幼馴染の代わりに親友に告白するー。
その方法はー
幼馴染を皮にして”着て”、
代わりに告白するというものー。
そしてついに、”本番”の時が近づいていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・
ドキドキしながら廊下を歩く茜ー。
今の茜は、
茜であって茜ではないー。
先程、茜は自ら”皮”になってー
現在は幼馴染の総一郎に着られて、
総一郎がその身体を支配している状態だー。
ドキドキドキドキー
茜の身体が激しく緊張していることに気付く総一郎ー。
「ーー…雪森さんがドキドキしてるー…?」
廊下の水道の前で立ち止まって、ふと鏡に映った
茜の姿を見つめるー
「ーー…いや、僕がドキドキしてるのかなー…?」
茜は、総一郎の親友である兼続のことが好きだー。
そして今、総一郎は茜の身体で兼続に告白しに行くー。
”これから好きな人に告白しに行く”から、茜が緊張しているのかー
それとも、”うまくいくかな…?”という総一郎の不安が茜の身体を緊張させているのかー
それは、分からないー。
けれどー…
鏡に映る茜の困惑したような表情に
ドキッとしてしまう総一郎ー
「ーー僕ー……」
放課後の廊下で一人呟く茜ー。
「ー僕…嫌だよー」
そんな風に呟くー。
もしー、
もし、このままーー
このまま総一郎が茜として兼続に告白してー
兼続がそれを受け入れてしまったらー…
茜は、兼続の彼女になってしまうー。
もちろん、総一郎にも分かっているー
”雪森さんは、僕のことを幼馴染としてしか見ていない”
とー。
”男”
”女”ではなく、
茜は総一郎のことを”幼馴染”という性別であるかのようなー
そんな見方をしているー
だからずっと小さい頃のまま、楽しそうに接してくるしー
総一郎を恋愛対象にする、なんてことは夢にも思っていないー
いや、そもそも想像すらしていないのだろうー。
「ーーーでも、僕ー雪森さんのことがー好きなんだー」
鏡の中の茜に向かってそう言い放つー
本人には、伝えられない思いー
それを伝えて、悲しそうに目を潤ませるー。
涙目になった茜に、激しくドキドキすると、
総一郎の中に”邪念”が生まれたー
”このまま告白は断られたことにしちゃえばー…”
そんな風に思うー
そうすればー
少なくとも、茜は誰かの彼女になってしまうことはー
しばらくの間はないだろうー
”総くんー!”
けれどー、いつも嬉しそうに総一郎に駆け寄ってくる
茜を思い出しながらー
茜を悲しませることはしたくない、とも同時に思う総一郎ー。
「ーーー……」
茜の顔を鏡で見つめるー
そして、ふとー
”最悪の邪念”が生まれたー
”もし、このまま僕がー雪森さんを着たままだったらー?”
”僕はー雪森さんになれるー?”
そんなことを思いついてしまう茜を着た総一郎ー
茜の顔が、とたんにニヤッと、悪そうな顔になるー
”こんな顔させちゃだめだよ!”
と、総一郎は自分で自分に言い聞かせながらも
鏡に映る茜は、悪魔のように微笑んでいたー。
”そうだー持ち逃げしてしまえー”
”お前にこんな残酷なお願いをした茜を、自分のものにしてしまえ”
”可愛くて、優しくて、大好きな茜がお前のものになるんだぞ”
心の中に巣くう総一郎の悪魔のような囁きが聞こえてくるー。
そしてー
総一郎は茜の身体で笑みを浮かべたー
「ーーー…」
緊張した様子でゴクリと唾を飲み込む茜ー。
「ーーわたしはー…雪森…茜…」
そう、呟いてみたー
そしてー
顔を真っ赤にしながら、「くくくく…」と笑い始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー」
一方、呼び出された親友・兼続は困惑の表情を
浮かべながら、
”いつまで経っても到着しない茜”を待ち構えていたー
そわそわした様子の兼続ー。
兼続は、色々な考えを巡らせながら
茜の到着を待ち構えていたー
「ーーーーーー(流石に遅くね?)」
兼続はそんなことを思うー。
”揶揄われたのか?”と思っているのか
落ち着かない様子で、部室内をウロウロとすると、
ようやく、部室の扉が開いたー
「ーーお待たせー」
茜が約束通り、兼続との待ち合わせ場所にやってきたー。
しかし、その表情はどことなく暗くー、
困惑したような表情だー
「ーー話ってー?」
そんな空気を感じ取ったのかー
兼続は少しだけ表情を曇らせると、
茜は悔しそうな表情を一瞬浮かべながらもー、
「ーーか、か、河原田君ー…ぼ…わ、わたしー」
と、呟くー
結局ー
出来なかったー
茜の身体をそのまま奪うこともー
告白したことにして断られたことにして、兼続と付き合うのを
阻止することも、
どっちも、茜を着ている総一郎にはできなかったー。
”ー総くんなら、こういうお話しても信用できるし”
そんなことを大好きな子に言われて、裏切ることなどできないー。
それにー
茜の身体を奪ってしまえばー
自分が”雪森さん”になれるし、
毎日ドキドキしながら最高の人生を送ることもー
できるのかもしれないー
でもー
そこに、”雪森さん”はいないー。
残るのは、雪森さんの身体だけー。
大好きなお菓子だってー
箱だけ残って中身がなければ、ただの箱ー。
”僕はーー…
雪森さんになりたいんじゃないんだー
僕はーー 僕はー”
雪森 茜は、
”外”と”中”が揃ってこそ
”雪森 茜”ー。
身体を奪ってしまえば、それはもう、
総一郎の好きな茜じゃないー。
だからー
悔しいけれどー
「わたしー…河原田くんのことが、好きですー」
茜は、目に涙を浮かべながら頭を下げるとー
兼続からの返事を待ったー
ーーー
ーーーーー
ーーーーーーーーーー
「ーーごめんー」
だがー
兼続の返事は、茜のー
茜を着ている総一郎の想像している返事とは違ったー
「ごめんー
俺は、雪森さんとは、付き合えないー」
兼続がそれだけ言うと、
「ーーえ…?」と、茜は顔を上げたー。
「ーそ、そのー…俺、ほらー…
か、彼女とか、今はいいかなーって」
兼続は困惑したような表情を浮かべながらそう呟くー
「ーーえ……え…
てっきり、茜の身体で告白すればほぼ100パーセント
兼続は告白を受け入れると思ってた総一郎は唖然とするー。
しかし、兼続は茜を振ったー
そしてー、頭を下げると
兼続はそのまま「今日のことは、気にすんな」とだけ言って
立ち去って行ったー
呆然としながらもーーー
茜を着た総一郎は、
どこか安堵のような感情も覚えるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーそうー」
茜を脱いで、茜に金色の方の針を刺すと、
茜が人間の姿に戻りー、そう呟いたー
「ーご、ごめんねー…ぼ、僕の告白が
下手だったのかもー」
総一郎がそう言うと、
ショックを受けているであろう茜は、
気丈に振る舞って笑顔を浮かべたー
「ー大丈夫ー
告白できたのも、総くんのおかげだし、
本当にありがとう!」
そう言うと、茜は気を取り直したように
立ち上がって
「ー振られちゃったなら仕方ないよねー」と笑うと、
「あ!そうだ!」と思い出したように手を叩くー
「失敗しちゃっても、
御馳走してあげるって約束したからー
何食べたいー?」
茜のそんな言葉に、
総一郎は「え…え、でもー僕はほら、役に立たなかったしー」と
自信なさげに呟くー
いやー
失敗したことだけじゃないー
一瞬でも、茜の身体を完全に支配しようとしてしまった自分が
許せないという感情で、総一郎はいっぱいになっていたー。
「ーーー……そんなことないよー
それに、こうしてわたしのこともちゃんと、元に戻してくれたでしょ?
相手が悪い人だったら、
そのままわたし、人間に戻してもらえないかもだったし、
総くんだから、こうやって信じて、お願いすることができたんだからー」
茜のその言葉に、総一郎は「僕ー…でも、一瞬ー」と、だけ口を
開きかけるー。
一瞬、茜の身体を乗っ取ろうと欲に支配されそうになったことを
打ち明けようとするー。
けれどー
茜は首を横に振りながら「大丈夫ー。それでも総くんは、
ちゃんと約束を果たしてくれたもんー」と、
総一郎の言葉を遮り、あとは何も聞かなかったー
総一郎はそんな茜の方を見て
”やっぱり、僕は雪森さんが好きだー”と思いながら
ずっと”幼馴染”のままかもしれないけれどー
それでも、信頼を裏切るようなことは絶対にしないー
と、心に誓ったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
”親友を悲しませて、一人だけいい思いをする”
なんてー
できないもんなー。
廊下を歩いていた兼続が一人、そう呟いたー
兼続は、昨日ー、
茜に呼び出された部屋に行く前にー
放課後、茜と総一郎が足早に移動したのを見て
何となく気になってそのあとをつけたー。
そしてー
その結果ー、料理研究会の部室で
二人が”皮”について話していることー
茜の代わりに総一郎が茜になって告白する作戦を練っていたことー、
さらには”茜を皮にして着る瞬間”を目撃したー。
告白される時には、兼続は全てを知っていたのだー
だからこそ、断ったー。
総一郎が茜のことを好きなのは知っているー
だから、告白を受け入れることが
総一郎に対してどんなに残酷なことかー、
よく理解していたし、
”親友を差し置いて、自分だけいい思いをする”なんてことは
友情を大切にしている兼続にはできなかったー。
だからーーー
”半分こ”にしようー。
俺だけがいい思いをすることはないー
”人を支配することができる”
茜のように、可愛い子に、自分がなれるー
そんな光景を目撃してしまった
”思春期の男子高校生”が、歪んでしまうのは
無理もないことかもしれないー
兼続は、”茜を皮にして着る総一郎”を見た瞬間ー
色々なものが歪んでしまったー
そして、後先考えずに、欲望のままに”それ”を
実行に移したー。
兼続は茜が”まだ”総一郎と話していた例の物を
持っていることを確認しー
体育の授業中に授業を抜け出して教室に忍び込みー、
茜の荷物からそれを持ち出したー
さらにー
体育の授業の終了後にー
茜が他の生徒と別れた一瞬のスキをついてー、
茜を”皮”にしたー
「ーーいたっ…」
驚く茜ー。
だが、茜が振り返ろうとしたその時にはー
もう、茜の身体は”皮”になって床に崩れ落ちていたー
「ーーへへへ…
俺が雪森さんと付き合っちゃったら
俺だけいい思いをして、あいつに申し訳ないからなー」
兼続はそう呟くと、茜の皮を身に着けてー
茜になってにやりと笑みを浮かべたー
「ー俺が雪森さんの身体をゲットする代わりにー
総一郎ー
ううんー”総くん”はわたしと付き合えるー…
これで、二人とも幸せだよね?」
茜を支配した兼続は、自分勝手な理論を口にすると、
静かに笑みを浮かべて、そのまま何事もなかったかのように
歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の放課後ー
再び茜に呼び出された総一郎は
”こ、今度は何だろうー?”と、
不思議に思いながら、
茜の待つ料理研究会の部室を訪れたー
「ー総一ろーー…総くんー」
茜はにっこりと笑うと、総一郎の方に近付いてきたー。
「ーーあ、ゆ、雪森さんー」
緊張した様子で茜のほうを見ると
茜は静かに微笑んだー
「ー総くんーー
あのさーー」
茜はそう言うと、総一郎にとっては
まるで夢のような、信じられない言葉を口にしたー
「ーーわたしと、付き合ってみないー?」
とー。
「ーえっ!?!?!?ええええっ!?」
総一郎が顔を真っ赤にして言うー。
「ーー”わたしだけ”がいい思いをするなんてー
総一郎ー…ううん、総くんに申し訳ないしー
総くんはわたしと付き合って、
わたしはわたしを楽しむー…
それで、おあいこでしょ?」
茜の言葉の意味が分からないー
しかし、茜は元々急に天然なことを言い出すタイプだったし、
既に”わたしを着て、代わりに告白して”なんて言われている以上ー、
総一郎は何も気にしなかったー
「ーー嫌?」
茜がそう呟くと、
総一郎は「い、い、い、イヤじゃない!イヤじゃないよ!」と
嬉しそうに顔を真っ赤にしながら言うと、
茜は「ふふ、よかった」と、笑みを浮かべたー
「ーーこれから、よろしくね♡」
自分が茜として振る舞っていることに激しく興奮しながらー
名前の件もあり、自分のことが嫌いだった兼続は、
この日を境に、完全に茜を支配、茜として生きていくことを決意したー
当然、兼続は失踪扱いになってしまったもののー
その行方を誰も知ることはできなかったー。
そしてー
茜と付き合い始めてから半年ー
”幼馴染”だったころの茜とは
だいぶ雰囲気が変わった気がするー
妙におしゃれになった気がするし、
色っぽくなった気がするー。
とは、思いつつもー
”これが付き合うってことなのかなー?”と、
鈍感な総一郎は、”大好きな幼馴染”の危機に
気付くこともできずー、
そのまま茜と付き合い続けるのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
思わぬところから身体を奪われる結果に
なってしまいました…☆
総くんのことを信じていたとは言え、
色々無防備すぎましたネ~!
(目立たない部屋に移動していたとは言え、他の人に見られる可能性を
考えなかった点や、次の日も皮にするモノを持ち続けていた点など)
でも、何も知らない総一郎にとっては
知らなければハッピーエンドなのかもしれません~☆
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
1話めから最終的に茜が乗っ取られるようなダークな結末になりそうな予感が凄くしてましたが、まさか総一郎ではなく、思わぬ伏兵に乗っ取られることになるとは完全に予想外でした。
ところで、兼続はとても親友思いみたいですが、総一郎とは遊び半分とか玩具にしてる感じではなく、本気(?)で付き合っているのでしょうか? 最終的には結婚するくらいのつもりなんですかね?
親友なんだから、友情にしろ、好意はあるのでしょうが。
コメントありがとうございます~!☆
総一郎は思いとどまったのですけどネ~笑
兼続は遊びではなく、総一郎のことをちゃんと大事にしているので、
結婚することも辞さないぐらいの気持ちではあります~笑
途中で裏切ったり、捨てたりするつもりはないので、
総一郎にとっては気づかなければ悪い話ではない…デス笑
よりにもよって、好きな相手に皮にされて着られるというのは、茜にしてみたら、何とも、皮肉な話ですよね。ある意味、総一朗に裏切られて、乗っ取られるより酷い気がします。兼続のような人間を好きになった茜ははっきり言って、見る目がなかったですよね。
あと、思ったのですが、もし総一朗が自分の欲望や邪念に負けて、茜として生きていくことにしていたら、その後の話の結末はどうなっていたでしょうね?
兼続に皮のことを知られているので、その後、厄介なことになった可能性もありそうですが。
もし、兼続が皮にするのは茜じゃなくても、他の可愛い女の子でも別にいいと考えるのなら、問題ないですが、もし、どうしても茜になりたいと思ったなら、総一朗を問い詰めて、説得して、どうにか茜の皮をうまいこと脱がせたりしそうな気がしますし。
脱いだとこで、自分が茜を着て、皮のことを知っている総一朗が邪魔だと思ったら、総一朗を皮にして排除してしまう可能性もありそうですよね。まあ、そこまでやるかどうかは、兼続の中の友情と欲望次第ですけど。
ありがとうございます~!☆
確かに茜からしてみれば災難ですネ~!
兼続は総一郎のことを考えて茜からの告白を断って
茜を皮にしたので、
総一郎が茜をそのまま支配していた場合も、
特に何もしないと思います~笑
”乗っ取ったんだな”と気づいて本人には言うかもしれませんが
そのまま友情を続けるぐらいですネ~!
もちろん、欲望を満たすことを茜になった総一郎が拒んだり、
総一郎が兼続を邪魔に思いだしたりすれば
兼続の心境も変わるかもですケド…★