いじめを受けて不登校になってしまった男子高校生ー。
そんな彼のことを唯一心配している
女子生徒ー。
しかし、彼にはその”心配”も不愉快だったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー」
クラスの中に、一つだけ”空席”があるー。
その座席の主は、退学になったわけではないし、
ちゃんと、本来はそこに座るべき人間がいたー。
しかし、現在、その男子生徒ー、
小野田 泰明(おのだ やすあき)は、
”不登校”の状態になってしまっていたー。
原因は”いじめ”ー
元々、泰明は暗い性格の奥手な男子生徒で、
これまで、小学校・中学校と運よくいじめの
ターゲットにはならずに過ごしてきたものの、
高校生になって”いじめ”のターゲットにされてしまい、
壮絶ないじめの末に不登校になってしまったー。
「ーはははは あいつはもう来ねぇだろ?」
「ー来たらまた、笠本(かさもと)教官の訓練の時間だなぁ!」
いじめっ子たちが不登校の泰明のことを話題にしながら
笑っているー
”笠本”という男子生徒が”教官”を名乗り、
泰明に”訓練”と称して壮絶ないじめを繰り返しているのだー。
その他にも仲間が数名いて、
一人は、笠本教官の友人、もう一人は生徒会副会長のポジションにいる
眼鏡をかけた大人しい女子生徒だー。
何で彼女がいじめに加担しているのかは不明であるものの、
普段はとても穏やかな女子生徒であり、先生の評判も良いために、
不登校になってしまった泰明にとっては余計に不利な状況だったー。
「ーーーー」
そんな泰明のことを心配しているクラスメイトはいないー。
いじめに加担しているのは主に3人ー、そしてあとは時々加担している2人を
除けば、いじめに関わっている人間はいないー。
だが、”見て見ぬふり”をしたり、
”ノータッチ”を貫いている生徒がほとんどで、
泰明のことを心配している生徒は”いない”に等しかったー
ただ一人ー、
クラスメイトの倉本 萌奈(くらもと もな)を除いてはー。
「ーーーー…」
萌奈は、成績トップを誇り、明るい性格の女子生徒ー。
真面目で先生からの信望も厚く、友達も多いー。
小さい頃からとても心優しい性格でもあり、
泰明のことをクラスで”唯一”心配していたー。
「ーーーー小野田くんー」
心配そうに呟く萌奈ー。
確かに泰明は大人しい性格だし、
奥手すぎて人によっては目につくのかもしれないー
けど、悪い子じゃないー。
萌奈は、小学生時代、泰明と同じ学校に通っていて、
一度だけ同じクラスになったこともあったー。
泰明が大人しすぎることもあって、
ほとんど会話したことはなかったけれど、
それでも、泰明が悪い子じゃないことは知っているー。
だがー
萌奈一人ではいじめを止めることはできなかったー
萌奈の交友関係は広くー
笠本”教官”を自称しているいじめっ子のリーダーにも
平然と注意することができるし、
笠本教官も、萌奈に言われると、しゅんとしてしまうー。
しかし、いじめが止まるには至らないー
萌奈の見ていないところでいじめは続きー、
ついに泰明は不登校にまで追い込まれてしまったのだー。
泰明が不登校になった後も、
萌奈は笠本教官らに注意したものの、
萌奈に対して申し訳なさそうに謝るだけで、
泰明に対しての謝罪の言葉や、反省の色は全く見えない、というのが
現状だったー。
「ーー小野田くんー
プリントとか、持ってきたよー」
そんな萌奈は、帰り道の途中に泰明の家があることからー
学校のプリントを持って行ったり、
学校での出来事を伝えたりしているー。
またー
半分強引に交換したLINEで学校のことを
伝えたりもしているー。
「ーーー……ありがとう」
泰明はそれだけ呟くと、
そのまま家の中に入って行こうとするー
「ーーーー」
萌奈は心配そうに、泰明の後ろ姿を見つめると、
「ーーお、小野田くんー……ごめんねー。
こんなことしか力になれなくてー」
と、申し訳なさそうに言葉を呟いたー
「ーーー」
振り返る泰明ー。
そして、泰明は言葉を口にしたー
「気持ちいいよな」
とー。
「ーーえ?」
萌奈は思わず、泰明の意味不明な言葉に
不思議そうな表情を浮かべるー
「ー僕みたいなゴミを見て
優越感に浸ってるんだろ?
気持ちいいよなー
ゴミを助けて
いい気分になってるんだろ?
気持ちいいよな」
泰明はそんな風に言うと、
萌奈は驚いた表情を浮かべながらもすぐに
「違うよ!」と、否定するー
「わたし、本当に小野田くんのこと、心配してるの!
小野田くんがまた学校に来れるようになってほしいし、
小野田くんのご両親だって、きっと小野田くんのことー
萌奈がそう言うと、
泰明は死んだ目でー…笑ったー。
「ー安全地帯にいる人気者はいいよなー。
”また学校に来れるようになってほしい?”
ーーー何も知らないくせに!」
泰明が敵意を剥き出しにしてそう叫ぶー。
「ー……確かに知らないこともあるかもしれない…
しれないけど、
でも、それなら、わたしに何でも相談して!
わたし、放っておけないの!
小野田くんが、心配なの!」
萌奈が少しいつもより声を大きくしてそう言い放つー
「ー心配してくれなんて、頼んでない」
泰明はそう呟くと、
「ーお前に僕の気持ちなんて分からないくせに」
と、不機嫌そうに言い放ったー。
いじめを受けた泰明は、すっかりと
捻くれてしまっていたー。
萌奈がこうしてプリント類を届けたりしてくれているのも
”いじめられている子を助けてあげてるわたし、かわいい”みたいな
そんな感じの理由だと、泰明は解釈しているー。
しかし、萌奈の側にはそんなつもりは一切なくー、
心底、泰明を助けたいと思っているー。
もちろん、萌奈にも
”いじめられている側の気持ちは”想像することしかできず、
泰明からすれば不愉快な行動もあるのかもしれないー。
けれど、萌奈は指摘されれば直すつもりだったし、
とにかく泰明のことを助けてあげたい、という気持ちだけで
何か悪だくみがあるわけでも、計算があるわけでもなかったー。
「ーーーーーごめんーそんなつもりじゃないんだけどー…
不愉快な思いさせちゃったらなら、ごめんね」
萌奈が悲しそうにそう呟くとー
「ーでも…またプリントも届けるからー…」
と、そう言葉を続けるー
「ーわたしのこと、嫌いだったら
小野田くんのお母さんにプリント渡すようにするしー
連絡も嫌ならーー無視しても構わないからー
ごめんねー。
でも、これだけは信じてー
わたし、小野田くんのこと、ゴミなんて思ってないし、
いい気持ちになったりなんかしてないー…」
萌奈の言葉に、
泰明は「ーーーーーふぅん」とだけ答えて
そのまま家の奥に行ってしまったー。
「ーーー小野田くんーーーー」
萌奈は悲しい気持ちになりながら、
そのまま泰明の家から立ち去るー。
”最初から”こんな捻くれた性格ならー
それがいじめの原因、と思う人もいるかもしれないー。
けど、彼の場合は”順序が逆”だー。
こういう性格だったからいじめられたのではないー。
いじめが、泰明をこういう性格に捻じ曲げてしまったのだー
いじめは、人を壊すー
萌奈は小学生時代の泰明を知っているー。
確かに暗く、大人しい性格だったけれどー
こんな子ではなかったし、
高校で再会した時も、最初はこんな性格ではなかったー。
だからこそ、余計に辛いー。
「ーーーーー…わたしが折れちゃだめー。
小野田くんは、もっとつらいんだから」
寂し気な木を見つめながら、
萌奈はそれでも、泰明の心をつなぎとめようと、
心に改めて決意するのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー僕を馬鹿にしてー…
何も知らないくせにー…!
許せないー!
お前に僕の気持ちを味合わせてやるー」
怒りの形相で一人呟く泰明ー。
萌奈が帰ったあとも
”萌奈に見下されている”と感じた泰明は
怒りの形相で、一人、ブツブツとそう呟いていたー。
「ーーーー」
スマホを荒々しくいじりながら
何かを見つめる泰明ー。
その視線の先にはーー
”入れ替わり”という言葉が表示されていたー。
学校に登校しなくなり、
部屋に籠ることが多くなっていた泰明ー。
しかし、泰明は部屋に籠りながら
何もしていなかったわけではないー
学校に行かなくなった分、
余った時間を使いー
ネットで色々と見つけたものがあるー。
そのうちの一つが”入れ替わりー”
「ー何も知らないくせにー
安全地帯から僕を見下すならー
お前に味合わせてやるー」
”いじめ”により、歪み歪んでしまった泰明の心には、
萌奈の想いも届かなかったー。
萌奈のことも
悪意から泰明に近付き、
”ゴミのような存在を助けて優越感に浸っている”と
思い込んでしまっているー。
「ーーー許せないー
お前を僕に、僕がお前になってやるー」
泰明は静かにそう、決意を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
萌奈が学校に登校すると、
周囲がざわついていたー。
いじめっ子のリーダー格、自らを”教官”と名乗り、
泰明に”指導してやってる”と豪語している
笠本が、”普段は空席のその座席”の周りに
集まって色々な言葉を投げかけていたー。
「ーーーー…」
頭を抱えて黙り込む泰明ー。
ただ、ひたすらいじめに耐えているー
「ーち、ちょっと!やめなよ!」
不登校だった泰明が久しぶりに登校したのだー。
懲りずに早速泰明を揶揄う、通称”笠本教官”と、
友達の男子、そして生徒会副会長の女子生徒ー。
そこに割って入って、萌奈がやめるように指摘すると
「ーーわ、分かったよー」と、笠本はそのまま
引き下がっていくー
”クラスでも、先生からも信望がある萌奈”を
完全に敵に回せば自分たちがどうなってしまうのかー、を
笠本はよく理解しているー
だから、萌奈に注意されれば一旦は引き下がるー
「ーーーーーー」
生徒会副会長の大人しい性格の美彩(みさ)が、
不満そうに頬を膨らませてそのまま立ち去っていくー
「ーーーーー」
そんな姿を見つめながら萌奈が”大丈夫だった?”と、小声で
泰明に確認すると、
泰明は呟いたー
「放課後ー」
とー
「ーえ?」
萌奈が聞き返すと
”放課後、大事な相談があるんだー”と、
ボソッと泰明は呟いたー。
「ーえ…う、うん!わかった!」
萌奈はそれだけ言うと、学校に来てくれたことを
嬉しく思うようなことを言いながら、
そのまま座席に戻っていくー。
だがー、
泰明が今日、来たくもない学校にリスクを承知で
やってきたのにはー
理由があったー。
放課後の時間が待ち遠しいー
待ち遠しいー
待ち遠しいー
そしてー
待望の”放課後”がやってきたー。
「ーー話ってー?」
萌奈が優しく微笑みながら、呼び出された教室にやってくると、
泰明は「ーーー僕みたいなゴミの気持ち、倉本さんに分からせてやるー」と、
敵意を萌奈に向けたー
「ーだ、だからゴミなんて思ってないってばー」
萌奈が戸惑いながらそう言うと、
「スマホ、出して」と泰明が呟くー
「す、スマホー?」
萌奈は困惑しながらも、スマホを取り出すとー
泰明が「貸して」と、萌奈に対して言い放ったー
萌奈は「い、いいけどー」と、泰明にスマホを手渡すー
”近くにいるから”
何か悪用されそうになった取り上げればいいし、と
スマホを貸してしまったのだろうー
しかしー
泰明は自分のスマホの方で見たこともないアプリを起動すると
そのまま”送信”というボタンを押してー
萌奈のスマホの方に何かを送りつけたー
「ーそれ、何ー?」
萌奈が確認すると同時に、泰明はスマホを萌奈に返したー
それと、同時にー
「ー!?!?!??!?!?」
ものすごい勢いの”風”のような衝撃を感じてー
目を見開くと、”目の前”に、自分が出現したー
「ーーえ…!?」
萌奈が驚くー。
突然、目の前に自分がー
「ーーー…!?」
違うー
目の前に自分が現れたんじゃなくてー…!?
そう思いながら萌奈が自分の身体に視線を落とすとー
そこにはー
”自分の身体”ではなく”泰明の身体”があったー
「ーえ…ど、どういうー…」
萌奈が困惑しながら”男”のー、”泰明”の声で言葉を吐き出すと、
目の前にいた萌奈ーー 萌奈(泰明)が不気味な笑みを浮かべたー
「ーーいつもいつも安全地帯から僕を見下して
僕を助けて優越感に浸ってるお前にー
僕の気持ちを、僕の苦しみを教えてやる!!!」
そう叫ぶ萌奈(泰明)ー
泰明は”入れ替わりアプリ”を利用して、
萌奈と身体を入れ替えたのだー。
「ーーーえ…ち、ちょっと待ってー
そんなー」
戸惑いの表情を浮かべる泰明(萌奈)ー
その姿を見て萌奈(泰明)はニヤッ、と笑みを浮かべたー
「ほらー
その顔ー
”僕みたいなゴミにはなりたくないって顔”だー。
やっぱりー
やっぱりお前は僕のことを見下してたんだ!」
萌奈の身体でそう叫んだ泰明は
憎しみのまなざしを泰明(萌奈)の方へと向けたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
入れ替わるまでが中心の①でした~!☆
次回以降が入れ替わり後の本番デス~!
明日もぜひ楽しんでくださいネ~!
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