<憑依>にんげんのこころ①~人の本心~

生まれつき、他人に憑依することができる力を
持っていた男ー。

憑依することで、相手の”本心”を知ることもできるー

それ故に、彼は人間不信に陥っていくー。

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大学生の原野 周平(はらの しゅうへい)はー
”生まれつき”憑依能力を持っていたー。

その力に気付いたのは、小学生の時ー。
小学生の頃、いじめを受けていた彼はー
”仕返しをしたい”と思っていたところー
その男子に憑依することができてしまいー
”自分の力”に気付いたー。

憑依能力に気付いた彼は
憑依能力を使って、いじめっ子だった男子の好きな女子に憑依、
その女子の身体でいじめをやめるように言ったりしてー、
最終的にいじめを抑え込むことに成功したー。

それ以降もー積極的ではないものの、
必要であれば憑依能力を使い、生きて来たー

憑依で人を傷つけたことはー…ない。

いや、憑依された人間からすれば
勝手に身体を動かされているわけだし、
意識が飛んでいることに不安を感じるのも当然だから
傷はつけているのかもしれないー

だが、周平は少なくとも、憑依した相手の身体で
相手の人生を壊したり、身体を物理的に傷つけたり、
そういったことはしていなかったー。

そんな彼はー
”憑依した際に起きる”あることにも気づいていたー

それはー
”憑依されている人間の本心が覗ける”ということー。

どういう仕組みかは分からないー
だが、憑依されている本人の”心の声”のようなものが
憑依している間、彼の中に流れ込んでくるのだー。

憑依されて、抑え込まれている本人の自我や意識がー
あるいは脳が誤作動を起こして何か特殊な作用を
見せているのかー、
”憑依されている人間の本心”が流れ込んでくるー。

最初は”便利”だと思ったー

例えば、学校で先生に憑依すれば
”誰のことを評価していて、誰のことを苦手に思っているのか”も
分かったー

誕生日が迫った友人に憑依すれば
”本当は何が欲しいのか”も、誕生日のことを思い浮かべれば
たやすいことだったー

親友の身体に憑依して、誕生日の日に本当に親友が欲しがっているものを
知りたい、と思った場合、
親友の身体で誕生日ことを思い浮かべると
親友の声で聞こえてくるのだー

”本心”がー。

ちなみに、高校時代、親友に憑依してそれを確かめた際には
”腕時計と新しいスマホとゲームと高級車とマイホーム”という
超強欲な本心が聞こえて来たー。

だがーー
”便利”な反面、憑依によるその力のせいで、
周辺は人間不信に陥っていたー

相手の本心を知ることができるーということに気付いた直後からー
周平は便利だと感じて、
”相手の本心を知るためにちょっと憑依する”ということを
繰り返していたー

だがー、妹の佳奈美(かなみ)にどう思われているのか
気になって憑依したところー

”お兄ちゃん、早く死んでくれないかなぁ~”
”あ~うざ 可愛い妹演じてやってるのに気づけよ”
”明日、お兄ちゃんが心臓発作で死にますように”

という、邪悪すぎる心の声を聴いてしまったのだー

それを聞いた当初は
”いやいや、憑依されたときに聞こえる声が本心とは
 限らないし”と、現実逃避をしていたものの、
高校時代の親友に”お前が今、一番欲しいものを当ててやるよ”と言ったあとに
その親友に憑依ー
親友が今、一番欲しいものが”彼女とコーラ”であることを確認して、
すぐに憑依を解きー、
親友本人に一番欲しいものを確認したところ、
返事は「彼女とコーラ」だったー。

「何でコーラなんだよ」と聞くと、
「今、滅茶苦茶喉乾いてるからさ!」とその友人は笑っていたー

”やっぱり、あれは本心ー?”

他にも何件か、”さりげなく”憑依している間に聞こえてくる心の声が
本当にその本人が考えていることなのかどうかを
確かめるような行為を繰り返したものの、
いずれも”憑依中に聞こえてくる心の声”は、本心だったー

と、いうことはつまりー

”お兄ちゃん、早く死んでくれないかなぁ~”
”あ~うざ 可愛い妹演じてやってるのに気づけよ”
”明日、お兄ちゃんが心臓発作で死にますように”

妹の佳奈美の言葉は”本心”ということになるー

「ー佳奈美さー…
 俺のこと、ウザいとか思ってないよね?」

周平はある日、そんなことを聞いたー

普段、佳奈美とはよく話すし少なくとも”表向き”は
仲良しだからだー

「ーえ~?急にどうしたの?
 そんなこと思うわけないじゃん~!
 わたし、お兄ちゃんのこと好きだし、

 あ、お兄ちゃんとして好きって意味ねー

 ウザいなんて一度も思ったことないからー」

佳奈美はそこまで言うと
「でも、急にどうして?」と首を傾げたー

「ーーあぁ、いや、学校で友達が
 妹とか、みんなお兄ちゃんのことウザいって思ってるよ
 
 とか言ってたからつい心配になってー」

周平がそんな風に笑いながら返事をするー。

佳奈美は笑いながら
「そんなことないでしょ~?ウザいと思ってない妹なんて
 たくさんいるよ!
 例えばわたしとか!」と、自分を指さして微笑んだー。

がーーー
周平がその日の夜ー、佳奈美に憑依して”確認”するとー

”ウザすぎ!何なのアイツ!?とっとと死ねよ!マジで!”

と、ぶち切れる妹の本心が聞こえてしまったー

それ以降ー
妹の佳奈美のことが怖くなってしまったー。

さらにはー
高校時代の初恋の相手に告白しようとしたもののー
勇気が持てず、憑依して自分に対する気持ちを確認したところー

”告白とかされたらキモすぎ!”
という本心を聞いてしまいー
告白できなくなってしまったー。

”人の本心”なんて、本人にしか分からないー。

”裏の顔”を表に出す人間もいるー

が、恐らく世の中には
”一生本当の本心を曝け出さない人間”もたくさんいるのだろうー。

妹の佳奈美のように”誰にでも優しい人間”も、
心の中を覗けば、少なくとも佳奈美のように思っている人間は
いる、ということなのだろうー。

大学生になって、一人暮らしを始めるときもー
佳奈美は、一人落ち込んで泣いていたー

けれどー
”憑依”で心を除くとー

”泣いて可愛い妹を演じて置けば、今後の役に立つかもしれないしね”

”お兄ちゃんが一人暮らしを始めてくれてホントに良かったー
 これでウザいのがいなくなってせいせいするー”

”一人暮らししてるお兄ちゃんのアパートに隕石降ってきて
 死なねぇかな”

などと、悲惨なことを妹の佳奈美は考えていたー。

”人の心の中を正確に知ることができる”

生まれつき憑依能力を持つ周平は
他人の身体を操ること自体よりもー
その部分の力を使い、
相手の本心を知ることにその力を使うようになっていたー

がー
その結果ー
周平がたどり着いたのは”人間不信”という結末だったー

どんなに聖人みたいな人間でも
心の中で黒いことを”一切考えない人間”なんて
現実的に考えて存在しないだろうー。

それは分かっているー。

しかしー……
”憑依すれば相手の本心を簡単に知ることができる”となればー
知りたくなってしまうのが人間だー
気軽にー、簡単に”相手の本心を知ることができてしまう”のであればー
誰だって、自分と同じような道を選ぶはずだー。

周平はそんなことを思いながら
大学の食堂で、一人食事を食べていると、
そこに一人の女子が近づいてきたー。

「ーーーあ、原野くんー…今日は一人?」

その女子生徒・谷森 美鈴(たにもり みすず)は、
大学内で周平と最も仲が良い女子生徒ー

二人でこうして昼食を食べたり、
プライベートでも時々遊びに行ったりする間柄だー。

元々、大学内のサークル活動で出会い、
意気投合、同じ趣味も持っていることからー
親しくなった間柄だー。

サークル仲間の”本心”を知ってしまったことで、
居づらくなってしまい、
今はそのサークルはやめてしまったものの、
今でもこうして美鈴とは話す機会は多いー

美鈴と楽しそうに雑談する周平ー

だがー

”谷森さんも、憑依すれば、きっとー”

美鈴はとても優しいー
そして、周平といる間はとても楽しそうにしているー

サークル仲間に憑依して、
仲間たちの”心”を覗いてしまい、
結果的に仲間たちに対しても不信感を抱き、
こうしてサークルを辞める結果になってしまったー

がー、
周平は美鈴にだけは憑依するつもりにはなれなかったー。

たぶんー
美鈴のことが好きなのだろうー。

そして、その美鈴の本心を知るのが
自分の中で怖かったのだろうー。

”お兄ちゃんが一人暮らしを始めてくれてホントに良かったー
 これでウザいのがいなくなってせいせいするー”

”一人暮らししてるお兄ちゃんのアパートに隕石降ってきて
 死なねぇかな”

「お兄ちゃんと仲良しな妹」に見える佳奈美でさえ、
あんな恐ろしいことを心の中で思っているのだー

この美鈴も、何を思っているか、分かりはしないー。

すっかり人間不信に陥ってしまった周平ー。

こんなことを相談できる友人はいないー。

友達自体はいるー。
だが、”俺、他人に憑依できるんだ”なんて打ち明けても
それを信じる人間は流石にいないだろうし、
頭のおかしな奴だと思われるのがオチだ。
”憑依”を相談することができる友達はいないー。

”憑依しなければいいじゃん”と、いうのは分かっているー
憑依して、相手の心の中の本心を覗くようなことを
しなければ、例えば妹の佳奈美だってそうだし、
距離を置くことになってしまった数々の人たちもそうだし、
”関係に亀裂が入ること”もなかったかもしれないー。

佳奈美も、”周平の目の前”で悪態をついたわけじゃないし、
今でも連絡すれば普通に嬉しそうに対応してくれるー

でもー
どうしてもー
”こんなに楽しそうに話してくれていても裏ではウザいと
 思われているんだろうな”と、
思ってしまうー。

憑依さえー、憑依さえなければー
佳奈美とは、きっと今も仲良しだっただろうー。
別に直接悪口を言われたわけでも、
無視されたわけでも、悪態をつかれたわけでもないのだからー
”憑依しなければ、知らなかったこと”だー。

だから、美鈴には憑依しないー。

もう、あんな思いはこりごりだー

「ー大丈夫?」
美鈴が、顔色の悪い周平に気付いて声を掛けると、
周平は「あ、あぁ、大丈夫ー」と、返事をしたー。

美鈴も、サークル仲間たちも、
”どうして周平が急に辞めたのか”は知らないー。

仲間たちも、佳奈美と同じように
周平に対して直接悪口を言ったわけではないー。

むしろ、良くしてくれていたぐらいだー。

だがー
憑依して”つい”確かめてしまったー。

その結果ー

”うざいよなぁコイツ”
”自分が一番中心的な顔しちゃってさ”
”美鈴ちゃん狙ってるのかな?キモ”

のような、辛辣な”心”ばかりだったのだー。

だから、サークルにいられなくなってしまったー。

美鈴と別れ、次の授業の場所に向かうー。

だが、周平の表情は暗いー。
どうしても、周囲のやつらが、自分のことを笑っているように思えてしまうー。

”憑依しなけりゃいい”
それは、その通りだー。

けれど、人間は愚かな生き物だー。
”答えがそこにある”と分かっているとー
どうしても、それを覗きたくなってしまうー。

「ーーーー…」
美鈴のことを思い出す周平ー。

”もしー…もし、告白したらー、どんな返事をしてくれるのだろうか”
そんなことを考えてしまうー

そしてー
それを、”覗きたく”なってしまうー

「ダ…ダメだダメだダメだ」
周平はその結果”また”自分が人間不信になっていくことを恐れ、
首を横に振ったー

”憑依で他人の本心が分かってしまうー”

周平は、己の力に今日も苦しみ、大きくため息をついたー。

②へ続く

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少し変わった憑依の使い方をしている学生のお話デス~!☆
ゾクゾクな展開もこの先にありますが、
それは②以降のお楽しみデス!

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