”視力”のことだったー
もし、全てが嘘ならー
あの日、学園祭の場で”コンタクトレンズを探していた”のも
ウソだったのだろうと、今になってみれば思うー
「ーーー…」
露骨に動揺したような表情を見せる治樹(綾乃)ー
「ーい…入れ替わっちゃったの…ど、ど、どうしようね?」
治樹(綾乃)がそう言い放つとー、
そのまま「あ、わたし、トイレー」と、
逃げ出すように病室の外に向かおうとするー。
そんな治樹(綾乃)の様子を見てー
綾乃(治樹)は目を閉じながら
意を決して叫んだー
「ー大学生じゃ、なかったんだな」
とー。
「ーーー!!!」
病室の扉に手を掛けた状態で立ち止まる治樹(綾乃)ー
その手はガクガクと震えているー。
「ーー……俺のことーー騙してたのかー?」
綾乃(治樹)の目から涙がこぼれるー。
普段、人前では絶対に泣いたりしない治樹ー
それほどまでにショックだったのかー
それとも綾乃の身体の涙腺がもろいのかー、
それは自分にも分からなかったー
「ー教えてくれよー…藤木翔子さんー」
綾乃(治樹)がそう言うと、
治樹(綾乃)は青ざめながら首を横に振ってー
本当はトイレに行きたくなかったのか、
ため息を繰り返しついてから、ベッドの方に戻ったー
「ーさっきー…家族の人がお見舞いに来たよー」
綾乃(治樹)が、
”藤木翔子”の夫と息子がお見舞いに来たと告げたー。
「ーー」
その言葉に、観念したのか治樹(綾乃)はようやく口を開いたー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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次回が最終回デス~!
ぜひ結末を見届けて下さいネ~!
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