<皮>いつまでも若いままで②~欲望のその先に~(完)

老いを受け入れられず、若さに執着するー

そんな彼女は、人を皮にする力を手に入れて、
理想の人生を送る… はずだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

”3日ほど前から、行方不明になっておりー”

テレビから、そんな音が聞こえてくるー。

高校生の麻耶は、笑みを浮かべながら
そんなニュースを見つめているー

「ーふふふ…わたしなら”ここ”にいるよ」

今、まさにー
”自分”が行方不明になったニュースを見つめながら
麻耶は嬉しそうに笑みを浮かべていたー。

「ーー”わたし”が消息不明になったニュースを
 自分の目で見るなんて不思議な感覚だわ… くふふふ」

そう呟くと、麻耶は立ち上がったー。

「ーでも、よく考えたらー
 この姿で家を出入りできないのは不便ねー」

麻耶は鏡の前に立って、不機嫌そうにそう呟くー。

まさか、麻耶の身体で会社に行くわけにはいかないし、
”麻耶”が自宅に帰っていない以上、
涼子の家であるこの場所を自由に出入りするわけには
いかないー。

そんなことをすれば、涼子が”麻耶を誘拐した犯人”だと
誤解されかねないー。

そのためー
涼子は”家の中で”だけ麻耶の皮を身に着けてー
仕事に行く時は、麻耶の皮を脱ぎ、自分自身ー…涼子として
会社に通う日々を続けているー。

「ーーーーババアになってきたわたしの姿になんて
 戻りたくないんだけどー」

麻耶の口でそう文句を言いながら、後頭部をめくるようにして
麻耶の皮を脱ぎ捨てる涼子ー。

「ーーー……はぁ~あ」
ソファーのあたりに、脱ぎ捨てた麻耶の身体を置くと、
「ーは~~歳は取りたくないわねぇ」と、うんざりした様子で呟くー。

”麻耶の皮”をずっと着て生活するためにはー
涼子の家にいることはできないし、
涼子が涼子として生活していくことは難しいー

麻耶の皮を着たまま、麻耶のフリをして麻耶の家に帰宅すればー
”麻耶の皮を脱がず”、ずっと若い身体のままでいることができるー。

しかしー
”他人を皮にして着こんで乗っ取っても、その記憶を読むことはできない”

麻耶の家で、麻耶として完全に振る舞うのは難しいし、
高校生である以上、麻耶もそうだが、実家暮らしの人間がほとんどー。
20年以上も一人暮らしに慣れている涼子にとっては
”乗っ取った身体の”知らない両親”と暮らす”のは苦痛でしかないー

「ーーーーー”高校生”だと、やりにくいわね」
涼子は静かにそう呟くと、
若さは惜しいものの”高校生より大学生の方がいいかもしれない”と、
次は一人暮らしの女子大生を狙うことを考え始めるー。

一人暮らしの女子大生であれば、
皮にして乗っ取ったあとに性格がガラリと変わっても、
何とかなるだろうし、
一人暮らしの自由さも、そのままー

涼子は、今の人生に別に未練はないし、
満足もしていないー

「そうよー…女子大生だわ…ふふ…
 それならーーわたしはずっと若い身体でいられるー!」

涼子はそう笑うと、
証拠隠滅のために女子高生・麻耶の皮を切り刻んで
ゴミ箱に捨ててからー
そのまま会社に向かうことなく、町に向かって歩き出したー。

もう、自分自身の人生ー
”涼子”としての人生もいらないー。

そう決意した涼子に、会社に行く理由などなかったー。

そしてー
その日のうちにー
涼子は、アパートで独り暮らしをしている女子大生・愛唯(めい)を
皮にして、愛唯の身体を奪ったー

「ーーははははははっ!これでわたしはずっとずっと、
 若いままでいることができる…
 ははははっ!あはははははっ!」

嬉しそうに笑う愛唯ー。

女子大生・愛唯を支配した涼子は、
愛唯の人生をそっくりそのまま奪うことを決意ー、
そのまま、若さを存分に堪能する人生を送り始めたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーは~~~今日も楽しかったー」
帰宅した愛唯は満足そうに微笑むー

男を誘惑するような格好の愛唯はー
お酒を飲んできたのか、顔を赤らめながら
ふらふらと、ベッドの方に向かうー。

愛唯を支配してから1ヵ月ー
若さを振り回して、遊びまくる日々を送っていたー

愛唯が元々どんな人間だったのかは知らないー。
しかし、今の愛唯は夜遊びや男遊びを繰り返すー
悪い女子大生に変わり果ててしまっていたー

既に彼女自身ー
”涼子”は失踪扱いになってしまっていて、
恐らく会社もクビになってしまっているもののー
”40代のおばさん”には、もう涼子自身戻りたくなかったし、
こうして20代前半の若い身体ー”愛唯”として過ごす日々は
とても幸せな日々だったー。

一人暮らしの大学生を乗っ取ったため、
”愛唯”の豹変を怪しむ人間は身近にはいないし、
実家の両親とたまに連絡を取ったり、
大学の人間関係を誤魔化すことぐらいはできるー。

女子高生の麻耶を支配した時とは違い、
”涼子の家”に帰宅しているわけでもないためー
堂々と愛唯として、今の自分の家ー…愛唯の家を出入りすることができるー

「ーやっぱー…若いって最高ー…
 そうだー…このあと、竜也(りゅうや)を呼んで
 クラブでも行っちゃおっかなー」

既に夜遅くー
酔っているにも関わらず、愛唯は、”愛唯を乗っ取ってから”作った
男友達の名前を呟きながら、
静かに笑みを浮かべたー。

だがーー
”異変”に気付いたのは、その少し後のことだったー。

「ー……白髪ー?」
愛唯は、自分の髪に白髪が増えて来たことに気付くー。

そしてー
肌も急激に”老化”が進んだかのようなー
20代前半のはずなのに、40代ぐらいの肌になっているようなー
そんな感触を覚えたー

「ー夜遊びしすぎたかしらー…?」
愛唯はそう呟くと、しばらく夜遊びを控えることにして、
生活スタイルを徹底的に見直し、食生活も何もかも気を付けたー

元々”若さに執着する”涼子にとって、
そういった知識は豊富だったし、”美容のために何かをする”
ということにはとても慣れていたー

だがーー
何をしても”愛唯”は老化していくばかりだったー。

「ーーーな…なにこれ…」
それから更に半月が経過したころにはー
愛唯はすっかり”涼子と同じようなおばさん”と言えるようなー
そんな姿になってしまっていたー。

「ーーど、どういうことー…?
 やっぱ、夜遊びしすぎたのがいけなかったのー?」

愛唯は、途端に表情を曇らせるー

「いやだー…いやだ…こんな…こんなおばさんみたいになりたくないー…!
 いやだー!」

そう叫ぶと愛唯は、
はぁはぁ言いながら
「そうだー…そうよーこいつが老けたなら、また新しい身体を手に入れればいいー」と、
そのまま家の戸締りもせずに
家から飛び出したー

そしてー
近くのスーパーのトイレに駆け込むと、
愛唯はそこまで”自分を”脱いだー

愛唯の皮をスーパーのトイレに無理やり押し込んで
それを流すー。

トイレが詰まったような音を立てたものの
それもお構いなしで、
周囲を見渡すー。

「ーーー…早くー早く、わたしに若い身体をー」

探すこと数十分ー。
”一人暮らしのOL”を見つけることに成功した愛唯はー
”大学生の方がいいけどー”と、思いながらも
そのOLに背後から手をかざしてー
そのままそのOLを”支配”したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”夜遊びを繰り返しすぎた”ことで、
女子大生・愛唯の身体は急激に老化してしまったー

そうー
”反省”した涼子は、新たに支配したOLの身体ではー
”健康的な生活”を送ることを心掛けたー

夜遊びではなく、
明るいうちに、遊ぶー。

スタイルの良さを生かして、若いからこそ輝くコスプレ姿を
色々ネットに披露していきー、
チヤホヤとされて笑みを浮かべる日々ー。

早寝早起きを心がけー
食生活にも注意しー
この前失敗した”愛唯”とは、真逆の
健康的な生活を心がけたー。

だがー

「ーーえ…?」

少し前から嫌な予感はしていたー

しかしー
OLの身体も、その”嫌な予感”が的中したー。

急激に”中年のおばさん”のような肌、体形に変わっていきー、
みるみるとその若さが失われていくー

「ーなんで…!?なんで…!?!?なんでー!?」
OLの身体で鬼のような形相を浮かべる涼子ー。

だがー今度は愛唯の身体よりもさらに早くー
すっかり”老化”してしまいー、
涼子はそのOLの”皮”も脱いで、怒りの形相で
ビリビリにそれを破り捨てたー

「はぁ…はぁ…はぁー…
 何なのー……
 何でー…何で!」

涼子は、すぐに”次の獲物”を見つけて
”皮”にして、その相手を着たー。

がー、
状況は変わらず、同じことの繰り返しで、
何十人もの人間を乗っ取ったころには、
涼子はすっかり自信を無くしていたー。

「ー結局ー…誰の身体を支配しても、老いるのねー」

”他人”を着ているうちに、自分自身ー
涼子の家も既に、”涼子が失踪した”扱いになって
無くなってしまっておりー、
帰る場所も無くなってしまったー。

「ーーーー……わたし、何してるんだろー…」
一人、虚しさを覚えた涼子は空を見上げるー。

他人を支配したって、結局は老いるー

そして、誰を”着て”いようと、
中身の自分自身は、どんどん老いていくー

さらにはー
何十人も支配して、ようやくわかったー

一番老いていたのはー
”自分の身体”ではなく”自分の心”の方であるとー

何人目だっただろうかー。
真面目そうな女子大生を皮にして乗っ取った時に、
その子の友達から言われたのだー

”最近のあんた、何だかすっごく嫌な感じー”

とー。

”若い身体”を手に入れてもー
誰の身体を手に入れてもー
老いて、醜くなってしまった醜悪な自分は変えられないー。

だからー
皮にした人間の身体も、すぐに老いてしまうのかもしれないー

そんなことを思いながら
ついに涼子は決心したー

”老い”を受け入れることをー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」

覆面の男・ビショップが、背後から姿を現すー

「ーーー…もう、”人を着ない”のか?」
ビショップの言葉に、涼子は「ええ…」と呟くー

「色々な人を皮にして、ようやく気付いたのー。
 老いたのはー”心”のほうだったってー

 ”老いを受け入れられないー”
 いいえ、”受け入れようとしなかった”
 わたしが間違っていたのだって」

涼子が言うと、
ビショップは「ほぅ」と、頷くー。

「ーーー……あなたのおかげでー
 わたしは今までの過ちに気付くことができたー」

涼子はそれだけ言うと、
光る手を、ビショップの方に向けながら
「ーもう、この力は必要ありませんー
 わたしは、老いを受け入れてー
 老いても、心は美しい女性を目指してー
 生きて行こうと思いますー」
と、穏やかな笑みを浮かべながら呟いたー

「ーーーー……」
ビショップは、しばらく涼子を見つめてからー
「ーそれに気付けただけでも立派だー」
と、呟くと、「では、力を返してもらおうー」と、
涼子の手の方に、自分の手を向けてー
”力”を吸収したー。

「ーーーこうして、自分の老いを受け入れられずに
 醜い醜態を晒していた一人の女性はー
 老いを受け入れ、前向きに生きていくことを決意したーーー

 めでたし、めでたしー」

ビショップはそこまで言うとー
低い声で続けたー

「ーーなんて、言うとでも思ったか?」

その言葉に、涼子は「えっ!?」と声を上げるー

「ークククー
 何、勝手にハッピーエンドっぽく締めくくろうとしてるんだ?」

ビショップの言葉に、
涼子は「え…、で、でもわたしは、この力のおかげで、
大事なことに気付くことができて、前向きにー」と、反論するー。

しかしー、
ビショップは覆面から覗く鋭い目で、涼子を睨みながら言ったー

「ーお前は何人の人間を皮にしてー
 そして、殺してきたー?」

ビショップの言葉に、涼子は表情を歪めるー

”着終えた皮”は全部処分したー

ある者は切り刻みー
ある者はトイレに流しー、
またある者はそのままゴミ袋に入れたー

「ーーそ、それはーーー…」
涼子が必死に言い訳を考えようとしているとー
覆面の男、ビショップは涼子に光る手をかざしてー
言葉を呟いたー

「ー人間の欲望は美しくー、そして、醜いー」
とー。

「な……何なの……アンターーー」
全身から力が抜けていくのを感じながら涼子は
必死に言葉を振り絞ったー

「ーー人間の欲望を弄びー、
 人間の欲望を糧にする者ー」

覆面の男の言葉の意味は分からなかったー。

だがーーー
涼子は”皮”にされて初めて気づいたー

”えー……”

涼子は、恐怖を感じると共にー
諦めの感情も覚えたー。

”自分がしたように”
覆面の男が、涼子の”皮”をハサミで切断していくー

痛みもなかったー
ただ、身体が粉々にされていくのをー
”痛みなし”で感じるだけー

”あぁーーー
 
 今までわたしが、こうした人たちもみんなーーー

 意識は、あったんだー”

涼子は、そんな風に思いながら
薄れゆく意識の中、
自分の醜い心を、静かに呪い続けたー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

バッドエンドな結末でした~!

皮モノはどうしても(私の作品では)
バッドエンドになることが多いので、
いつかハッピーエンドの皮モノも
書いてみたいですネ~!
(次がそうとは言ってません~笑)

お読み下さりありがとうございました!

コメント

  1. ムッシュ より:

    涼子は殺人には最後まで罪悪感を感じてないですね。
    家庭を持つ事につながらない1ヶ月間恋愛ごっこに飽きただけ。
    もっと怖いルートを考えました。
    涼子が高齢出産をする、あるいは親戚の娘を誘拐して自分の子にする。
    子供にも他人の子の皮をかぶせ育てる。
    成人した子がビショップと契約して同じ事を繰り返す。
    いかがですか?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      ひぇぇ…
      恐怖の連鎖が始まる結末ですネ~!
      それはそれで面白そうデス~!