子供嫌いの男が、
不登校の少女に変身して、
潜入調査…。
潜入捜査を取り巻く真相とは…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーあ、急に呼び出してごめんねー」
担任の山西 梨々花に呼び出された
春菜姿の剛志は「うん…」と、子供っぽい返事をすると、
山西先生は「ーー学校、辛くない?」と心配そうに
春菜姿の剛志に対して聞いてくるー。
「ーーえ…?あ、う、うんー…だ、大丈夫ー」
小学校低学年の子供が先生に正しい敬語など
使わないだろうと、剛志は程よく、そんな風に返事をしていくー
昨日ー
芝原という男子児童が同じように山西先生に呼び出されているー。
その時、部屋の外から様子を伺っていた際に”パチッ!”というビンタをするような
音が聞こえたー
釘宮班長によれば、山西先生は”薔薇の悪女”の異名を持ち、
子供たちに”何らかの悪事”を行っているのだというー
未だにその”悪事”が何なのか分からないし、
ここ数日間、春菜として山西先生の様子を伺っているものの
今のところ”優しい先生”としか思えないー。
だがー
今日ー、この場で山西先生が本性を見せるのであればー
”決定的な証拠”を掴むことができるし
今回の潜入ミッションは成功だー
「ーーーー」
山西先生が、一瞬だけ鋭い目つきを浮かべたー
「ーー!!!!」
そういえばー
初日も”山西先生が”一瞬、鋭い目つきで何かを見ていた気がするー
”やっぱり、この女ー”
そんな風に思っていると、
「ーー何か悩み事があったら、いつもで聞くからねー」
と、山西先生が優しく呟いたー
「ーあ!また!」
その時だったー
山西先生がそう呟くと、ぱちっ!と手を叩いてー
応接室に飛び回っていた蚊を叩き潰したー
「ーあ、ごめんね!蚊が多い季節で困っちゃう」
微笑む山西先生ー。
「ーー!」
その光景を見て、”昨日”応接室の中から聞こえて来たぱちっ、という音は
男子児童をビンタした音ではなく”蚊を潰した音だったのではないか”と、
春菜姿の剛志は、ハッとしながら考えたー
結局、山西先生は何もしてくることなく、
そのまま応接室を後にしたー
「ーーー…んだよ……俺にまだガキをやれってのかー」
全然ボロを出す気配がないー。
もしも本当にあの女が”薔薇の悪女”とか言われるような悪事を
裏でしているのなら、大したものだー。
「ーーあ~~!春菜ちゃん!あそぼ~!」
そんな声が響き渡りー、
春菜姿の剛志はため息をついたー。
近付いてきたクラスメイトが春菜姿の剛志のほうを見て
「かくれんぼしよっ!」と言ってきたー。
”面倒くせぇ…”
そう思いながらも、これも仕事だから、と諦めムードで
その少女の後をついていき、何十年ぶりー…レベルに久しぶりな
”かくれんぼ”を楽しむ羽目になってしまったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー」
学校が終わるー。
春菜姿の剛志は、今日も後輩の捜査官・鹿島の迎えで
本部に戻ると、本部で釘宮班長に状況を説明したー
「ー班長ーホントに、山西とかいう教師ー
悪い女なんですかねー
そういう気配を感じないんですけどね」
春菜姿の剛志がソファーに腰掛けながらそう呟くー
「ー…まぁ、情報は確実なんだがー
”もうちょっと”調べてくれー。
あと少しで、”ボロ”が出るはずだからー」
釘宮班長の言葉に、春菜姿の剛志は
少しだけ表情を歪めるー
「ーホントに”山西先生”が狙いなんですかね?」
その言葉に、釘宮班長が、春菜姿の剛志を見返すー。
「ーーーーー」
「ーーーーーー」
だが、釘宮班長は首を横に振ったー
「ーははははー…
子供嫌いのお前が苛立つのも分かるー
でも”もうすぐ”ボロを出すはずだからー
ーーーとにかく、気をつけろよー」
釘宮班長がそう言うと、春菜姿の剛志は
困惑しながら煙草を取り出したー
「ーー変身してるだけとは言え、その姿で吸うのは感心しないな」
釘宮班長が笑いながら言うと、
「鹿島のやつにも、同じようなこと、言われましたよ」と、
春菜姿の剛志は笑いながら答えたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
”山西先生”の調査を続けるもー
やはり、特におかしな部分はないー
”本当に、この女、ボロなんて出すのか?”
体育の授業の最中も
ドッジボールをしながら、山西先生の動向の把握は忘れないー
「ーーあの女ー…」
ジャージ姿の山西先生を見て、
少し春菜姿の剛志は違和感を感じるー
華奢な感じではあるがー
身体が鍛えられているようなー
そんな感じがするー
そうー
その気になれば、結構動けそうなーそんな風に見えるー
一般人には分からないだろうがー
”捜査官”特有の勘ー、とでも言えば良いのだろうかー。
山西先生からは
”何か違和感をー”
そんなことを考えているうちに、
無意識に圧倒的な身のこなしで
ドッジボールで大活躍してしまった春菜姿の剛志ー
”やべっ”
周囲から拍手が巻き起こる中ー
気付けば相手は残り一人になっていたー
”あ、例のバイ菌いじめの男子ー”
相手がその男子だと確認した
春菜姿の剛志は大人気もなく、少し邪悪な笑みを浮かべたー
”クソガキめーお仕置きの時間だ”
そう心の中で呟くと、圧倒的な身のこなしで、
ばい菌いじめの男子のボールを避けると、
そのまま反撃のボールを、その男子に向かって思いきり投げつけたー
「ひっ!?!?」
想像以上に強い力で投げつけられたボールに
ばい菌いじめ男子は、悲鳴を上げて、情けなく尻餅をついて、
その場でガタガタと震える醜態を晒したー
(へっ…大人気ないけどー…まぁ、これで少しは懲りただろー)
そんな風に思いながら
「いけね」と、山西先生のほうを確認するもー
山西先生は特に反応を示した様子はなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”そろそろボロを出すはず”
釘宮班長のあの言葉は、何を意味しているのだろうかー。
そんなことを思いながら
今日も学校での1日を終えて、正門を潜り抜けるー。
「さようならー」
正門で校長先生と挨拶を交わし、
迎えの捜査官が来るいつもの合流ポイントに向かうため
裏路地に入ったその時だったー
「ーーー!!!!!」
突然、背後から腕を掴まれた春菜姿の剛志は咄嗟に振り返るー。
すると、そこには覆面を被った男の姿がー
「ーーーくそっ!なんだこいつ!」
春菜姿の剛志は赤いランドセルをその男に投げつけると、
迎えの車がある方向に逃げようとしたー
だがー”春菜の姿”では逃げ切れるはずもなくー
覆面の男に追いつかれてしまうー。
ランドセルがすぐ側に転がる中ー、
路上に押し倒された春菜姿の剛志は「ひっ!?」と声を上げるー
”大人の男”に力づくでこんなことをされる恐怖ー
「ーー…」
男は何も喋らず、春菜姿の剛志を襲おうとするー
”ーーチッ…身体は非力だけどよー…
特殊捜査官を舐めんなよ!”
心の中で春菜姿の剛志はそう叫ぶと、
地面の石ころをその男に投げつけー
さらには、ランドセルのハサミを取り出して、
足にそれを突き立てたー
「うぐぁっ!」
男が悲鳴を上げて逃げていくー
「待てっ!」
そう叫んだもののー、春菜の姿では追い付くことが出来ずー…
そのまま男を取り逃がしてしまったー
「ーーー……」
春菜姿の剛志は、ランドセルを拾い、身なりを整えてからー
迎えの車が来ている方向に向かうー。
「ーーお帰りなさい 遅かったすね」
後輩の鹿島が車の中でそう呟くー
「ーーあぁーここに来るまでに襲われたからなー」
春菜姿の剛志がそう呟くと、鹿島は「えぇ?」と、声を上げたー
しかしー
春菜姿の剛志は続けたー
「ー”お前に”襲われたからなー」
とー
「ーーーえ…??」
後輩の鹿島が笑みを浮かべながら首を傾げるー。
「ーーな、何言ってるんすか先輩~!冗談きついっすよ~」
後輩の鹿島は咄嗟に否定するー。
だがー
春菜姿の剛志は淡々と言い放ったー
「なら、”足”を見せてみろ」
覆面の男はー
後輩の鹿島だった気がするー
いやー、間違いないー。
逃走後に、春菜姿の剛志よりも先に車に戻り
何食わぬ顔で、剛志を迎えているのだー。
「さっき、ハサミで刺した足を見せて見ろ!」
そう叫ぶと、鹿島が突然車のアクセルを踏み、車を急発進させたー
がーーー
すぐに、目の前に別の捜査官の車が道を阻むように現れてー
驚いた鹿島は観念した様子でうなだれたー。
鹿島の車を取り囲んだ数台の車から、
釘宮班長や、他の捜査官が出て来るー。
鹿島はすぐに取り押さえられて
後部座席に乗っている春菜姿の剛志を見て
釘宮班長は言ったー
「ご苦労だったなー」
とー。
「ーーこれは一体ー?」
春菜姿の剛志が困惑していると、
「ー本部に戻ったら説明する」と、釘宮班長は言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
春菜姿の剛志が釘宮班長の前で話を聞くー
「ー実はー今回の潜入調査は
実際には”囮調査”ー。
少女に変身したお前で、鹿島の本性を暴き出し、
確保するのが目的だったー」
釘宮班長はそう説明したー
少し前から、少女が不審者に声を掛けられる事案が複数発生しており、
釘宮班長の指示で、別の剛志とは別の捜査官が調査していたところ、
”どうも捜査班の中に犯人がいるかもしれない”という
調査結果が出たー。
担当の捜査官も”鹿島”を疑っていたものの、
鹿島も特殊捜査班の一員ー…
”どうすればバレないか”を熟知しているのか、
”決して決定的な証拠”を残されなかったー
そこで、釘宮班長は”鹿島”を釣ることにしたー。
”欲望に溺れて何度も不審な行動を繰り返す人間”は
”その近くに欲望の種”を置いておけば必ず我慢できなくなり、行動を起こすー。
今まで不審者に声を掛けられた少女らの傾向から、
釘宮班長は、”鹿島”が釣れそうな少女ー…
”春菜”に剛志を変身させたー
しかし、鹿島も特殊捜査班の一員であるために、
鹿島を欺く必要があったー。
そのためー
”小学校への潜入捜査のために、春菜という少女に変身して
剛志が捜査をしている”
という風を装い、鹿島が行動を起こすまで待ったー
そして今日、ついに鹿島が欲望に負けて春菜姿の剛志を襲いー、
それが決定的な証拠となり、逮捕されたのだったー。
「ー…つまり、学校への潜入は、特に意味がなかったとー?」
春菜姿の剛志が言うと、
釘宮班長はー「あぁ…鹿島を釣り出すためのー…カモフラージュみたいなやつだ」と、
少し申し訳なさそうに呟いたー
「じ、じゃあ、あの山西って先生は?!”薔薇の悪女”はー?」
春菜姿の剛志がそう叫ぶと、
釘宮班長は「あの人はー教員免許を持っている潜入捜査官で
普段は教師として働きながら学校で情報収集している人だー」と、
山西先生について説明したー
春菜姿の剛志は表情を歪めるー
どうりで、どんなに調べても山西先生が悪いことをしている様子も
なかったわけだー、と心の中で呟くー
ついでにー時々鋭い視線を送っているように見えたのは
”潜入捜査官特有の視線”だったのだろうー。
「ー教育委員会から依頼なんて来てないし、
薔薇の悪女って肩書は適当に私が考えた肩書だー」
釘宮班長が少し笑いながらそう呟くー。
「ーーー……おかしいと思ったんですよ班長!
なんで女の子に変身して潜入するのが、俺なのか、
ずっと疑問に思ってたんですよ!」
春菜姿の剛志が釘宮班長に向かって呆れ顔で言うー。
少女に変身して潜入調査をするだけなら、
女性捜査官の方が適任のはずだし、
剛志が潜入するならー…
まぁ、春菜以外に不登校の子がいなかったのかもしれないが
男の子に変身した方がやりやすいー。
「ーーー鹿島に襲われた時、俺なら対応できると
思ったんですね?」
春菜姿の剛志がそう言うと、
釘宮班長は「ーーまぁ…そういうことだ」と、頷いたー。
女性捜査官が春菜姿で行動した場合ー
”釣られた鹿島”に襲われた際に対処できない可能性があったー
だから、特殊捜査班でトップクラスの戦闘能力を持つ
剛志が適任だったのだー
「ーはぁ~あ…だから鹿島のやつ、
俺がこの姿になってからやたらと話しかけてきてたのかー」
春菜姿の剛志はそこまで呟くと、
釘宮班長は「まぁ、ご苦労だったなー。これで君も
大人に戻れる」と笑みを浮かべたー
「そ、そうだよ!
っていうか、早く戻らせて下さいよ!」
春菜姿の剛志がそう突っ込むと、
釘宮班長は「面白いから、明日までその姿でいるか?」と冗談を
笑いながら口にするー
「ーふ、ふざけんなー!
班長も鹿島と一緒に逮捕しますよ!?」
春菜姿の剛志は、嫌いな子供の姿から早く大人に戻りたい一心で
そう叫んだー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
子供に変身して捜査するお話でした~★
変身した捜査官は仕事に徹するタイプのプロ(?)なので、
最後まで下心が芽生えることはありませんでした…!
ちなみに、
何回か出てきていた校長先生を
怪しく思った人もいるかもですが、
校長先生はただのおじさんで何の関係もありません~★
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
「変身おじさん」の続編(カメレオンのその後、次に変身能力を得る人の話)か、前日譚(仲良し夫婦崩壊、エロ病棟、裏の仕事)が読みたいです。
ムッシュ様~!コメントありがとうございます~!☆
すぐには難しいかもしれませんが
前向きに考えてみます~~!!