<皮>いつまでも若いままで①~若さへの執着~

”いつまでも若いままでいたい”

若さに飢えた女は、
ある日、”その夢を叶えるための力”を手に入れるー。

力を手に入れた女は、若い女を”皮”にして、
その姿を奪い始めるー。

しかしー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー……はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…
 なんでー」

彼女は”老い”というものを
受け入れることができなかったー

人は誰もがいずれは老い、
いずれか屍となり果てるー。

どんなに美人でも、
どんなに容姿に恵まれなかった人間でも、
この運命から、逃れることはできないー。

人はいずれ老い、
等しく、その輝きを失っていくー。

それが、運命(さだめ)であり、
人間が逃れることのできない宿命ー。

しかし、いつの時代にもその宿命に抗おうとする者がいるー。

不老不死の薬を求めるものもー
何とか自分の若さを維持しようと夢見るものもー、
色々な人間がそこにはいるー。

彼女ー
40代中盤の、白坂 涼子(しろさか りょうこ)も、
その一人ー。

「ーーー……うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…」
髪がボサボサになるまで髪を掻きむしり、
鏡を睨みつける涼子ー。

小さい頃からー
可愛い、可愛い、可愛いと言われ続けて来た涼子ー。

確かに、涼子は可愛かったー

小学生時代もー
中学生時代もー
高校生時代もー
大学生時代もー

周囲と比べてもトップクラスの美貌を誇っていたのは、
事実だろうー。

会社でもそうだったー。

だがー…
どんなに綺麗な花も、いずれは枯れるー。

彼女もまた、その美貌は衰え、
自分の老いをイヤでも受け入れなければいけない時が迫っていたー

いやー
”老い”を受け入れるべき時はもうとっくに過ぎていたー

「ーーなんで!!!なんで!!!なんで!!!!!」

自分の美貌に固執しー、
老いを受け入れることが出来ずー
会社の若い女たちに嫉妬して嫌がらせを繰り返すそんな日々ー

”男なんて、いくらでも捕まえられる”
そんな考えの元、高望みをずっと続けー
”自分がいつまでも20代のようにモテる”という感覚が抜けきらずー、
男を遊び感覚で振り続けた結果ー
現在も独身ー

結婚願望がないなら、それでもいいー。
しかし、彼女の場合は結婚願望が強くー
今では狂ったように婚活にお金を注ぎ込んでいたー

がー
”可愛かったころの自分”のプライドが抜けきらずに
高望みを繰り返し、
スペックでしか人を見ない彼女に相手が現れるはずもなくー
気付けば40代中盤ー。

もう、”ゴール”という名の出口の扉は
ほぼ閉まりかけているのも事実だったー

「ーーー悔しいかー?」

ーー!?!??!?

突然、声が聞こえて振り返った涼子ー。

そこには、謎の覆面の男が立っていたー。

口元を覆面で隠した、目つきの鋭い男ー。

「ーーな…何よ!一体どこから入ってー!?」
涼子の家に突然現れた覆面の男を前に、
困惑の声を上げる涼子ー

「ーーーーー痛々しいおばさんだな」
覆面の男の言葉に、
涼子は顔を真っ赤にして「な……なんですって!?」と、
声を上げるー

涼子からすれば自分はまだ”お姉さん”であり、
”おばさん”と呼ばれることは屈辱極まりないことだったー

「ー46歳 白坂涼子ー。
 己の老いを受け入れることが出来ず
 会社でもプライベートでも、孤立している哀れなる女ー」

覆面の男の言葉に、涼子は怒りの形相で反論するー

「ー綺麗でありたいって願って何が悪いの!」
とー。

「ーそれは別に否定しないー。
 だが、貴様は会社で若い連中に嫉妬し、嫌がらせ行為を繰り返しー
 結婚した友達に”せいぜい離婚しないように気を付けてね”などと
 嫌味を言いー、
 さらにはネットで、若い女のアカウントに粘着しているー

 …これのどこが、悪くないと言うのだ?」

覆面の男の言葉に、涼子は何も反論できず、歯ぎしりをするー

「ーつ、つ、通報するわよ!」
涼子がそう叫ぶと、
覆面の男は”無駄だ”とだけ呟きながらー
「ーー俺は別に貴様と争いに来たわけではない」と、
首を横に振ったー

「ー貴様が望むのであればー
 ”いつまでも若いまま”でいられる”力”を渡そうー」

その言葉に、「ーど、どういうこと!?若返ることができるの!?」と、
鬼のような形相で迫って来る涼子ー

「ーークククー…
 通報はしないのか?」

覆面の男が笑いながらそう言うと、

「いつまでも若いままでいられる力のこと、教えなさい!」
と、涼子が叫ぶー。

”醜いなー”
覆面の男は、涼子の目を見つめながらそう呟くー。

だが、それは表に出さずに、
言葉を続けたー

「”人を皮にする力”ー」
覆面の男はそう言うと、指を鳴らし、涼子の部屋の
テレビに映像を映し出したー

そこには、男が女を”皮”にして、
ペラペラになった女を”着て”、
完全にその人物に成り代わった姿が
映し出されているー。

「ーーーこ、これはー」
涼子の言葉に、
「まぁ、簡単に言えばー」
と、覆面の男が続けるー

「他の人間を”洋服”のような状態にして
 ”着る”ことができるーってことだー。

 ただ着るだけじゃないー
 一度着れば、声も、感覚も何もかも
 その相手のものを味わうことができるー。

 皮にした人間、そのものになることができるのだー」

覆面の男はそれだけ言うと、
「貴様が望むならーこの力を、貴様に授けようー」

と、”禍々しい紫色の球体”のようなものを差し出すー。

「ーーーー…」
ゴクリ、と唾を飲み込む涼子ー。

だが、涼子の答えは決まっていたー。

「ーーー…最高よー…
 これこそ、わたしが求めていた”化粧品”だわ!」

嬉しそうに涼子は、覆面の男の球体を手にすると、
その球体が、涼子の中に吸い込まれていきー
涼子は目を紫色に一瞬光らせたー

「ーーすごいー
 力がみなぎってくるようー」

涼子が笑みを浮かべながら、自分の手を見つめると
「ーところで、あんたは誰なの?」と、
覆面の男に確認するー

「ーー俺は闇.netの”ビショップ”ー
 まぁ、俺のことなどどうでもいいー

 白坂涼子ー、その力でお前の望む美貌を手に入れてみせろー」

覆面の男、ビショップはそう呟くと、そのまま姿を消したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「ーー先輩…話って…何でしょうか?」

会社のオフィスで20代の後輩、美彩(みさ)を呼び出した
涼子は笑みを浮かべながら言い放ったー

「ーあんた、わたしのこと、陰で馬鹿にしてるの
 知ってるのよ」

涼子は腕組みをしながら言うー。

ーー…実際には、美彩をはじめ、後輩の女性社員は
ほとんどが涼子のことを嫌っているー

涼子の言うような”陰で馬鹿にしている”というよりかは
涼子の日頃の振る舞いが原因で”後輩たちからは嫌われている”と
いうのが実情だー。

美彩をはじめ、全ての職場の人間が、
涼子に良い感情は抱いていないー。

「ーーー…そ、そんなことーありません」
美彩が、困惑しながらそう言うと、
涼子は美彩のポニーテールを乱暴に引っ張りながら
言い放ったー

「ー若いからって男からチヤホヤされて
 調子に乗ってるんじゃないわよー
 このクソ女ー」

涼子の言葉に、美彩は「やめてください!」と
怯えたような表情を浮かべるー

これはー
涼子が”力”を手に入れたからではないー
”いつもの”涼子の振る舞いだー。

涼子は、若い女性社員には特に厳しくー
”容姿に恵まれた子”には、さらに厳しいー

パワハラで訴えられれば即、クビが飛ぶレベルの
嫌がらせを繰り返しているー。

「ーーーーそうだー決めたわ」
涼子は笑みを浮かべながら呟くー

「ーーえ…」
怯えた表情のままの美彩が、涼子のほうを見つめるとー
涼子はニヤリと笑ったー。

「わたしの”洋服”第1弾は、あんたに決めたー」
とー。

「よ、洋服ー?」
怯える美彩に対して、涼子は右手を紫色に光らせるとー
その手で美彩の後頭部を掴んでー
そのままさらに力を込めたー

「ひっ…え…  ぁ…??? あぁぁあああっ…」

まるで空気が抜けるかのように、
美彩の身体がしぼんでいくー。

すぐに”脱ぎ捨てられた服”のように
ペラペラになった美彩を見て、
涼子は笑みを浮かべながら、早速美彩を着こなしたー

「ーー早退しま~す♡」
美彩になった涼子はそれだけ言うと
スキップしながら、会社の外へと出て行くー

「あぁぁぁ…分かっていいわぁ…」
駅前のビルの女子トイレに駆け込むと
美彩は満足そうに自分の唇に触れてからー
そのまま嬉しそうに化粧を始めたー。

夜の街ー
派手すぎるほどにおしゃれな格好をした美彩が
嬉しそうに町を歩きながら
手当たり次第に男に声を掛けているー

やがてー
美彩の誘惑に乗った男と共に、
美彩はラブホテルの中へと足を進めていくのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・

連日、遊びまくる美彩ー。

すぐに美彩の貯金は底をつき、
生活は破滅的な状況に追いやられていたー

「ーーは~~~…若いって最高ー
 遊びすぎちゃった♡」

すっかり別人のようにー
まるで、夜の街で働いている女性からのように
キラキラした風貌になってしまった美彩は、
笑みを浮かべると、
自分の生活が破綻することもお構いなしに、
夜の街で夜遊びを繰り返すー。

そんな日々を繰り返したある日ー、
電車内で美彩は、女子高生を見かけて笑みを浮かべるー

”ーーーこいつより、もっと綺麗ー…”

若さに飢えている涼子は、
美彩の身体よりも、その女子高生の身体の方の方が
もっと”綺麗”で”若い”と、笑みを浮かべながら、
”次”のターゲットに狙いを定めるー

「ーーーー」
少女を尾行する美彩ー。

「ーふふふーーこの力があれば、いつまでも
 若いままでいられるー」

ニヤニヤしながら、美彩は
その少女が友達と別れるのをじっと待つー。

尾行しているうちに、
その子の名前が、麻耶(まや)であることを知る美彩ー。

そしてーー
ついに、麻耶が友達と別れて、一人で歩き出したー。

ニヤッと笑みを浮かべー
背後から声を掛ける美彩ー

「ーーえ…?わたし、ですか?」

”そこのあなた!”と声を掛けられた麻耶が
困惑した表情で美彩を見つめるー

声を掛けて来たのがー
知らないおじさんだったりー、
欲望がにじみ出ている中年のおばさん…涼子本来の姿だったりすればー、
麻耶は警戒したかもしれないー

しかしー
若くて綺麗な美彩に声を掛けられた麻耶は
あまり警戒せずに、美彩の話を聞いてしまうー

ニヤニヤしながら近づく美彩ー。

「ーわたしーー”あなたの若さ”が欲しいのー」
美彩の言葉に、麻耶は「えっ!?」と困惑の表情を浮かべるー

その直後ー
手を紫色に光らせてー
”麻耶”の後頭部を強引に掴むとー
そのまま地面に押しつぶすような形で、
麻耶を容赦なく”皮”にしたー

「ふ~~~~~」
獣のような笑みを浮かべながら、美彩は”皮にした麻耶”をそのまま
折りたたんで自分のバッグに押し込むと、
その場から姿を消したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

駅前の商業施設のトイレに駆け込んだ美彩は
麻耶の皮を取り出しー
美彩の皮を脱ぎ捨てるー。

そしてー
トイレの個室の中で麻耶の皮を着こむー

美彩の身体よりも、さらに若い麻耶の身体ー。

その綺麗な手をー
若い手を見つめると、
嬉しそうに笑みを浮かべたー

「ーふふふふ…若いって…最高…」
ペロペロとその若い手を舐め始める麻耶ー

「ーー…はぁぁ…この子の身体も喜んでるわ…」
そんなことを呟きながら、脱ぎ捨てた美彩の”皮”を見つめるー。

「そういえば、元に戻す方法は聞いてなかったわねー」
麻耶は、そんな風に呟くと、
「ーまぁ…使い終えた洋服は捨てるものだしー…
 問題ないわ」
と、女子高生には不釣り合いな笑みを浮かべて、
クスクスと笑うー

美彩の皮を鞄に入れて持ち帰りー、
女子高生・麻耶の皮を着たまま、
涼子は涼子自身の家に帰宅したー

しばらくうっとりと鏡を見つめたあとにー
女子高生には似合わない少し年齢を感じさせる服を
身に着けると、
「この力があれば、わたしはいつまでも若いままー」と、
満足そうに笑みを浮かべたー。

そしてーー
そんな彼女の背後にある”ゴミ箱”には
ハサミで切り刻まれた会社の後輩・美彩の”皮”が
捨てられれていたー

”この力があれば、わたしは永遠に若いままでいることができるー”
麻耶を”着た”涼子は満足そうに、麻耶の身体のまま笑みを浮かべたー

しかしー
涼子はまだ、知らないー。
この先ー、自分に待ち受けている運命をー。

②へ続く

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コメント

前に書いた「永遠の美貌」という皮モノと
少し似てる部分(若さを求めるあたり…)がありますが
迎える結末も、その過程も異なるので、
どんな結末が待っているのか、ぜひ楽しみにしていてくださいネ~!

続きはまた明日デス~!

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