<他者変身>変身キッズ①~子供嫌いの男が子供に変身~

とある学校の教師の”不正”を暴くため、
不登校の児童に変身して”潜入調査”を行うことになった男ー

だが、彼は大の子供嫌いだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「俺が、小学校に潜入調査ー?」

煙草を吸いながらがさつそうな男が
驚きの声を上げるー。

「ーあぁ。我が特殊対策班の中でも
 潜入調査の能力は、君が最も優れているからなー」

警察内に組織された特殊対策班の班長・釘宮(くぎみや)が、
そう呟くと、
「いや、何で小学校ー?」
と、がさつそうな風貌の捜査官・松島 剛志(まつしま つよし)が、
嫌そうに言葉を口にするー

「ーーー」
その言葉、釘宮班長は1枚の写真を机から取り出すー。

そこには、笑顔が可愛い優しそうな若い女性が写っていたー

「ーーん?綺麗な人ですねー
 誰ですかこれはー?
 まさか班長の奥さん?」

剛志がふざけた口調でそう言うと、
釘宮班長は「ー私の妻は、サキュバスと犬と猫を足して2で割ったような感じだよ」
と、意味不明な例えをしながら笑ったー

「ーーーーーーー」
剛志は頭の中でサキュバスと犬と猫を足して2で割ってみるー。

「ーー化け物じゃないすか、それ」
剛志がそう言うと、釘宮班長は「ははは」と笑うと、
「まぁ、私の妻の話はいいんだー」と、写真の美人を指さしたー

「1年3組の担任、山西 梨々花(やまにし りりか)先生」
釘宮班長の言葉に、
剛志は「その山西先生がどうかしたんですか?」と、
煙草を灰皿に押し付けながら呟くー。

「ーーあぁ、彼女は”薔薇の悪女”と呼ばれていてなー
 見た目はこの通り、優しそうなんだが
 裏で子供たちを相手に問題行為を繰り返しているんだー」

釘宮班長のその言葉に、
「ーそこまで分かってるならー、捕まえりゃいいじゃないですか」と、
剛志は反論するー

「いやー…
 この女、”子供以外の前で絶対にボロを出さない”んだー。
 とある情報筋から、この女が悪さをしてるのは間違いないんだがー
 ”大人”の前では絶対にそれを見せようとしないー」

釘宮班長はそこまで言うと、
「ーそこで”いつもの”君の潜入調査が必要になるー」
と、ようやく本題を口にしたー

「ーつまり、子供の前でしか悪さをしないその山西先生の悪事を
 突き止めるために、
 俺がガキに変身して、1年3組に潜り込めとー
 そういうことですか?」

「そうだー」

釘宮班長が頷くー。

剛志の所属する特殊捜査班では、特殊な技術で
”他人に変身する”ことができる装置の開発に成功しており、
剛志ら潜入捜査官は、
これまでにも数多くの潜入調査をクリアしてきたー。

「ーーいやだよー冗談じゃないー」
剛志は、突然両手を広げながら
上司である釘宮班長にそう言い放ったー

「ーー班長ー
 俺がガキ嫌いって知ってますよねー?」

「ーあぁ」
釘宮班長は頷くー。

「ー俺が生涯独身を宣言してる理由ー
 ガキを作りたくないからって知ってますよねー?」

「ーあぁ」

なおも釘宮班長は頷くー。

「なら、他にいくらでも適任者はいるー」

そうー、
彼はー…
剛志は”大の子供嫌い”だったー

「ーその俺がー なんですか? え?
 いちねんさんくみ???
 冗談じゃないー
 今回は他の人にー」

半笑いしながら剛志がそう言うと、
「ー我が班のエースは君だろうー?
 君が一番、頼りになるんだー。

 それにー、残念だが、もう上に話は通してしまったー」
と釘宮班長は笑ったー

「ーあぁ、くそっ!やっぱり!」
剛志はそれだけ言うと、観念した様子で
「ーあぁもう分かりましたよ」と、何度か頷くと
「ーその薔薇の悪女だか何だか知りませんけど
 子供たちに悪さをしている先生の証拠を掴めばいいんですね?」と
確認の言葉を投げかけたー。

「ーうむー
 で、君が潜入調査のために変身する相手だがー
 ちょうど、1年3組に不登校の子がいてなー」

「ー1年生で不登校ーそりゃまた早いー」
剛志はそれだけ言うと、
その子の写真を確認するー

岡村 春菜(おかむら はるな)ー
大人しそうな小柄な少女だー。

「ーつまり、俺にこのガキー
 春菜ちゃんになって、1年3組に潜り込めって言うんですね」

剛志がうんざりした表情で頷くとー
釘宮班長は「ー潜入捜査中は、この本部で寝泊りしていいー」と、
いつも潜入捜査官が使う部屋を指さしたー

”変身した姿”で家に帰ると、色々と日常生活にも
支障が出て来るしー
”短期間で変身・解除を繰り返す”と、
身体に強い負担がかかってしまうため、
基本的に潜入捜査官たちは、
緊急時を除き、潜入捜査が始まったら、終了するまで
相手の姿で行動することが多いー。

「ーーーはいはいー
 ガキの身体で何ていたくないのでー
 1日でその山西梨々花先生の悪事の現場を
 突き止めてやりますよ」

剛志がそう言うと、釘宮班長は「それは頼もしいな」と
満足そうに頷いて見せたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の夜ー…
事前に話を通してある不登校の少女・春菜の元を
他の捜査官と共に訪れるとー
春菜を”スキャン”して、
その姿に変身する準備を終えたー。

特殊な装置で、本人の姿をスキャンしー
その装置を変身したい人間が照射すると、
その姿に変身できるー

姿・身体・声ー
何もかもが、その本人になるー。

スキャンした姿は一度変身すると、装置からなくなるため、
もしも一度変身を解除した場合は
再び変身したい相手を直接スキャンしにいかなくてはならないー。

つまり、剛志が春菜に変身したあとに、変身を解除した場合、
もう一度春菜本人がいるこの家にやってきてスキャンしなくてはならないのだー。

「ー以上で終了ですー
 ご協力、ありがとうございましたー」

剛志がスキャンを終えて、春菜の両親に頭を下げると、
そのまま仲間と共に本部へと戻っていくー

「へへへー松島先輩、明日から女の子になるんすねぇ」
後輩の捜査官・鹿島(かしま)が笑うー。

鹿島は軽い性格だが、捜査官としての能力は高いー

「ーーお前…随分楽しそうだな鹿島ー」
それだけ言うと、剛志は「安心しろー。1日で終わらせる」と
強い決意を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

前日に春菜の姿をスキャンした小型のスキャナーのようなものを
自分の方に向けるー

「ーあ~~あ~~ その潜入調査、俺がやりたかったっす」
鹿島がそう言うと、釘宮班長は
「今回の潜入調査は、女に興味がない松島君が適任だからなー」と、頷くー

「ーおいー聞こえてますよ」
剛志がそう言うと、「まぁー…確かに鹿島が1年3組に行ったら大変そうだからなぁ」と、
鹿島のほうを見て呟いたー。

「まぁいいやー…とっとと終わらせます」
それだけ言うと、剛志は自分に向けたスキャナーのボタンを押しー
そのまま光を照射ー

背がみるみると縮んでいき、
やがてー
小さな少女の姿になったー。

ツインテールの可愛らしい少女ー

スーツ姿のまま春菜の姿に変身したため、
そのスーツがぶかぶかの状態になってしまうー。

「ーー…っっ」
春菜に変身した剛志が恥ずかしそうにしていると、
ニヤニヤしながら後輩の鹿島が近づいてきたー

「ーお~かわいいでちゅね~!よちよち!」
ふざけて頭を撫でる鹿島ー

「ーお前、死ぬか?」
春菜の姿で剛志がそう言い放つと
「あひっ!?す、すみません!つい」と、鹿島は慌てて
釘宮班長の方に走っていくと、
そのまま釘宮班長の背中に隠れたー

「おいおいーなんだよ」
釘宮班長は笑いながらそう言うと、
真剣な表情に戻ってからー
「改めて任務を説明するー」と、今回の潜入調査の概要を
口にし始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今回の潜入捜査の目的はー
小学校教師・山西梨々花の悪事の証拠を掴むことー

表向きは優しくて気配りも出来て、真面目な若い女性教師・
山西梨々花ー。

しかし、裏では児童たちに数々の悪事を
働いているのだというー。

児童の前以外では、決してその本性を見せないという
非常に計算高い悪の女性教師・山西ー。

そんな彼女の悪事を突き止めるために、
剛志は、不登校の生徒・春菜に変身しー
春菜として、1年3組に潜り込んだのだー。

「ーーーー」

がやがやとする教室ー
子供特有の高い声が響き渡るー
教室を走り回る子供ー
ガン!と机にぶつかってくる子供ー

”あぁぁぁぁぁああああ…”
ツインテールの髪を押さえながら、
春菜に変身した剛志は頭を抱えたー

”クッソうるせええええええええええ”

子供嫌いの剛志からしてみれば
”1年3組の教室”は地獄だったー

思えば自分は子供の頃から子供嫌いだったー。

「ーーー……ーーくそっ!絶対1日で終わらせてやるー」
そんなことを呟いていると
「ー春菜ちゃんひさしぶり~!」と小柄な少女が
近付いてきたー。

「ーわたし、ず~っとね、春菜ちゃんのこと
 しんぱいしてたんだよ~」

その子がそう呟くと、
「ー春菜ちゃんが学校に来たらお手紙渡そうと思って~」
と、自分で書いたと思われる手紙を
春菜の方に差し出したー

”これからは、 また いっしょにあそぼうね”
と、その手紙には書かれていて、
手を繋いだ春菜とその子と思われる絵が
描かれているー

”いらねー”
子供嫌いの剛志は容赦なくそう思ったものの
「あ、あ、あ、ありがと~!」と、適当に春菜として
応対しておくと、
「ぜったい、あそぼうね!約束だよ!」と、
約束と言わんばかりに指切りを求めて来たー

「ーーー……く……く…」
”このガキな感じ、1日も耐えられるのか、俺ー?”

教室には、彼が嫌いな”子供”の世界が
広がっているー
春菜は何度も何度も「うあ~~~!」と叫びそうになってしまうのを
我慢しながらそのまま指切りを済ませると、
「ぜったい!やくそくだよ!」と、そのクラスメイトは
嬉しそうに呟いたー

”あ~~あ~~~あ~~寒気がするー鳥肌が立ってきた”

子供嫌いの剛志にとっては拷問のような時間ー。
春菜の姿のまま華奢な腕に鳥肌がブツブツと出てきているのを感じるー。

よりによって何で俺が一年三組なんかにー。
そんな風に思っているとー
チャイムが鳴りー
ようやく、山西先生が教室にやってきたー

とても綺麗な感じの女性ー。

穏やかな笑みを浮かべながら
「おあようございます」と児童たちに挨拶をするー。

児童たちも嬉しそうに返事をしていて、
一見すると、山西先生の振る舞いに、問題はないー

「ーー岡村さんー 久しぶりー」
山西先生が不登校だった春菜の登校に気付いて
微笑みながら手を振るー。

一瞬”お久しぶりです”と頭を下げそうになったが、
小学一年生がそんな振る舞いをするわけがない、と
すぐに思いとどまり、
頭を少し下げて頷くだけにしておいたー。

”あれが、薔薇の悪魔の異名を持つ先生かー”

そんな風に思いながら
注意深く山西先生の言動を観察する
春菜姿の剛志ー。

”こんなガキまみれの場所はいやだ”

そんな気持ちでいっぱいの剛志は
とにかく、今日1日で潜入捜査を終えようとしていたー

目的を達成したら
もう、1年3組には用はないー
とっとと、おさらばすることができるー

「ーーーーーーー」
一瞬、山西先生が鋭い目つきで
児童たちのほうを見つめたーー

そんな気がして、
春菜姿の剛志も一瞬身構えたー。

がー
すぐに山西先生は笑顔に戻り、
そのまま授業を再開するー。

「ーーーー…今のはー」
春菜姿の剛志は、
山西先生の不気味な気配に少し不安を感じながらも、
”さっさとアンタの悪事を暴いてやるよ”
と、心の中で呟きながら
引き続き山西先生のほうを見つめたー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

潜入調査のお話デス~!
これまでも潜入捜査がテーマのお話は何度か書いていますが
今回の潜入先は何と小学校デス…☆!

この先どうなっていくのかは、明日以降のお楽しみデス~!

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