<憑依&MC>ある日、俺は思い出した

彼はー

5年前ー
まだ高校に入学したばかりの少女に憑依し、
その人生を奪ったー。

だが、彼はー
”自分であったことも忘れたい”と
”あること”を自分に施していたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーだ、大丈夫ー?」

とある大学ー
学園祭の準備のために、
看板に飾りをつけようとしていた岩崎 紗枝(いわざき さえ)が
脚立から転倒して、
ちょっとした騒ぎになっていたー

脚立の近くで他の男子と悪ふざけをしていた男子の一人が
脚立のぶつかり、バランスを崩した紗枝が転倒してしまったのだー

「ーーうーーー…」
紗枝は、身体を押さえながら少しだけ表情を歪めたー

派手に転倒してしまいー、
少し頭も打ってしまったー。

幸い、打ちどころは悪くなく、
大丈夫そうな感じではあるもののー
紗枝の身には、それ以上の大きな問題が起きていたー

「ーえ…わ、わたしー…?」
紗枝が険しい表情で呟くー。

「だ、大丈夫ー?」
「ーね、ねぇ…紗枝?」

心配そうに声を掛ける紗枝の友人たちー。

男子も心配そうに紗枝を見つめているー

「ーあ…う、うんー
 だ、大丈夫だけどー」

紗枝はそう言うと、少し痛そうにしながら
立ち上がるー。

「ーー(嘘だろー?)」
紗枝は、周囲を見渡しながら表情を歪めたー。

この5年間ー
彼は自分のことを完全に”紗枝”だと思い込みながら生きて来たー。

自分が紗枝になった”5年前”よりも前の記憶も
ハッキリとしているし、今の今まで自分が「紗枝」だと
信じて疑わなかったー

けれどー

「ーーーごめん、ちょっとーー今日は帰るね」
紗枝はそう言うと、慌てた様子で
自分が一人暮らしをしているアパートに帰宅したー。

「ーーー……ーーーそうだーーー……
 わたしは……わたしはーーー… くそっー
 思い出したくもないことをー」

紗枝はそう呟くとー
”5年前”のことを思い出しながらー
表情を歪めるー

”今の紗枝”はー
”紗枝であって紗枝ではない”

いやー、身体は確かに紗枝なのだが、
”中身”が違うー。

今の紗枝は、殺人から脅迫、窃盗ー
あらゆる犯罪行為を働きながら、裏社会で生きて来た男に
憑依されているー。

だがー
裏社会でやりたい放題してきた彼は”自分の凶悪な人生”を、
40代に差し掛かったころから、後悔し始めたー

”こんな風に、悪党になりたかったんじゃねぇ”
とー。

そこで彼は人生をやり直すことにしたー。

裏社会のあらゆるネットワークを駆使して
彼は”その方法”を手に入れるー。

それが”憑依薬”ー。

しかしー
彼は、同時にもう一つ、”あること”を考えていたー

それはー
”自分が自分であったという記憶を消したい”ということー。

彼は、自分のことが小さい頃から大嫌いだったー。
数々の犯罪に手を染めておきながら、
彼が一番殺したいのは、自分自身であったー。

だからー…
”憑依”で他人の身体を奪ったその時にはー、
”自分が自分であったことも忘れたい”と、
そう考えていたー

そんな中ー、
彼は憑依薬を提供してくれた闇ブローカーから
”洗脳”の技術を紹介された男は、
紗枝に憑依したすぐ後に、その場を訪れたー。

「ーー何だって?”元々の自分の記憶”を消したい?」
相手の男は少し驚いた表情で呟いたー。

「ーあぁ…俺は多くの人間を傷つけてきたクソ野郎だからなー
 俺は、俺であったことを忘れてぇのよ」

憑依された紗枝が笑みを浮かべながらそう言うとー

「ーははは、なかなか物好きなやつだなあんたー」
と、相手の男が笑うー。

「ー自分の記憶を持ったまま、女子高生になれりゃー、
 あんなことだってこんなことだってし放題なのに」

その言葉に、
紗枝は「いいやー。俺は普通の女子高生になって、
普通の女子大生になって、普通の生活を送りたいわけよ」と、
ニヤニヤしながら呟くー

「俺の記憶が残ってたらー
 どうしても、そうはいかねぇしー、
 クソみたいな人生を忘れることもできねぇ」

紗枝がそこまで言うと
相手の男は少し考えたあとに、
「じゃあー…あんたの元々の記憶を消してー
 自分をその小娘だと思い込ませるようにー
 洗脳すりゃいいんだな?」と、
確認を入れるー。

「あぁ、そうだー。
 
 ーあ、でも一つー」

紗枝が思い出したかのように相手の男に向かって言い放つー。

「ー俺が俺だった記憶を忘れて、
 ”普通の女の子”になったあとは
 すぐに解放してくれよ?」

紗枝の言葉に、
「へへへ…旦那から金を貰ってる以上、そんなことしませんよー」
と、男は笑ったあとにー
「洗脳した後、意識を取り戻すまでの間に、
 自宅まで送り届けておくさー」
と、付け加えたー

「へへへ…それは助かるー」
紗枝はニヤニヤしながらそう呟くとー、
そこで”自分で自分に洗脳”をかけることを望みー、
その通りに洗脳されたー。

結果ー、
紗枝に憑依した男は、
自分が紗枝だと、信じて疑わないまま
残りの高校生活を送り、
今、こうして大学に通っていたー。

「ーーーーーー」

だがー
今の紗枝にとって、
”過去の出来事”を思い出したとは言っても、
5年間、自分を本物の紗枝だと思い込んで
過ごしてきたのは事実ー

”ある日いきなり”
「お前は本当はお前じゃなかったんだ」と
言われたような状況に陥り、動揺していたー。

「ーーー……はぁぁぁ~~…」
髪をぐしゃぐしゃになるまで掻きむしると、
紗枝はベッドに仰向けに寝転んで
天井を見上げたー。

「ーー思い出したくなかったー」
紗枝がボソッと呟くー。

せっかく”クソみたいな自分を何もかも忘れてー”
ごく普通の女子高生として生活を送り、
ごく普通の女子大生として生活を送ってきたのにー

「ーーチッ…やっぱー…俺は俺のままかー」
紗枝はそう呟くと、
自分の胸を両手で揉み始めるー

自分が、本当は男でー
この紗枝という女に憑依した存在であるということを
思い出した瞬間にー
自分の身体に対して”エロイ”という感情を抱いてしまったー

「くくっ…♡ はぁぁ…たまんねぇな…♡」

こんなことをせずにー
”普通の女子”として自分自身、一からリセットしようと
自分自身を洗脳して、過去の自分を全て消し去ろうとしていた彼ー

しかし、思い出してしまった以上、もう止まらないー

紗枝はその日の夜ー、
この数年間で味わったことがないほどの快感を
感じながら、何度も何度も一人でエッチなことを
繰り返したー

そしてー、
その翌日ー

「ーやっぱ”俺”はやられたまま引き下がれねぇな」

紗枝はそう呟きながら、黒い手袋に、黒っぽい服装を身に着けて
夜の街に向かって歩き出すー。

紗枝は元々
”誰にでも優しくて”
”どんなことをされても怒らない”
そんな感じの子だったー。

紗枝に憑依して、自分の記憶を完全に封印して、
紗枝としてこの5年間生きて来た男も、
その通りの性格になって、
そう振る舞ってきたー。

”昨日まではー”
自然と、そう振る舞うことができたし、
そんな自分に対して何の不満も感じてはいなかったー。

だが、今は違うー。

紗枝に憑依した男は
元々”超”がつくほど凶暴な人間で
数多くの暴力を繰り返してきたし、
何なら、裏社会の人間同士の争いで人の命も奪っているー。

そんな男がー
紗枝に憑依したそんな男が
”自分”を取り戻してしまったー

「あの野郎をぶち殺さなければ気が済まねぇ」
紗枝は鬼のような形相でそう呟くとー、
”その相手”を見つけ出したー。

「ーーー」
サングラスをかけて、その相手を尾行する紗枝ー

今日は大学はちょうど”休日”だー
これからどうするかはまだ決めていないー。

だが、もうー
これからしようとしていることをすればー
紗枝は大学には戻れないー

しかし、血の気の多い男は
どうしても怒りを抑えることができなかったー。

紗枝に憑依するまで、ずっとずっと、
そうやって生きて来たのだー。

今更それを、変えられるはずもなかったー。

「ーーおい」
”相手”が裏路地に入ったタイミングで、紗枝が声を掛けると、
「ーーえ?」
と、その男が振り返ったー。

相手はー
”学園祭の準備中に紗枝の脚立にぶつかった”男子の一人ー。

「ーーー…あー岩崎さんー」
その男子・佐々倉(ささくら)は、紗枝を見てそう呟いたー。

だがー
佐々倉はすぐに表情を変えたー

目の前に立っている紗枝が、大学で見る紗枝とは
まるで別人のような雰囲気でー、
しかも自分を睨みつけていたからだー

「ーー思い出したくないことを思い出させやがってー」
紗枝はそう言い放つと、佐々倉の胸倉を掴んで、
建物の壁に叩きつけたー

「テメェのせいで、わたしはわたしでいることが
 できなくなった!

 脚立に乗って作業してるところにぶつかって来るとか
 お前、いくつなんだよ?え???」

紗枝の恐ろしい口調に、佐々倉は
「わ、わ、悪かったよー」と、慌てた様子で叫ぶー。

だがー
紗枝に憑依した男は、元々血の気も多く、
自分の怒りを抑えられるような人間ではなかったー

だからこそ、40代になるまで繰り返し悪さをしてきたし、
それを止めることもできずー
最後には自分を嫌悪して、
”憑依した後に自分を洗脳する”という手段で
自分が自分であった記憶を抹消したー。

しかしー、
その洗脳が、脚立から転落した際のはずみで
解けてしまった今ー、
もう、自分を止めることはできなかったー。

紗枝は、人を殴ったことがないであろう手で、
何度も何度も佐々倉を殴りつけると
「ーふざけんじゃねぇぞテメェ!」と、
大声で怒鳴り声を上げたー

佐々倉は悲鳴を上げて、
謝り続けるだけー

「ークソ野郎が!
 これが俺の本当の姿だよ!

 どうしようもねぇやつなんだよ俺は!」

紗枝は怒鳴り声を上げながら
さらに佐々倉に暴行を加えていくー。

「もう、俺は”岩崎 紗枝”として
 生きてくことはできねぇ」

佐々倉を”半殺し”にした紗枝は
唾を吐き捨ててそのまま立ち去っていくー

やっぱり、自分はこういう人間だー
”優しい女子大生として振る舞う”ことなんてー
自分には出来っこないのだー。

”もう一度自分を洗脳する”
そんなことも考えたがー
紗枝を支配した直後、自分を洗脳することを手配してくれた
”闇ブローカー”とはもう連絡がつかず、
もう一度、自分を完全に紗枝だと思い込むことはできなかったー。

紗枝としての記憶も持つ彼はー
家族に申し訳ないという気持ちに押しつぶされそうに
なりながらも、それでも”自分”としての意思がその気持ちを
上書きしてー
佐々倉と共に、一緒に悪ふざけをしていた男子も、
その翌日に”半殺し”にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ったく、結局こうなるのかよ!」

半月後ー

紗枝は、すっかりド派手になった風貌で、
夜の街の”行きつけ”のバーで
飲みまくる日々を送っていたー

「ーーへへへ…まさかまたあんたと会えるとはな」

バーの店主は、かつて、彼が紗枝に憑依する前に
よく利用していたバーだ。

マスターは憑依のことも知らなかったが、
事情を説明し”マスターと自分しか知らないであろう話”を
することで強引に憑依を信じてもらうことができたー。

「ーでもいいじゃないかー
 その身体で荒稼ぎできて、金には困ってねぇんだろ?」

マスターが笑いながら言うと、

「それはそうだけどよ!俺はこの…なんつーか
 すぐこういう風になっちまう俺自身が大嫌いなんだよ!」

鏡を見つめながら、
すっかり”派手”になってしまった紗枝の姿を見つめたー。

「ーーははは…
 嫌なら抜けりゃいいじゃないか」

マスターが言うと、紗枝は「一度憑依したら抜けられないみたいだし、
洗脳してくれたブローカーにももう連絡がつかねぇからどうにもならねぇよ」
と、酒を口に勢いよく運びながら愚痴を口にしたー

「ーーーははははーーー

 でも…その女の子にしちゃ、災難だなー」

呆れ顔でマスターが呟くー。

結局ー
”自分”の記憶を取り戻してしまった彼は
”普通の女子大生”として大人しく生活することなど
出来るはずもなくー
再び、過去の自分と同じように、荒れ放題な
生活を送ることになってしまったー…

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

”憑依”と”洗脳”の複合ジャンルの
お話に挑戦してみました~!

ちょっとした挑戦だったので1話完結で
サックリとまとめましたが、
機会があればまた2種ジャンルのお話にも
挑戦してみたいと思います~!
(※それがメインになることはないので、安心してください~!
 たまにやる程度デス)

お読み下さりありがとうございました~!

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小説

コメント

  1. 匿名 より:

    これの入れ替わり版とかやったら、面白そうですよね。

    美少女の身体を奪った男が、身体を取り返そうとされないように、洗脳みたいな感じで。