<入れ替わり>何もかもが嘘だった①~彼女の嘘~

学園祭をきっかけに知り合った同い年の大学生と
付き合い始めた男子大学生ー。

しかし、彼女とのデート中に、
偶然入れ替わってしまった彼は
彼女の語ったことが”何もかも”嘘であることに
気付いてしまうー。

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”人生で始めての彼女”が出来たー。

男子大学生の久保 治樹(くぼ はるき)は、
今から半年ほど前にー
大学で行われた学園祭の最中に、
偶然、”今の彼女”と出会ったー。

大学の敷地内で
困った様子で何かを探しているのを見て
治樹が特に深い意味もなく、
単純な親切心で声を掛けたのが、
二人の出会いだったー

「ー何かお探しですか?」
明らかに何かを探している様子だった彼女に
そう声を掛けると、
彼女ー、白川 綾乃(しらかわ あやの)は
「あ、はいー…コンタクトレンズを落としちゃってー…」と
困った様子で治樹のほうを見つめたー

そんな言葉を聞いた治樹は、
綾乃と共にコンタクトレンズを探したものの
結局見つからずじまいー。

しかしー
それがきっかけで、綾乃から”今度、お礼をできれば…”と、
連絡先を聞かれて、
特に断る理由もなかった治樹は連絡先を教えて、
その日はそのまま「力になれなくてすみませんでした」と、
綾乃と別れたー。

治樹は連絡先を教えても特にこのまま
何もないだろうー、と思っていたものの、
後日、本当に綾乃から連絡が来て
”お礼の食事”に誘われたー。

そこから、次第に親しくなっていきー
三か月ほど前に、綾乃の方から告白されて、
現在に至っているー。

綾乃は別の大学に通う女子大生で、
現在は一人暮らしー。

治樹とは結構趣味が共通する部分も多くー
治樹自身も”話していて楽しい”と思える相手だったし、
”人生で始めて告白された”ことに、告白された当時は
本当に強い衝撃を受けたー

治樹は、”いつも男子と楽しそうにしているタイプ”で、
”下心がなく、誰にでも優しいタイプ”でもあるため、
特定の人からモテることはなく、
良くも悪くも”いい人どまり”で終わってしまうような
そんな人生を今まで歩んできていたのだー

「ーーそれにしても、半年前の俺に
 ”今、彼女とデートしてる”なんて言っても
 信じないだろうなぁ」

治樹が苦笑いしながら言うと、

「ーそれはわたしだって、同じだよ~」
と、綾乃が笑うー。

今日はお互い休みが一致したこともあり、
二人で買い物をしたり、昼食を食べたり、
フラフラしながらのんびりとしたデートを
楽しんでいるー。

「ーーはは、でもまぁー…
 あんな出会いもあるんだなー…

 結局、コンタクトレンズは見つけてあげられなくて
 申し訳なかったけど」

治樹が言うと、
綾乃は首を横に振りながら
注文したパフェの最後の一口を食べ終えると、
少し間を置いてから

「でも、あんな風に声を掛けてくれて嬉しかったー」
と、微笑むー。

「ーほら、今って案外、誰も声を掛けてくれないしー、
 声を掛けて来たとしても、
 なんか下心が溢れてる人が多いし」

綾乃が照れくさそうに笑うー。

「ーははは、俺だってそうだったかもしれないぞ?」
治樹が笑いながら言うと、
綾乃は「治樹からはそういう感じ、全くしなかったし!」と、
穏やかな口調で返すー。

「ーーーまぁー……確かに何も考えてなかったなぁ
 単に”何か困ってる人がいる”ぐらいだったしー」

治樹の言葉に「やっぱり!」と笑う綾乃ー。

そう言えば、以前親友からは
”お前って女子と二人きりになっても100パーセント何もしない
 安心感があるからなぁ”とか言われたこともあった気がするー

「ーあ、じゃあ、そろそろ行く?」
二人とも食事を終えたのを確認すると、綾乃が
そんな言葉を口にするー。

治樹は「あぁ、綾乃が良ければ」と、頷きー、
会計を済ませると、そのまま昼食を終えて、
外を歩き始めたー。

綾乃が買い物をしたい、と言うので、
大通りを渡り、反対側の道に向かおうと、
二人で歩道橋の階段を登り始めるー。

「ーーそういえば、綾乃の大学ってー、
 なんかお祭りみたいのないのか?

 時期があれば俺も行きたいなぁ~なんて」

治樹が歩きながらそう言葉を口にするー

歩道橋の下を通る車の音を聞きながら
綾乃は「あ~…あるにはあるけどー」と、少し
考えるような仕草をしてから、
「ーあんまり盛り上がらないっていうかー、
 かなり寂しい感じだからー」と、苦笑いして
それ以上は会話を続けようとしなかったー

「そっかー」
治樹は少しだけ笑みを浮かべながらそう呟いてー
歩道橋の下り階段に進もうとしたその時だったー

「ーやべぇ!遅刻する!」
背後から走ってきた茶髪の男がー
ドン!と綾乃にぶつかったー

「ー!?」
綾乃がバランスを崩すー

「ーあっ!」
治樹が転倒しそうになった綾乃の手を咄嗟に掴んで、
綾乃を助けようとするもー
治樹自身もバランスを崩してー
二人ともそのまま歩道橋の階段を転がり落ちてー
下まで転落してしまったー

「うぉっ!?」
綾乃にぶつかって、既に歩道橋を駆け下り、少し離れた場所まで
走っていた茶髪の男は、
”やべっ!”と思いながらも、
仕方なく歩道橋の階段の下まで戻ってきて、
二人が意識を失っているのを見て
やべやべやべやべ!!!と、一人で叫びながら
慌てて救急車を呼び始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」

気が付くと、そこは病院だったー。

「ーー……」
見知らぬ天井が最初に視界に入りー、
部屋の様子を見渡し、
ここが病院であることをすぐに理解したー。

「ーーあ、よかったー
 藤木(ふじき)さんー、お目覚めですねー」

意識を取り戻した直後ー、
偶然病室にやってきた看護師の女性がそう呟くー。

「藤木ー?」

藤木と呼ばれた治樹は
困惑しながらそう声を出したー

治樹は”久保 治樹”だー。
苗字は藤木ではないー

「ーーー…あ…あれ…?声がー…」

そして、治樹はすぐに異変に気付くー。

”自分の声”が女のような声が出て
おかしいのだー。

「ーーあ、まだ安静にしていて下さいねー
 念のため検査をしないといけないのでー」

女性看護師がそう言うと、
治樹はすぐに「あ…あの一緒にいたー」と、
一緒に歩道橋の階段を転がり落ちたはずの彼女・綾乃のことを心配するー。

「ーあぁ、えっと一緒にいた男性の方はーー…」
と、女性看護師は少し気まずそうに呟くー

「ー男性…?」
まだ意識があまりハッキリしない中、
”何で女みたいな声なんだ?”と、自分の口から出る声に戸惑いつつもー、
そう言葉を口にするー

「はいー…
 久保治樹さんのことですよねー?

 久保さんはそのー…まだ意識を取り戻していませんー」

気まずそうに言う女性看護師ー

”え…?今、なんて言ったー?”
困惑する治樹ー

”一緒にいた綾乃のこと”を聞いたはずなのだが、
何故、俺のことをー

「ーーー!?」
そう思っていると、自分の髪が伸びていてー
しかも、胸があることに気付くー

「って、うわっ!?」
寝惚けていた状態から急に正気に戻ったかのような
そんな衝撃を覚えながら、そう叫ぶと、
女性看護師が逆に驚いたような表情で
治樹のほうを見つめて来るー

「こ、これは、いったいー…!?えっ!?」
戸惑った様子の治樹を見て、
「ど、どうかされましたか?」と、不安そうな
表情を浮かべる女性看護師ー

治樹は混乱しながら

「え…な、なんで俺が女の人みたいな身体にー…?
 えっ!?」

と、言葉を振り絞るー

「お、落ち着いて下さいー!」
女性看護師はすぐにそう言葉を掛けると、
「藤木 翔子(ふじき しょうこ)さんー」
と、治樹を安心させるためか、
フルネームで名前を呼んできたー

「ふ、藤木翔子ー?
 だ、誰…?」

治樹は困惑しながら、女性看護師のほうを見るー。

「ーーあなたのことですよー」
女性看護師は穏やかな笑みを浮かべながら
鏡を治樹の方に向けたー

そこにはー…

驚きの表情を浮かべている
彼女の綾乃の姿が映し出されていたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どうやら、自分は彼女である綾乃になってしまったようだー。

”治樹”の身体の方も、無事に助かりはした様子だったが
現在もまだ意識が戻っていないらしいー

「ーー…俺が綾乃になっているってことはー……
 綾乃が俺になっているー…ってことなのか?」

綾乃(治樹)は腕組みをしながら
ベッドの上に座りー
色々なことを考えるー

いやー、単純に、
自分が幽体離脱して綾乃に乗り移っただけかもしれないー
と、思いつつも、
治樹の身体が目を覚ますか、覚まさないかまだ分からないし、
何が起きているのか、答えを出すには
少し時間がかかりそうだったー

「あ……」
ふと、綾乃(治樹)は病室に入ってきた
看護師が唖然としているのを見て、
「あっ…え、と…はい、なんでしょうかー?」
と、ベッドの上で胡坐をかいて、腕を組んでいた自分の
姿勢をすぐに整えるー

「ーーーあーえっと、藤木さんー
 これから少し検査をーー」

と、女性看護師が言葉を呟くー。

転落した際の怪我に関する検査ー
脳などに異常がないかを念のため検査するのだと言うー。

「ーー…」

綾乃(治樹)は表情を歪めるー。
検査をすること自体には何の異論もないし、
それで表情を歪めたわけではないー

「ーーあ、あの…藤木ってー」
綾乃(治樹)が言うとー、
女性看護師は不思議そうに振り返るー

「ーわたし…藤木翔子…って言うんですか?」

こんなことを聞けば、”記憶喪失”と思われるかもしれないー。
だが、どうしても気になってしまったー。

だってー
彼女の名前は”白川 綾乃”のはずなのだからー。

「ーーー…ー記憶…ハッキリしませんか?」
女性看護師が不安そうに言うー。

「あー、いえ、あ、あのー…」
綾乃(治樹)は戸惑いながらそう言うと、
女性看護師は「持ち物に免許証と保険証がありましたからー」
と、ちゃんと身元の確認が出来ていることを説明するー

「免許?」
綾乃(治樹)は戸惑うー。

確か綾乃は”運転免許は持っていない”と言っていて
以前少し遠くに遊びに行った際には、治樹が
全部運転した記憶があるー。

別にそれはそれで全然構わないのだが、
免許は持っているとなると”嘘”をつかれていたことにー

「ーーあーーーちょっと見てもいいですか?」
綾乃(治樹)はそう言いながら鞄の中を漁り、
免許を確認するー

するとそこにはーーー

”藤木翔子”という名前と、
他でもない、綾乃の顔写真が記載されていたー

どう見ても本物の免許証で偽造したものとは思えないー。

免許で偽名を使うことは難しいはずだー。

と、いうことはー
”白川 綾乃”が偽名ということにー

「ーー!?!?!?!?」
綾乃(治樹)はさらに強い衝撃を覚えるー。

生年月日の記述を見て、震えが止まらなくなったー

”1992年ー”

「ーー!」
今は2022年だー。

と、いうことはー
既に綾乃は”30歳”ということになるー

「ーい…いや、待てー
 30歳だって大学に通うことはできー…」

混乱の中、綾乃(治樹)はボソッとそう呟くー。

だがー…
綾乃は確かに”同い年”だと言っていたー

そうなれば、自分と同じ20過ぎのはずー…

「ーあんまり盛り上がらないっていうかー、
 かなり寂しい感じだからー」

そういえばー、と、綾乃は自分の大学の話を
あまりしようとしなかったし、
学園祭みたいなものがあれば行きたい、と言った時にも
そんな風に誤魔化されたー

「ーあ、藤木さんー!」

混乱の中、別の看護師が駆け込んでくるー

「ーー旦那様がお見えになられましたー」
看護師の言葉に、
綾乃(治樹)は目を見開くー

「だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、旦那!?!?!?!?!?」

綾乃(治樹)は愕然としたー。

何が起きているー!?

綾乃と入れ替わったことで、
次々と発覚する綾乃の”嘘”ー

もはやこれは地獄としか思えなかったー

②へ続く

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コメント

恐ろしい状況に…★!

作中ではまだ”入れ替わりか憑依か分からない”みたいなことを
言っていますが、ちゃんと入れ替わりで、
治樹になった彼女も目を覚ましますので、楽しみにしていてくださいネ~!

(治樹視点ではまだ、どっちか分かってたらおかしいので、
 作中では「入れ替わり?憑依?」みたいな発言をさせました~!)

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