<憑依>世界は俺のもの①~破滅の始まり~

毎日、退屈そうに仕事をしている男ー。

そんな彼を心配して、友人の男は偶然手に入れた
”憑依薬”を彼に手渡したー。

しかし、彼はー…その憑依薬を使って”世界征服”のために
動き出してしまったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー神内(じんない)、お前っていつも
 つまらなそうにしてるようなぁ~」

同じ会社に勤務する同期の
三園 聡一(みぞの そういち)が、苦笑いしながら言うー。

「ーこの世界なんて、生まれてから死ぬまでの罰ゲームだからな」
神内と呼ばれた男はそう答えたー。

神内 聖人(じんない まさと)ー
彼は成績も優秀で、運動もできて、仕事も早いー
頭の回転も速く、会社内では上司からも信頼される”エース”だー。
それでいて、人に対する気配りも出来て誰にでも親切なために、
同期や先輩後輩に関係なく、頼られているー。

人付き合いに関しても、”表面上”は、うまく付き合うために、
孤立しているような様子もないー。

だが、同期であり親友の聡一は、
聖人が”いつもつまらなそうにしている”のを、知っていたー。

どこか達観したような感じで、
いつもー”笑っていても、目は笑っていない”ことを知っている
聡一は、聖人のことを何かと気にかけていたー。

「ーーこの世界は、理不尽なことだらけだからなー
 不愉快なことばっかりだよ」
聖人はそう呟きながら笑うー。

「そんなこと言うなよ」
聡一がそう言うと、
「ーお前ぐらいにしか、言えないさ」
と、聖人は笑ったー。

”また”だー。
目の前にいる聖人は、確かに笑っているー。

でもー、
”その目”は笑っていないー。

このー
”この世の全てに絶望している”かのような目に、
いつも聡一は背筋が凍るような思いをしているー

どんな過去があったのだろうかー。
それとも、特に壮絶な過去は無いけれど、こういう性格なのだろうかー。

聡一は、”親友”として、
そんな聖人のことをいつも気にかけ、
楽しそうな話題があれば、いつも聖人にそれを持ちかけて来ていたー。

”親友”ー
そう思ってるのも、もしかしたら自分の方だけなのかもしれないー。

聡一はそんな風に思いながらも、
”今日”、聖人の家にやってきていた”目的”を果たそうとしたー。

「ーなんだそれ?」
聡一が取り出したものを見て、聖人がテレビを見ながら反応すると、
聡一は答えたー。

「憑依薬ってやつでさー、仕事で東南アジアを訪れた際に
 怪しげな老人が売ってくれてさー」

と、聡一は説明したー

怪しげな紫色の液体が小瓶に入っているー。

聖人は「ーー憑依ってあれか?他人の身体に乗り移って
自由にできる、みたいな?」と、テレビのニュースを見つめながら呟くー。

テレビのニュースでは
最近、数々の不正が発覚した
とある企業の女社長が謝罪会見を開いている
ライブ映像が放送されているー。

まだ30代ぐらいの若い女性社長だがー
チヤホヤされ続けて、調子に乗ってしまったのだろうかー。
道を踏み外して、数々の不正に手を染めー
そして今、”謝罪会見”でも醜い言い訳を繰り返しているー

聖人は”こういう”醜いニュースを見ては
世の中は、いや、人間は”愚か”だと、
そう思いながら、
それを”こんなクソな世界で最後の最後まで生き抜いてやる”と
明日生きる糧にしているー

「ーーそうそう、まぁ、そのばあさんが言うにはさ、
 これを飲めばいつでも霊体になれるようになって、
 どんなに奴にも憑依したり、抜け出したりできるように
 なるらしくてさ」

聡一が笑いながら言うと、
聖人は「へぇ…」と、少しだけ興味深そうに頷いたー

「俺もさー…
 実を言うと、ほら、この薬でちょっと、
 実家の妹に憑依したりとかー
 試してみたいなぁ…なんて思っちゃったんだけどさー、

 まぁー、こんな怪しい薬、絶対ヤベェ奴だし、
 飲んだらどんな風になるかも分からないしー」

聡一が笑いながら言うー

聡一は”憑依薬”を本物だとは微塵も思っていないー
怪しげな老婆に騙されて金だけとられたのだと
解釈しているー。

だが、そんなに高い金額ではなかったし、
生活に困ってそうな雰囲気もあったために、
こうして憑依薬を購入して、今に至っているー。

今日、聖人にそれを見せているのは
”一緒に憑依してみようぜ”とか、そういう話ではなく
単純に”話のネタ”として、だー。

「でもさぁ、憑依薬なんてー
 人を騙すにしても、作り話が適当すぎて笑っちまうよなー」

聡一がそう呟きながら笑い飛ばすと、
聖人は少しだけ笑いながら
「ーちょっと貸してくれるか?」と、聡一の持つ憑依薬の方に
手を伸ばしたー

「ーあぁ、まぁ色から察するにー」
聡一が、大して何も思わずにそんな言葉を口にしていると、
突然、憑依薬の容器を受け取った聖人はー

そのまま、憑依薬の容器を開封してー
迷わずそれを飲み干したー

「ーえっ!?おいっ!」
聡一は青ざめながら叫ぶー。
目の前で毒入りー…かもしれない液体を
親友が急に飲み干したら誰でも慌てるだろうー。

しかしー
聖人は倒れることなく、笑みを浮かべたー

「ーなるほどー…
 確かに力がみなぎってきたー」

そう呟く聖人を見て、
「ーえ…いや、じ、冗談だろ?ってか、身体は大丈夫なのか?」
と、聡一は呟くー。

その時だったー。
目の前にいた聖人が、突然姿を消すー。

「ー!?」
驚く聡一ー。

そして、次の瞬間ー

つけっぱなしになっていたテレビから
騒がしい声が聞こえ始めたー

「ー皆さん、見苦しい言い訳をして、申し訳ありませんでしたっ!」

突然、言い訳を続けていた
女社長が大声で叫んで、そう謝罪したのだー

「ー!?」
聡一は、テレビのほうを見つめるー。

さらにー

「ーこれがわたしの責任の取り方です!!!!」
女社長はそう叫ぶとー
突然、右に向かって走り出しー、
窓ガラスを突き破りー
そのまま本社ビルの10階から転落したー

悲鳴が上がる会見場ー。

”数々の不正を犯した女社長が突然飛び降り自殺をしたー”

そのシーンが生中継されてしまうという
前代未聞の放送事故ー

聡一が混乱しているとー、
直後、聖人が部屋に突然姿を現した

「ーーうわっ!?」
聡一がびっくりしていると、
聖人が「憑依ってすごいな」と、満足そうに呟くー。

「ーそ、そんなことよりー」
聡一が驚いてテレビのほうを指差すと、
聖人は「あぁ」と笑ったー

「ーー俺が憑依して、自殺させたーすごいだろ?」
聖人が当然のように呟くー。

「ーーえ……」
聡一は青ざめてテレビのほうを見つめるー。

テレビの生中継は既に打ち切られて、
困惑したスタジオが何とか話を続けている状態ー

「すげぇよ…これ、本当に憑依できるー」
聖人は笑いながらそう呟くとー
聡一は戸惑った様子で聖人のほうを見つめながら
「あ、あんま派手なことしすぎるなよ…?」と、
激しい動揺の中、言葉を振り絞ったー

聡一は、まさかこの憑依薬が本物であるなどとは夢にも思っていなかったし、
仮に本物だとしても、聖人がこのような行動を起こすとは
夢にも思っていなかったー

たった数分ー
聖人は、あっという間に、不正を繰り返していた
女社長を”殺して”しまったのだー。

「ーーこれがあれば、俺のやりたかったことができるー」
聖人が笑みを浮かべながらそう呟くと、
聡一は「お…おい…な、なんだよお前のやりたいことってー?」と
嫌な予感を覚えながら呟くー。

会社の女子に憑依でもするのかー?
それとも、個人的な復讐でも果たすつもりかー?

「ーーーははは、俺のやりたいことー?」
聖人はそう言うと、笑いながら答えたー

「ーーー決まってるだろー?」

聖人の言葉に、聡一の嫌な予感は、さらに強く膨らんでいくー。

だがー
聖人の口から吐き出された言葉はーー
聡一の予想の遥か斜め上を行く、恐ろしい言葉だったー

「ー世界征服ー」

聖人は、そう言い放つとー、
再びその場で姿を消したー

”憑依”するために霊体になったのだー

「お、おい!待て!」
聡一は、聖人を落ち着かせようとしたー。

だがーーー

聖人から返事はなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

聡一が会社にやってくると、
聖人の姿はなかったー

「あ…あれ?神内は来てないですか?」
聡一が恐る恐る上司に確認するとー、
「ーん?神内は今日は連絡もないなー…
 あいつ、無断欠勤か…?」
と上司は呟くと、
「お前は何か聞いてないか?」と、
逆に上司が確認してきたー

「ーい…いえ…な、なにもー」
聡一は、青ざめた表情で呟くー。

今まで、一度も無断欠勤などしたことがなかった聖人ー。
その聖人が無断欠勤をしたー、となると、
聖人が何を考えているのか、
聡一には、嫌でも分かってしまったー

”あいつ…まさか本当に憑依を使って、世界征服をー…?”

聡一はそこまで考えて首を横に振るー。

”いや、まさかーそんなことできるはずがないー
 それに、普通に人間なら、憑依して他人を殺すなんて
 そんなことー…”

聡一はそこまで考えて表情を歪めるー。

正直、自分だったら、自由に憑依できる状態になっても
”人殺し”なんてできないー。
罪の意識を感じてしまうだろうし、
何よりも精神的に耐えられないー。

だがー…
聖人の
”いつもこの世界を達観したような目線で見ている”性格を
良く知っている聡一からすればー

”あいつなら、やりかねないー”
と、危機感を抱いていたー。

そして、もしそうなってしまった場合ー…
”憑依薬を聖人に渡してしまった聡一にも責任があるー”

「ーー神内…頼むから、あんま変なこと、しないでくれよー」
聡一は、強く、強く、心の中でそう願うことしかできなかったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーこれは、世界に対する宣戦布告ですー」

その日の午後ー
一人の少女が、世界に宣戦布告したー

笑みを浮かべながら、自信に満ち溢れた表情で、
少女は笑うー

「ーこの世界は、無駄に満ちていますー。
 人間は、あまりにも非効率的すぎるー。
 人間は、あまりにも腐っているー
 
 よってー
 ”破滅の女神”であるこのわたしが、
 世界の無駄を全て排除しー、
 この世界を新たな世界ー
 無駄のない人間の世界に作り直しますー

 その手始めとしてー」

少女は笑みを浮かべながら
画面上に10人ほどの名前を表示したー

いずれも、世界各国の凶悪犯罪者や
犯罪組織のリーダー、独裁を行うものー、
そういった人間の名前だー

「ーーわたしが破滅の女神である証としてー
 この10名を今から30分以内に、この世から”消去”しますー」

ニヤッと笑う少女ー。

「ーーその時に、またお会いしましょうー」

”破滅の女神”を名乗る謎の少女による配信は、
そこで終了したー

元々、料理や裁縫など、日常的な動画をたまに公開していた
女子高生のアカウントで突如公開されたその動画は、
当初、ほとんど注目を集めなかったー

しかしー
その30分後にはー
一部の人間から拡散され、大騒ぎになっていたー

何故ならー
破滅の女神を名乗る女子高生がー、
”予告”した10人が、本当に30分の間に
全員、死亡したからだー。

あるものは自殺ー
またあるものは事故死ー…

明らかにー
”偶然”とは言い難い、そのようなタイミングでー

「ーーークククククー」
笑みを浮かべる”破滅の女神”を名乗る少女ー。

笑みを浮かべていた少女は、突然「ぁ…」と、うめき声をあげて
その場に倒れ込むー

「ーーククー」
少女の中から出て来たのは、聖人だったー。

”俺の姿で宣戦布告をしても良かったがー
 こういう可愛い子が世界に宣戦布告した方がー
 より不気味で、インパクトがあるもんなー”

聖人は心の中でそう呟くと、
倒れたままの
”適当に選んで憑依した女子高生”
長峰 月美(ながみね つきみ)を見つめながら、
「ー世界は、俺のものだー
 この力があれば、この腐った理不尽な世界を
 変えることができるー」と、
静かに呟いたー。

恐ろしい願望を持つ男が、
憑依薬を手に入れてしまったー

世界はたった一人によって、
破滅の道を歩もうとしていたー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

憑依薬で個人的な欲望のためにやりたい放題ー
犯罪者が憑依薬を入手ー…
よりも、もっと危険(?)な人物が憑依能力を手に入れてしまいました…!

大変なことになりそうですネ~!

続きはまた次回デス~!

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憑依<世界は俺のもの>

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