”人間は愚かだ”
そう考えるたった一人の男が憑依薬を手にしてしまっただけでー
世界は、破滅へと向かって行くー。
彼の世界征服の野望の行きつく先はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーっっ…俺はーー3年近くも眠っていたのかー…?」
憑依薬を使って世界征服を目論む聖人の親友で、
会社の同期だった聡一は、
呆然としながら、病院らしき場所のカレンダーを見つめたー
「ーー…!」
病院内を歩いていると、看護師らしき女性と目が合い、
その女性は驚いた表情を浮かべるー。
「ーー意識…戻ったんですか?」
その女性の言葉に、聡一は頷いたー。
確かに、3年近くも眠っていた人間が奇跡的に目を覚ませば
誰だって驚くだろうー。
聡一は、その女性看護師から話を聞くー。
自分は、聖人を止めようと、聖人に憑依された月美のもとを
訪れた直後、聖人に憑依されてそのまま近くのビルから
飛び降りてしまい、一命は取り留めたものの昏睡状態にー、
そしてー、3年間眠っていたらしいー
「ーーー……」
聡一が死に切らなかったのは、聖人にとっても、
想定外、というところだろうかー。
「ーーあ、あのー…」
聡一は、ふと病院内に人がおらず、
ほとんど電気がついていないことに不安を感じ、
その女性看護師に確認するとー、
「ーー3年ー……そうですね。
あなたが病院に運び込まれる前とは、世界は大きく変わりました」
と、不安そうに呟いたー。
「ーー」
病院の窓から外を見つめる聡一。
外は不気味に静まり返り、
まるで廃墟のようになっているー。
「ーー”破滅の女神”はご存じですか?」
女性看護師はそう呟くと、
聡一は「あぁ…はいー俺がここに運び込まれる直前から、
ネットで騒がれていた女の子ですよね」と、頷くー。
まさか、”俺の同期の仕業です”とは言えなかったー
「あなたが昏睡状態になったあとも、次々と人が死んで行ってー…」
女性看護師はそこまで呟くと、目に涙を浮かべながら
「ーもう…”文明”を維持できるほどの人間が残っていないんですー」と、
震えながら呟いたー
「ーーー…」
聡一は恐怖すら感じながら「ーー…い、今…どのぐらいの人間がー」と、
声を振り絞ると、
「ーー日本で言えばー、もうー…1割程度しか残っていませんー」と、
”恐ろしい現実”を口にしたー
「ーい、い、い、一割!?」
聡一は思わず叫んでしまうー。
1割しか残っていないのであればー
当然、社会的なシステムも、ライフラインの類も、
何もかも崩壊しているだろうー。
病院の電気がほとんどついていない理由ー
外が荒れ果てている理由ー、
看護師の女性の髪は伸び切って、幽霊のような感じである理由にも
頷けたー。
もう、”3年前”のように社会は機能していないのだー
「ーー…ーーー」
聡一はたまらず病院の外に向かって歩き出すー
「ど、どこへー?」
女性看護師がそう言うと、
「ー俺には、やらないといけないことがあるんです」
と、聡一はそのまま病院の外へと歩みを進めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーあぁーー静かだなー」
聖人に憑依されている女が、笑みを浮かべるー
あの後、”月美”の身体は警察の特殊部隊に
居場所を突き止められて、逮捕されてしまったー
だがー
聖人にはそんなことは関係ないー
月美の身体を捨てて、すぐに別の人間の身体を支配し、
また”2代目破滅の女神”を名乗って、同じことを続けたー
2人目がダメになったら、3人目ー。
3人目がダメになったら、4人目ー。
憑依の力がある限り、
聖人にとって、追い詰められることすら、
問題ではなかったのだー。
「ーーーーー人間が減れば減るほどー
ーー落ち着くー」
現在の聖人の身体・静香(しずか)は嬉しそうに立派な建物の屋上から
嬉しそうに”変わり果てた世界”を見つめるー
急激な人口減により、
もうネットもかつてのようにまともに機能しておらず、
女の身体を使った”破滅の女神”を名乗った配信も、
最近は行っていないー。
だが、それでも聖人は今日も、無差別に人間に憑依して
”自殺”を繰り返していたー。
「ーーーーー」
深呼吸をしながら、「地球にとって、人間は毒だったんだー」と
笑うと、
「俺は、俺と地球のためだけの世界を作るぞ」
と、嬉しそうに呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
世界は、変わり果てていたー。
呆然とする聡一。
町に広がる建物のほとんどは、
既に機能しておらず、
空き家になっていたり、植物が生い茂っていたり、
町の整備ももはや追いついていない様子だったー。
唯一、一軒だけ営業されているコンビニを見つけたものの、
ほとんど商品は入荷されていないー。
髪の乱れた店員が
「何か入荷する方が珍しいよー
昔みたいにトラックが運んでくることもめったにないしなー」と、
首を横に振りながら呟いたー
トラックの運転手も何もかも足りず、
もはや物流も崩壊していたー
「ーーそう…ですかー」
聡一は暗い表情でトイレを借りようとしたー
しかし、
トイレも既に使えない状態で、
店員は「みんなその辺でしてるよ」と、外を指さしたー
「どうせ、昔のように人がたくさんいるわけじゃないし
誰も見ちゃいない」
そんな言葉にー
”神内のやつ、世界をどうしたいんだー?”と困惑の表情を浮かべるとともにー
”あいつに憑依薬を渡してはいけなかった”と、
3年前の自分の行動を深く、深く後悔したー。
その時だったー
コンビニの店員が「うっ!」と呟いて
ビクンと身体を震わせるー
「ふ~…まだ生き残りがこの街にもいたか」
そう呟くと、店員は、コンビニ内のハサミを手に、
”自殺”しようとし始めるー
「ーー!?」
異変に気付いた聡一がすぐに叫ぶー
「じ、神内!!!お前なのか!?」
とー。
コンビニ店員の身体を乗っ取った聖人は
少し驚いた様子で
「お前…3年前に消去したはずじゃー?」と声を上げたー。
「…一命を取り留めたんだよ!
っていうか、お前ーーな、何をしてるんだよ!
こ、こんな世界を滅茶苦茶にして!!!」
聡一が怒りの形相で叫ぶー。
だが、コンビニ店員の身体で聖人はにやりと笑ったー
「人間がいない世界ー、最高だろ?」
とー
「ーふ、ふざけるな!大体、その店員さんが
何かしたのか!?
お前の狙いは悪人だけのハズだろ!」
聡一が必死にそう叫ぶー。
すると、コンビニの店員は、それを無視して、
自分の首を切り裂いて、その場に倒れ込んだー
「お、おいっ!」
聡一が叫ぶー。
「ーーー……そう、最初はなー」
背後から声がして、聡一が驚いて振り返ると、
死んだ店員の身体から離脱して、
実体化した聖人の姿があったー
「じ、神内ー…」
呆然とする聡一。
聖人は「久しぶりに会えてうれしいよ」とお世辞を
口にするとー、
「悪いやつらを処分している途中で、気づいたんだー
人間が減れば減るほど、この世界は美しいものになるってー」
と、笑みを浮かべたー
「ー今の俺の目的はー
3年前とはちょっと変わっててなー…
前は”悪い奴らを消して、俺の理想の世界を作る”だったけどー
今はーーーー」
その言葉に、聡一がゴクリと唾を飲み込むー
「ー俺以外の全ての人間を”処分”して、
俺と地球のための世界を作ることだー
憑依があれば、それもできるー。
既に、全員処分が完了した国もあるんだぜ?
すごいだろ?」
聖人の信じられない言葉に、
聡一は「お…おい…嘘だろ?馬鹿なことはやめろ!」と、
声を上げるー。
しかし、聖人は「俺は本気だ」と、冷たく言い放つと、
「俺は全ての人間を処分するー」と言い放ったー
「ふ、ふざけんな!そんなことして何になる!?
誰もいなかったら、お前はどうやって生きていくつもりだ!?
考え直せ!神内!!!」
聡一が必死に叫ぶー。
「ーー俺?あ~、そうだなぁ…
誰もいなくなったら、動物たちと遊びながら
草でも食って生きるわー」
聖人の言葉にー
「ー誰もいなかったら、話し相手もいないんだぞ!!!」
と聡一が叫ぶー
「ーいやぁ、別にいらないねー
あ、そうだー」
聖人はそれだけ言うと、突然姿を消したー
「ーー!」
聡一は、聖人が何をするつもりなのかー
すぐに理解したー
そして、それに対策を講じることもできないままー
聡一は聖人に憑依されて”殺されて”しまったー
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーた、たすけてー…」
生き残っていた女が、悲鳴を上げるー。
「ーー……大丈夫だよ
怖くない。
死んだって生まれる前に戻るだけだし、
恐竜だって絶滅したんだー
人間も、同じように絶滅するー
それだけのことだ」
静香の身体で、ニヤニヤしながら刃物を手に、
その女の命を奪った聖人ー
聡一が死んでから2年ー。
もはや人間は
”時折見かけるゴキブリ”ぐらいのレベルでしか
その姿を見かけないようになり、
静香の身体で、聖人は廃墟の中を歩き回りー
見つけては”処分”していたー。
「ーーーー心地いいー…」
夜ー
静香は静まり返った街に立ち、
嬉しそうに笑みを浮かべたー
もはや、その街に人の姿はないー。
もう、電気も通っていないー。
憑依した時には”美人”だった静香も、
髪がすっかり伸びて、乱れてー
その輝きは失われているー
もう美容院も開いていないしー、
電気も通っていないし、
水道も機能していないー
身体は川まで行って、自然の恵みを
利用するしかないー。
だがー
それも、静香に憑依している
聖人にとっては心地よかったー
彼はー
人間が大嫌いだったー。
しかしー
”愚かな人間”を消去しようとしても
一般人にそんなことは絶対にできないし、
何か行動を起こせば、それは”ただの犯罪者”だー。
だから、元々は何もするつもりはなかったー。
愚かな世界をあざ笑いながら、大人しく生きて
生涯独身のまま、子孫を残さず、人生を終えるつもりだったー。
けれどー、彼は手に入れてしまった。
”世界征服”の夢すら実現できる”憑依”という力をー。
その結果が、今のこの世界だー。
聖人のように”何か危険な野望”を抱いていても、
この世界のルールが、そこにブレーキをかけてくれるー。
しかし、”ブレーキすら必要のない力”を手に入れてしまったらー?
聖人のような凶行に走る人間は、
この世界のどこにでもいたのだろうー。
「ーーー最初は、悪い奴だけ消すつもりだったんだけどなー」
聖人に憑依された静香がそう呟くー。
途中からー
”全ての人間を消す”方向に舵を切った聖人ー。
そして、今、それはほぼ、実現されていたー。
「ーーーーーー」
”人間”がいなくなるだけで、
世界はこんなにも静かだー。
静香はそう思いながら、のんびりと
もう誰もいないビルの屋上で
あくびをしながら、笑みを浮かべるー。
争いもないー
犯罪も起きないー
交通事故も起きないー
詐欺も起きないー
悲しむ人間すらいないー。
”これが、お前の望んだ世界なのか?”
そんな声が聞こえた気がしたー
「ーーーー」
”静寂”に染まり、次第に寂れつつある
”街だった場所”を見つめながら
静香は笑みを浮かべたー
「ーそう、これが俺の望んだ世界ー
この世界はもう、俺のものだー」
そう呟くと、聖人は
もう”破滅の女神”を名乗る必要もなくなったと判断して、
静香を自殺させるとー
自分の身体に戻って笑みを浮かべたー。
人類は、たった一人の男が憑依薬を手に入れたことで
滅亡したー。
聖人はこの後、文明の崩壊した世界で
自分の気が済むまで生き、
最後には野生化していつの間にか市街地に姿を現した
ライオンに食い破られて絶命したー。
だがー、
聖人は最後の瞬間に笑みを浮かべていて、
その表情は、とても満足そうにも見えるものだったー。
たった一つの憑依薬でこの世界は滅んだー。
しかし、遠い遠い未来の、また異なる人類の歴史には
”旧人類の絶滅”として語られているのみで、
その原因は、氷河期やら隕石やら、的外れな仮説が
並ぶのみになっていてー、
後の時代に真相を知る者はいないー。
そして、またーー
「ーーー…”憑依薬?”」
聖人が生きた時代よりも、遠い遠い遠い未来でー、
その時代の人類はまた、同じことを繰り返そうとしていたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依薬を本当に何の容赦もない人間が使ったらどうなるかを
描いた作品でした~!
憑依薬が危険な人の手に渡ってしまうと大変ですネ~!
お読み下さりありがとうございました~!
…どうやって彼が隠れている人間まで見つけ出したのか、
数年でほぼ全員に憑依して全滅させられたのかは、謎のままデス!
コメント
「凶悪犯罪者室井」並みに犠牲を払えば10万人前後が死んた時点で解決すると思ったら
「独裁国家レギン」「あるかもしれない未来」以上に死にまくり。
3年間の間に能力が強化されたか、能力を上手く使ってい効率良く虐殺する方法を思いついたか?
「室井」の佐伯がいたら、あそこまで酷くなる前に解決したと思いますか?
コメントありがとうございます~!
今までで一番犠牲者の数がとんでもない作品になりましたネ~…!
3年間の間に何か、変化はあったのだと思います~!☆
他の作品の登場人物がいれば…早い段階で阻止できたのかもしれませんネ!
「凶悪犯罪者室井」みたいに10万人くらい犠牲を払えば解決するって思った。
「独裁国家レギン」「あるかもしれない未来」並みに死んだ。
能力が3年で強化?効率良い虐殺法?
「室井」の佐伯がいたら解決した?
わわ!
2つ頂いたので、
こちらにもありがとうございます~☆