<憑依>にんげんのこころ③~人の弱さ~(完)

”人間の本心”

それは本人以外には決して見ることのできない領域ー。

しかし、憑依能力を生まれつき持つ彼は、
”本心”に溺れ、そして、極度の人間不信に陥っていくー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”美鈴”に裏切られたー。
周平の人間不信は、あの日から極度にエスカレートしていたー。

誰とも親しくなろうとせず、
当たり障りのない話しかしないー。

あれから2週間が経過したが、
美鈴は未だに大学に顔を出していないー。

「ーそれもそうかー」
周平はそう思いながらスマホを見つめるー。

憑依している最中ー
美鈴の身体でエッチな自撮りを何枚も撮影して、
”自ら”ネットに投稿してやったー。

大学でも、その話題で持ちきりだー。

嬉しそうに乱れた姿のままポーズを取る美鈴や、
鏡にキスをしながらピースしている美鈴ー
過激なポーズを取る美鈴ー、
色々な美鈴の写真が、全世界に公開されてしまったのだー

しかも、弟にも突然襲い掛かり、家族関係にもヒビが
入っているに違いないー

「ーーまぁ、悪い女がどうなろうが、俺の知ったことじゃないけどな」
満足そうに周平はそう呟くと、
大学の一角で、仲良さそうにしているカップルを見つけると
”どうせ、心の中ではー”と思いながら試しに彼女の方に
憑依してみたー

”わたしが付き合ってやってるんだから、もっと優しくしてよー”

やっぱりなー、と周平は思うー
表面上はニコニコしながら、これだー。

すぐに憑依から抜け出しー、
女の方が正気を取り戻すと、
彼氏の方にも憑依したー

大人しそうで優しそうな男子だー。

しかしー

”ーー駆け引きとかいいから、さっさとヤラせてくれよ”

あ~~あ~あ~…
周平は呆れながら、そのまま彼氏から飛び出すー。

”付き合ってやってる女”と”ヤラせろ男”かー。
そんな風に思いながらそのカップルを少し離れた場所から
憐みの目で見つめると、
”人間なんて、クソしかいねぇな”と、
周平は心の中で呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから数か月が経過してー、
周平は実家に戻っていたー。

年末年始が訪れてー
実家に一時的に帰宅しているのだー。

どさくさに紛れて”両親”にも憑依してみるとー
”将来の介護はこいつに任せりゃいいからな”と、内心で考えている父親と、
”あ~離婚したい”と、内心で考えている母親の本心を
それぞれ確認したー。

どうせ介護を期待してるんだろ?
どうせ、仲良さそうにしておきながら父さんの愚痴を言ってるんだろ?
そんな風に思いながら憑依した周平ー。

それはやはり、その通りだったのだー。

そしてー
両親は年末最後の仕事とパートでそれぞれ出かけてー
妹の佳奈美と二人で過ごすことになった周平は、
相変わらず”表面上”は「お兄ちゃんいないとやっぱり寂しいよね~」と、
”お兄ちゃんが好きな妹”を演じている佳奈美のほうを見つめるー。

「ーははは、無理すんなってー」
美鈴の件ですっかり捻くれてしまった周平はそう呟いたー

「無理って?どういうことー?
 実家に帰って来てくれるの?」
違う意味に解釈されたのか、嬉しそうにそう言う佳奈美ー

「違うよー。俺のこと、死んでくれないかな、って思ってるだろ?」

今までー
相手に”憑依で覗いた本心”のことを指摘したことはなかったー。

だがー、つい、”どこまでも可愛い妹を演じる佳奈美”に腹を立てて
そんな指摘をしてしまったー。

「え…ど、どういうことー?」
佳奈美が表情を曇らせるー

「ーーははは、いいって、そういうのー
 俺のこと心臓発作で死んでほしいとか、思ってるだろ?」

周平が自虐的に笑いながらそう呟くー。

「ーえ…?な、何言ってるのー?
 わたし、そんなことー」

動揺した様子の佳奈美ー。

「ーいいよいいよ。別にー。」
不貞腐れた様子で周平が言うとー。
周平はその場で佳奈美に憑依してー。
佳奈美の”本心”を確認したー

”ーー何でバレたの!?訳わかんない!”
”今すぐ心臓発作起こして死ね!!!!”

さらに過激な佳奈美の本心ー

「ーーふざけんなよクソがー」
佳奈美の口でそう呟くとー
美鈴のように滅茶苦茶にしてやろうかとも思ったがー
佳奈美本人の”弁明”を聞かないと気が済まないと思いー、
そのまま憑依から一度解放したー。

そして、佳奈美の”弁明”を聞いたらー
美鈴のようにぶっ壊してやろうー、と、そう思いながらー

「ーー!」
正気を取り戻した佳奈美が、短時間だったためか、
特に違和感を感じることなくそのまま会話を続けるー。

「ーーお兄ちゃん!何を勘違いしてるか知らないけど、
 わたし、そんなこと思ってないよ!?」

佳奈美の言葉に、周平は「嘘つけ」と不貞腐れた態度を取るー

「嘘じゃないもん!ホントだもん!」
佳奈美はそれだけ言うと、いつの間にか目に涙を浮かべているー

一瞬それを見て、ハッとしてしまいそうになるも
「泣いて誤魔化そうたってそうはいかないー
 女の涙に騙されてたまるか!」」と、周平は言い放ったー

「ーーーお前が、俺のこと、昔からずっとずっと馬鹿にして
 俺が死ぬことを願ってるの知ってるんだぞ!」

周平がそれだけ叫ぶと、
佳奈美は「ー思ってないよ!わたし、お兄ちゃんのこと好きだし!」と、
恥ずかしがる様子もなくムキになって反論するー。

確かに”表面上”は、お兄ちゃんが好きな妹、という感じの佳奈美ー。
わざわざ周平の家に遊びに来たり、電話してきたり、連絡もしてきたり
”行動”も確かに伴っているー

けれどー。
”憑依”のことを伏せた状態で、周平は呟くー

「俺さー、信じられないと思うけど、
 人の本心を読み取ることができるんだよなー」

とー

佳奈美は目に涙を浮かべたまま「何それ…」と、呟くー。

「ー……」
周平は”どうせ滅茶苦茶にしてやるんだーいっそのことー…”と、
佳奈美を再起不能になるぐらいまで滅茶苦茶にすることを決意しー、
”だったら、全部教えてやるか”と、
憑依能力のことを口にするー。

しかしー、それを聞いた佳奈美は驚きの言葉を口にしたー

「ーーお兄ちゃんもーーー…?」

とー。

「ーーなに?」
周平が困惑するー。

「ーお兄ちゃんもーわたしと…同じ?」
佳奈美の言葉に、周平は「なんだって?」と聞き返すー。

「ーわたしもー小さい頃からー他の人に憑依できて…
 それでー
 誰も信じてくれないと思ってずっと黙ってたしー
 悪用しちゃいけないと思って、ずっとー」

佳奈美がそう言うと、
周平は「ーーし、し、知ってたなら話は早い!」と言い放つー

「だから俺にはお前の本心が分かるんだよ!佳奈美!
 お前に憑依した時、お前の声で聞こえて来たんだ!

 ”お兄ちゃん、心臓発作で早く死なないかな”ってー」

周平がそう叫ぶと、佳奈美は「ーー違うー…違うよお兄ちゃん!」と
即答で否定したー

「ーそれはーー
 ”お兄ちゃんがそう思ってるだけ”だよ!」

と、佳奈美が叫ぶー

「ーな、なにー?」
周平が困惑するー。

佳奈美は言うー。

”憑依したとき”
確かに憑依した相手の心の声のようなものが響いてくるー、 とー。

最初は佳奈美もその人の本心ー、心理的なものだと思ったー、とー。

けれど、違ったのだと佳奈美は言うー。

「ー憑依したときに聞こえる声ー…
 あれってー”憑依してる側”が思ってることだよー

 お兄ちゃんがわたしに憑依したときに、そういう酷い声が聞こえてくるならー
 お兄ちゃんが”わたしにそう思われてないかな”って不安でいっぱいだから!」

佳奈美が言うー。

周平が佳奈美に憑依した時、佳奈美の声で酷いことが聞こえてくるのはー
”妹に嫌われていたらどうしよう”という強い不安によるものー。
あれは、佳奈美の心の声ではなく、
佳奈美に憑依した周平が感じている”不安”が、佳奈美の脳を支配していることで
佳奈美の声で再生されたものー

つまりー
佳奈美の本心などではなくー
”周平の不安な気持ちが佳奈美の声で再生されただけー”

周平はいつも”他人から嫌われる”ことを恐れていたー

だから、佳奈美でも、美鈴でも、サークル仲間でも、誰に憑依しても
”ポジティブな心の声”なんて一つも出て来ないー
だってそれは、自分のネガティブな感情が、乗っ取った相手の声で脳内再生されているだけでー
相手の本心でもなんでもないのだからー。

周平が人を疑い、”嫌われてるんだろ”と思いながら憑依すればー
そういう内容しか聞こえないのは、当たり前なのだー。

「ーう、嘘だー…」
周平はすぐに否定するー。

「俺は試した!確かに憑依した相手の本心のはずだ!」

周平は思い出すー。

高校時代の親友に”お前が今、一番欲しいものを当ててやるよ”と言ったあとに
その親友に憑依ー
親友が今、一番欲しいものが”彼女とコーラ”であることを確認して、
すぐに憑依を解きー、
親友本人に一番欲しいものを確認したところ、
返事は「彼女とコーラ」だったー。

そうー
何度か、試したのだー

憑依中に聞こえる心の声が、本当に相手の本心なのかーを。

「ーそれも違うよ!
 それは、憑依したわたしたちが相手の潜在意識に影響を与えただけ!」

佳奈美が言うー。
佳奈美も、この力を生まれつき持って、色々試したのだろうー。

高校時代の周平が試した件ー
あれはー

友人が”最初から彼女とコーラ”を欲していたわけではなくー、
憑依した周平が、本人も自覚しないうちに、”彼女とコーラ”という答えを作り出し、
憑依されていた友人はその影響を受けて「彼女とコーラ」と答えただけー。

”憑依したから”その答えになっただけでー、
相手の本心が、彼女とコーラだったわけではないー。

憑依で、性格や思想を捻じ曲げるほどの影響は出なくてもー
わずかなー、そうー刷り込み程度の影響は相手の脳に与えるー。

「ーーわたしー、試したのー。
 チョコが絶対大っ嫌いな友達にチョコ食べたいって思いながら
 憑依したらーその子の声で”チョコ食べたい”って聞こえてきたのー」

佳奈美が言うー。

”心の声”は相手の本心などではなく”憑依した側の心の声や不安・感情”が
憑依した相手の声で聞こえているだけー。

「ーその子、絶対チョコなんて食べない子なのにー。
 他にも色々試したけどー
 憑依してる時に聞こえてくる声は、憑依された子の本心なんかじゃないー

 わたしたちー
 憑依してる側が無意識に思ってることとか、考えてること、
 不安に感じてることが、相手の声で聞こえてくるだけ!」

佳奈美はそこまで言うと、
「ー憑依されたあと、少しだけ影響を与えるみたいだからー
 お兄ちゃんが試した彼女とコーラの友達も、
 たぶん、お兄ちゃんがそう思ったから、そう答えただけー。

 わたしが試したチョコの子も、わたしが憑依から抜けた後すぐに
 ”今食べたいものある?”って聞いたら、
 その子絶対チョコなんか食べないのに「チョコ」っていってたからー」

佳奈美によれば、その子は数分後に”何でチョコなんて食べたくなったんだろう”と
言いながら首を傾げていたのだと言うー

「だからお兄ちゃんー
 わたしに憑依して、わたしの酷い声を聞いたんだとしてもー
 それは、わたしの気持ちじゃない!

 お兄ちゃん”妹に嫌われてる”って不安に感じてるからー
 そういうのが聞こえて来ただけー
 
 わたしはお兄ちゃんのこと、ホントに好きだから!」

佳奈美の言葉に、
周平は呆然としたー。

”憑依すれば人の本心を知ることができる”
そう、思い込んできたー

だが、あれはー
”憑依した側ー つまり、俺の方が、感じていたことが
 相手の声で再生されていただけー”

そう考えればー
辻褄もあってしまうー。

”誰に憑依しても”
悪口やマイナス方面の声しか聞こえなかったー

あれはー
周平が”人なんてそんなもの”と思い込んでいるからー。
周平自身が心の中でいつも不安を感じているからー

普通ならー”全員、ネガティブなことを心の中で言っている”はずはないのだー。

「ーーーー……じ、じゃあーーーー…まさかー」
周平は呆然とするー

数か月前ー
”心の声”を聞いて、怒り狂い、滅茶苦茶にしてしまったー
”好きだった”美鈴のことを思い出すー

あれから、美鈴は大学に一度も来ていないー

「ーーー……ーーか…佳奈美ーーご、ごめんーー
 俺ーー行かないとー」

周平は泣きそうになりながら実家を飛び出したー

美鈴の元に慌てて向かったー

”金づるー”

あの、美鈴の”声”は美鈴の本心じゃなかったー

そうだー
”どうせ金目当てとかなんだろうな”と思いながら
あの時も憑依した気がするー

あれはー
”俺自身の不安”ー

周平が慌てて数時間かけて美鈴の家の前に駆け付けるとー
ちょうどー、美鈴の弟が、外から帰ってきたタイミングだったー

「ーあ、あの!」
周平が声を掛けるー。

「ーはい?」
美鈴の弟と、直接は面識がないー。
彼からすれば、当然、不思議そうな顔をするのは無理もないー

「ーお、俺ー…き、君のお姉ちゃんの大学の同級ーーーー」
周平がそこまで言うと、美鈴の弟は暗い表情で呟いたー

「ー姉はーー先月、”自殺”しましたー」
とー。

「ーー!?!?!?!?!?!?」

表情を歪める周平ー。

「ーーーい、、、、い、、、いま…なんて?」
全身から汗が噴き出すー。

今、なんといったー?
いや、聞こえていたー

聞こえていたけどー
それを受け入れることができなかったー

「ーーーー姉はもう、この世にいませんー」

美鈴に憑依した時聞こえた声はー
美鈴の本心ではなく、
憑依した側ー…周平の勝手な妄想ー。

それなのに、周平は美鈴の身体で欲望を満たし、
弟を襲い、ネットに痴態を晒してしまったー

「ーーー………あなたのことか分かりませんけどー」

美鈴の弟はふと口を開くー

「ー姉さんー、最近、大学で好きな人ができたって、
 いつも嬉しそうでしたー

 それが、あんなことになるなんてー」

弟はそれだけ言うと
「あ、すみませんー。失礼します」と、関係のない話をしたことを
詫びて、そのまま家の中に入って行ったー

「ーーーーー…」
口を開いたまま、その場に膝をつく周平ー

「俺の……せいだー。」

美鈴の好意はホンモノだったー。
きっと、両想いになっていたのかもしれないー

でも、それを、壊してしまったー

「ーーーーーーー俺はバカだー…」
周平は悔しそうにそう呟くと、
もう二度と会うことのできない美鈴のことを思い出しながら
いつまでもいつまでも、自分の愚かさを呪ったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

少し変わったテーマ(?)の憑依モノでした~!

人の本心が読めていると思っていたら実は
そうではなく……
恐ろしいですネ~!

憑依をするときには慎重に…デス☆!

お読み下さりありがとうございました~!

憑依<にんげんのこころ>
憑依空間NEO

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